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南部辺境遠征編
092 カナタ、一気に進む
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カンザスから赤い点まで転移し、鳥型騎獣のクヮァに引かれた小型獣車に乗って訪れたのは、何の特色もない寂れた街だった。
カンザスを逃げるように出て来たため、カナタたちは周辺情報をあまり収集出来ていなかった。
そのため、ここがどの領なのか、どこの街に辿り着いたのか、良くわかっていなかった。
カナタはカンザスで嫌な思いをしたことで、街を探索するということに魅力を感じなくなっていた。
「とりあえず、冒険者ギルドに寄ってここが何処なのか把握しようか。
それと地図があれば手に入れたいね」
カナタたちは街の北門に向かった。
いつものように入街税を払い、そのまま街に入った。
ここはどうやらこの領の領都ではなく地方の宿場街のようだった。
街も冒険者ギルドも小さく、門をくぐって直ぐに冒険者ギルドに辿り着いた。
ギーーッギギ
冒険者ギルドのスイングドアを押すと、お馴染みの音が鳴った。
冒険者ギルドに来ると、いつもスイングドアなのは、冒険者にはドアを開けたら閉めるという習慣がないためだった。
勝手に閉まるスイングドアにしないと、冒険者ギルドの入り口はいつも開けっ放しになってしまうのだ。
この街の冒険者ギルドの中は狭く、奥のカウンターには受け付けが一つしかなかった。
しかも、誰も並んでおらず、閑散としていた。
カナタはその受付に向かうと、受付嬢さんに声をかけた。
「すみません、カンザスの方から来たのですが、ここは何という街ですか?」
カナタがDランクの冒険者カードを見せながら訊ねると、子供と侮っていた受付嬢が手の平を返すかのように態度を変えた。
先程までの仏頂面が嘘のように笑顔になった。
「ここはミリアムという街です。
何かお困りですか?」
作り笑顔に必死になっている受付嬢にカナタはこれ幸いと質問を浴びせた。
「ここの特産品って何ですか?
買うにあたって何か制限や条例がありますか?
この領を含む周辺地図は売ってませんか?」
受付嬢が社交辞令で言った言葉を、世間知らずのカナタが真に受けたのは仕方がないことだった。
しかし、自分から何でも聞けという態度をとってしまったからには、受付嬢は答えざるを得なかった。
「ここには特産品はありません。
条例というとカンザスみたいな肉の持ち出し総量規制でしょうか?
特産品もないこの街では、そんな条例はありません。
地図はこれです。銀貨10枚になります」
「買います。はい銀貨10枚。質問に答えてくれてありがとう」
「いいえ、これも仕事ですから」
カナタは地図を買うと受付嬢に礼を言って退散した。
受付嬢さんも暇だったようで、地図が売れたことで歩合が入るのか喜んでいるようだ。
「そうか、最初からチップでも渡せば良かったのかもしれない」
この街に留まる必要はもう無いなと判断して、ふとカナタはそう思った。
特産品も無いなら、ハズレオーブを仕入れる必要もなさそうだった。
何かあるのなら後で転移で戻りやり直せばいいのだ。
カナタはさっさと街を出て先を急ぐことにした。
地図を見ると、あと2つ領地を越えれば隣国であるウルティア国と国境を接する領地に到着することがわかった。
国境の領地はライジン辺境伯領、ウルティア国に行けるのは国境の街ガーディアだった。
ここからは南西に向かう必要があった。
「次は転移起点だけ設定してさっさと先に進んでしまうよ。
今日中にライジン辺境伯領に入ってしまおう」
カナタは赤い点を探って南へ一つ、西へ一つ転移した。
そこはライジン辺境伯領領都ライジニアの郊外だった。
「おお、こんなに領都に近い場所に赤い点があったのは初めてだな。
上手く隠蔽された場所だけど、ここはこっちの転移起点にするわけにはいかないな」
カナタたち一行は門から獣車を引いて出て来たので、目立ったのではないかと心配していた。
幸い赤い点を作った謎の人物が周囲を隠蔽していたので助かったが、これを常に使ってしまうと、その者たちとトラブルになりかねなかった。
カナタたちは独自に使える隠された転移拠点を設定する必要があった。
ここはあまりにも都市に近かったので街道脇でというわけにはいかなかたのだ。
「ここがいいかもしれないね」
「街道からも見えにくい位置ですし、こんな場所で野営する者もいないでしょう」
サキのお墨付きも出たので、カナタは街道脇にある岩の裏側に転移起点を設定することにした。
転移門を岩の裏側側面に開ければ、そのまま獣車を引き出して充分な空間がそこにはあったからだ。
転移門を開いて向こう側を覗けば安全かもわかるはずなので、カナタはここを常設転移起点とすることにした。
カナタは今日、何度も【転移】を使ううちに、【転移】のレベルが1つ上がってLv.3になっていた。
これでカナタの【転移】は携行人数が3人となった。
鳥型騎獣のクワァで1、サキで1、残りもう1人連れて行けることになった。
ニクはアイテムと判断されるらしく人数には含まれていない。
レベルが上がって得た【転移】の能力の一つが常設転移起点の設定だった。
転移起点として安定した常設転移起点を設けることで、長距離転移を魔力を節約して行えるようになる便利な能力だった。
この常設転移起点をグラスヒルの屋敷にも置くことで、2点間を繋ぎっぱなしにする転移門を任意の時間開くことが出来るのだ。
そこには携行人数の制限は無かった。
「これでグラスヒルの屋敷とライジニアは直で行き来出来るようになるね」
これがバレたら大変なことになるのだが、カナタは便利になるなぐらいにしか思っていなかった。
簡単に【転移】が出来、莫大な魔力量で転移距離もまだまだ余裕のあるカナタには、この距離を越えられることの凄さが実感出来ていなかったのだ。
カンザスを逃げるように出て来たため、カナタたちは周辺情報をあまり収集出来ていなかった。
そのため、ここがどの領なのか、どこの街に辿り着いたのか、良くわかっていなかった。
カナタはカンザスで嫌な思いをしたことで、街を探索するということに魅力を感じなくなっていた。
「とりあえず、冒険者ギルドに寄ってここが何処なのか把握しようか。
それと地図があれば手に入れたいね」
カナタたちは街の北門に向かった。
いつものように入街税を払い、そのまま街に入った。
ここはどうやらこの領の領都ではなく地方の宿場街のようだった。
街も冒険者ギルドも小さく、門をくぐって直ぐに冒険者ギルドに辿り着いた。
ギーーッギギ
冒険者ギルドのスイングドアを押すと、お馴染みの音が鳴った。
冒険者ギルドに来ると、いつもスイングドアなのは、冒険者にはドアを開けたら閉めるという習慣がないためだった。
勝手に閉まるスイングドアにしないと、冒険者ギルドの入り口はいつも開けっ放しになってしまうのだ。
この街の冒険者ギルドの中は狭く、奥のカウンターには受け付けが一つしかなかった。
しかも、誰も並んでおらず、閑散としていた。
カナタはその受付に向かうと、受付嬢さんに声をかけた。
「すみません、カンザスの方から来たのですが、ここは何という街ですか?」
カナタがDランクの冒険者カードを見せながら訊ねると、子供と侮っていた受付嬢が手の平を返すかのように態度を変えた。
先程までの仏頂面が嘘のように笑顔になった。
「ここはミリアムという街です。
何かお困りですか?」
作り笑顔に必死になっている受付嬢にカナタはこれ幸いと質問を浴びせた。
「ここの特産品って何ですか?
買うにあたって何か制限や条例がありますか?
この領を含む周辺地図は売ってませんか?」
受付嬢が社交辞令で言った言葉を、世間知らずのカナタが真に受けたのは仕方がないことだった。
しかし、自分から何でも聞けという態度をとってしまったからには、受付嬢は答えざるを得なかった。
「ここには特産品はありません。
条例というとカンザスみたいな肉の持ち出し総量規制でしょうか?
特産品もないこの街では、そんな条例はありません。
地図はこれです。銀貨10枚になります」
「買います。はい銀貨10枚。質問に答えてくれてありがとう」
「いいえ、これも仕事ですから」
カナタは地図を買うと受付嬢に礼を言って退散した。
受付嬢さんも暇だったようで、地図が売れたことで歩合が入るのか喜んでいるようだ。
「そうか、最初からチップでも渡せば良かったのかもしれない」
この街に留まる必要はもう無いなと判断して、ふとカナタはそう思った。
特産品も無いなら、ハズレオーブを仕入れる必要もなさそうだった。
何かあるのなら後で転移で戻りやり直せばいいのだ。
カナタはさっさと街を出て先を急ぐことにした。
地図を見ると、あと2つ領地を越えれば隣国であるウルティア国と国境を接する領地に到着することがわかった。
国境の領地はライジン辺境伯領、ウルティア国に行けるのは国境の街ガーディアだった。
ここからは南西に向かう必要があった。
「次は転移起点だけ設定してさっさと先に進んでしまうよ。
今日中にライジン辺境伯領に入ってしまおう」
カナタは赤い点を探って南へ一つ、西へ一つ転移した。
そこはライジン辺境伯領領都ライジニアの郊外だった。
「おお、こんなに領都に近い場所に赤い点があったのは初めてだな。
上手く隠蔽された場所だけど、ここはこっちの転移起点にするわけにはいかないな」
カナタたち一行は門から獣車を引いて出て来たので、目立ったのではないかと心配していた。
幸い赤い点を作った謎の人物が周囲を隠蔽していたので助かったが、これを常に使ってしまうと、その者たちとトラブルになりかねなかった。
カナタたちは独自に使える隠された転移拠点を設定する必要があった。
ここはあまりにも都市に近かったので街道脇でというわけにはいかなかたのだ。
「ここがいいかもしれないね」
「街道からも見えにくい位置ですし、こんな場所で野営する者もいないでしょう」
サキのお墨付きも出たので、カナタは街道脇にある岩の裏側に転移起点を設定することにした。
転移門を岩の裏側側面に開ければ、そのまま獣車を引き出して充分な空間がそこにはあったからだ。
転移門を開いて向こう側を覗けば安全かもわかるはずなので、カナタはここを常設転移起点とすることにした。
カナタは今日、何度も【転移】を使ううちに、【転移】のレベルが1つ上がってLv.3になっていた。
これでカナタの【転移】は携行人数が3人となった。
鳥型騎獣のクワァで1、サキで1、残りもう1人連れて行けることになった。
ニクはアイテムと判断されるらしく人数には含まれていない。
レベルが上がって得た【転移】の能力の一つが常設転移起点の設定だった。
転移起点として安定した常設転移起点を設けることで、長距離転移を魔力を節約して行えるようになる便利な能力だった。
この常設転移起点をグラスヒルの屋敷にも置くことで、2点間を繋ぎっぱなしにする転移門を任意の時間開くことが出来るのだ。
そこには携行人数の制限は無かった。
「これでグラスヒルの屋敷とライジニアは直で行き来出来るようになるね」
これがバレたら大変なことになるのだが、カナタは便利になるなぐらいにしか思っていなかった。
簡単に【転移】が出来、莫大な魔力量で転移距離もまだまだ余裕のあるカナタには、この距離を越えられることの凄さが実感出来ていなかったのだ。
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