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アイドル編
081 アイドル編57 大規模攻勢
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ブラッシュリップスとシューティングドリームのRP参加を取り下げた後、社長のポケット戦艦へのサブ電脳の追加と、菜穂さんの専用艦の戦艦化を行った。
そのため、現在二人は融合終了まで動けない状態だった。
なのでブラッシュリップスと社長預かりのシューティングドリームの皆はオフということになった。
僕と綾姫は綾姫の借金返済のためにRPにエントリーしているものの、敵艦隊が攻めて来ないため、ずっと待機状態だった。
現在、僕たちへの干渉対策は、社長の艦の融合が終わっていないため、引き続き僕の専用艦の電脳が担当することとなって監視が続いている。
安全対策で定期的にナーブクラックをかけているけど、今現在は干渉を受けた形跡はない。
『緊急招集、緊急招集、敵艦隊の大規模攻勢の予兆を観測、全艦緊急出動を要する!』
『緊急招集、緊急招集、敵艦隊の大規模攻勢の予兆を観測、全艦緊急出動を要する!』
『緊急招集、緊急招集、敵艦隊の大規模攻勢の予兆を観測、全艦緊急出動を要する!』
「おいおい、またかよ」
「まったく、狼少年じゃないんだから」
またあの幻覚幻聴の再現だ。
誰もこの緊急電を信用していない。
僕は呆れて専用艦経由でナーブクラックをかける。
『緊急招集、緊急招集、敵艦隊の大規模攻勢の予兆を観測、全艦緊急出動を要する!』
「あれ? 幻聴じゃない?」
「晶羅、本物なのか?」
社長が疑わし気に問うて来る。
「うん。どうやら本物の狼が出ちゃったみたいだよ」
僕と綾姫はRP登録をしているので強制参加だ。
「ちょっと行ってくる。綾姫も安全第一だからね」
今回の緊急招集は緊急出動であり、いつものようにブリーフィングを行う時間もなく、可及的速やかに出撃しなければならなかった。
僕と綾姫はRP参加のため専用艦格納庫へ急いだ。
『LC0079402、アキラ。発進準備完了!』
管制官に発進準備完了を報告する。
『全艦緊急出動、コース直進、舵を切るな!
各艦各個に敵艦を撃破せよ。繰り返す。各艦各個に敵艦を撃破せよ!』
おいおい、作戦も何もないのかよ。
『LC0079402、アキラ。発進する。直進全速!』
格納庫の扉を開けると、僕は専用艦を格納庫から全速で発進させた。
RPに参加表明をしている者達の格納庫扉が思い思いに開き、専用艦が発進していく。
僕たちSFOプレイヤーの区画以外にも星系を守るビギニ星系守備艦隊の区画からも全力出撃をしている。
これは幻覚ではなかった。全て真実の発進光景だ。
「綾姫、出撃したか?」
僕は綾姫が心配になった。
僕と綾姫の格納庫は同じ200m級区画だが、ご近所ではなかった。
同じ時期に参加したのだから同じ場所に固まっていそうなものだが、格納庫は空きが出れば代わりの者が入居する仕組みなので同期でもバラけてしまうものらしい。
普段なら艦隊を組んでいる者は管制塔の指示で集まれるようになっているが、今回は別々の場所に直進せざるを得ない状況だ。
「出撃したよ。でも管制が行き届いてないからコースを変えられない!」
小スクリーンの綾姫の顔が不安げだ。
「わかった。こっちから合流する。待ってて」
僕は対艦レーダーS型を起動、周囲の情報を瞬時に手に入れる。
また戦術兵器統合制御システムS型も起動し、全ての味方艦の電脳にアクセスする。
繋がった。
「よし、これで何とかなる!」
僕は直進する味方艦たちのコースを横切るように綾姫の下に急いだ。
味方艦のコースを読み、避ける。
どうしても僕のコースと交差する味方艦には一時的に道を譲って――ちょっとコースを逸れて――もらう。
僕の専用艦の出現に慌ててコース変更しそうな味方艦は操縦をロックしてしまう。
変に動かれると何があるかわからないからね。
そうやって味方艦にゆずられて安全を確保し、僕の専用艦は綾姫艦の横に辿り着いた。
「お待たせ。待った?」
軽く挨拶をすると、小スクリーンの中の綾姫はジト目で僕を見ていた。
「何やってんのよ。晶羅ちゃん」
ちゃん付け……。実は綾姫は僕が男だとまだ気づいていない。
だから、女同士として接してくるのだ。
社長もあえて教えていない。
それは綾姫が極度の恥ずかしがり屋だからだ。
女の子同士でも隠れて着替えるほどの恥ずかしがり屋なため、僕が男だと知ったらパニックになってしまう。
アイドル活動が出来ているのもVPというヴァーチャルな世界で、アバターは自分自身ではないという感覚だかららしい。
なので、バレないならバレないままにした方が良い、というのが社長の判断だった。
ぜったい面白がってるだけだろうけど。
「これでも安全第一だったんだよ?」
「もう」
綾姫の頬が膨れた。
いや、からかってるんじゃなくて、事実だったんだけど……。
「今回のRPは作戦も何もあったもんじゃない。
正面から来る敵艦に対処するだけでいい。
撃ち漏らしは気にせず後逸していいことになっているが、これが逆に危ない。
だから僕たちは2艦で対処して安全をはかる」
「わかった」
綾姫が真剣な目になる。
今回のRPが危険なものだと理解したのだろう。
「綾姫は、そのうち漏らした敵艦から僕の背中を守ってほしい。
後逸した敵艦を後ろから撃つ役目だ。
やれるね?」
「大丈夫」
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
僕たち二人は奮戦した。
レールガンの弾は撃ち尽くし、今はビーム砲だけで対処していた。
「綾姫、うち漏らした。トドメよろしく」
「はい」
後逸した敵艦を綾姫に任せる。
綾姫は後ろを見せた敵艦に追いうちでビーム砲を浴びせ撃沈する。
すると延々と突っ込んで来ていた敵艦の波にしばらくの猶予が出来た。
「これで借金も完済出来るんじゃない?」
「えへへ。そうかも」
撃墜した敵艦の数を思い出して綾姫がデレる。
いや、これはデレ違いだな。
そんなのほほんとした一時を切り裂く緊急電がステーションから入った。
『ステーション破損。繰り返す。ステーション破損。
敵艦隊第二波観測。ステーションは要塞砲の発射を敢行する。
射線上の友軍艦隊は退避せよ。繰り返す。退避せよ!』
「綾姫、巻き込まれる。逃げるよ!」
僕らは要塞砲の射線から逃げるため戦闘面の上へと緊急回避した。
上には転送回収艦がいる。
そこを巻き込むように要塞砲は撃たないだろうという見立てだ。
『各艦へ伝達。敵艦隊がステーション後方に出現、これよりステーションは退避する。
要塞砲発射の隙に各艦はステーションへと帰還せよ。
ステーションはそのまま次元跳躍に入る。繰り返す』
『各艦へ伝達。敵艦隊がステーション後方に出現、これよりステーションは退避する。
要塞砲発射の隙に各艦はステーションへと帰還せよ。
ステーションはそのまま次元跳躍に入る。繰り返す……』
「これは拙い。置いて行かれたら良くて宇宙漂流だ。
食料も1週間分しか備蓄がない。必ず戻るよ」
「うん。わかった」
綾姫の顔も青くなっている。
こんなピンチ、SFO始まって以来だろう。
退避した後、僕たちは地球に帰れるのだろうか?
『要塞砲、発射する。各艦退避を急げ!』
味方艦の安全を確認する間もなく、要塞砲が発射された。
敵艦隊の第二波は、要塞砲によりほとんど撃沈された。
その隙を突いて、僕たちはステーションへと戻る。
『うわー。ステーションにあんな被害が!』
『酷い有様だな』
『おい、居住区は無事なんだろうな?』
SFO参加者の味方艦からの通信がオープンチャンネルに入る。
え? 僕は目を疑った。
僕の目にはステーションに被害なんて見えていない。
これはまさか……。
『ステーションの後ろに敵の大艦隊が!』
『これは拙い。早く逃げないと!』
僕の目にはやはり何も見えていない。
「綾姫」
僕は小スクリーンから綾姫に秘匿通信の合図を送る。
『どうしたの?』
綾姫が秘匿通信を繋げた。
『綾姫にはステーションの損傷が見えるか?』
『いいえ。見えないけど?』
やっぱりそうか。
『じゃあ、ステーションの後ろに敵の大艦隊は?』
『見えない……』
やはりか。
みんなに見えてるのは、もしかして僕たちが見せられた幻と同じでは?
『これは黙っておいた方が良いかもしれない。
拙いことになりそうだ』
『わかった』
どうやら、ステーションの被害も後方から現れた敵の大艦隊も僕ら以外には見えているらしい。
何か陰謀の臭いがする。
だが、ここでとり残されたら、本物の敵艦隊と得られない補給で僕たちは生きていられないだろう。
罠だとわかっていても罠にかかるしか選択肢がない。
「綾姫、ステーションに帰還する」
「了解」
いったいどんな陰謀が待ち構えているのか?
綾姫の返事も堅かった。
そのため、現在二人は融合終了まで動けない状態だった。
なのでブラッシュリップスと社長預かりのシューティングドリームの皆はオフということになった。
僕と綾姫は綾姫の借金返済のためにRPにエントリーしているものの、敵艦隊が攻めて来ないため、ずっと待機状態だった。
現在、僕たちへの干渉対策は、社長の艦の融合が終わっていないため、引き続き僕の専用艦の電脳が担当することとなって監視が続いている。
安全対策で定期的にナーブクラックをかけているけど、今現在は干渉を受けた形跡はない。
『緊急招集、緊急招集、敵艦隊の大規模攻勢の予兆を観測、全艦緊急出動を要する!』
『緊急招集、緊急招集、敵艦隊の大規模攻勢の予兆を観測、全艦緊急出動を要する!』
『緊急招集、緊急招集、敵艦隊の大規模攻勢の予兆を観測、全艦緊急出動を要する!』
「おいおい、またかよ」
「まったく、狼少年じゃないんだから」
またあの幻覚幻聴の再現だ。
誰もこの緊急電を信用していない。
僕は呆れて専用艦経由でナーブクラックをかける。
『緊急招集、緊急招集、敵艦隊の大規模攻勢の予兆を観測、全艦緊急出動を要する!』
「あれ? 幻聴じゃない?」
「晶羅、本物なのか?」
社長が疑わし気に問うて来る。
「うん。どうやら本物の狼が出ちゃったみたいだよ」
僕と綾姫はRP登録をしているので強制参加だ。
「ちょっと行ってくる。綾姫も安全第一だからね」
今回の緊急招集は緊急出動であり、いつものようにブリーフィングを行う時間もなく、可及的速やかに出撃しなければならなかった。
僕と綾姫はRP参加のため専用艦格納庫へ急いだ。
『LC0079402、アキラ。発進準備完了!』
管制官に発進準備完了を報告する。
『全艦緊急出動、コース直進、舵を切るな!
各艦各個に敵艦を撃破せよ。繰り返す。各艦各個に敵艦を撃破せよ!』
おいおい、作戦も何もないのかよ。
『LC0079402、アキラ。発進する。直進全速!』
格納庫の扉を開けると、僕は専用艦を格納庫から全速で発進させた。
RPに参加表明をしている者達の格納庫扉が思い思いに開き、専用艦が発進していく。
僕たちSFOプレイヤーの区画以外にも星系を守るビギニ星系守備艦隊の区画からも全力出撃をしている。
これは幻覚ではなかった。全て真実の発進光景だ。
「綾姫、出撃したか?」
僕は綾姫が心配になった。
僕と綾姫の格納庫は同じ200m級区画だが、ご近所ではなかった。
同じ時期に参加したのだから同じ場所に固まっていそうなものだが、格納庫は空きが出れば代わりの者が入居する仕組みなので同期でもバラけてしまうものらしい。
普段なら艦隊を組んでいる者は管制塔の指示で集まれるようになっているが、今回は別々の場所に直進せざるを得ない状況だ。
「出撃したよ。でも管制が行き届いてないからコースを変えられない!」
小スクリーンの綾姫の顔が不安げだ。
「わかった。こっちから合流する。待ってて」
僕は対艦レーダーS型を起動、周囲の情報を瞬時に手に入れる。
また戦術兵器統合制御システムS型も起動し、全ての味方艦の電脳にアクセスする。
繋がった。
「よし、これで何とかなる!」
僕は直進する味方艦たちのコースを横切るように綾姫の下に急いだ。
味方艦のコースを読み、避ける。
どうしても僕のコースと交差する味方艦には一時的に道を譲って――ちょっとコースを逸れて――もらう。
僕の専用艦の出現に慌ててコース変更しそうな味方艦は操縦をロックしてしまう。
変に動かれると何があるかわからないからね。
そうやって味方艦にゆずられて安全を確保し、僕の専用艦は綾姫艦の横に辿り着いた。
「お待たせ。待った?」
軽く挨拶をすると、小スクリーンの中の綾姫はジト目で僕を見ていた。
「何やってんのよ。晶羅ちゃん」
ちゃん付け……。実は綾姫は僕が男だとまだ気づいていない。
だから、女同士として接してくるのだ。
社長もあえて教えていない。
それは綾姫が極度の恥ずかしがり屋だからだ。
女の子同士でも隠れて着替えるほどの恥ずかしがり屋なため、僕が男だと知ったらパニックになってしまう。
アイドル活動が出来ているのもVPというヴァーチャルな世界で、アバターは自分自身ではないという感覚だかららしい。
なので、バレないならバレないままにした方が良い、というのが社長の判断だった。
ぜったい面白がってるだけだろうけど。
「これでも安全第一だったんだよ?」
「もう」
綾姫の頬が膨れた。
いや、からかってるんじゃなくて、事実だったんだけど……。
「今回のRPは作戦も何もあったもんじゃない。
正面から来る敵艦に対処するだけでいい。
撃ち漏らしは気にせず後逸していいことになっているが、これが逆に危ない。
だから僕たちは2艦で対処して安全をはかる」
「わかった」
綾姫が真剣な目になる。
今回のRPが危険なものだと理解したのだろう。
「綾姫は、そのうち漏らした敵艦から僕の背中を守ってほしい。
後逸した敵艦を後ろから撃つ役目だ。
やれるね?」
「大丈夫」
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
僕たち二人は奮戦した。
レールガンの弾は撃ち尽くし、今はビーム砲だけで対処していた。
「綾姫、うち漏らした。トドメよろしく」
「はい」
後逸した敵艦を綾姫に任せる。
綾姫は後ろを見せた敵艦に追いうちでビーム砲を浴びせ撃沈する。
すると延々と突っ込んで来ていた敵艦の波にしばらくの猶予が出来た。
「これで借金も完済出来るんじゃない?」
「えへへ。そうかも」
撃墜した敵艦の数を思い出して綾姫がデレる。
いや、これはデレ違いだな。
そんなのほほんとした一時を切り裂く緊急電がステーションから入った。
『ステーション破損。繰り返す。ステーション破損。
敵艦隊第二波観測。ステーションは要塞砲の発射を敢行する。
射線上の友軍艦隊は退避せよ。繰り返す。退避せよ!』
「綾姫、巻き込まれる。逃げるよ!」
僕らは要塞砲の射線から逃げるため戦闘面の上へと緊急回避した。
上には転送回収艦がいる。
そこを巻き込むように要塞砲は撃たないだろうという見立てだ。
『各艦へ伝達。敵艦隊がステーション後方に出現、これよりステーションは退避する。
要塞砲発射の隙に各艦はステーションへと帰還せよ。
ステーションはそのまま次元跳躍に入る。繰り返す』
『各艦へ伝達。敵艦隊がステーション後方に出現、これよりステーションは退避する。
要塞砲発射の隙に各艦はステーションへと帰還せよ。
ステーションはそのまま次元跳躍に入る。繰り返す……』
「これは拙い。置いて行かれたら良くて宇宙漂流だ。
食料も1週間分しか備蓄がない。必ず戻るよ」
「うん。わかった」
綾姫の顔も青くなっている。
こんなピンチ、SFO始まって以来だろう。
退避した後、僕たちは地球に帰れるのだろうか?
『要塞砲、発射する。各艦退避を急げ!』
味方艦の安全を確認する間もなく、要塞砲が発射された。
敵艦隊の第二波は、要塞砲によりほとんど撃沈された。
その隙を突いて、僕たちはステーションへと戻る。
『うわー。ステーションにあんな被害が!』
『酷い有様だな』
『おい、居住区は無事なんだろうな?』
SFO参加者の味方艦からの通信がオープンチャンネルに入る。
え? 僕は目を疑った。
僕の目にはステーションに被害なんて見えていない。
これはまさか……。
『ステーションの後ろに敵の大艦隊が!』
『これは拙い。早く逃げないと!』
僕の目にはやはり何も見えていない。
「綾姫」
僕は小スクリーンから綾姫に秘匿通信の合図を送る。
『どうしたの?』
綾姫が秘匿通信を繋げた。
『綾姫にはステーションの損傷が見えるか?』
『いいえ。見えないけど?』
やっぱりそうか。
『じゃあ、ステーションの後ろに敵の大艦隊は?』
『見えない……』
やはりか。
みんなに見えてるのは、もしかして僕たちが見せられた幻と同じでは?
『これは黙っておいた方が良いかもしれない。
拙いことになりそうだ』
『わかった』
どうやら、ステーションの被害も後方から現れた敵の大艦隊も僕ら以外には見えているらしい。
何か陰謀の臭いがする。
だが、ここでとり残されたら、本物の敵艦隊と得られない補給で僕たちは生きていられないだろう。
罠だとわかっていても罠にかかるしか選択肢がない。
「綾姫、ステーションに帰還する」
「了解」
いったいどんな陰謀が待ち構えているのか?
綾姫の返事も堅かった。
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