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自由浮遊惑星編

190 自由浮遊惑星編11 超文明

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side:ニビル外殻構造物 アキラ視点

『それじゃ、ニビルはエリュシオン星系に向かってくれるかな』

 帝都からエリュシオン星系まではかなりの距離がある。
ニビルの民にはコールドスリープに再度入ってもらったから食糧危機も去った。
例え光速を越えて移動できるニビルだとしても、これから何十年も旅を続けることになるだろう。
ニビルの民がコールドスリープに入っていれば、その期間余計に眠っていたとしても問題はないはずだ。
うん。完璧な問題の先送りだ。次の邂逅までにエリュシオン星系に偽帝都を用意しでっちあげておけば大丈夫だ。

『その座標はトライスター星系ですね。3つの居住可能惑星が自然状態で存在する稀有な星系でした。
そこもニビルの民が開拓した星系だったのですが、帝国が後に合流していたのですね』

『え?』

『え?』

 拙い。あそこはニビルの民の開拓地だったのか!
旧帝国の捨てられた星系だと思っていたのに分家の方だったとは……。
確か無人解隊の電脳が「反乱軍にジェネシスシステムで攻撃された」と言っていたけど、反乱軍を現帝国のことだとばかり思っていた。
まさかのニビルの民の仲間割れだったのかも。
なんとか誤魔化さないと。

『あそこは既に無人の星系になっていたのを我らが再発見して遷都したのです。
確かに古いタイプのハブ次元跳躍門ゲートと無人防衛艦隊が居ましたが、我らが帝国の末裔であると認識して星系を引き渡してくれました。
エリュシオンはニビルの民が見つけた星系だったのですね。
あれだけの豊かな星系に、どうして誰一人居なかったのか……』

『それなら無人防衛艦隊に記録があるでしょう。
私どもなら暗号も解けるので機密文書にアクセス出来ると思います』

 拙い。もっと拙い。無人防衛艦隊の記録にアクセスすれば、エリュシオン星系が再発見されたのがつい最近だとバレてしまう!
どうする? いっそ無人防衛艦隊を亡き者に……。
いやそれはダメだ。いくら人工知能といえども、何百年もの間星系を守って来た功労者だ。
これはもう嘘を重ねるのは不可能だな。
とりあえず現帝国のことだけは秘密にして、後で本当のことを話すか……。
ニビルの制御電脳は僕が帝国の重要人物だと思ってくれているようだし、エリュシオンに到着したら僕の正体も含めて正直に話そう。
そして味方に引き入れ現帝国とは争わないように説得しよう。
今ここで現帝国が簒奪者だと知られれば、ニビルの攻撃力の全てが現帝国に向かってしまう可能性がある。
それだけは避けなければならない。
ニビルにはとっととエリュシオンに向かってもらおう。

『それは好都合だね。ではニビルはこのままトライスター改めエリュシオン星系に向かってください。
所要時間は何年ぐらいでしょうか?』

『古代ハブ次元跳躍門ゲートが生きているのなら大次元跳躍ワープが可能ですから、準備も含めて数時間ですね』

『え?』

『旧帝都の古代ハブ次元跳躍門ゲートのシステムチェックを終了しました。
エリュシオン側の古代ハブ次元跳躍門ゲートも受け入れ態勢が整いました』

『ちょっと、ニビルの大きさじゃ次元跳躍門ゲートは通れないでしょ?』

『はい。古代ハブ次元跳躍門ゲートが2つとニビルの外殻にある超高速装置のエネルギーを合わせた裏ワザです。
次元跳躍門ゲートの境界面は通りません。任せて下さい。エネルギー充填開始します』

 何この超文明。
現帝国に残ってる文明のはるか上の遺失技術ロストテクノロジーがニビルには残ってるんですけど……。
もう次の対策はエリュシオン星系に行ってから考えよう。

『ニビルが古代ハブ次元跳躍門ゲートを数基しか持っていなかったのが悔やまれます。
残っていれば帝都にも大次元跳躍ワープで直接帰れたんですけどね。
既に全基設置済み。しかも遠隔地ばかりで帝都には直接帰還するしか無かったのです』

 ああ、それで帰還の航程は年月がかかったのね。

『じゃあ僕はエリュシオン星系に先回りしてるから。
古代ハブ次元跳躍門ゲートの周辺も封鎖しないとならないしね』

『ニビルの外殻直径の2倍ほどは空けておいてください』

『わかった』

 僕はニビルの外殻構造物を後にする。
惑星ニビルと外殻構造物の間に出るとさっさと次元跳躍ワープで帝星軌道上の帝都構造体宙域に向かう。
宇宙空間に専用艦を漂わせつつ直ぐに電脳空間の秘匿会議室に入る。


◇  ◇  ◇  ◇  ◆


side:電脳空間秘匿会議室 アキラ視点

「カイル。話はついたよ。
今から彼らを僕の主星系に連れて行く。
危機は去った。彼らは友好的で直ぐにでも帝国主星系を出る。
その際に帝都の次元跳躍門ゲートシステムを使う。
エネルギーは自由浮遊惑星が全て賄うそうだ。
カイルには次元跳躍門ゲートから自由浮遊惑星の直径の2倍ほどの空間を立入禁止エリアとして規制して欲しい」

「アキラ、良かった」

次元跳躍門ゲートから自由浮遊惑星の直径の2倍の空間はこれより立入禁止だ!
自由浮遊惑星が動く。そうだ。例外は認めん!』

 カイルが外部通信で立入禁止の命令を出してくれる。
そしてこちらに顔を戻すと言う。

「こちらの不手際は詫てくれたんだろう?」
「ああ、気にしていないそうだ」

 というか、ニビルの制御電脳が制御を取り戻す前は自動迎撃システムも半分眠っていたみたいだから反撃も出来なかったようだけどね。

「良かった。アキラの星系から出す食糧援助には帝国からも友好の証として予算を出す」

「すまないな。カイル」

 本当にすまない。こんな良い奴を騙している自分が恥ずかしくなってくる。

「それじゃ、僕は僕の主星系に行って受け入れ準備をする」

「頼んだぞ」

 僕はその場からエリュシオン星系に専用艦を次元跳躍ワープさせた。
新型要塞衛星もニビルの大次元跳躍ワープに合わせて帰還してもらう。
帝都を守りに来ているんだから脅威が去るまでは帝都に残さざるを得ない。
それも数時間の差だ。
メンバー嫁と獣人嫁ーずをニビルとの交渉で放っておいてしまったが、もうしばらく我慢してもらおう。


◇  ◇  ◇  ◆  ◇


side:エリュシオン星系 アキラ視点

『ニビルが帰還したんじゃと!』

『ちょっと爺や、待って!』

 僕がエリュシオン星系に着くやいなや、爺やが食い気味に通信を送って来た。
かえでが必死に止めている。
そういや真・帝国に古の盟約を知る人物の派遣を要請していたんだった。

『ええ、今からこっちに来てもらいます』

『なんでじゃ!』

『はい?』

 爺やはえらい剣幕で怒っている。

『ニビルの攻撃力をもってすれば帝都の奪還も夢じゃないじゃろうがっ!』

 ああ、そういや爺やって真・帝国でも攻撃的なタカ派だったんだった……。
一番めんどくさい人物に知られてしまった。
これで帝国と平和裏にやっていこうなんて方針は飛んでしまった。
どうする僕。
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