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第四章 ルナトーク王国奪還戦編

132 東の要塞

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 東の領地イスダルを得た俺は、さっそく新造された陸上重巡洋艦エリュシオンに乗って領地まで進出した。
エリュシオンは魔導砲3門に重力加速砲4門を持つ対艦戦闘を想定して設計した新造艦だった。
防御魔法も強化されており、自艦の魔導砲と同等の魔導砲で撃たれても耐えられるだけの防御力を備えている。
イスダル領に進出した艦隊は第1戦隊の5艦。
エリュシオンの他には、魔導砲1門と後部甲板に飛行甲板を持つ航空巡洋艦と、魔導砲を1門持つ駆逐艦が3艦で構成されていた。
各艦副砲に重力加速砲を持っていた。

「ここから北上するとルナトーク王国に行けるんだな」

「はい。ペルアルテ商国を越えた先がルナトーク王国です。
この間にある商国はガイアベザル帝国に下った属国、所謂傀儡国家です。
まあ、陸上戦艦で脅されては商国も帝国に屈するしか道は無かったのでしょうが……」

 俺の何の気なしに放った疑問にルナトーク出身のティアが答えてくれた。
この第1戦隊には、ルナトークの出身者が多く参加していた。
東の守りの要だからというよりも、この後ルナトーク解放の戦力として戦おうという気概に溢れている感じなのだ。
ただ、旧ルナトーク王国との間には曲がりなりにも独立国家が存在している。
ガイアベザル帝国の傀儡国家だとはいえ、勝手に国境を侵犯して通過するわけにはいかなかった。
侵入するには、その国と戦争をする覚悟が必要だった。
帝国と直接戦うのであれば躊躇いはないが、傀儡国家が矢面に立って出て来るとなると、あの督戦隊に煽られて戦うしかなかった戦争奴隷を思い出してしまう。
彼らも被害者だろうから、戦わなくて済むなら戦いたくないのが本音だ。

 だが、ガイアベザル帝国の艦がその商国を通過しようとすれば、こちらと違って何の抵抗もなくスルーされてしまうのだ。
リーンワース王国としても、キルナール王国としても新たな陸上戦艦の領土への侵入だけは許すわけにはいかなかった。

「さて、ここにはリーンワース王国が築いたイスダル要塞があるのだが、これも領地と一緒に我が国に譲渡された。
我々はこれを強化し防衛しなければならない」

 ズイオウ領とも第13ドックとも、俺は【転移】で行き来できる。
便利で大容量なインベントリもある。
人材も物資も俺が動けば持ち込み放題だった。
逆に海の幸や塩をズイオウ領に持ち帰ることも出来る。

「でも、それを全て俺がやるのも違うんだよな。
だからこそ、これを設置する意味がある」

 俺が第13ドックに出入りするようになって、知らなかった事実をセバスチャンから教えてもらう機会が増えた。
その一つに陸上戦艦の前甲板に描かれている魔法陣のことがあった。
俺はその魔法陣を転移起点とすることで魔力の節約に役立てていたのだが、本来の使用方法は、艦から艦へと移動するための転移魔法陣だったのだそうだ。
この魔法陣は第13ドックの中にも描かれており、そこに魔力ストレージから魔力を供給すると、ここからも双方向で転移が出来るのだそうだ。
その行先はシステムコンソールの設定により任意の魔法陣へと設定出来た。
だが、この転移魔法陣の転移先を設定していたネットワーク情報は現在失われており、いまは第13ドックで修理された艦とソフトを更新したキルトタルにのみ、転移先としての指定が可能になっていた。
それは新造艦の魔法陣も同じ扱いだった。

 ここで、俺は気付いた。
魔導機関と魔力ストレージを設置している要塞であれば、転移の魔法陣を使うことが出来ると。
この構成は艦体の無い陸上戦艦と一緒なのだ。
つまり転移の魔法陣こそが、イスダル要塞へと持ち込んで設置する意味のあるものそのものだった。
魔導機関と魔力ストレージを設置出来れば長距離魔導砲も運用が可能になる。
国境の護りとして、これ以上の戦力強化はなかった。

 俺はボルダルの要塞に施したのと同じ強化をイスダル要塞にも施した。
その強度と防御魔法陣は陸上戦艦と同等の防御力を持つことに成功した。
更に地下に魔導機関と魔力ストレージを設置し、長距離魔導砲と重力加速砲に魔力エネルギーを供給出来るようにした。
魔法陣にも魔力エネルギーを供給すれば、陸上戦艦と同じように転移が出来るようになるのは当然のことだった。
つまり要塞は動けない陸上戦艦というわけだ。
むしろ重力制御機関に魔力を使わない分、余剰魔力に溢れていた。

 転移魔法陣が設置され稼働すると、その魔法陣を利用してルナトークの民で編成されたキルナール王国軍がここイスダルに駐屯するべく転移して来た。
その様子はまるでルナトーク解放軍といった雰囲気だった。
我が国とガイアベザル帝国は戦争状態だ。
もしガイアベザル帝国が攻めて来たならば、躊躇うことなく反撃に出ることになると思う。
その延長線上にルナトーク解放があっても良いのかもしれないと俺は思った。
いや、国民の意を汲んで前向きに検討すべき時が来たのかもしれない。
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