上 下
2 / 204
家出編

002 カナタ

しおりを挟む
 カナタは生まれてからずっとベッドの上で生活していた。
勇者パーティーの一員だった父が魔王討伐で受けた呪い――【バッドラックの呪い】――の影響を生まれながらに引き継いでしまったのだ。
側室だった母は、カナタを産むと同時に亡くなっている。
これも呪いのなせる業だったのかもしれない。

 この呪いは、ある程度成長しスキルも持っている大人ならば、多少運が悪い程度で済んだのかもしれないが、赤子だったカナタにとっては正に生死をさまうが如き呪いとなった。
成長と共に上がるはずのステータスは不運にも最低値にしかならなかった。
また病にかかる確率も高くなってしまっていた。

「【無病息災】とは言わぬ。せめて【身体安寧】のスキルさえ手に入れてくれれば……」

 父であるアラタ=ミル=ファーランド伯爵は、一縷の望みとスキルオーブを買ってはカナタに与え続けていた。
スキルオーブとは魔物がドロップするアイテムである。
魔物は倒されると光になって消え、DGドロップゴールドというお金と、稀にオーブを残すことがある。
このオーブこそガチャオーブと呼ばれるもので、アイテムオーブやスキルオーブ、スペルオーブなどの種類がある。

 オーブは、おおまかに分けると確定オーブと未確定オーブの二種類となる。
確定オーブはオーブを開けると何が出て来るかが判明しているオーブで、未確定オーブは開くとその場でガチャが引かれランダムに物が出て来る。
未確定オーブは開くとその場で所謂ガチャが引けるのだ。
元々オーブのドロップ自体がガチャによるものなので、二度ガチャを引くという感じになっている。
その中でさらにアイテムオーブ、スキルオーブ、スペルオーブに分かれ、未確定オーブのみ中身不明のものが存在する。
中身が不明といっても、そのアイテムやスキルがどのレアリティであるか確定しているものもある。
なので、高レアリティ確定の確定オーブは高く、未確定オーブはギャンブル要素が強いため安く取引される。

 アラタが用意したのは【身体安寧】スキルの確定オーブだった。
今まで散々確定オーブを使用して来たが、カナタはハズレを引いていた。
【身体安寧】スキルの確定オーブ、それを何度も手に入れてカナタに開かせたのだが、スキルが定着することは無かった。
おそらく確定オーブとは、限りなく少ない確率でハズレが入っている未確定オーブなのだろうとアラタは推測していた。
創造神がこの世界にガチャを齎したなら、ガチャ要素の無いオーブなど存在しないだろうからだ。

 この世界の子供には神からの祝福として5歳と10歳の誕生日にスキルの未確定オーブが与えられる。
これは与えられた本人しか開けない特殊な神オーブだ。
神からの祝福なのでその影響力は強くカナタでもスキルを得ることが出来た。
だが、その祝福でさえガチャという要素により【バッドラックの呪い】が発動しハズレとなるのだ。
カナタが得たスキルは、見たものを分類できるという【図鑑】と、地図が描ける【MAP】という世間からはカススキルと揶揄されるものだった。
だからアラタはカナタのために【身体安寧】スキルの確定オーブを買い与えていたのだ。
そのために伯爵家が貧乏になろうとも。
なぜなら、カナタの境遇はアラタ本人が負った呪いのせいだったからだ。

「カナタ、このスキルオーブを開けなさい」

 10歳を迎えたカナタはいよいよ弱って行き死の淵に沈んでいた。
カナタは10歳ながら、その体は5歳かと見まごう程小さかった。
まともに成長出来ていないのだ。
その小さな身体から生命力が失われていくのがアラタの目には見えていた。

「父様、もう無駄なことはしなくていいよ」

 カナタが力なく答える。
しかしアラタは一縷の望みをスキルオーブに賭けた。
カナタの手にスキルオーブを握らせる。

「さあ、開けと念じるんだ」

 カナタが念じ、オーブが開く光のエフェクトが生じるも、それは明らかにハズレエフェクトだった。

(このレアリティでも駄目なのか……)

 アラタが用意したのは【身体安寧】SRスパーレア【身体頑健】の確定オーブ。
ハズレてもレアの【身体安寧】ぐらいは手に入るはずと踏んでいた。
運が良ければRの確定オーブでSRスキルを手に入れることもあるというのに……。
まさかの結果だった。

「すまない。カナタ」

 アラタはカナタをベッドに残し、もっと上の確定オーブを手に入れるべく屋敷を出て奔走するのだった。


◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 衰弱したカナタは息を引き取ろうとしていた。
魂が抜け、所謂臨死体験で良く言われる、自分の身体を自分が見下ろすという状況を体験していた。

(このまま死ぬんだな)

 そうカナタの魂が見つめるなか、カナタの肉体に光が宿る。

(え?)

 その光は2度3度と輝き、最後に大きな光が輝き始めたと同時に父アラタがカナタの部屋に飛び込んで来た。

「カナタ! 死ぬな!」

 アラタはカナタ危篤の知らせを聞き、急いで屋敷へと戻って来たのだ。
アラタ到着と同時に【バッドラックの呪い】が最大限に発動する。
と同時にカナタの肉体を覆っていた大きな輝きが失われる。
それは勇者として転生するはずだった多田野信の魂と人格データの書き込みが妨害され消えた瞬間だった。

 そこには魂を失ったカナタの肉体(勇者仕様)が残されていた。
その肉体には称号【ガチャバカ一代(ラック増大強)】が付いていた。
死の危機により、魂を失った肉体に宿る称号の力がここに発動する。
ラック増大強の効果が【バッドラックの呪い】と拮抗する。

(あれ? 引っ張られる)

 カナタの魂がラック増大強により肉体へと引っ張られ定着する。
その肉体はステータスが勇者仕様に強化されているので、【バッドラックの呪い】によって死ぬような軟なものではなかった。
ここにカナタは生き返った。

「カナタ!」

 カナタが生きていることを知りアラタがカナタに抱き着く。
その結果、【バッドラックの呪い】が強くなり、カナタは気を失ってしまうのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...