【改訂版】異世界転移で宇宙戦争~僕の専用艦は艦隊旗艦とは名ばかりの単艦行動(ぼっち)だった~

北京犬(英)

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アイドル編

042 アイドル編19 歌う艦

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 僕達の前に立ち塞がる敵艦アバターのプレイヤーがアヤメだと判明した。
それにより僕達は一瞬攻撃を躊躇してしまった。
僕達の攻撃の要は菜穂なほさんの狙撃と僕の支配下にあるNPC艦の突撃だ。
この2人が攻撃を躊躇したら、後は防宙艦という守り専門の艦だけとなり敵に対して何も出来なくなってしまう。
その隙を突くように、アヤメアバターが急機動を行う。
刹那、アヤメアバターが退いた回廊から大口径レールガンが撃ち込まれて来た。

「回避!」

「キャッ!」

 大口径のレールガンが紗綾さーやアバターの盾を吹き飛ばす。
敵艦隊は戦艦並みのレールガンを持っているようだ。
すかさずアヤメアバターが回廊を塞ぐ。

 こちらの長距離狙撃はアヤメアバターを排除しない限り重力場の影響で当たらないだろう。
かと言って、アヤメアバターを排除するということはアヤメの裸を世間に晒すということだ。
まさか奴らも僕達とアヤメの関係を知って採用したわけではないだろう。
僕らがアヤメを攻撃しない理由はわかっていないはずだ。
つまりアヤメが脱がされるのは敵にとっては既定路線だということだ。
このままアヤメが敵に協力していれば、こちらは次から次へと被害を受けてしまうだろう。
いくら僕らが位置を変えても、アヤメがレーダーで詳細位置を把握して報告しているのか正確に射撃されてしまう。

 アヤメアバターの排除は必須だ。だが、攻撃して排除すればアヤメを辱めてしまう。
アイドルグループがそんなことをしたら、アンチがここぞと非難の的にしかねない。

「説得が一番だよなぁ。さてどうやってするか……」

 僕はアヤメを説得することを決意したが方法で悩んでしまった。
通信機で平文を流すと敵の本隊にも筒抜けになり、逆にアヤメを人質にされるかもしれない。

「歌うか……」

「はい?」

 菜穂なほさんが素っ頓狂な声を上げる。

「僕達はアイドルだよ。歌詞にアヤメと僕達しか知り得ない言葉を乗せて届ければ、向こうも気づくはずだ」

「そうね。私達って見た目は初心者講習から随分化けてしまっているわよね。アバターでは気づけないかもだわ」

 菜穂なほさんもアヤメを知っている一人だ。
僕の策を真剣に検討してくれている。

「歌詞は僕が即興で適当に書く。紗綾さーや美優みゆで、その間なんとか防いでくれ」

 僕は広域通信機S型をフルで使い、全方位全周波数帯に新曲のカラオケを流した。

「ミュージックスタート!」

 即興で歌詞を書き、菜穂なほさんに送る。

『私達が会ったのは学び舎の一室。3人直ぐに仲良くなったね』

 アヤメアバターが緊急回避を行い、また大口径レールガンが撃ち込まれる。
直撃コース。紗綾さーやがまた盾で防ぐが盾が破壊される。

『厳しい教官に泣き笑いの毎日だったね。力を合わせて戦い、時には男子の失敗に笑ったこともあったね』

 敵艦隊から大量のミサイルが撃ち込まれた。
紗綾さーや美優みゆが対宙ミサイルで迎撃する。
宇宙そらに光の花となるミサイル。しかしその中には爆裂して散弾をばら撒くミサイルがあった。
防御をするため前に出ていた紗綾さーやアバターに散弾の雨が降り注ぐ。
アバターの装甲が剥がれ、とうとう紗綾さーやアバターは下着姿に!

「「「紗綾さーや!」」」

 僕達全員から悲鳴が上がる。

「NPC艦! 紗綾さーやの盾になれ! 紗綾さーや後退して!」

 爆炎の中から鮮やかな色の物体が出現する。

「じゃーん! 下着じゃないから大丈夫だよ♡ グラビアで水着なんて普通だぞ♡ こんなサービスめったにしないんだからね♡」

 紗綾さーやはビキニの水着だった。しかし後が無いので後退してもらう。
社長が一回限りの奇策として用意してくれたらしい。
ここで社長が戦闘を止めることは無かった。

「良かった。作戦を続行する!」

『楽しかった日々、なのにどうして今は敵味方に分かれて戦っているんだろう? 気付いて欲しい私達に』

 アヤメアバターがピクリと反応する。
気付いたかな? よしもう一押しだ。

『また私達と一緒に宇宙そらを翔ぼうよ。アヤメ!!!!』

 もう間違いなく気付いただろう。だが敵も異変に気付いたはずだ。

けろ! アヤメ!』

 僕がアヤメに通信を送ると同時に、菜穂なほさんがアヤメアバター後方の敵にレールガンを撃ち込む。
回廊を塞いでいたアヤメアバターが緊急機動で回廊を開ける。
菜穂なほさんが撃った30cmレールガンが回廊を通り敵艦(護衛艦)に直撃、轟沈させる。

『裏切ったな! アヤメ! 丁度いい、お前も剥いでやるわ!』

 敵旗艦から大口径レールガンがアヤメアバターに向けて撃ち込まれる。
大口径弾がアヤメアバターを掠る。
その破壊力でアバターの装甲が剥がされる。
ギリギリ裸にはされていない。
だが、味方を撃つなんて、やはり奴らはアヤメを裸に剥く、代わりの効く道具ぐらいにしか思ってない。
僕は無性に腹が立った。
ここらが潮時だな。保険を使おう。
やっといま秘密兵器が格好の攻撃位置に付いた。秘密兵器を呼び出す。

「艦載機、やれっ!」

 敵旗艦の真後ろからビームが連射される。
遮蔽フィールドを纏った小型艦が潜んでいたのだ。
敵旗艦は停滞フィールドをダウンした。
黒い無人機が高機動で位置を変え嬲るようにビームを撃ち込む。

『バルチャー艦隊旗艦撃沈、ブラッシュリップス艦隊の勝利です!』

 システム音声が流れ、僕達の勝利が宣言された。

「さて、賭けで奪うのは、あれでいいよね?」

『違反だ! ブラッシュリップス艦隊は6艦いるじゃないか! 無効試合だ!』

 バルチャー艦隊からクレームが来る。
艦載機の存在への物言いだ。
僕はこの事態を予想していたので、行政府の見解を確かめてあった。

『艦載機に関する行政府の見解だ。読んでみろ』

 そこにはこう書いてあった。

・艦載機とは自立した無人機であり、母艦の支配コントロール下にあるものを言う。
・母艦とは艦載機を支配あるいはコントロールする電脳を搭載した艦を言う。
・模擬戦にいて艦載機は母艦の付属物であり艦数に数えない。
・艦載機はRPに於いても無人運用を認める。

『くっ……。だが、こちらの艦隊にスパイを送り込んで裏切らせただろ! 無効だ!』

 このおっさん、まだゴネるのか。
それなら本人に証言させてやる。

『それはスパイと言われたアヤメ本人に証言させればいい。アヤメ正直に話して』

『私はまさか脱ぎルールだなんて知らなくて……。アイドル艦隊とデュエルしたいだけだって言われて交渉したのに……』

『それを知ったのはいつ?』

『VP中にアイドルの人が脱がされちゃって……。それでおかしいと思って動揺してたら歌ってるのがタンポポさんだって気付いて……』

『僕がけろって言った?』

『はい。それで思わず避けたら、後ろから撃たれて私も脱がされちゃって……』

『つまり?』

『私はバルチャー艦隊に最初から騙されていたみたい……』


『違う! 騙してなんか『往生際が悪いぞ!』』

 オブザーバーの神澤社長がついに怒って割り込んできた。

『この件は行政府に報告させてもらった。新人に対する詐欺的行為に行政官もお怒りだ! 後でそれ相応の裁きがあると思え!』

『くっ……』

 ハゲタカバルチャーは押し黙った。
それじゃ、さっさと敗戦処理しましょうか。
バルチャー艦隊から装備の一覧表が渡される。
一覧表をざっと見る。「36cmレールガン!」これはお宝だ。

「社長、賭けの報酬はあれでいいよね?」

「おまえもそう思ったか。 俺もだ」

「じゃあ、よろしく」

「おう」

 神澤社長が通信画面でニヤリと笑う。さすが社長。解ってらっしゃる。
神澤社長が代表して要求する。

『賭けの報酬だが、装備はいらん。アヤメを寄越せ』

「え? (レールガンじゃないのかよ!)」

 僕はアヤメの救出は簡単だと思っていた。
ここは敵の最大戦力を奪って、アヤメにはバルチャー艦隊を自主的に抜けてもらえば、後はどうとでもなると思っていたんだ。

『わかった。アヤメとの契約は破棄する』

 後で知ったことだが、アヤメは自由に脱退する権利もないブラックな契約をさせられていたらしい。
それを救うため神澤社長は行政府云々うんぬんの若干のブラフをかましていたそうだ。
僕は自身の考えの甘さを呪った。装備にうつつを抜かしていたらアヤメは救出できなかったところだ。

 こうしてアヤメが新メンバー候補になった。

 神澤社長の思惑はこうだ。
艦隊に所属していない若くて美しく実力のあるSFOゲーマーは希少。
地球でアイドルをスカウトしてSFCゲームをさせてプロ化するのは時間がかかる。
そこにアヤメという逸材が現れた。ギリ脱がされかけたけど下着姿も晒していない。
恩を売って引きこもう。
神澤社長の黒い部分が出てしまったな。

 艦載機について、保険だという話はしてあったけど、社長もメンバーも無人機だとは思ってなかったそうだ。
あれは爆薬を抜かれた自立型ミサイルにビーム砲と修理した遮蔽フィールドを搭載したものだ。
それをコントロールしていた電脳のソフトを僕の専用艦の電脳にインストールしてバックアップさせている。
まだ自立行動に対する信用が担保されていないため、自立行動を一部制限してサブ電脳とのデータリンクにより常に監視コントロールするようにしている。
小さく高機動高出力でステルス。戦術に影響を及ぼす新兵器を開発してしまった。
バルチャー艦隊が狙撃のために前方の重力場を観測していたため、重力場に隠れるように迂回させて敵旗艦後方に進出させてみた。
歌っている時間を上手く利用出来て怪我の功名といったところ。

 艦載機の扱いを問い合わせた時に、行政府と艦載機について話したところ、奇襲兵器として自爆より有意義に使えると量産を検討するそうだ。
ただし遮蔽フィールド付きは特殊スペシャル扱いで数は作れないとか。
つまり、今後は空母という艦種がステーションに発生することになる。
アイデア料はと聞いたら笑ってスルーされた。
だが、敵に回られたら恐ろしい兵器だ。
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