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家出編

037 カナタ、討伐報酬をもらう

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 翌朝、カナタたちは冒険者ギルドへと向かっていた。
監禁生活で足腰の弱っていたララとルルも、充分な食事とガチャで出たハイポーションを与えられたことで大分回復していた。
カナタは、歩くことがリハビリになるので、休み休みで良いので歩かせようと、ララとルルも一緒に徒歩で来ていた。
2人とも着替えが満足になかったため、冒険者ギルドでの用事が済んだら色々と買うものがあったことも理由だった。
今はサーナリアが便宜を図ってくれてメイドが用意してくれたワンピースと靴があるが、一張羅では今後困ることになる。
後で開放するつもりでも奴隷を所持したからには、着替えを買ってあげないととカナタは思っていた。
特に、お店を開くならば店員の専用ユニフォームが必要だと、カナタの知らないはずの知識が囁いていた。

ギーギギギー

 冒険者ギルド入り口のスイングドアが軋み音をあげると、中でたむろしていた冒険者たちの目が一斉にカナタたちに向けられた。
子供1人に美少女3人という組み合わせは、冒険者たちにとって物珍しい印象を与えるものだった。
しかし、前日冒険者ギルドに居合わせた者たちは、カナタたちがBランク――今はAランク――冒険者のレグザスの関係者であることを知っていたため、早々に興味を失った。
まあ、それを知らない朝から飲んでいて昼には酩酊しているような冒険者がフラグを立てていたのだが……。

 朝ということもあり、冒険者ギルドはクエストの受注でごった返していた。
受付に長い列ができていたが、カナタたちが並ぶのは受注列ではなく買取列だ。
そこは朝一ということもあり、誰も並んでいなかった。
ほとんどの冒険者は朝一に受注して、夕方にアイテムを売る。
そのサイクルで動いているため、朝一の買取窓口は空いていることが多いのだ。

「おはようございます。ちょっと待ってくださいね」

 カナタたちが買取受付に行くと受付嬢さんは挨拶もそこそこにギルドマスターを呼びに行った。
ギルドマスターのライナーが上階から降りてくると、カナタたちはそのまま応接室へと招き入れられた。

「座ってくれ」

 ギルドマスターがソファーに座ると、カナタたちにも対面のソファーに座るように促してきた。
カナタがギルドマスターの正面に座ると、ララとルルが左右に腕を組んで座る。
ニクはカナタの後ろに立つという定位置に着いた。
ライナーは忙しいらしく、挨拶も端折って本題に入った。

「昨日のうちに盗賊の遺体を掘り出して確認した。
鑑定の魔導具で全員がダリル盗賊団だと発覚した」

 その鑑定の魔導具を借りるのに商業ギルドと交渉して苦労したと、カナタたちはライナーの愚痴に暫く付き合うことになった。

「しかし、偽名で冒険者カードを取得されたのはギルドの失態だった。
ギルド本部には冒険者登録時に鑑定の魔導具を使うように進言したよ」

コンコン

「入れ」

 ドアがノックされ、ライナーの愚痴がやっと止まると、ギルド職員がお茶と茶菓子、そして重そうな貨幣袋を持って現れた。

「それが報奨金だ。レグザスたちの分は盗賊3人だと聞いている。
切り殺された盗賊が3人だったから直ぐにわかったよ。
後は魔法で腕を飛ばされるか胸に穴が開いていたからな。
それがお前たちの取り分となる」

 どうやらレグザスたちは、止めを刺しただけの盗賊の報酬を得る権利を放棄したらしい。
彼らには冒険者としての矜持があり、助けてもらったうえ分け前を要求するなど恥だと思っていたのだ。

「ダリル盗賊団殲滅に白金貨1枚、ダリル討伐に白金貨2枚、デニス、ダンにそれぞれ白金貨1枚、その他24人で金貨280枚、斥候4人の情報提供に対して金貨10枚となった。
合計白金貨5枚と金貨290枚だが、金貨200枚は白金貨2枚にまとめたので、白金貨7枚と金貨90枚だ。
受け取れ」

 ズシンと重い音を鳴らして貨幣袋がテーブルの上に置かれた。
白金貨7枚と金貨90枚となると7900万DGということになる。
これだけの金額が出るということは、その何倍もの被害が出ていたということだ。
実は、被害者に大物貴族の縁者がいて、その復讐で高額になっていたとはカナタは知る由もない。
その大物貴族とカナタが絡むことになるのは、まだ先の話。
そんな被害縁者の出した報奨金が多数積み重なった結果が幹部たちの高額報酬となっていた。

 カナタが貨幣袋を受け取ると、ルルが中身を素早く数えて、丁度あると頷く。
カナタだけだったら、そのまま受け取ったところだろうけど、ルルはその点抜け目がない。
冒険者ギルドであっても、金貨を数枚抜くといった不正を行う者がいないとは限らないのがこの世界だった。

「確かに受け取りました」

 カナタは受取の書類にサインをすると貨幣袋を【お財布】に入れた。

「それでは、これにて」

 忙しいのだろう、ライナーは書類を手にすると早速席を立とうとした。

「あ、ちょっと待ってください」

 カナタは慌てて【ロッカー】から銅のインゴットを取り出した。
おそらくこれは受付嬢では扱えない案件だとカナタは思ったのだ。
今日冒険者ギルドに寄ったのはこちらがメインの用事だった。

「これが沢山ありまして……」

 ライナーが上げた腰を思わず下ろす。

ゴト ゴトゴト……ゴト

 ライナーの目の前に銅のインゴットが32塊、銀のインゴットが6塊並んでいた。
1つ20kgはある塊を7歳児の体格しかないカナタが片手で並べるというシュールな様子だったのだが、それが異常なことだと感じていたのはライナーだけだった。
カナタの信奉者となっていたララとルル、しもべであるニクは当然のことと受け止めていた。

「これ以外に鉄のインゴットが43塊あります。
こっちは1つ100kgほどあるんで、どこか広いところで出します」

「お、おう」

 ライナーは開いた口が塞がらなかった。
このインゴットは、グリーンバレー近くにある鉱山の採掘場に出没するゴーレムを討伐した際に、ドロップしたガチャオーブから出たものだろう。
ほとんどのガチャオーブはハズレの石材がドロップする。
だが、中には当たりのHNオーブが出ることがあり、それが鉄のインゴットをドロップした。
つまり、カナタが持ち込んだインゴットは、ゴーレムドロップのHN、R、SRアイテムだと思われるのだ。
ライナーは、カナタたちが上位の銅ゴーレムや銀ゴーレムを討伐したのだと推測した。
だが、カナタたちのランクはライナーが上げる前はGランクの最底辺だった。
それを極悪非道のダリル盗賊団を倒した実績でライナー自身がDランクに昇格させた。
Gランクで上位ゴーレム討伐、盗賊団壊滅の実績、英雄の血とは恐ろしいものだとライナーは思った。
カナタが勇者パーティーの英雄、ファーランド伯爵家の血筋なことはライナーも把握していたのだ。

「買取金額はインゴットの純度と重さを調べないと確定できない。
しばらく時間をもらえないか?」

 ガチャドロップなら純度は同じで重さは一定だと見て良いのだが、一応ギルドの規定で純度と重さを調べなければならなかった。
これは過去にガチャドロップを偽装した偽インゴットが持ち込まれた事例があったためだ。
さらに、本物であってもわずかに削ることで重さを誤魔化すという手口があった。
冒険者といってもピンキリなので、そのような不正をやる連中は後を絶たなかったのだ。

「わかりました。
では、明日にでも寄らせてもらいます」

「いや、こちらから連絡を入れよう。
いまは何処の宿に滞在しているんだ?」

 ライナーはカナタたちの才能を目の当たりにして、何としてもここのギルドに繋ぎ止めようと思っていた。
出来るだけ、今後の行動を把握したいと思い便宜をはかることにした。
本来なら、ギルドから連絡を入れるなどと言うことはしない。

「それなんですが、今はウッドランド子爵家に滞在させていただいています。
でも、この街に商店を開業したいと思っていまして、決まり次第そっちに引っ越す予定なのです。
どこか良い売り店舗ありませんか?」

 カナタは、ウッドランド子爵家に連絡してもらおうかと思ったのだが、もし店舗を買うなり借りるなりしたら、ウッドランド子爵家から出ているかもしれないと思い直したのだ。
お礼でいくらでも滞在して良いと言われても、いつまでもお世話になるわけにはいかないとカナタは思っていたのだ。
どうせなら、ここで店舗を購入して住処を決めてしまおうかとカナタは思った。

「冒険者ギルドで確保してい土地建物は、冒険者の拠点とする用途ばかりだからな……。
そこらへんは商業ギルドの管轄になるな。
カナタ様は、商業ギルドには登録していないんだよな?
商人として商売を始めるなら商業ギルドに登録する必要があるぞ。
これは商業ギルドで相談した方が良いな」

 ライナーは自分が把握している冒険者ギルド所有の土地建物を思い浮かべ、カナタに紹介できるような物件がないと判断した。

「そうなんですか。
では、そっちで相談してみます。
(7900万DG入ったから小さなお店ぐらい買えるだろ)」

 カナタは、先ほど受け取った報奨金と盗賊から手に入れたお金で1億DGも稼いでいた。
それは小さなお店どころか目抜き通りにお店を持てるほどの金額だったが、カナタは世間知らずのところがあるため気付いていなかった。

「ああ、そうしろ。
紹介状を書いてあげるからちょっと待ってくれ」

 ライナーがささっと紹介状を書くとカナタに渡してくれた。
それを手に冒険者ギルドを出ると、カナタはガチャ屋を開業する店を手に入れるため商業ギルドに向かった。
商業ギルドは冒険者ギルドのすぐ隣にあった。
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