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放浪編
101 放浪編20 父母来訪
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真・帝国からの訪問団は輸送艦に偽装した艦でアノイ星系を訪問していた。
来訪予定時刻に次元跳躍門まで亜空間をやって来ると、そこにはアノイ星系を襲撃するための艦隊が集結していたそうだ。
これは拙いと進路を変更、隣の次元跳躍門を目指す航路に乗って誤魔化して難を逃れたという。
そのため、また訪問団が敵艦隊と鉢合わせしないようにと楓に次元通信を送って1週間後に訪問日時を再調整した。
今回は次元跳躍門前の亜空間に防衛艦隊を配置し、万全の態勢で出迎えることにした。
ちばみに防衛艦隊は傭兵さんを動員させてもらった。
真・帝国と接触することは極秘なため、帝国のスパイが紛れ込まないようにと地球人以外が関わらないように配慮したためだ。
それに傭兵さんたちはプロなので守秘義務もしっかり守ってもらえる。
亜空間を進んで来た輸送艦が次元跳躍門前に集結している艦隊に警戒の動きを見せる。
僕は専用艦を前に出して、僕が迎えに来ていることを輸送艦に見せつける。
それで安心したのか輸送艦が接近してくるとレーザー通信を僕の専用艦に繋げる。
『お兄ちゃん、びっくりさせないでよ。また敵艦隊かと思った』
楓が文句を言ってくる。
まあ前回は怖い思いをさせたからしょうがないか。
『悪いな。だが、この艦隊はお前達を守るためなんだ。
この前のように襲われそうになる前に撃破してやるつもりだったんだぞ。
楓に何かあっては大変だからな』
『心配してくれたんだ』
『まあな。それじゃあ、このまま付いて来てくれ』
『わかった』
傭兵さんたちに周囲を守られつつ、僕の専用艦と輸送艦は並んで次元跳躍門を潜った。
アノイ要塞を訪問した輸送艦に乗っていたのは、フード付きのマントで身を隠した人物と、白衣を着た医療関係者と見られる男女、護衛または移送担当の武官といった人物たちだった。
彼らはアノイ要塞の行政塔を訪れると、人目を避けるように行政府管轄の特別区に入って行った。
彼らの素性は帝国の他星系で治療を受けていた負傷した地球人とその医療関係者だという噂がアノイ要塞内に実しやかに流れた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
真・帝国代表団が極秘会談を持つために来訪した。
代表の楓と医療技術スタッフ2人、軍事部門の交渉役と護衛5人の計9人だ。
真・帝国代表団だというのは極秘扱いなため、彼らは地球人の佐藤とそのお目付け役という設定だ。
佐藤が怪我をしたため、帝国の他星系にある医療施設で治療を受け、いま帰って来たという設定になっている。
これはアノイ要塞には、まだ敵の工作員が紛れ込んでいる可能性があるための措置だ。
工作員に関しては自称自治会の連中の腕輪から盗聴により情報が抜かれていた可能性が高い。
これは地球人がステーションからアノイ要塞に移った際に、アノイ要塞ステーション両方の所属とされていたために、ステーションの管理者つまりはプリンスが自由に情報を得られるようになっていた。
地球人はずっと情報を抜かれて監視されていたわけだ。
だから地球人が叙勲されたことを知り、地球人が帝国での地位を築いてしまう前に奴隷化しようと、あのギルバート伯爵が派遣されたのだ。
だが、その後の奇襲とかそれだけでは説明出来ない部分もあり、工作員が入り込んでいる可能性が懸念されている。
この工作員も腕輪を持っているはずだ。しかも現在はアノイ要塞管轄の腕輪だ。
ここから逆に工作員を炙り出せ無いかと、いま情報を精査しているところだ。
僕は社長とアノイ要塞の各司令コマンダー・サンダース、ノア、ジョン、ハンターと共に極秘会談に臨んでいる。
名目は保護監察対象である佐藤の医療関係者から病状を報告してもらうという体だ。
佐藤はあの佐藤の登録コードを再利用して地球人を帝国に1人増やすための偽名だ。
今は楓が使っている。
「国家の代表に対して、こんな居心地の悪い対応で申し訳ない」
コマンダー・サンダースが真・帝国代表団に謝罪する。
「なんの。私達が正体を表すことが兄様の立場を悪くするのだから当然のことだ」
楓が姫モードで答える。
「悪かったな楓。この室内は遮蔽フィールドにより盗聴も通信も不能だ。安心してくれ」
僕の言葉の通り、この会議室は極秘会議用の特別室で内部からの通信波を漏らさず、外部からのセンサーでも内部の情報を得ることは不可能となっていた。
「それでは、こちらから自己紹介しよう。僕が八重樫晶羅だ。
帝国の第6皇子に認定されているが、元々帝国人じゃないので、本音を言えば帝国への忠誠というものはあまり意識したことがない。
ですが、自分の身を守るために、今はその立場を利用させてもらおうと考えています」
僕の説明に真・帝国側の代表団が頷く。
僕の立場は理解してくれたようだ。
「続けて隣がアノイ要塞地球人代表の神澤氏だ。彼はSFOでの僕の雇用主になる。アノイ要塞では地球人をまとめてもらっている、頼れる兄貴的存在だ。
その隣から順にアノイ要塞司令のコマンダー・サンダース。カプリース領軍司令ノア。小領地混成軍司令ジョン。グラウル領軍司令ハンターだ。
アノイ要塞の防衛軍の面々だ。彼らの領主から僕は嫁を貰っているので嫁の実家の領軍となる。
彼らは僕の臣下として僕の戦力となってくれている」
僕はアノイ要塞側の出席者を紹介する。
これが僕の現在の総戦力を担う重鎮となる。
次は真・帝国代表団の自己紹介の番なので楓に発言を促す。
「私が現在の真・帝国代表、八重樫楓。名前で判る通り晶羅兄様の妹だ。
隣は真・帝国軍将軍の南方提督。真・帝国軍第三艦隊司令だ。今後の協力体制を話し合うために来てもらった。
続けて遺伝子技術者の二人。晶羅兄様が真・皇帝の因子を持つ御子であるという判定のために来てもらった。
これは真・帝国の者共に納得してもらうための措置であって、私自身は兄様であることを疑ってもいないことを付け加えておく。
他5人は護衛の武官だ。
極秘会談なので、大人数で来るわけにもいかずに、このような人選となった」
僕はその遺伝子技術者の二人がさっきから気になって仕方なかった。
それは僕の幼い頃の記憶にある両親そのものだったからだ。
「間違っていたら申し訳ないけど、その遺伝子技術者の二人は僕の父さんと母さんじゃないのか?」
「やっぱりわかった? 確かに地球でのお兄ちゃんの両親だよ」
「すまないな晶羅、いや晶羅様。私達は本当の父母ではない。
貴方様の遺伝的な父は真・皇帝陛下なのです」
「晶羅様、騙した形になってごめんなさいね」
男性と女性技術者が答える。やっぱり僕の父母だ。
遺伝的な父母ではないかもしれないけど、僕を育ててくれた八重樫の両親だ。
それと楓、地が出てるぞ地が。
「父さん、様はやめてくれ。僕にとっては父さんも母さんも掛け替えの無い両親だよ。遺伝的な親なんて関係ない」
「そうか。ありがとうな晶羅。ところで花蓮は?」
八重樫の父の一言で僕はずっと気にしていたことを思い浮かべる。
借金返済でいっぱいいっぱいになっていて、否応なしに戦わされて、命を狙われる後継者争いにまで巻き込まれて、SFOに参加した最重要課題である姉貴花蓮を探す暇なんて無かった。
いつかは連絡が付くと思っていたが、連絡艦を送っているということ自体がそもそもプリンスの嘘だった。
僕達が強制的に帝国に連れて来られたのも、敵勢力の攻撃による緊急事態ではなく、プリンスが書いたシナリオによる紛れも無い本物のアブダクションだった。
となると姉貴の行方不明も帝国の、いやプリンスの仕業だったのではないか。
プリンスはギルバート伯爵を使って定期的に地球人を攫って奴隷化していたようだ。
毎週少しずつ3年の契約満了で地球に帰るはずだった人数がそっくりそのままSFOから消えてしまっていたのだ。
そこに姉貴が含まれていたと考えるべきだろう。
僕が第6皇子であると判った時から、姉貴と双子であることはバレていた。
帝国では男子以外の皇位継承は認められてないらしい。
となると皇帝の因子を持っているはずの姉貴はどんな扱いを受けてしまうのだろう。
獣人嫁達は、嫁にしてもらえなければ子種だけでもと言っていた。
冗談ではなく、この帝国では有能なDNAは出世に繋がるため争ってでも手に入れたいものなのだ。
姉貴にスペシャルなDNAがあると知られた後、姉貴はどんな扱いを受けているのだろうか。
「姉貴は帝国のおそらくプリンスの手に落ちている。救出しなければ……」
僕が顔を顰めて押し黙っていたので八重樫の両親も深刻な顔になっていた。
「そうか……。我々も地球へと至るためにハブ次元跳躍門奪還の戦力を送っていたのだが、うまく行かなかったんだ」
そんなまさか。それじゃ僕たちが戦っていたのは……。
「それ、プリンスは地球人に守らせていたんだよ。
つまり姉貴は……いや僕もハブ次元跳躍門を守ることが地球を守ることになると騙されて奪還に来てくれた味方と戦っていたんだ。
SFOか……とんだ食わせ物だったな」
まさに救おうとしていた者たちを救われる者たちが迎撃していたという構図だ。
戦わなくても良い相手に僕らは嗾けられてたんだ。
「なんてことだ。我々が今もハブ次元跳躍門奪還のために戦っているのは地球人なのか!」
南方提督が怒りのこもった声で叫ぶ。
「今も? やっぱりステーションはまだ健在なんだね?
じゃあステーションを制圧したというあの敵艦隊はなんだったんだ?」
「それは、真・帝国の艦隊ではないな。
ステーションは今もビギニ星系を制圧していて我々と戦っている」
「僕達はビギニ星系は敵勢力に制圧されたって聞かされてた。
だけど今も制圧しているのはやっぱりステーションの方なんだね?」
僕は地球人の敵がプリンスだったことを明確に認識した。
侵略する意思はないだ?
地球という星の占領には興味がないのかもしれないが、地球人や野生動物という資源を攫っていたんじゃないか。
プリンスは、いや帝国は地球を蝕む侵略者だったんだ!
「これは早急に協力体制を結ぶべきですな」
南方提督が食い気味に提案する。
「それはボクも異存はないよ」
真・帝国の代表の楓も承認する。
「楓、僕もだよ。アノイ要塞のみんなもいいかな?」
「「「「私どもは晶羅様の臣下ゆえ異存はありません」」」」
僕の決定にコマンダー・サンダース、ノア、ハンター、ジョンも賛同してくれた。
彼らにとっては帝国を裏切ることになるのに、僕の臣下として働いてくれるという。
ありがたいことだ。
「その前にDNAチェックだ。真・帝国の臣下に証拠を見せなければならない」
父さんの提案に母さんがDNAチェックのキットを取り出す。
僕の細胞を採取し専用の機械にかける。
「わかっていましたけど、間違いなく御子よ」
母さんが当然の結果だと検査結果を報告する。
「なら実務を詰めていってかまわんな?」
南方提督が同盟の実務協議の許可を求める。
「任せる!」
|楓《かえで)が、すっかり忘れていた姫モードに戻って南方提督に許可を出す。
これで真・帝国も僕の協力者になった。
今後は南方提督が駐在武官を選んで送って来るそうだ。
そこでホットラインを繋いで協力していくことになる。
今後地球人佐藤の名はその駐在武官のものとなるだろう。
真・帝国代表団はこっそり帰って行った。
少ない時間だったが僕は育ての両親に会い、失った6年の歳月を埋めるように語りあった。
まさか両親にも帝国の追っ手が迫っていたとは。
その追求を逃れるために死んだと偽装していたとは……。残していくことで逆に僕達を守ったとは……。
苦労した姉貴はいろいろ言いたいだろうけど、僕は責める気になれなかった。
血の繋がらない育ての親だが、僕は生きていてくれて本当に良かったと思った。
ぼっちの僕にも人の縁が植物が枝を伸ばすかのように広がっていく。
こんな人の和も悪くないな。
来訪予定時刻に次元跳躍門まで亜空間をやって来ると、そこにはアノイ星系を襲撃するための艦隊が集結していたそうだ。
これは拙いと進路を変更、隣の次元跳躍門を目指す航路に乗って誤魔化して難を逃れたという。
そのため、また訪問団が敵艦隊と鉢合わせしないようにと楓に次元通信を送って1週間後に訪問日時を再調整した。
今回は次元跳躍門前の亜空間に防衛艦隊を配置し、万全の態勢で出迎えることにした。
ちばみに防衛艦隊は傭兵さんを動員させてもらった。
真・帝国と接触することは極秘なため、帝国のスパイが紛れ込まないようにと地球人以外が関わらないように配慮したためだ。
それに傭兵さんたちはプロなので守秘義務もしっかり守ってもらえる。
亜空間を進んで来た輸送艦が次元跳躍門前に集結している艦隊に警戒の動きを見せる。
僕は専用艦を前に出して、僕が迎えに来ていることを輸送艦に見せつける。
それで安心したのか輸送艦が接近してくるとレーザー通信を僕の専用艦に繋げる。
『お兄ちゃん、びっくりさせないでよ。また敵艦隊かと思った』
楓が文句を言ってくる。
まあ前回は怖い思いをさせたからしょうがないか。
『悪いな。だが、この艦隊はお前達を守るためなんだ。
この前のように襲われそうになる前に撃破してやるつもりだったんだぞ。
楓に何かあっては大変だからな』
『心配してくれたんだ』
『まあな。それじゃあ、このまま付いて来てくれ』
『わかった』
傭兵さんたちに周囲を守られつつ、僕の専用艦と輸送艦は並んで次元跳躍門を潜った。
アノイ要塞を訪問した輸送艦に乗っていたのは、フード付きのマントで身を隠した人物と、白衣を着た医療関係者と見られる男女、護衛または移送担当の武官といった人物たちだった。
彼らはアノイ要塞の行政塔を訪れると、人目を避けるように行政府管轄の特別区に入って行った。
彼らの素性は帝国の他星系で治療を受けていた負傷した地球人とその医療関係者だという噂がアノイ要塞内に実しやかに流れた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
真・帝国代表団が極秘会談を持つために来訪した。
代表の楓と医療技術スタッフ2人、軍事部門の交渉役と護衛5人の計9人だ。
真・帝国代表団だというのは極秘扱いなため、彼らは地球人の佐藤とそのお目付け役という設定だ。
佐藤が怪我をしたため、帝国の他星系にある医療施設で治療を受け、いま帰って来たという設定になっている。
これはアノイ要塞には、まだ敵の工作員が紛れ込んでいる可能性があるための措置だ。
工作員に関しては自称自治会の連中の腕輪から盗聴により情報が抜かれていた可能性が高い。
これは地球人がステーションからアノイ要塞に移った際に、アノイ要塞ステーション両方の所属とされていたために、ステーションの管理者つまりはプリンスが自由に情報を得られるようになっていた。
地球人はずっと情報を抜かれて監視されていたわけだ。
だから地球人が叙勲されたことを知り、地球人が帝国での地位を築いてしまう前に奴隷化しようと、あのギルバート伯爵が派遣されたのだ。
だが、その後の奇襲とかそれだけでは説明出来ない部分もあり、工作員が入り込んでいる可能性が懸念されている。
この工作員も腕輪を持っているはずだ。しかも現在はアノイ要塞管轄の腕輪だ。
ここから逆に工作員を炙り出せ無いかと、いま情報を精査しているところだ。
僕は社長とアノイ要塞の各司令コマンダー・サンダース、ノア、ジョン、ハンターと共に極秘会談に臨んでいる。
名目は保護監察対象である佐藤の医療関係者から病状を報告してもらうという体だ。
佐藤はあの佐藤の登録コードを再利用して地球人を帝国に1人増やすための偽名だ。
今は楓が使っている。
「国家の代表に対して、こんな居心地の悪い対応で申し訳ない」
コマンダー・サンダースが真・帝国代表団に謝罪する。
「なんの。私達が正体を表すことが兄様の立場を悪くするのだから当然のことだ」
楓が姫モードで答える。
「悪かったな楓。この室内は遮蔽フィールドにより盗聴も通信も不能だ。安心してくれ」
僕の言葉の通り、この会議室は極秘会議用の特別室で内部からの通信波を漏らさず、外部からのセンサーでも内部の情報を得ることは不可能となっていた。
「それでは、こちらから自己紹介しよう。僕が八重樫晶羅だ。
帝国の第6皇子に認定されているが、元々帝国人じゃないので、本音を言えば帝国への忠誠というものはあまり意識したことがない。
ですが、自分の身を守るために、今はその立場を利用させてもらおうと考えています」
僕の説明に真・帝国側の代表団が頷く。
僕の立場は理解してくれたようだ。
「続けて隣がアノイ要塞地球人代表の神澤氏だ。彼はSFOでの僕の雇用主になる。アノイ要塞では地球人をまとめてもらっている、頼れる兄貴的存在だ。
その隣から順にアノイ要塞司令のコマンダー・サンダース。カプリース領軍司令ノア。小領地混成軍司令ジョン。グラウル領軍司令ハンターだ。
アノイ要塞の防衛軍の面々だ。彼らの領主から僕は嫁を貰っているので嫁の実家の領軍となる。
彼らは僕の臣下として僕の戦力となってくれている」
僕はアノイ要塞側の出席者を紹介する。
これが僕の現在の総戦力を担う重鎮となる。
次は真・帝国代表団の自己紹介の番なので楓に発言を促す。
「私が現在の真・帝国代表、八重樫楓。名前で判る通り晶羅兄様の妹だ。
隣は真・帝国軍将軍の南方提督。真・帝国軍第三艦隊司令だ。今後の協力体制を話し合うために来てもらった。
続けて遺伝子技術者の二人。晶羅兄様が真・皇帝の因子を持つ御子であるという判定のために来てもらった。
これは真・帝国の者共に納得してもらうための措置であって、私自身は兄様であることを疑ってもいないことを付け加えておく。
他5人は護衛の武官だ。
極秘会談なので、大人数で来るわけにもいかずに、このような人選となった」
僕はその遺伝子技術者の二人がさっきから気になって仕方なかった。
それは僕の幼い頃の記憶にある両親そのものだったからだ。
「間違っていたら申し訳ないけど、その遺伝子技術者の二人は僕の父さんと母さんじゃないのか?」
「やっぱりわかった? 確かに地球でのお兄ちゃんの両親だよ」
「すまないな晶羅、いや晶羅様。私達は本当の父母ではない。
貴方様の遺伝的な父は真・皇帝陛下なのです」
「晶羅様、騙した形になってごめんなさいね」
男性と女性技術者が答える。やっぱり僕の父母だ。
遺伝的な父母ではないかもしれないけど、僕を育ててくれた八重樫の両親だ。
それと楓、地が出てるぞ地が。
「父さん、様はやめてくれ。僕にとっては父さんも母さんも掛け替えの無い両親だよ。遺伝的な親なんて関係ない」
「そうか。ありがとうな晶羅。ところで花蓮は?」
八重樫の父の一言で僕はずっと気にしていたことを思い浮かべる。
借金返済でいっぱいいっぱいになっていて、否応なしに戦わされて、命を狙われる後継者争いにまで巻き込まれて、SFOに参加した最重要課題である姉貴花蓮を探す暇なんて無かった。
いつかは連絡が付くと思っていたが、連絡艦を送っているということ自体がそもそもプリンスの嘘だった。
僕達が強制的に帝国に連れて来られたのも、敵勢力の攻撃による緊急事態ではなく、プリンスが書いたシナリオによる紛れも無い本物のアブダクションだった。
となると姉貴の行方不明も帝国の、いやプリンスの仕業だったのではないか。
プリンスはギルバート伯爵を使って定期的に地球人を攫って奴隷化していたようだ。
毎週少しずつ3年の契約満了で地球に帰るはずだった人数がそっくりそのままSFOから消えてしまっていたのだ。
そこに姉貴が含まれていたと考えるべきだろう。
僕が第6皇子であると判った時から、姉貴と双子であることはバレていた。
帝国では男子以外の皇位継承は認められてないらしい。
となると皇帝の因子を持っているはずの姉貴はどんな扱いを受けてしまうのだろう。
獣人嫁達は、嫁にしてもらえなければ子種だけでもと言っていた。
冗談ではなく、この帝国では有能なDNAは出世に繋がるため争ってでも手に入れたいものなのだ。
姉貴にスペシャルなDNAがあると知られた後、姉貴はどんな扱いを受けているのだろうか。
「姉貴は帝国のおそらくプリンスの手に落ちている。救出しなければ……」
僕が顔を顰めて押し黙っていたので八重樫の両親も深刻な顔になっていた。
「そうか……。我々も地球へと至るためにハブ次元跳躍門奪還の戦力を送っていたのだが、うまく行かなかったんだ」
そんなまさか。それじゃ僕たちが戦っていたのは……。
「それ、プリンスは地球人に守らせていたんだよ。
つまり姉貴は……いや僕もハブ次元跳躍門を守ることが地球を守ることになると騙されて奪還に来てくれた味方と戦っていたんだ。
SFOか……とんだ食わせ物だったな」
まさに救おうとしていた者たちを救われる者たちが迎撃していたという構図だ。
戦わなくても良い相手に僕らは嗾けられてたんだ。
「なんてことだ。我々が今もハブ次元跳躍門奪還のために戦っているのは地球人なのか!」
南方提督が怒りのこもった声で叫ぶ。
「今も? やっぱりステーションはまだ健在なんだね?
じゃあステーションを制圧したというあの敵艦隊はなんだったんだ?」
「それは、真・帝国の艦隊ではないな。
ステーションは今もビギニ星系を制圧していて我々と戦っている」
「僕達はビギニ星系は敵勢力に制圧されたって聞かされてた。
だけど今も制圧しているのはやっぱりステーションの方なんだね?」
僕は地球人の敵がプリンスだったことを明確に認識した。
侵略する意思はないだ?
地球という星の占領には興味がないのかもしれないが、地球人や野生動物という資源を攫っていたんじゃないか。
プリンスは、いや帝国は地球を蝕む侵略者だったんだ!
「これは早急に協力体制を結ぶべきですな」
南方提督が食い気味に提案する。
「それはボクも異存はないよ」
真・帝国の代表の楓も承認する。
「楓、僕もだよ。アノイ要塞のみんなもいいかな?」
「「「「私どもは晶羅様の臣下ゆえ異存はありません」」」」
僕の決定にコマンダー・サンダース、ノア、ハンター、ジョンも賛同してくれた。
彼らにとっては帝国を裏切ることになるのに、僕の臣下として働いてくれるという。
ありがたいことだ。
「その前にDNAチェックだ。真・帝国の臣下に証拠を見せなければならない」
父さんの提案に母さんがDNAチェックのキットを取り出す。
僕の細胞を採取し専用の機械にかける。
「わかっていましたけど、間違いなく御子よ」
母さんが当然の結果だと検査結果を報告する。
「なら実務を詰めていってかまわんな?」
南方提督が同盟の実務協議の許可を求める。
「任せる!」
|楓《かえで)が、すっかり忘れていた姫モードに戻って南方提督に許可を出す。
これで真・帝国も僕の協力者になった。
今後は南方提督が駐在武官を選んで送って来るそうだ。
そこでホットラインを繋いで協力していくことになる。
今後地球人佐藤の名はその駐在武官のものとなるだろう。
真・帝国代表団はこっそり帰って行った。
少ない時間だったが僕は育ての両親に会い、失った6年の歳月を埋めるように語りあった。
まさか両親にも帝国の追っ手が迫っていたとは。
その追求を逃れるために死んだと偽装していたとは……。残していくことで逆に僕達を守ったとは……。
苦労した姉貴はいろいろ言いたいだろうけど、僕は責める気になれなかった。
血の繋がらない育ての親だが、僕は生きていてくれて本当に良かったと思った。
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