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アイドル編

031 アイドル編8 合格者きらら

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 模擬戦トーナメントEクラス決勝で大本命の雷鳴艦隊が負けたという話題は瞬く間にSFOを駆け巡った。
それは模擬戦をリアルタイム配信していた地球でも話題の的だったそうだ。
地球ではSFOはeスポーツだと認識されていて、その映像が次元跳躍門ゲート間の次元通信を介してリアルタイム配信され、ブックメーカーにより勝敗の賭けが行われている。
次元跳躍門ゲートでは人や兵器の行き来は制限されているが、SFO運営に管理された情報や映像だけは常に地球とやりとりをしているらしい。
そこで配信されていた映像で戦艦を有し大本命である雷鳴艦隊が、Eクラス3戦3負の大穴アキラ艦隊に敗れたんだ。
話題にならないはずがない。

 ここに良い話と悪い話がある。
Gバレットを使用した影響はとんでもなかった。
模擬戦トーナメントEクラス決勝のオンデマンド配信のアクセスが訳の分からない数字になった。
映像の視聴料は雷鳴艦隊と折半で入って来る。これはかなりの金額になる。

 もう一つ良い話。
僕の専用艦がレベルアップした。模擬戦でも艦は成長するらしい。
レベルアップと言っても地味に装備が良くなるだけだそうだ。
レールガンの特殊弾がもう一種類増えた。
『侵食弾』だそうだ。
これも撃ってみないと不明な弾だが、撃ったことで騒動が起こるのは勘弁して欲しい。

 そう、騒動。これが悪い話だ。
戦艦を一撃で葬ったレールガンの弾、それが特殊弾だということは映像を精査されてバレていた。
しかし、その正体がSFOのデータベースにも存在せず(実際は存在しているが非公開にされている)、それを探る手段は僕と接触することしかなかった。
そのため、何を使ったのかという問い合わせ詰問メールが大量に来ていた。
大量のメールはいちいち確認したわけではない。
腕輪のAIによって内容毎に仕分けされていたので判ったのだ。
この世界SFOでは個人が使用するAIには通信の自由という概念は存在しない。
個人の一部として捉えられ、勝手に私信を開封しても問題はない。
そのメールを無作為に1つ読んでみただけで直ぐに辟易した。
その内容は僕が使用したGバレットの秘密を探るものであって、けして僕を評価するものではなかった。
僕に興味があるのではなく、僕を勧誘するのでもなく、Gバレットの秘密を手に入れたいがためにすり寄って来た、それだけの連中だった。
こいつらは過去に僕と姉貴の出生の秘密を探って来た連中にそっくりだ。
こういった連中は無視するに限る。
腕輪のAIを信じて他のメールは読まずにゴミ箱へ。

 艦隊への勧誘メールも凄い。
戦力になるとわかればそうなるのも頷けるけど、あれだけ拒否されたのに今更寄ってくるなんて、手のひら返しも甚だしい。
艦隊に所属すれば、Gバレットの秘密を共有することになる。
その秘密がバレた後も果たして僕は艦隊に必要とされるだろうか?
GバレットのDNA設計図を奪われたらお払い箱の未来が想像に難くない。
今後、模擬戦でGバレットを使うのは極力控えていこう。
当然彼らと組むのは危うい。
断りの定型文を一斉送信しておこう。

 次に個別デュエルの申し込みが後をたたなかった。
それも装備を賭ける試合でNPC艦不可の1:多という不公平なものばっかり。
僕の艦隊が単艦のうちにボコボコにして、Gバレットを奪おうという賤しい魂胆な奴らばっかりだった。
当然無視だ。捨てる。
今後、嫌がらせで模擬戦トーナメントに出にくくなる可能性は頭の隅に置いておこう。

 アキラ艦隊の各艦の諸元は非公開だ。
どのような装備を持っているのか、どうような艦種がいるのかは配信映像が唯一の情報源になる。
唯一公開されているのはリーダーがGNアキラであること。
GNが判れば直メールDM可能という有難迷惑な仕様のため、こんな事態になっているわけだ。
迷惑メール設定や着信拒否も出来るが、その結果村八分にされる可能性がある。

 そういったわけもあり、見るべきメールは見なければならない。
AIに仕分けされたメールをチェックしていく。
最重要タグのついたメールを開く。
SFO運営からの業務連絡だ。
目を通すと借金返済に関する督促だった。

模擬戦トーナメントVPで手に入れた賞金を返済に充ててください』

「知るか!」

 僕の借金は前回拿捕した敵艦の販売益でほぼ返せているはず。
今後戦うためには改造出来る僚艦が必要なんだ。
次こそはSFO運営に取られないようにしないと戦えない。
だいたい借金の契約書にVPで手に入れた賞金を返済に充てるという記述はない。
それまで取り上げるつもりなら今後一切返さない。
このメールも無視だ無視!


 そして最後に、知り合い設定のメールが一つ。
あのアイドル艦隊オーディションの神澤社長からメール。

『おめでとうございます。あなたは最終オーディションに合格いたしました。
つきましては当事務所「神澤プロモーションSFO本社」まで来社いただけますようお願いいたします』

「えーと、僕は断わったよね?」

 こういったことは内容証明郵便でも使って証拠が残る形で断わるか、顔を合わせてきちんと断わるべきだな。
仕方ない。事務所まで行って断わるか。
僕はアポを取って芸能事務所「神澤プロモーションSFO本社」に向かうことにした。


◇◇◇◇◆


 神澤プロモーションはグラドル系の仕事を主にやっていて、そのグラドルをアイドルデビューさせ、何組かそこそこ売れたアイドルを輩出していた。
だが最近なぜかテレビ出演等が振るわず、CD売り上げのわりにはTV露出が少なく苦戦を強いられていた。
特にブラッシュリップスbrashlipsは実力ルックス共に評価が高いのに不遇を強いられ、メンバーが二人脱退している。
グラビア業もグラドル達は手弁当で撮影に赴きギャラはゼロ、雑誌に載せてもらってありがたいと思えなんて状況になっていた。
そこで隙間産業を狙うが如く、SFO上でプロモーションをする通称アイドル艦隊を神澤社長が立ち上げたということらしい。

 神澤プロモーションSFO本社に着いた。
会議室に案内されると菜穂なほ紗綾さーや美優みゆブラッシュリップスbrashlipsメンバー3人が勢揃いしていた。
美人しかも現役アイドルが目の前にいて焦り、挙動不信になる僕。
そこに神澤社長が両手を広げて今にもハグしそうな雰囲気で寄ってきた。

「やあ、晶羅あきらちゃん、待ってたよ」

 躱す。全力で躱す。

「あはは、つれないな」

 先制攻撃を食らってしまったが、ここはきっちり断わる場面だ。

「先日も伝えたと思うんだけど、僕は「ちょっと待って!」」

 神澤社長が僕の言葉を遮る。

「とりあえず自己紹介させるから」

 神澤社長はアイドル3人に自己紹介をさせた。
舞い上がっている僕は断りの言葉を飲み込んでしまった。

「こんにちわ♡ リーダーやってます、菜穂なほです♡」
「笑顔担当、紗綾さーやで~す」
「無口担当、美優みゆ……」
「「「せーの。3人揃ってブラッシュリップスbrashlipsです♡ よろしく♡(……)」」」
「あ、どうも晶羅あきらです」

 話の腰を折られたまま神澤社長に主導権を握られてしまう。

「いま、模擬戦の影響で大変らしいじゃないか」
「確かにそうだけど、それとこれとは話が「違わないんだな」」
「こちらには対策の用意がある。それは……」

 神澤社長の話によると、アイドルになって別人のふりをして活動すればいいということだった。
メイクして芸名を名乗れば同一人物だと思われないと。

「そんなこと、本当に出来るんですか?
だいたい、あなた達も特殊弾の秘密が欲しいんでしょ?」
「特殊弾? なんのことだ?」
「いやそれはいいです。でもメイクじゃ騙せませんよ」

 どうやら神澤社長は本気でGバレットに興味がないらしい。
だが、メイクに関しては適当な事を言っていると僕はふんで詰め寄った。

「それじゃあ、彼女を見て」

 神澤社長は菜穂なほさんを右手で示す。
僕が菜穂なほさんを見つめると、菜穂なほさんは後ろを向き少しメイクを直している。
眼鏡をかけ、長い髪を一つにまとめて顔をこちらに向けた。
そこにはタンポポさん(ちょっと美メイク)がいた。
彼女の名誉のために言うが、メイクを落として素顔になったのではなく、素顔に近い美人メイクに地味メイクを加えたのだ。

「タ、タンポポさんじゃないですか!」
「そうよ。これぐらい化けられるのよ♡」
「お見逸れしました……」

 アイドルになれば、たとえ今日と同じようなメール突撃をされても、ストーカーと同じなので簡単に対処できると説得される。
アイドルにとってはいつものことらしい。
むしろ間に事務所が入る分だけ安全だとか。

「でも、ブラッシュリップスのメンバーがネットストーカーの中傷で辞めたった聞いたよ?」
「知ってたのか……。だが、SFOのメールはSFOアカウントに紐づいているから、あの時より犯人の処罰は簡単なんだ。
今度は絶対に守れる!」

 神澤社長が暗い目を一瞬するが、SFO上での対策は想定済みだと言う。
現状の追い掛け回されるアキラより艦隊活動が容易になると。
だが、何としても断ろうとしている僕は芸名活動の問題を指摘する。

「でも、SFO運営が芸名なんて許さないでしょ? そもそもGNがそれに当たるんだし」
「大丈夫。芸名はアイドル活動に必須だと説得して、SFO運営から許可ももらい済みだ」

 外堀は埋まっていた。僕は言葉に詰まってしまった。
話は勝手に進んでいく。

「芸名は晶羅のあて読みで『きらら』でどうだ?」
「それは(女っぽすぎて)困ります」難色を示す。
「じゃあ『きらり』では?」
(なんで伝説のアイドル名が!! ミ◯メイやラ◯カを名乗らせるぐらい危険だろ!)
「それ名乗ったらヲタに殺されます! それだけは勘弁してください!」僕は泣きついた。

 仕方なく『きらら』に決定。
これがあのキラキラネームってやつか。

 この人達は、Gバレットなんてどうでも良くて、本気で僕を必要としてくれるんだ……。
僕の中でぼっちの寂しさから抜け出せるという憧れにも似た感情が芽生える。

 一瞬現実逃避をしているうちに、僕のアイドルデビューが決定していた。
早速菜穂なほさんが公式SNSに「合格者きらら」の速報を流している。

「ちょっと待って! みんな気付いてないみたいだから敢えて言うけど、僕は男だよ?」
「は?」
「え?」
「クスクス」
「……」

 前途多難だった。
これがたぶん最悪な話。
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