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領主編

132.5 閑話 SD秘話

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「地球に帰還できる? でも、それでどうなるって言うの?」

 私、シューティングドリーム――略称SD――リーダーのナギサは戸惑っていた。
SFOが宇宙人が運営する組織だということは、契約の時点で知らされていた。
そのため契約期間3年の間は地球に帰れないということも。
だけど、それが地球人を誘拐する壮大な陰謀の一部であって、私達も誘拐されかけていたなんて信じられなかった。
しかも、あの晶羅あきら君が星間帝国の皇子様でSFOの全権を手に入れて、地球人を違約金無しで帰還させてくれることになったと聞いて、私は更に混乱するだけだった。


◇  ◇  ◇  ◇  ◆


 私達は草壁プロモーション――通称壁プロ――と正式に契約し社内レッスンを受けてデビューを待つアイドルの卵だった。
シューティングドリームSDというグループアイドルが結成されることになって、そのメンバーの人選が始まっていた。
誰もがメンバーに採用されることを夢見て社内オーディションでしのぎを削っていた。
少し様子が違うと思い始めたのは、SFCというゲームをやらされたことと、そのゲームの適性でメンバーが決まったことだった。

「え? eスポーツのSFOアイドルですか?」

 私達の担当マネージャーの山田さんがeスポーツ参戦を切りだしてきた。
私はそっち方面の知識に疎くてeスポーツが何なのかよく知らなかった。

「知ってる! SFOでブラッシュリップスが人気のやつだよね?」

 でも、アミちゃんはゲームが好きでeスポーツがゲームの大会のことでプロ化していることも良く知っていた。

「そのブラッシュリップスから、お前たちがSFOアイドルトップの座を奪うんだ。
これは草壁社長の決定事項だ。
草壁社長は、あらゆる分野のトップを壁プロが手にすることを望んでいる」

 山田マネはeスポーツアイドル部門のプロデューサーに昇格、今後は部門を一手に引き受けることになるそうだ。
そのため私達はSFCというSFOに参加するための登龍門的なゲームをやることになったのだ。
運良くゲームを最初にクリアしてしまったのが私で、リーダーをさせられている。
そのSFCをクリアしてSFO参加資格を得た5人でSDは結成されたのだ。

「SFOは会社組織としての参加を認めていない。
君たちは個人参加でSFOとプロ契約を結んで欲しい。
なに、個人参加なんて建前だ。
SFOには我が壁プロの支社を置くし、活動資金の支援も行う。
俺もなんとか参加資格を手に入れた。
俺が支社長をするから心配するな」

 個人参加でプロ契約を結ぶなんて、後で会社が撤退する時に契約で揉めるんじゃないの?
そんなことになったら嫌だけど、これを呑まない限り私達はアイドルデビューさせてもらえそうにない。
仕方ない。指示に従うしかないか。
その間も給料はしっかり壁プロからも出るって言うしね。

「アイドルをマラソンの賞金付き大会に出してドキュメント映像を撮ってプロモーションとするのと何も変わらん。
君たちは紛れもなく壁プロ所属のアイドルだ。
それがSFOで賞金をゲットして、その映像を配信しプロモーションとする。
ほら同じだろ?」

 確かに同じ気がして来た。
壁プロ所属であってSFOと契約しても社内規約に違反もしてないなら問題ないか。
私達は、その時そう簡単に考えてしまっていたのだった。


◇  ◇  ◇  ◆  ◇


「え? アブダクションですか? 3年間地球に帰れない?」

 話が違う。
ただのeスポーツだと思っていたのに、リアル宇宙戦争の真っ最中で、私たちはその宇宙戦争用の宇宙戦艦の開発を手助けするのが仕事らしい。
そのために仮想空間で模擬戦VPをして宇宙戦艦を育てる、それがeスポーツの映像として配信されるという仕組みらしい。
仮想空間内なら安全は保障されるわけで、SFOアイドルをするだけなら何も問題は無さそう。
山田Pも個人参加で契約しろって言っていたし、私がキャンセルしたらSDの皆が困るよね?

「わかりました。契約します」

 私は山田Pの指示もあって安易に契約をしてしまった。

「え? 途中で帰るには違約金が発生するんですか?」

 なんということでしょう。
契約満了以外で帰ろうとしたら莫大な違約金が課せられる契約のようです。

「え? もう次元跳躍門ゲートが閉じて帰れない?」

 なんだか騙された気分です。
まあ、これで3年間はアイドルやらせてもらえると考えればいいのかな?


 山田PとSDメンバー全員が首を傾げながらもSFOと契約しました。
ここに壁プロSFO支社が立ち上がり、SFOアイドル【シューティングドリーム】がデビューしました。


◇  ◇  ◇  ◆  ◆


 あとは皆さんご存知の通り、ブラッシュリップスに負け、山田Pが反則をやらかしたおかげで、私たちは草壁社長の逆鱗に触れてしまいました。
壁プロは王道。反則なんてもっての外です。
山田Pはクビ、eスポーツアイドル部門は撤退解散となってしまいました。

 そこで問題になったのが個人参加のプロ契約です。
草壁社長はプロ契約が3年だということも、その契約が個人契約であり、違約金を払う必要があるということも知らなかったのでしょう。
後は山田Pが尻ぬぐいするべき案件とされ、手続き終了まで彼は仕事をすることになったようです。
そこに私達の処遇は何も含まれていませんでした。
会社からの支援資金が凍結され、SFOランカーに下駄を履かせてもらったランクではVPにも勝てず賞金も手に入りません。
日に日に生活が苦しくなっていき、とうとう標準レーションしか口に出来ない生活となってしまいました。

「この現状を社長に伝えないと!」

 私達は地球との唯一の窓口である通信手段――検閲入り――で現状を社長に伝えようとしました。
違約金を払ってほしいこと、これは伝わりました。
しかし、額が膨大なことと、払わなければ地球に帰れないことは検閲により伝えられません。
そうこうするうちに、私達への違約金支給は却下されてしまいました。
つまり私達が売れる機会はもう無いと判断され、違約金を払ってまで契約解除する価値もないと損切されたわけです。
社長は知らないのです。
その違約金が地球に帰るためのものであり、個人で負担するにはとんでもない額だとも。
それを検閲入りの通信手段では伝えることが出来ないのがもどかしい。
私達はなんの活動支援も受けられないSFOアイドルとなってしまったのです。

「助けてください。もう何日も標準レーションしか食べてないんです!」

 とうとう私達は、かつての敵であるブラッシュリップスに泣きつきました。
神澤社長が山田Pと交渉し、私達を神澤プロモーション預かりとしてくれました。
どうやら神澤社長は壁プロとも交渉して正式に預かってくれたみたいです。
壁プロも私達の所属をそのままとし固定給を払ってくれるようになりました。
壁プロの汚いところは、これで売れたら壁プロ所属を高らかに主張するというところですね。


◇  ◇  ◆  ◇  ◇


 そしていろいろあった後、冒頭の帰還事業開始を伝えられたわけです。
晶羅あきら君が、地球人誘拐の野望を駆逐して、SFOの全権を手に入れました。
そのため、地球人の帰還希望者は違約金無しで帰れるようになりました。
ただし、さすがに宇宙人の存在を全世界に公開するわけにはいきません。
帰還希望者は、都合の悪い記憶を操作されて戻ることになります。
都合が悪いと言っても、宇宙人に拉致されていたという部分だけで、eスポーツのSFOに参加していたという記憶に改変されるのです。

 しかし、SDが帰ったとしても壁プロに居場所はもうありません。
なので神澤社長預かりという移籍に近い立場のここが私達SDにとって一番居心地が良いのです。

「それにしても、晶羅あきら君ときららちゃんが双子だったなんてびっくりしたな。
私はてっきり晶羅あきら君が男の娘なのかと思ったよ」

 もしそうだったとしても私達SDがブラッシュリップスBR――略称BLだと他の意味を持つので頭のBRをとっている――の足を引っ張ることはしなかったよね。
私達はSFOアイドルという仲間なんだからね。

「仲間といえば、巻き込んじゃったリーリアさんはどうしているんだろうか?」

 きちんと教わっておけば良かった。
いま神澤社長にSFOのイロハを教えてもらっているけど、リーリアさんの凄さがやっとわかったよ。
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