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第四章 ルナトーク王国奪還戦編

153 ぺリアルテ商国3

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「おい、どうなっているんだ!」

 ペリアルテ商国の代表が代表部と呼ばれる国の行政府に集まったのは、クランドが陸上戦艦を回収していった後だった。
ワイバーン便により事情を知った代表たちは慌てて此処に集まって来ていた。

「まさかキルナール王国にまだ余力があったとは……」

「彼の国は陸上戦艦を修理出来るとか」

「おい、聞いてないぞ」

「ならば、今まで彼奴等が落とした帝国の艦が、この後続々と戦場にやってくるということではないか!」

「我が商国に落ちた艦も全艦回収されたぞ!」

「拙い。我らが略奪していた事実が既に露呈したと思ってもいい」

「どう言い訳するつもりだ?」

「お主等も略奪する寸前だったであろうが!」

「そうだ。たまたま間に合わなかっただけではないか!」

「誰だ? 彼の国を見限って再び帝国に付こうなどと言い出したのは!」

「お主ではないか!」

 その場は誰もがみっともない責任の擦り付け合いに終始していた。

「まだ、彼の国を裏切ったとは発覚していないのだな?」

「いや、彼の国の財産である撃墜された艦に手を付けたのだ。
裏切ったことが発覚するのは時間の問題だ」

「賊が略奪し、我らが捕まえた事にしてはどうだ?
犯人など適当にみつくろって、略奪品とともに差し出せば良いだろう」

「それでも我が商国の管理責任が問題となるのは明白だ」

「厳しい協議となるぞ」

「ならば、適任はアルペン氏だな」

「おい、奴はなぜ参加していない」

「バカ、我らが罷免して追い出したからであろうが!」

「奴は今どこだ?」

「地元に帰ったのであろう?」

 商国には各代表が統治する自治区が6つ存在していた。
北東、南東、中央北、中央南、北西、南西の6区だ。
これらの自治区は海岸道、中央道、陸奥道の各主要街道を中央に通すかたちで区分けされていた。
分遣艦隊の陸上戦艦が落ちたシセイド市が北東区、魔導バーストによる大被害を受けたセントネル市が中央北区にあった。
アルペン氏が統治する自治区は南東区であり、一番イスダル要塞に近かった。

「おい、アルペン氏が彼の国と接触したら、我らが裏切った事が伝わってしまうぞ」

「拙い、早く何とかしないと」

 しかし、時すでに遅かったことを彼らは知る由もなかった。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「カムロが来たって?」

 イスダル要塞で戦力の充実を待っていた俺の元に商国の特使であるカムロが訪ねて来ていた。

「緊急の用件とのことで通しましたが……。
お会いになりますか?」

「なんだろう? まあ暇だし会っても構わないよ」

「では、応接室にてお待ちですので、お願いします」

 俺は、商国の市街地に被害が出たことのクレームだろうかと思いながら応接室に向かっていた。
そして応接室の扉を開けた俺の目にはとんでもない光景が映し出されていた。

「申し訳ございません」

 そこには土下座するカムロの姿があった。

「あ、この世界にも土下座ってあるんだ……」

 俺は、そんなアホなことを思ってしまった。
謝罪の態度として、土下座が通用するのは日本だけだと思っていたので、この中世ヨーロッパのような世界観には違和感がありまくりだった。

「商国は条約を反故にすることに決定いたしました。
私も罷免されてしまい、条約を結んだ張本人として、この不始末のお詫びにとやってまいりました」

 ああ、俺たちが負けたと思ってあっさり掌を返したのか。
しかも、有能そうなカムロを罷免したとは、商国もどうしようもなさそうだ。

「いや、そこはカムロが謝らなくても良い。
カムロも被害者なのだろう?
頭を上げて欲しい」

 俺はカムロの土下座を止めさせた。
まるで俺が強要しているようで外聞が悪いのだ。
なるほど、他人の目のある所で土下座されると許さざるを得ないわけだ。
これが土下座の効果だったんだな。

 カムロも俺に言われてやっと立ち上がりソファに座ってくれた。
これでやっとまともに話せそうだ。

「罷免された立場ゆえ私は商国でなんの権限も有しておりません。
幸い私共の自治区である南東区はイスダル要塞に隣接しております。
私共は商国を離脱し、キルナール王国に併合をお願いしたいとお願いに上がった次第です」

 それにしてもやっかいだ。
商国の他の自治区が敵に回ったのならば、遺恨のあるルナトークの民たちも容赦しないだろう。
カムロの今のうちにこちらに付くという判断は生き残るためには最善手なのかもしれない。
カムロの南東区だけが商国で唯一俺たちを裏切らなかったのだから、国民感情も緩和されるだろう。

「そこは友好国でもこちらは良いんだが、併合とはおだやかではないのでは?」

「いえ、お詫びとして決して裏切らない証として併合をお願いしたいのです」

 うーん、そこには商人としての強かさもあるんだろうけど、この後商国の他の自治区と戦うとなると、内情を知っているカムロを味方に引き込むのはこちらにも利がありそうだ。

「そこまで言うなら併合を認めよう。
ただ、こちらも国家予算が潤沢にあるわけではない。
暫くは持ち出しで自治してもらうことになるが、それで良いか?」

「もちろんでございます」

「わかった。
それでは、カムロをキルナール王国アルペン伯爵として叙し南東区の自治を命じる」

「はは、身命に誓ってお引き受けいたします」

 さて、これから商国をどうしようか。
頭の痛い問題だった。
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