ここ掘れわんわんから始まる異世界生活―陸上戦艦なにそれ?―

北京犬(英)

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第四章 ルナトーク王国奪還戦編

131 新たな遺跡

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 ガイアベザル帝国では敗戦の責任を問うための御前会議が開かれていた。
やり玉に挙げられていたのは、調査兵団団長イオリと主力艦隊司令ヴェルナールだった。
御前会議は敗戦の責任を問う弾劾裁判の様相を呈していた。
遺跡を奪取しようと功を焦り独断専行をした結果、艦隊の半数以上を失った調査兵団団長イオリ。
大艦隊を与えられながら負け、ほとんどの艦を失って来た主力艦隊司令ヴェルナールの2人が、いま皇帝ロウガ二世の前に引き摺り出される。

「よくもおめおめと生きて帰ったものだ」

 御前会議に出席しているのは、帝国の中枢で政務を行う貴族、各方面で侵略戦争に従事する軍の高官の貴族たちだった。
リーンワース王国への侵略は陸上戦艦の力を以ってすれば容易に遂行できるはずだった。
大艦隊で攻め込むことで敵を踏みにじれば、調査兵団の失態すらも挽回することが出来るはずだった。
それが調査兵団は10艦、ヴェルナールの主力艦隊は12艦もの艦を失って帰ってきたのである。
ヴェルナールが中破した陸上戦艦3艦を曳航して持ち帰ったが、ガイアベザル帝国には破壊された陸上戦艦を修復する技術がないため、使える部品をユニット単位で再利用するということしか出来なかった。
つまりヴェルナールは15艦も失ったに等しかった。

 調査兵団団長イオリから、敵が陸上戦艦を修理できるほどの技術を持ち、魔導砲まで修理できることなどの情報提供があったのだが、糾弾する彼らの頭からは全て抜け落ちていた。
それほど陸上戦艦の力は神格化されており、ガイアベザル帝国が負けるわけがないという妄信が国中に蔓延していたのだ。
イオリとヴェルナールは反論する機会も与えられずに、ただただ皇帝の裁可――おそらく死刑――を待つだけだった。

「北方で新たな遺跡の反応を得ました!」

 そこへ情報局局長ヒルテマーが朗報をもたらした。
ヒルテマーがわざわざこのタイミングで報告したのには訳があった。
新たな遺跡を調査するとなると、調査兵団のノウハウが必要になる。
そうなれば調査兵団団長であるイオリの助命嘆願が通るのではないかという思惑だった。
ヒルテマーとイオリは同期で親交があり、出来るならばイオリを助けたいとヒルテマーは思っていたのだ。

 アギトの独断専行に始まり、調査兵団団長イオリの大失態、ヴェルナールの大敗による敗走でガイアベザル帝国は貴重な陸上戦艦を23艦も失っていた。
新たな遺跡を見つけたということは、新たな陸上戦艦を手に入れられる可能性を秘めており、皇帝ロウガ二世もその報告には顔を綻ばせるのだった。

「南の遺跡と同等の誘導信号を確認しました」

 皇帝ロウガ二世の前に引き摺りだされていたイオリが右手を上げて発言を求める。
遺跡のことは調査兵団に一日の長がある。
皇帝ロウガ二世は頷くことでイオリの発言を許した。

「遺跡の活性化です。
おそらくリーンワース王国の遺跡と同等の規模の遺跡でしょう。
もし、そこに陸上戦艦の修復技術があるなら、我が帝国の勝利も間違いなくなるでしょう」

 イオリの発言に御前会議は騒然となった。
全ての艦の魔導砲が修理出来ればリーンワース王国と対等どころか上回る戦力を得ることが出来るはずだった。
稼働状態にない陸上戦艦を修理出来れば、その数も大幅に増やすことが出来る。
これはガイアベザル帝国にとってまさに朗報だった。

「となるとイオリを死なせるわけにはまいらんな」

 皇帝ロウガ二世が呟く。
イオリの首の皮が繋がった瞬間だった。
調査兵団には専門知識も経験も蓄積されており、遺跡調査といえば彼らに任せるのが一番であり、それだけの能力があるというのは周知の事実だった。

「イオリは調査兵団を率いて北方で発見された遺跡の調査に向かうのだ。
何としてでも陸上戦艦の修復技術を得ろ!」

「陸上戦艦の能力が同等なら我とて負けるわけがない!
今回の敗戦は陸上戦艦の能力の差によるものだ!」

 ヴェルナール司令が吠える。
皇帝に対して発言の許可もとらない暴挙だったが、皇帝ロウガ二世はその発言を尤もだと思ってしまった。

「それもそうであるな。
敵は魔導砲が使え、こちらは使えないでは勝ちようが無かったか。
ヴェルナールも行け。処分は手柄次第ということにしよう」

 こうして敗戦の将二人が北方で確認された遺跡調査へと向かうことになった。
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