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領主編

108 領主編2 領地経営1

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 帝国での領土に対する考え方は一風変わっている。
星系領主と惑星領主(あるいは衛星領主)、そして領地領主という考え方があるのだ。
例えばファム星系の星系領主はあきらだが、ファム5の惑星領主はダグラス伯爵だとか。
アクア星系の星系領主はあきらで惑星アクア3の惑星領主はアクア子爵。だが惑星アクア3の海洋の領地領主があきらだとか。
自分の持ち物とはいえ大本には上位の持ち主がいて権利を主張出来る。
これは国と国民で土地は国民の個人所有だが国に固定資産税を払う義務があるという関係に似ているかもしれない。
つまり下位に伯爵領や子爵領があろうとも全ての領地は上位の星系領主であるあきらの物だということだ。
同様に全ての星系は皇帝の物であり、あきらに下賜されているだけである。

 僕はその下位にあたる領主と代官にアノイ要塞への参集と、僕への恭順の意思の表明を求めた。
これに応じないということは反逆であり、領地は没収、武力による討伐が法的に認められる。
どうせ討伐されるならと来援と同時に戦闘行動に出る可能性もあり、本人と僅かな護衛のみしかアノイ星系への侵入が認められていない。
これを破ったら即討伐だ。アノイ要塞は臨戦態勢で彼らを待つことになる。
期限は10日で切ってある。
連絡や理由なく期日までに来なければ反逆で討伐対象。
戦争は避けられない気がしている。

 ダグラス伯爵の戦力は奇襲作戦から帰還出来た2000艦と星系守護艦隊2000艦ほど。
そこにどれだけ戦力を補充しているかが問題だ。
どうせ反乱するなら遠慮すること無く勢力圏から艦を徴用していくだろう。
そこにアクア子爵領軍2000艦が呼応するのかどうか、どこが決戦の場になるのか、頭が痛いところだ。

「また戦争か。その前に地球人を地球に帰さないとならないな」

 僕はアノイ要塞に滞在している地球人とステーションでSFOに参加している地球人に、地球への帰還を求めるかどうか確認を取らなければと考えていた。
とりあえず、事務所のみんなに希望を聞いて、後は社長に任せよう。
僕はアノイ行政府の執務室を出ると事務所に向かった。
中央広場の転送ポートから事務所の転送ポートに飛ぶ。
目の前にある神澤プロモーション・アノイ支店の正面玄関を抜け、お馴染みの社長室へ向かう。

「社長、暇?」

晶羅あきらか。暇で死にそうだ」

 僕は社長と冗談を交わし合う。
応接セットに向かいソファーに座る。

「実は真剣な話なんだけど」

「なんだよ、改まって」

「地球に帰れる超ハブ次元跳躍門ゲートが使用できるようになった。社長はどうする?」

「俺か? 俺はSFOが継続されてステーションでVP中心の芸能活動が出来ればありがたいな」

「メンバーもだよね?」

「そうだな」

 神澤社長は僕に遠慮すること無く直球で答えた。

「そんな顔をするな。お前もステーションに来い。アノイ要塞中心で領地経営する必要もないだろ」

 僕は知らず知らず悲しい顔をしていたようだ。
ぼっちだった僕の初めて安らげる居場所が事務所だった。
僕は皇子という立場となり事務所から離れなければならないとなんとなく感じていたんだ。

「でも、即応体制を取るにはアノイ要塞が一番領地と近いんだよね……」

「ふん。そんなの次の戦いで平定してしまえばいい。俺も手伝う」

「え?」

「まあ、晶羅おまえには、俺の専用艦修理で供出してもらった部品代の借りが残ってるからな。それぐらいするさ」

 社長はそう言うが、それは建前なんだろう。
その気持ちが嬉しかった。

「社長……。ありがとう」

「ただし、メンバーとマネージャーはステーションに帰すからな。戦場に出るのは俺だけでいいだろ」

 両親が亡くなり、世間からバッシングを受けて逃げて、金策のために姉貴も家をずっと空けていて、僕はすっとぼっちだった。
社長みたいに人との間に壁を作らない人とは初めて会った。
メンバーとの出会いも関係も社長ありきで成立していた。
僕は社長のことを僕をぼっちの世界から救ってくれた恩人だと思っている。
だからポケット戦艦の修理では鹵獲品の金額も考えずに援助したし、それを貸しだとも思っていなかった。
それなのに、命を賭けて一緒に戦ってくれると言う。

「僕もまだアイドル契約が残ってるからね」

「おう。ステーションに帰ったら働いてもらうぞ」

「了解」

「ちょっとー! 私達もまだ帰らないぞ?」

 紗綾さーやが後ろから抱きついてくる。

紗綾さーやなんで? もう嫁なんて演じなくて済むんだよ?」

「いや嫁は本気なんだぞ? それより海洋リゾート惑星があるそうじゃない。遊ばせろーー!」

「領地を平定出来たらね。それよりまだ本気なんてそんなこと言ってるの?」

晶羅あきらっちは自分がどれだけ優良物件か気付いてないだろ? 私は本気なんだぞ♡」

「はいはい、わかりましたよ」

「もー。本気にしてない!」

「冗談は置いといて、みんなはどうするの?」

 いつのまにか勢揃いしていたメンバーに、今後の身の振り方を僕は聞く。

「嫁……続ける」

 美優みゆが短いが力強く固い決意を述べる。
短いが言葉の重みが違う。

「社長がステーションに戻らなければ、どうせ芸能活動は出来ないわ。それならここに残るに決まってるわ」

菜穂なほさんは社長から離れたくないんだぞ」

 紗綾さーやが内情を暴露する。
そういうことだったのか。

「こら紗綾さーや! そんなんじゃないんだからね!?」

 菜穂なほさんが顔を赤くしてアワアワしている。

「私は晶羅あきらに借金をしている身だから完済までは当然残るよ。
アノイ要塞では、まだSFOと同じ契約で買取してもらえるんでしょ?」

「そうだった。借金それがあったんだ。買取そこはSFOの仕組みを残すつもりだよ。
SFOという仕組みが地球経済にも影響を与えているところがあるらしいからね」

 僕がダイヤモンドを手に入れた時に、買取どころか地球への持ち帰りを禁止されたことがあった。
これがステーションの稼ぎの一部だったらしい。
有益な希少金属や鉱物等を小惑星から採取し、超ハブ次元跳躍門ゲートを使って地球に持ち込み換金する。
それがゲーマーに渡される現金となっていた。
その取引をステーションが独占しコントロールする。
買取拒否と持ち出し禁止はゲーマーに勝手な採取や取引をさせないためのものだったのだ。
まあ地球との窓口である超ハブ次元跳躍門ゲートの使用を抑えられていたので、個人取引は不可能だったんだけどね。
これはSFOを再開させても維持する必要がある。

「なら傭兵の皆さんは残るんじゃないかしら?」

「そこら辺の聞き取りを社長にお願いしたいんだけどいいかな?」

「おう。任せとけ。うちは全員残るんでいいな? あ、自称自治会は強制送還しとくからなw」

「私は帰してくださいよーーー!!!」

 マネージャーの沙也加さんの叫びは全員に無視された。
唯一の料理人を逃すわけがない。
いくら自動調理器があっても、固定メニューは飽きるのだ。

 結局、地球人は僕達と傭兵の皆さん、そして一部の艦隊パーティーが残ってくれることになった。
艦隊の彼らは他にも地球人が誘拐されている事実を知り、奪還のために残ってくれた。
アノイ要塞にいる地球人総員2560名、うち1320名が残留、1240名はVPによるSFO活動を希望しステーションへと移動して行った。
携帯食料での約2週間の旅だ。結構辛い旅になる。往路がステーション内だったことはある意味幸せだったようだ。
無事に帰還することを祈る。
そういや、ステーションってビギニ星系に残っていたやつと、アノイ星系への移動に利用したやつで2艦存在するんじゃないか?
もう1艦はどこに?

 ステーションにいたSFO参加者で誘拐されていなかった傭兵さんたちにアノイ要塞への参加有無を聞いてもらった。
是非とも此方こちらに来たいということで、帰還部隊が着き次第アノイ要塞へと来てもらうことにした。
ステーションを襲っていた敵艦隊は、野良宇宙艦を呼び込んでの自作自演と、真・帝国による超ハブ次元跳躍門ゲート奪還作戦がその正体だった。
野良宇宙艦の呼び込みは野良宇宙艦の巣が僕の支配下に入ったため出来なくなっている。
真・帝国の襲撃も僕がハブ次元跳躍門ゲートを支配したため必要がなくなった。
つまり定期的にビギニ星系を襲ってくる敵はいなくなったのだ。
なのでSFO参加者はVP中心でしか活動出来なくなったということ。
そのため敵艦を狩って素材を手に入れるというRPで儲けていた傭兵さんなどは、SFOよりアノイ星系で稼ぐことを選んだのだ。
ただ、敵はそれだけではない。
僕と敵対する勢力が存在している。
彼らにビギニ星系が狙われる可能性がある。
そこで僕はある手段を講じた。
超ハブ次元跳躍門ゲートと繋がる帝国側の次元跳躍門ゲートアノイゲートハブ次元跳躍門のみに限定したのだ。
この設定は超ハブ次元跳躍門ゲート側の設定変更で可能だった。
これによりアノイ星系を落とさない限り、超ハブ次元跳躍門ゲートのあるビギニ星系には行けないことになった。
これでビギニ星系の、ステーションの安全は確保されたんじゃないだろうか。
今後SFOは完全にeスポーツとして運用されていくことになる。
そうか、RP希望の傭兵さんの受け入れは別ルートを作らなくてはならないな。


◇  ◇  ◇  ◇  ◆


 そして約束の日がやって来る。
恭順を求めて召喚命令を出した貴族と代官の召喚期限の日だ。
結果は、穀倉地帯を持つ4星系の惑星代官4名中1名無断欠席。
グラウル星系衛星領主グラウル男爵は当然出席。
アクア星系惑星アクア3惑星領主アクア子爵は出席。
ファム星系惑星ファム5惑星領主ダグラス伯爵は当然のように無断欠席だった。
意外なことにタタラ星系の代官は出席。
出席者は全員、僕《あきら》に恭順の意思を示した。

 そしてタタラ星系代官からの報告で議場は騒然となった。
それはタタラ星系の工業衛星がダグラス伯爵に奪われたことの報告だった。
召喚に応じなかったことと不法占拠により、ダグラス伯爵とケイン元皇子プリンス系代官1名が反逆者と認定され討伐艦隊が派遣されることになった。

 そして帝国から報告が。
ギルバート伯爵が処刑され、一族は地位をはく奪追放、領地は帝国により没収されたそうだ。
ギルバート伯爵は帝国譜代の貴族であり、どの皇子の配下でもない独立した星系領主だったという。
ケイン元皇子《プリンス》との関係はケイン元皇子が便宜をはかる見返りで、ギルバート伯爵が戦力を提供するという、云わばギブアンドテイクの協力関係だったようだ。
ギルバート伯爵の配下が僕を襲ったのは、ケイン元皇子の支援というよりも、ギルバート伯爵逮捕の原因である僕に対する恨みという面が強かったようだ。
このような譜代貴族が敵対勢力に何人存在するのか頭が痛いところだ。
星系領主ともなると所有艦隊は万に近い。惑星領主とは違うのだ。

 そういえば、ダグラス伯爵は元星系領主らしい。
第12皇子プリンス(当時)の後見人となったことで、星系領主が便宜上ケイン皇子プリンスとなっただけで実質星系の支配者はダグラス伯爵だったという。
つまりケイン元皇子と一蓮托生な関係で、例え僕に恭順したとしてもそのまま処刑が有り得る。
これじゃ僕の前にのこのこ現れるわけがない。
タタラ星系の工場衛星が奪われたのは、戦力の増強を謀っているということだろう。
全面対決。面倒なことになった。
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