【改訂版】異世界転移で宇宙戦争~僕の専用艦は艦隊旗艦とは名ばかりの単艦行動(ぼっち)だった~

北京犬(英)

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アイドル編

070 アイドル編46 遠征3

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 次元跳躍門ボルドゲートを出た僕たちをボルド伯爵自らが守備艦隊を率いて待ち構えていた。
その艦隊の総数は100を超えている。
これだけの数を揃えているなら、野良宇宙戦艦の討伐なんて自前で出来るだろうに。
僕には何か裏があるとしか思えなかった。

 元SFOランカーである神澤社長の話では、この世界の帝国貴族とは地球で言う中世の貴族がその倫理感のまま宇宙進出したようなものらしい。
つまり大航海時代の植民地支配や奴隷売買といった、人権意識が低い時代のモラルレベルで宇宙戦艦を運用しているというチグハグさなのだそうだ。
このボルド星系の星系領主であるボルド伯爵は、その中でもあまり評判の宜しくない部類のお貴族様らしい。

「まあ、SFOは第12・・皇子の直轄事業だから、第10・・皇子の後見人程度なら、SFO参加者にはセクハラ程度しか手出し出来ないさ」

 僕らが討伐依頼を受けてしまったことを知った社長の見解がそれだった。
ん? そういやここのハブベントレー星系全体の領主であるランドルフ殿下は第11皇子だと資料にあったんだけど?
もしかして継承順位が下がっているのかな?

 帝国の皇子の継承順位は生まれ順ではなく、その実績の査定により変動があるのだそうだ。
つまり数字が小さいほど次の皇帝となる資格があるということらしい。
これは社長が把握していた順位と今現在の順位が違っているのかもしれないな。

 しかし、階級社会の帝国で、下の順位の皇子の支配下の者(僕たちの事ね)に、上の順位の皇子の後見人が配慮するだろうというのも不思議な話だ。
これには理由があった。皇子には二つの大きな違いが存在する。
それは現皇帝の血縁である血筋皇子と、先祖返り的に皇帝の因子を持って生まれた自然発生皇子と言われる二者だ。
帝国では皇帝を継承出来る権利に皇帝直系限定という考えがなく、皇帝の因子つまり遺伝的能力が重要視されている。
そのため皇帝の子ではない自然発生皇子という後継者が存在しているのだ。
それは独裁を防ぎ皇帝の因子を重要視する先祖の良心とでもいうものだったのだろう。
だが、それは現在は建前と化しており、ここ何代も皇帝は血筋皇子からしか選ばれていないのだそうだ。
これが下の順位の皇子の方が立場が上というカラクリだ。
SFOを直轄している皇子が血筋皇子であり、ランドルフ殿下が自然発生皇子のため、皇位継承順位は上だが、立場的には血筋皇子が忖度されて上ということになるのだ。
自然発生皇子には遺伝的に病弱という不利な点もあり、力こそ正義の帝国ではあまり立場が良ろしくないらしい。
なので自然発生皇子に皇帝の娘を降嫁させて強い皇帝の因子を皇室に取り込むという方向に落ち着くのが通例だとか。
自然発生皇子はその立場に甘んじ、血筋皇子ほど上昇志向を持たないらしい。

 そんな取り留めの無いことを僕が思い浮かべていると、続けて伯爵の声が響いた。

宇宙港兼宇宙ドックバベルに案内しよう。
そこで依頼内容の詳細を伝える』

『伯爵様自らのお出迎え恐縮です。
ブラッシュリップス艦隊を代表して御礼申し上げます』

 菜穂なほさんが戸惑いながら返答をする。
たかが討伐依頼の訪問で伯爵自らが出て来る事態に僕らも困惑している。

「それにしても伯爵自らお出迎えとは……。
いったい何があるんだろう?」

「セクハラのためだけとは思えないわね」

 僕たちはコクピットで首を傾げるしかなかった。


◇  ◇  ◇  ◇  ◆


 僕たちが案内された格納庫は単艦格納庫ではなく、複数艦を係留出来る格納庫だった。
二重のエアロックを持った通路は複数の艦の航行を可能とする広さで、僕たちの艦隊全艦が同時に侵入しても余裕のあるものだった。
内部は無重力で停滞フィールドによって宇宙空間と空気のある与圧空間が遮断されていた。
巨大なエアロックは停滞フィールドが事故で切れた場合の保険的役割なのだろう。
僕たちは各々指定された桟橋に専用艦を横付けした。
空気はあるが僕らはパイロットスーツにヘルメットという安全策で艦を降り、桟橋の先にある建物のドアをくぐる。
そこにはメイド服を着たいかにもメイドが待ち構えていた。

「リアルメイドさんだ~!」

 紗綾さーやがメイドさんに食いついている。
僕らはメイドさんがヘルメット着用でないのを確認してヘルメットを外し背中の収納に入れた。
空気があっても眠り薬とか心配でしょ?
なにしろセクハラ伯爵の本拠地なんだからね。

「そのまま此方にお越しください」

 僕らは着替える暇もないままメイドさんの先導で応接間に案内された。
金に糸目をつけずに豪華な調度品で飾った、所謂あのお貴族様の応接間だ。
目の前にはメイドさんが入れてくれた紅茶のカップが並んでいる。
だが僕たちは用心のため一口も口を付けていない。
眠り薬とか(以下略)

 セクハラを過剰に警戒しているそんな僕たちの前に伯爵が現れた。

「ようこそブラッシュリップスの者ども。
ここの星系領主ボルド伯爵である。
此度は討伐依頼の受領を感謝する」

 僕らの目の前のソファーにどっしりと腰かけた伯爵の目が菜穂なほさんの身体、特に胸を凝視しているような気がして言葉が入ってこない。
僕らは身体にぴっちり張り付いた身体の線が出る、所謂エヴァタイプのパイロットスーツを着ている。
その身体を舐めまわすように見られている。
着替える暇もない召集だったので、この事態は予想していなかった。
晶羅きらら女装の僕も女性型パイロットスーツ姿なので伯爵に見られてしまっている。
その目が胸で止まり伯爵の口に「フッ」という嘲りの笑みが浮かんだ。
余計なお世話だ。僕は男だから胸が無いのはしょうがないんだ。
これでもパットとスーツの形で誤魔化しているんだからね!
僕は自らの思考で更なるダメージを追った。

「こちらもビジネスで来ておりますので、お気になさらないで下さい」

 菜穂なほさんがドライな声でビジネスを強調する。
丁寧だけれど、さっさと詳細を説明しろというニュアンスを込めた感じだ。
伯爵も菜穂なほさんの圧に飲まれたのかセクハラを中止して、伯爵の後ろに従う執事に説明を促す。

「早速だが、仕事の詳細を説明する。
知っているとは思うが今回の任務は野良宇宙戦艦の討伐だ。
この星系に紛れ込んで来たのは2km級の戦艦だ。
この戦艦が岩礁宙域に居座ってしまい、我らの鉱物採集の弊害となっている。
このままでは他の野良宇宙艦を呼び寄せる可能性もある。
速やかな討伐をお願いする」

「というわけだ。頼むぞ」

 そう言うと伯爵はおもむろに立ち上がり執事を従えて応接室を出て行った。

「思ったより軽いセクハラだったわね」

 菜穂なほさんが安堵の表情をする。
いや、僕は結構ダメージ負ったんだけど?


◇  ◇  ◇  ◆  ◇


 メイドさんに宿舎となる部屋を案内された後、早速僕たちは野良宇宙戦艦の討伐に向かった。
といってもまずは情報収集だ。
相手は2km級戦艦だ。隠れられる岩塊も限られている。
僕は対艦レーダーS型を使って岩礁宙域を広範囲探査していく。
岩礁宙域全体をあらゆる角度から探査する。
三次元測定を終え岩礁宙域の広域マップが完成した。
出来上がったのは3Dマップだ。
目標ターゲットはレーダーに直接映らなかったから、この段階で死角となっている場所が有力な隠れ場所だということになる。
その中から2kmの物体が隠れることが出来ない場所は除外する。

「どういうことだ? 2kmの戦艦なんて隠れられる場所が一か所も無いぞ?」

 2km級の戦艦が遮蔽フィールドを持っている?
いや、遮蔽フィールドで隠せる艦はせいぜい全長500mが限度だ。
まさか新型?
僕は美優みゆと協力して艦載機を飛ばし、死角を潰して回った。
その間もレーダーはもちろん重力波も観測し敵戦艦の痕跡を探った。

「僕の結論は『野良宇宙戦艦なんで居ない』なんだけど?」

「ここまでやって見つからないなら、私も居ないという結論になるわね」

 僕の最終報告に菜穂なほさんも追随する。

「でも~、このまま討伐出来ないと依頼失敗になるのかな~?」

「!」

 紗綾さーやの言葉に僕はあることに気付いてしまった。
存在しない戦艦の討伐を依頼し、討伐失敗の違約金をせしめる違約金詐欺。
まさかと思うが、SFOギルドは野良宇宙戦艦の存在を確認していないのだろうか?
いや、SFOギルドにはダミーの野良宇宙戦艦を確認させたのかもしれない。
ここで問題となるのは討伐失敗の条件だ。

「野良宇宙戦艦を確認したのに討伐出来なかったなら当然討伐失敗でいい。
でも、野良宇宙戦艦が見つからなかったらどうなるんだろう?」

「あっ!」

 菜穂なほさんが慌てる。
どうやら依頼書の条件をチェックしているようだ。

「その記述が無いわ。討伐出来なかったら違約金になってるわ」

「一応、伯爵側に問いただす必要があるね」

 これはいよいよ詐欺臭いぞ。
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