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南部辺境遠征編

132 ヒナ、役に立つ発明をする

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「毎日何作ってるの?」

 朝の一時、食事を終えたカナタは、ボーッと朝食を食べているヒナと遭遇した。
彼女は午前中は音声通信機の製造作業をしているが、午後は研究と称して自室に籠っている。
そのヒナについ何を作っているのか訊いてしまったのが事の始まりだった。
カナタのヒントがとんでもない発明を齎してしまったのだ。

「ミスリルは魔力を流し易いでしょ?」

 ヒナの言葉は唐突だった。
何が言いたいのか解らなかったが、カナタは同意しておいた。

「ああ、そうだね」

「電気は銅線のコイルに磁石を抜き挿しして動かすと発生するじゃない」

「うん」

 知らないはずの知識が肯定しているのでそう答えた。

「コイルにミスリルを使ったらどうなるかと思って」

 つまり、音声通信機用に準備したミスリルでコイルを作ったと。
ある事の原因が判明した瞬間だった。

「ミスリルの減りが早かった理由はお前か!」

 カナタは盗難の可能性も考えていた。
疑いたくないが従業員を疑わなければならないのかと悩むぐらいだった。
幸い盗難ではなく、実験に使っただけだと判ったので、無くなったわけではないのでカナタは安堵した。
カナタは溜め息を吐くとヒナに釘を刺す。

「使っても良いけど報告だけはしてよね。
盗まれたのかと思ったぞ?」

「わかった。
それより、どうなったか知りたくない?」

 返事が軽い。ヒナの興味は研究の方にのみ向いているのだろう。
心配は尽きないが、まあ、実験結果に興味が無いわけではなかった。

「どうなったの?」

「電気が流れたわ」

「は?」

「私は魔力が発生するかと思ったんだけどね~」

 電気なら銅線でも流れる。いや、そっちの方がおそらく効率が良い。
この世界、銅は鉄よりも安い。しかし銅貨は鉄貨よりも高いという矛盾がある。
そこには銅には鉄より利用価値があるぞという神様の意志が含まれているのだろうとカナタは思っていた。
だがミスリルは間違いなくそれ以上にお高い金属だ。
またとんでもないミスリルの無駄遣いだった。

「ヒナは発電を実用化していたんだね」

「まあね」

 得意顔でふんぞり返るヒナにカナタは呆れる。
この世界、コイルでちまちま発電するよりもっと良い方法があるからだ。

「雷魔法って知ってる?」

「!」

 雷は電気だ。しかも攻撃魔法として微弱な電気ショックなどにも使われる。
コントロール可能な電気、それを流せば電気は簡単に得られるのだ。

「ここには動力はないと思うけど、磁石を動かすのに何を使っていたの?」

「人力」

「え?」

「こうやって自分で動かした」

 ヒナは身振り手振りで発電の様子を解説した。
何気に卑猥な動作だったが、カナタもそれには気付かなかった。
それは小学校の実験レベルだった。

「その電気をリチウムイオン電池に溜めようとしていたんだ」

 ヒナは、リチウムイオン電池に充電していて爆発事故を起こし、大怪我を負って奴隷落ちした。
そのレベルでなぜそこまで大怪我をする爆発事故を起こしたのかがわからない。
カナタは雷魔法をぶち込んだのだと思っていたぐらいだった。

「そこは水車を使った」

 水力発電だった。
何気に頑張っていた様子。
それでも爆発には程遠い。

「それでも爆発には至らないよね?
いったい何をやったんだよ」

「落とした」

 リチウムイオン電池は落下による変形に弱い。
それにより発火現象が起きることが多々あると言われている。

「それを拾った時に爆発した」

「そうなんだ……」

 予想外すぎた。あまりにも間抜けな結果だ。
だが、リチウムイオン電池は、爆発するぐらいだからきちんと作れていたようだった。
そんな知識がヒナのどこにあったのだろう?

「リチウムイオン電池とか、発電の仕組みとか、良く知識があったね」

「錬金術のサブスキルに解析スキルがあるから解った。
スマホの現物を道具屋でみつけたからね~」

 この世界、結構異世界転移して来ている人がいる。
その人が齎した遺物が市場しじょうに出回っていることがあるのだ。
その価値を知っているのは転移者か転生者だけなので、ヒナはその価値に気付き借金をしてまで手に入れたということだった。
その借金が奴隷落ちの原因でもあった。

「現物があれば作ることが出来るのか」

 カナタも知らなかった事実だった。

「でも、発電の仕組みはそれでは解らないんじゃないの?」

「それは漫画知識であった」

 あの漫画だろう。カナタの知らないはずの知識にもそれはあった。
そしてその知識からカナタはあることに気付いた。
磁力はコイルに電気を流すと挿してある金属棒に発生する。
逆に磁力のある金属棒をコイルに抜き挿しするとコイルに電気が流れる。

「ミスリルのコイルに魔力を流して、金属棒に何が起こるか調べれば、その逆が魔力を作る過程になるはずだよね」

「!」

 カナタの発想はヒナにとって天啓だった。
この後、ヒナが研究室に籠りっぱなしになってカナタに怒られるまでがセットだった。

「やったわ。魔力を作ることに成功したわ!
魔石の棒を使うのよ!」

 カナタのアイデアにより、魔力製造が可能になった。

「問題はせっかく作った魔力がそのまま消えるだけなのよ!
リチウムイオン電池に相当する蓄積する仕組みが必要だわ。
次の研究テーマが決まったわ」

 だが、その魔力を溜める方法まではヒナは思いもつかなかったようだ。

「え? それが燃料石じゃないの?」

 既に蓄電池が発明済みだった。
だが、これにより音声通信機の魔力充填が楽になり、魔力充填業従事者には大変喜ばれた。
『俺たちの仕事を奪うのか!』と言われなかったのは、音声通信機が増え、魔力充填の需要がひっきりなしにあったため、彼らがオーバーワークとなっていたせいだった。
ヒナの発明は魔導具界の大発明となった。
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