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家出編

029 カナタ、盗賊のアジトを殲滅する

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 グラスヒルに向かうサーナリアの馬車を見送り、カナタ、ニク、レグザスの3人は盗賊から聞き出した盗賊のアジトに向かうことにした。
レグザスだが、これでも冒険者歴13年のBランク冒険者だった。
茶色の短髪に茶目の25歳、身長も180cmと高くイケメンだった。

「アジトにはボスを含む盗賊が10人残っているそうだ。
どうする? 切り込むか魔法で殲滅するか?」

 レグザスが盗賊の対処方法を尋ねる。
たった4人で怪我することなく盗賊20人を相手にしていただけあって、レグザスは腕に覚えがあるらしい。
切り込むということは、彼自身が先頭に立つことになり、それでも問題ないということだ。

「まずは、盗賊のアジトを偵察して、遠距離攻撃が可能なら魔法で。
無理なら各個撃破で切り込むしかないでしょうね。
出来るだけ盗賊は分散させて倒したいですね」

 カナタは、自分たちの安全を確保したうえで盗賊の戦力を削るという作戦を提案した。

「それでいこう」

「はい。マスター」

 レグザスとニクもカナタの提案に同意した。
しかし、その提案は行き当たりばったりとも言う。
良く言えば臨機応変なのだが……。


 脇道に入りしばらく進むと盗賊のアジトである洞窟に辿り着いた。
洞窟の前には広場があり、そこには見張り小屋と思しき木造小屋が1軒建っていた。
その小屋の前には2人の盗賊が見張りをしていた。

「見張りだね。
ニクの魔法だと盛大な音がするから、小屋や洞窟から盗賊がわらわら出てきそう。
となるとレグザスとニクで見張りを1人ずつ倒してもらうしかないかな?」

 荷電粒子砲――カナタたちは光魔法だと思っている――は、空気をイオン化するためその際に雷に似た音を発生させる。
カナタはその音で隠密性が損なわれると言いたいのだ。

「マスター、むしろ音で盗賊をおびき出して一挙に殲滅が妥当です」

「たしかに。残りの盗賊はアジトに10人と、斥候としてグリーンバレーに2人、グラスヒルに2人らしいからな。
見張りの2人をって残り8人なら嬢ちゃんの魔法で一網打尽だろう」

 カナタの提案はニクに否決されてしまった。
レグザスもニクの提案に賛成のようだ。

「俺が見張り2人を倒す。その騒ぎに乗じて嬢ちゃんが魔法で残りを殲滅してくれ」

 そう言うとレグザスは自らを囮にして見張りの注意を引くべく飛び出していった。

「ああ、もう行っちゃったよ。
ニクの魔法の射線も確認しないでどうするんだよ。
ニク、武器使用を許可する」

「はい。マスター」

 ニクの右腕が変形し、光が纏わりつく。
2秒のアイドリングで武器使用が可能となった。

 小屋で洞窟内は見えていない。
つまり洞窟内の盗賊は直接射撃が出来そうもないのだ。

 レグザスが藪から飛び出すと見張りの1人を長剣で斬り捨て、もう1人と対峙する。
その間に騒ぎを聞きつけた盗賊が小屋からわらわらと3人出て来た。
その3人にニクの荷電粒子砲が直撃する。
今回は腕だけじゃなく、盗賊の胸に大穴が空いた。

「あ、盗賊を殲滅って言っちゃったからか……。
相手は盗賊だし、これは仕方ないな」

 カナタがちょっとしたミスに気付いた時には、ニクは荷電粒子砲で小屋を吹き飛ばしていた。
ここでカナタは自身の【魔力探知】と【MAP】のスキルで盗賊の配置を把握出来ることにようやく気付いた。
カナタも自身初の討伐クエストにテンパっていたのだ。
カナタがスキルを発動すると洞窟内から5人の盗賊が出てこようとしているところだった。

「洞窟から5人、出て来るよ!」

 カナタの警告にニクが荷電粒子砲をぶっぱなす。
その光の矢は、まさに洞窟から出て来たところの盗賊に穴を穿つ。
その威力を目の当たりにして残りの盗賊4人は洞窟内の遮蔽物の影に隠れてしまった。

「俺が切り込む。お前らは後ろを付いてこい!」

 もう1人の見張りを葬ったレグザスが洞窟へと走り寄る。
盗賊には長距離攻撃手段がないようで、容易に接近できるようだ。
ニクも魔鋼の槍を構えて続く。
その後ろからカナタも【ファイアボール】で牽制しつつ付いていく。

 洞窟の入り口は人が2人横に並んで歩けるような広さだった。
レグザスが何かを手に取り、洞窟内へと投げ込む。
少し間を置いて洞窟内で爆発がおき、煙がもうもうと上がった。
どうやら発煙弾のようなものを放り込んだようだ。

 煙に巻かれて飛び出して来た盗賊をレグザスが斬り捨てる。
次に出て来た盗賊は2人同時にニクへと向かった。
ニクは右腕の魔鋼の槍で1人の盗賊を串刺しにし、もう1人の剣を左腕で受け止めた。

「ニク!」

 カナタはニクがまた身を挺して自分を護ったのかと思った。
しかし、ニクの左腕に盗賊の剣は達していなかった。
何か透明な障壁に当たって止まっているようだ。
その剣を受け止めた部分の空間に僅かな光の壁が見えている。
アイテム【**人形の左腕】の効果である次元空間壁が発動したのだ。
【**人形】シリーズのアイテムは、ニクの右腕に荷電粒子砲を、左腕に次元空間壁を装備させたのだった。

 ニクが左腕で剣を受け止めた盗賊は、レグザスが横合いから止めを刺した。
盗賊は残り1人。それが盗賊のボスだった。

「糞が! お前らよくもやってくれたな!」

 横幅が大人2人分もある大柄な男が洞窟から飛び出して来た。
身長も2mは超えているだろう。
レグザスが剣で切りつけ、ニクが魔鋼の槍で突き刺す。
しかし、盗賊のボスは無傷。ボスはニヤリと笑みを浮かべるとレグザスに体当たりをした。
レグザスは体重差もあってさすがにそれは受け止められず、吹き飛ばされてしまった。

「レグザス!」

 よそ見をしている暇はなかった。
次のターゲットはニクとその後ろにいるカナタだった。
どうやらボスの鎧は斬撃無効の効果があるらしい。
おそらく回数限定だと思われるが、いざという時にはこのような強みを発揮する。

 ボスの突進がまさにニクを吹き飛ばすかと思われた時、眩い光がニクの右腕から発せられた。
それはニクの荷電粒子砲だった。
魔法だろうが荷電粒子砲だろうが、別に近距離で発射してはいけないわけではない。
その余波を自ら被ってしまう危険があるだけだ。
だが、その余波でさえニクの左腕の次元空間壁が防いでしまっていた。

「バ、バカな……」

 胸に大穴が開いたボスはそのままの勢いで次元空間壁にぶつかり跳ね返された。
ボスは信じられないという顔をしてこと切れた。

「ニク、大丈夫なのか?」

「問題ありません。マスター」

「レグザスは?」

 吹き飛ばされたレグザスの方をカナタが確認すると、レグザスは「大丈夫だ」と右手を挙げていた。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 盗賊を10人倒し、洞窟の中にはもう盗賊はいないはずなため、カナタたちは洞窟内の宝を物色することにした。
この世界では、盗賊に盗まれたものを回収した場合、その所有権は回収した者に帰属する。
もし、盗まれたものを取り戻したいなら、その元持ち主は自らの所有物であるという証明とお礼として幾ばくかの買戻し費用を支払わなければならなかった。
盗賊討伐は危険だが実入りの良いクエストだと言えた。

「こいつらは、名前の知れた盗賊団だったのかな?」

 訊くともなしし訊ねるとレグザスがお宝物色の片手間で答えてくれた。

「あのボスは見た目から『肉塊のダリル』だな。名は『ダリル盗賊団』で通るだろう。
いつここにアジトを造ったのかはわからないが、他所でも荒稼ぎしていた賞金首だよ。
あ、死体は回収したか? 賞金が出るぞ」

「うわ。有名盗賊だったのね」

「それにしても、俺でさえ吹っ飛ばされたのに、あれを耐えた嬢ちゃんは何者なんだ?
それにカナタ様よ。あの名前はないぞ?」

「え?」

 レグザスは呆れ顔でカナタに言う。

「ニクって肉奴隷って意味だぞ?
ああ、肉奴隷とは簡単に言うと性奴隷のことな」

 その言葉にカナタは固まってしまった。
冒険者登録でしっかりニクと登録してしまっているから変えようがない。
どうりで冒険者ギルドの受付嬢が登録用紙を見て眉を顰めたわけだ。

「知らなかった……」

「マジか!」

 知ってて名付けた方が問題なのだが……。
どうりでニクがカナタを変態さんだと認識したわけだ。

「マスター、生存者です」

 ニクに呼ばれ洞窟の奥へと行くと、そこには牢が設置されていて、中には2人の女性が閉じ込められていた。

「ああ、これは捕まって売られるところだったようだな」

「この場合、彼女たちの処遇は?」

 カナタが後ろから来て解説してくれたレグザスに訊く。

「奴隷紋があるから元から奴隷だったようだな。
大方、襲った商人の積荷だったのだろう。
そうなると、所有権は俺たちになる。あ、俺は面倒だからいらんぞ。
みつけたのは嬢ちゃんだから、カナタ様のものな。
俺には金を多めにくれ」

 奴隷紋を付与する行為は資格のある奴隷商しかできなかった。
盗賊が誘拐した女性にその場で奴隷紋を付与するということは有り得なかった。
まあ、奴隷商がグルで誘拐された後に違法奴隷にされてしまうという例はあるのだが、この場合は奴隷商が関わる余地がまだなく、元から奴隷だったと推測できたのだ。

 カナタはレグザスに2人の奴隷を押し付けられてしまった。
見つけたお宝はレグザス1:カナタたち2で3人で分けた。
そこから奴隷2人分を金貨2枚多くレグザスに渡すことになった。

 カナタもこの世界の人間なので、奴隷という存在は認識していた。
だが、どう扱ったら良いのかは全く知らなかった。

「グラスヒルに行ったら奴隷商で所有権の書き換えをしとけ。
そこで売ってもよし、そのまま所有してもよしだ」

 とりあえず、グラスヒルに着いてから考えようと問題を先送りするカナタだった。
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