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南部辺境遠征編

108 カナタ、魔導通信機に興味を持つ

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「魔法便か。それより魔導通信機を使って直接王都のアラタと話せばいい」

 カナタは父アラタが王都にいると決めつけているような辺境伯の言い様に引っかかったが、魔導通信機という知らない単語が出て来たため、そちらに興味が向いてしまっていた。

「魔導通信機?」

「ああ、ここは国防の最前線だからな。
何かあった時の連絡用に魔導通信機という魔導具がここガーディアには置いてある。
丁度、定例会議に魔物の氾濫解決の連絡をするところだから、それに便乗するといい」

 魔導通信機は、国の最高機密だった。
ライジン辺境伯領は、国境の警備及び魔物の氾濫を防ぐための最前線だったために、その貴重な魔導通信機が配備されていた。
魔導通信機が配備されているのは、東西南北にある辺境伯領4つのみであり、そこと王都が1対1で結ばれていた。

 情報を即時やりとり出来るということは、軍事に於いても経済に於いても優位に立てることを意味する。
他より早く情報を得て対処出来ることが、どれだけ有利なのか理解出来ることだろう。
そのため、その存在は秘匿されており、軽々しく便乗しろなどと言ってはいけないものだった。

「そんなもの使っていいの?」

「なーに、俺とヒカル(メルティーユ王)とアラタの仲だ。
何の問題もない」

 問題がないわけではないのだが、三英雄の間のこと、ごり押し出来るとライジンは思っていた。

「それより、父様が今どこにいるか……」

「この時期なら定例会議に呼ばれてアラタは王都にいるはずだぞ?
俺は領地が遠いから王都行きは免除されているが、魔導通信機で参加させられている。
今回の魔物の氾濫解決の報告もせねばならん。
それに便乗すればアラタと話せるだろう」

 お膳立ては整っていた。
カナタは長く連絡出来なかった伐の悪さと、家出状態の負い目から躊躇したが、この状況を打開するため、1万連ガチャのチャンス獲得のために決意を固めた。

「お願いします」

「よし。明日会議があるから、カナタも参加しろ」

 王都の会議にカナタも参加しろとの無茶ぶりだった。
この後、カナタは辺境伯に用意された客室で、なぜかニクとサキと共に就寝した。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 ガーディアの城塞で特に機密保持に優れた部屋に特殊な魔導具が設置されていた。
その魔導具こそが、魔導通信機だった。
カナタは辺境伯にこの部屋へと連れて来られていた。

「おー!」

 カナタはその珍しい魔導具に興味深々だった。
それは通信機本体と思われる筐体に、姿見のような表示装置、そしてこちらの姿を写すための撮影装置で構成されていた。
それらの装置は通信機本体の筐体とケーブルで繋がっており、姿見には砂嵐のような映像が映し出されていた。
まさかの映像通信装置だった。

「(これなら声だけの通信装置は簡単に創れそうだな)」

 カナタは調整中で中身の見えている筐体を食い入るように観察した。
【魔力探知】【錬金術】【陣魔法】【付与魔法】、そして【鑑定】のスキルを使用し、魔導具の仕組みを解析した。
この【鑑定】、スキルガチャ100連で手に入れたものだった。
無駄なスキルやダブりが多かったのだが、100スキル手に入れるということは、たまにこういった有益なスキルも含まれるので、とんでもない効果があった。
5000DGで1スキルは安くないか?とカナタは疑問に思っていたが、それはカナタのGRスキルである携帯ガチャ機を使ったからだった。
一般の人が教会でスキルガチャを引こうと思ったら、その100倍の金額でも不可能だった。
余談だが、その金額には教会へのお布施が多分に含まれているため、実際にスキルガチャを引く金額はもっと安かったりする。
それでもほぼNスキルしか出ないのだ。
そう思えば、カナタの携帯ガチャ機のチートぶりが解るというものだろう。

「へー。映像と音声は別系統なんだ。
映像で燃料石の魔力をバカ食いしてるけど、音声だけならもっと小さく出来そう」

 この魔導通信機本体のほとんどが燃料石により容積をとっていた。
機能を制限することで、魔力消費を抑えれば燃料石を減らせてもっと小さくすることが可能だとカナタは思った。

「おまえ、この魔導具の仕組みがわかるのか!?」

 辺境伯が驚きの声を上げる。
この魔導通信機、希少である理由の一つがロストテクノロジーだったからだ。
一から製造する技術は既に失われて無く、ましてや改造しようなどという人物は皆無だった。
複製をする事のみが可能であるが、それも困難を極め、今現在この魔導具を複製できる人物は王国に1人しか居なかった。
それも年単位の時間のかかる仕事で、この魔導通信機は滅多に手に入るものではなかったのだ。

 カナタがこの魔導具の仕組みを理解出来てしまったのは、テレビとビデオカメラいう機械の存在を”知らないはずの知識”として持っていたからだった。
そこに各種スキルの能力が加わって解析できてしまったのだ。

「声だけ伝える魔導具なら、簡単に作れそうだよ?」

 カナタはグラスヒルの屋敷と簡単に連絡がとれると喜んで、言わなくても良いことをポロっと言ってしまった。
幸か不幸か、それを聞き逃す辺境伯ではなかった。

「それは楽しみだな。俺にも作ってくれ。
なに、材料ならあいつに頼めば何でも用意するように言っておく。
礼金もたんまり出すからな。あのアホとは違ってな」

 辺境伯は、「あいつ」のところで後ろにいる技術者を親指で指すとそう言った。
カナタはしまったとこの期に及んで思ったが、それよりもあのアホ=カンザス男爵との顛末を辺境伯が知っていることに驚愕した。
ライジン辺境伯の情報網、侮れなかった。
そして、その情報網にカナタが作ろうとしている通信機が加わる……。
カナタはそれ以上考えないことにした。そこにはカナタが触れてはいけない闇がありそうだったからだ。

「映像入ります」

 技術者の声で、魔導通信機が繋がったことが判った。
そこには王都の議場が映されており、そうそうたる貴族たちが立ち並んでいた。
おそらく、その一角にこちらと対になる表示装置があり、こちら側が映し出されているのだろう。
ライジン辺境伯が撮影装置の前に立つ。
すると向こう側の映像にカナタの父アラタが歩み寄って来てアップになった。

「ひさしぶりだな、ライジン」

 カナタには久しぶりに聞く父アラタの声だった。
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