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領主編

121 領主編15 地球人奪還1

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 6泊7日の海洋リゾートへの旅行を終えて帰ってきた僕はカサカサになっていた。
あれから毎晩起こった襲撃は、嘘なのか本当なのか、護衛の肉食獣たちに容赦なく蹂躙され、倒れた所を今度は嫁に優しく慰められた。
得難い経験を得たが、失ったものも大きかった。
昼間も新たなレジャーに向かう間、菜穂なほさんは流石に大人だからスルーしてくれたが、残りメンバーとかえでが目を合わせてくれなくて息が苦しかった。
シューティングドリームのメンバーだけが離れに泊まっていたために状況を知らず、普通に接してくれたのが唯一の救いだった。
沙也加さんは夜の襲撃を本気にして怖がり、社長はニヤニヤするだけだった。

 護衛が護衛じゃなかったのは問題だ。嫁との初夜が終わったら嫁たちが護衛の肉食獣たちにGOサインを出したのだ。
ラーテル、熊、獅子、虎という最強生物たちに組み敷かれたら、僕はどう抵抗すれば良いっていうんだ。
偽りの嫁と妹は、夜な夜な行われる蹂躙劇に、ほとぼりが覚めるまで少し時間がかかりそうだ。
特に紗綾さーやは怒っていた。毎晩個室でドキドキしながら待っていたらしい。
「何を?」と言ったら殴られた。あの一言は拙かった。
夜のブートキャンプは厳しすぎて体力が持たない。(おい)

 それにしても、本当マジの襲撃の黒幕はどうにかしないとならない。
幸か不幸か二度目の襲撃は無かったので、襲撃犯からの手がかりは少ない。
だが、撃墜された不明艦から何らかの手がかりが得られる可能性がある。
黒幕が判明したならば、ガチンコの戦いになるだろう。


◇  ◇  ◇  ◇  ◆


 アノイ要塞に帰ると一つの調査結果が出ていた。

【地球人誘拐に関する報告書】

 ステーションに残された航海記録やSFOの公式記録を調査した結果、ステーション型要塞艦は2艦あったようで、それが交互に誘拐に加担していたと思われた。
(やうやこしいので、この後はビギニ星系にて接収した方をステーション1、行方不明の方をステーション2と呼称する)
なのでステーション1だけが情報源であり、情報は半分になってしまったが、僕たちの時と同じようにステーション1が他星系へと地球人を運んだ際の移動記録が残っていた。
その移動前後にSFOプロゲーマーとしての活動記録が停止している人達がいる。
彼らは記録上は複数回に分けて地球に帰還したことになっている。
しかし、僕たちの時に誘拐されそうになった人数は、その帰還したとされた人数の年間分とほぼ等しい。
確かに神澤社長のようにSFOで成功し引退し地球に戻った者たちが大々的に宣伝されはするが、その数が帰還者と釣り合っていない。
そのためこれらの人達が誘拐された地球人であろうことが推測された。
そこに僕の姉貴も含まれていそうだとは覚悟していたが、それが現実に誘拐されたとなるのは辛いものだ。

「データを見る限り、定期的に誘拐したというより、欲しいターゲットが集まったタイミングを見計らったという感じかな」

 そこには誘拐の定期性は無かった。
2艦あるステーション型要塞艦の片方に誘拐のターゲットとなったゲーマーをブレインハックして少しずつ移動させ、タイミングを見計らって誘拐にいたる。
SFOが開始されてから、SFOランカーと呼ばれるスターゲーマーが現れては消え現れては消えしていた。
これらSFOランカーは大金を稼いで引退したものだと思われていた。
しかし実際はケイン元皇子プリンスに誘拐され星の彼方へ連れ去られていたわけだ。
VRゲームとしてSFCが発売されプロゲームSFOが開始してから10年。
その間に誘拐された地球人は競技人口の少なかった初期は少なかったものの、競技人口が増えるのに比例して増え続け、合計約1万人に登ると推定されている。

「古いものほど追跡調査に時間がかかる。まずは直近の誘拐、姉貴が巻き込まれた誘拐から調べるべきかな」

 姉貴が失踪したと気付いたのは、僕がプリンスによる誘拐被害にあってからだ。
今思うと、姉貴が入学金の不足分を支払わないなど性格的に有り得なかった。
それまでの生活も、SFOのギャラとして姉貴からの生活費の振り込みがあった。
両親が亡くなった時のバッシングの影響で、姉貴が極力個人情報を秘匿していたため、姉貴が会社をやめてまでSFOに参加しているとは僕も思っていなかった。
今思うと、SFOに参加するということは3年間地球に帰れないということであり、会社は止むを得ず辞めることになったのだろう。
また僕も姉貴が居なくても普通のことという、ぼっち生活をずっと続けていたため失踪に気付かなかった。

 僕がSFOに参加したのも、生活費が途絶え、入学金の支払いどころか生活が出来なかったからだ。
まあ、例の差別により入学金未納が良い口実になっていただけだったけどね。
その姉貴がSFOの記録から消えたのが、地球時間の6月13日だった。
しかし、これはSFOゲーマーとしての活動実績の終わりであり、誘拐された日時なのかどうかまではわからない。
だが、活動実績が無くなったので振り込みが途絶えたと思えば時期的に辻褄が合う。
プリンスによると姉貴は遠征に出たということだったが、それは真っ赤な嘘だった。
誘拐の事実を隠したかったプリンスが嘘を塗り重ねていただけだったのだ。

 だが、それでも手がかりはあった。
その記録の途絶えた日の頃にステーションが他星系へ移動するようなことがあったとすれば、その星系こそが誘拐され連れていかれた目的地かもしれない。
ぼくらの時はアノイ星系だった。この記録はステーション1には無い。
つまり行方不明のステーション2こそがアノイ便だということだ。
なので姉貴たちはアノイ星系には行っていない。
では、連れていかれたのは何処なのか? それはステーション1に答えがあった。
航法データにその目的地が残っていたのだ。


「惑星ブライビー4の通常次元跳躍門ゲートか。
超ハブ次元跳躍門ビギニゲートからは11日の距離になるな」

 どうやら誘拐先を見つけたみたいだ。

「愛さん、惑星ブライビー4の惑星領主とブライビー星系の星系領主は?」

「はい。惑星領主はブライビー男爵で、星系領主は第10皇子ジェラルド殿下です」

「その第10皇子はケイン元皇子プリンスと関係あるのか?」

「ジェラルド殿下はケイン元皇子ので血筋皇子です」

 若干だが兄を強調する口調だな。何かあるのか?

「兄を強調するからには腹違い?」

「そうです」

 腹違いだと同腹よりは仲が良くは無さそうだな。
だがケイン元皇子プリンスが地球人誘拐の便宜をはかるぐらいには近い存在か。

「第10皇子の戦力はわからないよね?」

「それは禁則事項になっており、お答え出来ません」

 軍事情報なんだから、それはそうか。

「支配星系は?」

「主星系のジェム星系、ブライビー星系、ドゥーム星系、ジェースト星系です」

「それは言っていいんだ」

「帝国の国土地理院に登録された公開情報ですので。
星系への移動に帝国の力で次元跳躍門ゲートを設置していますので、非公開にはできません。
ただ、星系内の惑星構成などは非公開になっています」

 つまり支配星系の多くは帝国の力で次元跳躍門ゲートを設置したので公開されるが、独自開発の惑星構成なんかは領主によって情報公開を制限できるという事か。 

「ああ、じゃあ僕のエリュシオン星系も登録しないとならないのかな?」

「AKR1~12含めて既に登録済みです」

 全てに次元跳躍門ゲートがあるわけじゃないのに良いのか。
移動が次元跳躍ワープだけでも良いんだな。

「仕事が速いな……」

「先に登録した者に権利が発生しますのでスピード勝負なのです」

「あ、帝国から次元跳躍門ゲートを配置してもらわなければ、公開拒否出来る?」

 そういや、僕は自前で次元跳躍門ゲートを設置出来るんだった。
次元跳躍門ゲートは起動しなければただの機械なので次元格納庫にも入る。
僕が次元格納庫に次元跳躍門ゲートを格納して次元跳躍ワープで該当星系まで持って行って設置して来れば、帝国の力は一切使わないことになる。
ジェネシス・システムは次元格納庫と相性が悪く干渉が発生し収納出来ないのだが、次元跳躍門ゲートを入れるのは動いていなければ問題ない。
また次元跳躍門ゲートをなぜかジェネシス・システムは通過できる。
不思議な仕様だ。
次元を開くだけの次元跳躍門ゲートと次元内にフィールドを発生させ物を収納する次元格納庫では次元を扱う複雑さが違うのだろう。
閑話休題。その次元跳躍門ゲートを自前で設置したなら、帝国の手は煩わせていないので非公開でいいよね?

「出来ます。晶羅あきら様の許可待ちで非公開にしてあります」

「なら非公開のままで」

「わかりました」

 元旧帝国の領地だった星系の存在は秘匿しておくべきだよね?
しかも遺跡レベルの古い次元跳躍門ゲートがあるんだし。
そのエリュシオン星系の次元跳躍門ゲートは超ハブ次元跳躍門ゲートであり高速型次元跳躍門ゲートでもあった。
ハブ次元跳躍門ゲートまでの跳躍時間が1日とやたら近い。そこから各星系へ行くのに1日で合計2日で移動できる。
地球の超ハブ次元跳躍門ゲートまでは5日だ。これで地球からの移民も移動が楽になる。
それまでに想定していたのは太陽系からビギニ星系へ行き、そこからエリュシオン星系まで行くのに合計2週間かかるはずだった。それが5日だ。
さらにエリュシオン門へ向かう他の次元跳躍門ゲートからの航路も同様に時間を短縮できる。
繋がるだけで速くなる。高速型次元跳躍門ゲート様々だ。

 今後、仮想敵となるだろう第10皇子ジェラルドの星系は4つ。
工場惑星と工場衛星を持つこちらと比べれば生産力はおそらく半分以下だろう。
同盟相手がいる可能性もあるが、その同盟相手であろうケイン元皇子プリンスを最終的に見捨てたことから、お互いにあまり繋がりは強くないのだろう。
自分の事だけで精一杯なのかもしれない。
もっと詳しく調べるためにはどうしたらいいんだろうか?
ブライビー男爵を善意の第三者に認定して地球人のその後を問い合わせてみるか。
それで反発するなら黒、知らばっくれるならグレー、詳しく教えてくれる或は地球人を返還してくれるなら白だろう。
ちょっと揺さぶりをかけてみるか。

「愛さん、公式文書の書き方を教えてくれ。
ブライビー男爵にブライビー星系に連れ去られた地球人の事を問い合わせたい」

 姉貴奪還には女性特有の危機もあり時間がない。藪蛇になるかもしれないけど直ぐに動くしか無い。
新たな戦乱の予感がするが、地球人奪還は僕の責務だ。避けるわけにはいかない。
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