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南部辺境遠征編
099 カナタ、悪目立ちする
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翌日、要塞都市の宿舎に泊まった先行隊一行は担当地域である正面左翼に来ていた。
もちらんカナタたち3人も一緒だ。
「俺たち冒険者の総数は約500だから、横に並んで迎撃するでいいかな?」
カナタはディーンの作戦とも言えない作戦に驚いた。
地の利を生かすとか、陣形を組むとか、塹壕を掘るとかやりようがあるだろうに、ディーンはノープランだった。
カナタが呆れ顔をしているのに気付いたのか、ディーンが苦笑いして言う。
「後から来る冒険者たちには、どうせ作戦や陣形なんてわからないんだよ。
各パーティー毎に目の前の敵を迎撃する、それぐらいしか期待出来ないのさ」
カナタは今更ながら拙い現場に来てしまったと悟った。
知らないはずの知識が”地の利を生かせ、無ければ造れ”と強く囁いて来る。
「正面から魔物が来るとして、その場所を限定するように障害物を設置するとかしないんですか?」
そう言っておいて、カナタはしまったと思った。
ニクのように悪目立ちしたくないと思っていながら、あまりにも杜撰な作戦に、ついつい危機感を覚えて口を出してしまったのだ。
「ほう、何か良い案があるんだな?」
ディーンの目がキラリと光る。
その目は面白くなってきたと言っているようだった。
これは逃れられないとカナタは察した。まるで猫に睨まれたネズミ状態だったのだ。
「飛行型と大型の魔物はニクと『紅龍の牙』に任せるから置いておいて、小型と中型の地上型魔物の行動範囲を塹壕と土壁でもって制限します。
土壁で魔物の行く手を阻み、魔物1体分の狭い通路に誘導します。
通路が狭いですから、魔物は1体ずつしか通れないので、そこで進行速度を落とす事になります。
その1本道の開口部に枡形を設けることで、魔物を3方向から攻撃出来るように冒険者を配置するんです」
カナタは知らないはずの知識からスラスラと陣地構築の概要を披露した。
「ほう、枡形とはなんだ?」
ディーンはさすがSランク冒険者であり、カナタの言っていることが使えると瞬時に判断していた。
ディーンはカナタに続けろと促した。
「この一本道の出口に広場を造り、それを囲むように四角く壁を造ります。
本来なら弓師や魔術師を壁に配置して長距離攻撃だけで仕留めたいのですが、冒険者の内訳は近接職が2/3以上とのことですので、近接職を壁側を背にするように3方向に配置します。
そして通路から広場に出て来た魔物を弓師と魔術師が壁の上から長距離攻撃し、近接職は3方向から魔物を直接攻撃して殲滅します。
前の魔物が邪魔で、後続の魔物は前の魔物が倒されるまで狭い出口から出られません。
これによって1対多の構図を作り続けるのです」
カナタは地面に図を書いて説明した。
その説明をディーンは頷きながら聞いていた。
「よし、それで行こう。
カナタが指揮して土魔法の使える奴と力ある奴に土木作業をさせろ。
その壁と枡形とやらを造ってくれ」
やっぱりディーンは丸投げだった。
カナタが図面を書き、左翼一帯に作業用の杭とロープが張られた。
この形に壁を造れば良いのだ。
枡形は合計33カ所作ることにした。
この数は5人パーティーが3つで1か所の枡形を担当するという計算によるものだった。
その枡形に誘導するように地面を掘り、壁を立ち上げて行けばよい。
というか、左翼の入り口を全て掘り下げてスロープ状にして今の地面を壁としてしまうのが早そうだった。
「たしか【掘削】のスキルがあったな」
カナタは【掘削】のスキルでがっつり地面を掘り下げて行った。
これはカナタの莫大な魔力量による賜物だったのだが、カナタはその悪目立ちに気付いていなかった。
「土魔法が使える人員と力のある人員を使えというけど、そもそもまだ冒険者が到着してなくてその人員がいないじゃないか!」
カナタは一人で左翼の陣地を構築するのだった。
そこには、これを造らないと自分の身が危ないという危機感があった。
その結果、【土魔法】と【掘削】のスキルが3つもレベルアップしてしまっていた。
レベルが上がったことで作業が捗る捗る。
「ディーン、あんた、これをカナタくん一人にやらせたんだって?」
セレーンがディーンの頭に拳骨を落とした。
目の前には見事な陣地が出来上がっていた。
魔物が壁の上に飛び乗れないように、壁の高さ――いや地面の掘り下げは10mあるかもしれない。
その壁の厚みは地面を掘った残りを土魔法で固めてあるので、魔物が体当たりしても崩せないほど厚く固い。
掘り下げられた通路は迷路になっており、その行きつく先には例の枡形があった。
枡形には地上に上がれる階段まで作られており、中の冒険者が撤退できるようにしてあった。
至れり尽くせりだった。
「いや、俺は明日到着する冒険者を使えと言ったんだが、カナタが有能すぎて一人で完成させてしまったんだよ」
セレーンもその規模を見て、一人で造り上げたカナタが異常なのだと察した。
「カナタくん、無茶しちゃだめよ。今日も明日もずーっと休んでいていいからね。
魔物の討伐はこのバカにやらせればいいのよ!」
カナタも調子に乗ってやりすぎた自覚があったので、苦笑いするしかなかった。
だが、これで自分たちが生き残れる確率は間違いなく上がったと、カナタは胸を撫で下した。
「いいな。これ」
翌日、左翼に突然出来た陣地を視察しに来た第3軍のガウェイン将軍が呟いた。
それは中央と右翼にもこの陣地を造れということだった。
カナタが死んだ目になったのは言うまでもない。
もちらんカナタたち3人も一緒だ。
「俺たち冒険者の総数は約500だから、横に並んで迎撃するでいいかな?」
カナタはディーンの作戦とも言えない作戦に驚いた。
地の利を生かすとか、陣形を組むとか、塹壕を掘るとかやりようがあるだろうに、ディーンはノープランだった。
カナタが呆れ顔をしているのに気付いたのか、ディーンが苦笑いして言う。
「後から来る冒険者たちには、どうせ作戦や陣形なんてわからないんだよ。
各パーティー毎に目の前の敵を迎撃する、それぐらいしか期待出来ないのさ」
カナタは今更ながら拙い現場に来てしまったと悟った。
知らないはずの知識が”地の利を生かせ、無ければ造れ”と強く囁いて来る。
「正面から魔物が来るとして、その場所を限定するように障害物を設置するとかしないんですか?」
そう言っておいて、カナタはしまったと思った。
ニクのように悪目立ちしたくないと思っていながら、あまりにも杜撰な作戦に、ついつい危機感を覚えて口を出してしまったのだ。
「ほう、何か良い案があるんだな?」
ディーンの目がキラリと光る。
その目は面白くなってきたと言っているようだった。
これは逃れられないとカナタは察した。まるで猫に睨まれたネズミ状態だったのだ。
「飛行型と大型の魔物はニクと『紅龍の牙』に任せるから置いておいて、小型と中型の地上型魔物の行動範囲を塹壕と土壁でもって制限します。
土壁で魔物の行く手を阻み、魔物1体分の狭い通路に誘導します。
通路が狭いですから、魔物は1体ずつしか通れないので、そこで進行速度を落とす事になります。
その1本道の開口部に枡形を設けることで、魔物を3方向から攻撃出来るように冒険者を配置するんです」
カナタは知らないはずの知識からスラスラと陣地構築の概要を披露した。
「ほう、枡形とはなんだ?」
ディーンはさすがSランク冒険者であり、カナタの言っていることが使えると瞬時に判断していた。
ディーンはカナタに続けろと促した。
「この一本道の出口に広場を造り、それを囲むように四角く壁を造ります。
本来なら弓師や魔術師を壁に配置して長距離攻撃だけで仕留めたいのですが、冒険者の内訳は近接職が2/3以上とのことですので、近接職を壁側を背にするように3方向に配置します。
そして通路から広場に出て来た魔物を弓師と魔術師が壁の上から長距離攻撃し、近接職は3方向から魔物を直接攻撃して殲滅します。
前の魔物が邪魔で、後続の魔物は前の魔物が倒されるまで狭い出口から出られません。
これによって1対多の構図を作り続けるのです」
カナタは地面に図を書いて説明した。
その説明をディーンは頷きながら聞いていた。
「よし、それで行こう。
カナタが指揮して土魔法の使える奴と力ある奴に土木作業をさせろ。
その壁と枡形とやらを造ってくれ」
やっぱりディーンは丸投げだった。
カナタが図面を書き、左翼一帯に作業用の杭とロープが張られた。
この形に壁を造れば良いのだ。
枡形は合計33カ所作ることにした。
この数は5人パーティーが3つで1か所の枡形を担当するという計算によるものだった。
その枡形に誘導するように地面を掘り、壁を立ち上げて行けばよい。
というか、左翼の入り口を全て掘り下げてスロープ状にして今の地面を壁としてしまうのが早そうだった。
「たしか【掘削】のスキルがあったな」
カナタは【掘削】のスキルでがっつり地面を掘り下げて行った。
これはカナタの莫大な魔力量による賜物だったのだが、カナタはその悪目立ちに気付いていなかった。
「土魔法が使える人員と力のある人員を使えというけど、そもそもまだ冒険者が到着してなくてその人員がいないじゃないか!」
カナタは一人で左翼の陣地を構築するのだった。
そこには、これを造らないと自分の身が危ないという危機感があった。
その結果、【土魔法】と【掘削】のスキルが3つもレベルアップしてしまっていた。
レベルが上がったことで作業が捗る捗る。
「ディーン、あんた、これをカナタくん一人にやらせたんだって?」
セレーンがディーンの頭に拳骨を落とした。
目の前には見事な陣地が出来上がっていた。
魔物が壁の上に飛び乗れないように、壁の高さ――いや地面の掘り下げは10mあるかもしれない。
その壁の厚みは地面を掘った残りを土魔法で固めてあるので、魔物が体当たりしても崩せないほど厚く固い。
掘り下げられた通路は迷路になっており、その行きつく先には例の枡形があった。
枡形には地上に上がれる階段まで作られており、中の冒険者が撤退できるようにしてあった。
至れり尽くせりだった。
「いや、俺は明日到着する冒険者を使えと言ったんだが、カナタが有能すぎて一人で完成させてしまったんだよ」
セレーンもその規模を見て、一人で造り上げたカナタが異常なのだと察した。
「カナタくん、無茶しちゃだめよ。今日も明日もずーっと休んでいていいからね。
魔物の討伐はこのバカにやらせればいいのよ!」
カナタも調子に乗ってやりすぎた自覚があったので、苦笑いするしかなかった。
だが、これで自分たちが生き残れる確率は間違いなく上がったと、カナタは胸を撫で下した。
「いいな。これ」
翌日、左翼に突然出来た陣地を視察しに来た第3軍のガウェイン将軍が呟いた。
それは中央と右翼にもこの陣地を造れということだった。
カナタが死んだ目になったのは言うまでもない。
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