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ウルティア国戦役編

147 カナタ、人事に悩む

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「で、そんなことを相談しに来たわけ?」

 カナタが頼ったのはグラスヒルにいるララだった。
ララはガチャ屋1号店を新たに雇った奴隷たちにより運営出来るようにと準備をしているところだった。
その人材確保の手腕は素晴らしく、カナタの1/10の予算で必要な人員を揃えて見せた。
なのでカナタはガチャオーブ5万個の仕分けも、ララの人材確保の手腕に頼ろうと相談しに来たのだ。

 ララがガチャ屋1号店から手を引こうとしているのは、カナタが独立貴族位を得たために領地に向かうことになったため、そちらに皆で付いていこうと決めたからだった。
カナタが【常設転移門】を造れるようになったため、各拠点の間の移動はカナタに頼ることなく出来るようになった。
そのためグラスヒルの主要メンバーであるララ、カリナ、ユキノ、キキョウの4人はガチャ屋1号店を離れ、カナタの領地であるミネルバの屋敷に常駐するつもりだったのだ。
ララがミネルバの屋敷からガチャ屋1号店の様子を見ようと思えば、隣の部屋に行くかの如くグラスヒルの屋敷まで【常設転移門】で行けてしまう。
ならばガチャ屋1号店には常駐しなくても良いという判断だった。
何かあれば音声通信機で呼び出すことも可能だからだ。

 カナタが個人用に造った【常設転移門】は、人一人が通れる程度に抑えていた。
これは大量輸送に利用するためではなく、カナタの奴隷たちが簡単に拠点間を行き来できるようにと設置したためだ。

 拠点の数も増えた。
魔宝石の採掘のために鉱山ダンジョンには頻繁に行かなければならないため、グリーンバレーには採掘担当パーティ―のための拠点を購入した。
そこは馬車2台分の厩舎と簡単な宿泊施設がある程度の小さな一戸建てだった。
グリーンバレーでは売りに出ている不動産があまりなく、条件を満たす建物がそこしか手に入らなかったのだ。
家の中には【常設転移門】が設置され、いつでも行き来できるようにした。
誤算だったのは、【常設転移門】が王国機密の魔導具であるため、その警備に戦闘職を常駐させねばならないということだった。
警備が常駐することで、採掘担当パーティ―をその拠点に住まわせることが出来なかったのだ。
そのため採掘担当パーティ―は【常設転移門】を使ってグラスヒルから通勤するという本末転倒なこととなってしまった。

 次に拠点を設置したのはオレンジタウンだった。
ここは領主のオレンジ男爵と友好関係を築いていたこともあるが、冷蔵庫といった魔導具を販売していることもあり、【常設転移門】を設置すれば物資の搬入に便利だったのだ。
美味しいスイーツを常に仕入れたいという思惑が女性たちの間にあったことは公然の秘密だ。

 閑話休題。話が逸れたが、カナタが相談にやって来たとき、ララは引っ越しの準備を進めていた。
ガチャ屋1号店はララたちが居なくても既に運営出来るようになっており、警備の戦闘職も鉱山ダンジョンなどでレベル上げを行い引継ぎが出来るまでに仕上がっていた。

「ララが雇うと、なぜか奴隷の値段が1/10になるからね」

 これはカナタが雇いに行くと、奴隷商にオールオッケーな奴隷を用意されてしまうから高くなっているのだが、それをカナタは知る由もなかった。
当然ララは従業員契約の奴隷しか雇わないので安くなるのだ。
ちなみにララとルルをカナタが引き取った時に90万DG相当と見積もられたのは、レグザスが勝手に従業員契約だと思い込んで安く見積もったからだった。
実際はオールオッケーな契約だったため、実際の価値は二人で20倍の1800万DGはあった。

 ララはカナタが選ぶ特別な奴隷は自分自身もそうであるように、そうオールオッケーであるべきだと思っていた。
そのため、カナタの知らない所でわざわざ奴隷商に『オールオッケーな女性限定で』と注文を付けていた。
ララこそがカナタが雇う奴隷の値段を10倍にしていたと言っても過言ではなかった。

「ガチャオーブを仕訳けるだけで奴隷を雇うつもりなの?」

「5万個だよ? ララに任せたらやってくれる?」

 ララは自らに仕分け作業が降りかかってくることを想像して途方に暮れた。

「確かに機密保持の観点や盗難防止のために、奴隷にさせるのが一番ね」

 ララは手のひらを返した。
だが、ただでは済ませなかった。
無駄な奴隷を雇うつもりは無いのだ。

「今後必要となる人員を先行して雇って、作業に従事させましょう。
ミネルバの領主屋敷の警備やメイド、料理人など必要な人材は多いのだから」

「さすがララだ。頼むよ」

 グラスヒルは交通の要衝であると同時に有名なオークションの地であるため、あらゆる地方から人材が集まってくる。
ララに任せれば、期待通りの仕事をしてくれるはずだった。


「ミネルバの軍はどうするつもりなの?」

「え?」

 横から話しに割り込んで来たのはヨーコだった。
ヨーコは元王族のため、領主として何が必要なのかを知り尽くしていた。
カナタはミネルバという国境の領地を守るために軍を持たなければならなかったのだが、丸っと失念していた。
ミネルバは、今まではライジン辺境伯の支配地であったために、ライジン辺境伯が領軍を回すだけで良かったのだが、今後はカナタが守護しなければならないのだ。

「それも奴隷で賄う?」

「無理ね」

 ヨーコがカナタの台詞をバッサリ斬る。

「たしかミネルバの街には衛兵組織があったはず。
それを軍に昇格させる?」

「彼らは街の守護者であって、国境の守護者ではないわ」

「じゃあ、どうすれば……」

 カナタの頭に過ったのは、ニクのような強力な愛砢人形ラブラドールを大量に手に入れることだった。
あの戦闘力を持った存在が複数いれば国境の警備は完璧だろう。
カナタはその思い付きを頭のメモに書き込んだ。

「何か変なことを考えてない?
まず領兵の募集をかけるのが定石だからね?」

 ヨーコはとりあえずやれる事を提案した。
しかし、心の底ではある手段を提案するべきか迷っていた。

「そんな募集に人が集まるかな?
それと、今から雇って軍を編成して、これから起こりそうな危機に間に合うの?」

「とりあえず、ライジン辺境伯から第2軍を派遣してもらったから、少し余裕があるわ。
でも、そうね……」

 ヨーコは何か思いつめた表情をすると意を決したように顔を上げた。

「私の国がスヴェルナ帝国に滅ぼされたのは話したわよね?
その元軍人を雇うというのはどうかしら?
たぶん、国元で辛い状況にあると思うのよ……。
彼らを連れて来れば軍として使い物になるはずよ」

 ヨーコは自らの国の再興をカナタに要求することはなかったが、元国民の行く末には憂慮していたのだ。

「それ良いアイデアだね。そうしよう!」

 カナタはスヴェルナ帝国と事を構えるつもりはないが、ヨーコの手助けはしたいと思っていた。
ここにスヴェルナ帝国からの元国民救出計画が立ち上がったのだった。
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