ここ掘れわんわんから始まる異世界生活―陸上戦艦なにそれ?―

北京犬(英)

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第三章 北の帝国戦役編

113 ガイアベザル艦隊1

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 ガイアベザル帝国の調査兵団に属する艦隊が団長イオリ自らの指揮でリーンワース王国の領土へと侵攻していた。

「ワイバーンによる偵察です!」

 見張り員が叫ぶ。

「迎撃しろ! 全艦対空爆散弾発射準備!」

 イオリの命令で艦橋後部の見張り台に配置されている信号員が命令を他の艦に伝える。
彼は光魔法の色の組み合わせを使い、命令文を信号化する。
各艦から命令を受諾した旨の信号が戻る。
これも各艦に配備された信号員が行っていることだ。
信号員は特殊技能であり、これを通常会話の如くやってのける。

「各艦、発射準備よし」

 信号員が艦橋内に返信を伝える。

「撃て」

 イオリの命令が即時光魔法の信号となり各艦に伝達される。
と同時にイオリが座乗する旗艦エギビゴルの舷側砲から対空爆散弾が発射される。
それに倣い、艦隊全艦が対空爆散弾を撃つ。
対空爆散弾は、ワイバーンのいる空に打ち上げられ、至近距離で爆発、散弾をまき散らした。
これにより翼を損傷したワイバーンがバタバタと墜落していく。

「1匹、逃走します!」

「逃がしたか。まあいい」

 イオリはこの状況に、何も動じなかった。
偵察により情報が伝わるのはリスク管理の観点からは拙いはずだった。
だが、それがどうしたというのだ。
この艦隊に勝てる戦力など、この世界にありはしない。
その驕りがイオリの対応を傲慢なものにしていたのだ。


◇  ◇  ◇  ◇  ◆


 作戦通り、夜襲をかけるべく、ルドヴェガース要塞前に進出した。
このまま射程内に入ったら全艦隊をターンさせ舷側の火薬砲を最大限ルドヴェガース要塞に向ける。
その最大火力を以ってルドヴェガース要塞を砲撃する作戦だ。
その時、暗闇の中、見張り員がルドヴェガース要塞を視認して叫んだ。

「敵要塞前にガルムド! ニムルドとリグルドも確認! さらに不明艦1」

 イオリは驚愕した。
遺跡調査で南方に向かわせたガルムドがなぜここにいる?
それは距離的、時間的に有り得なかった。
さらに先の戦いで軍の敗退の原因となったリグルドに、この戦争の発端となったバカ皇子のニムルドまでいるとは……。
見張り員は【梟の目】という夜目の効くスキルを持っている。
しかも艦の識別はシルエットや外観的特徴だけで行えるように徹底して頭に叩き込まれている。
見間違いは有り得なかった。

「ということは、奴らは撃破した陸上戦艦を鹵獲し修理したということか……。
しかも不明艦1、これは我々の知らない遺跡から齎された陸上戦艦であろう。
つまり敵は遺跡の力を我々以上に使えるということか」

 イオリが思案している最中に新たな報告がなされる。

「敵陸上戦艦はこちらに側面を見せて停止中。
側面に国旗、1つはリーンワース王国の旗、3つは不明国の旗です!」

 決まりだな。あれはガルムド、ニムルド、リグルドだ。
その不明国が我々以上に遺跡の能力を使っていて、陸上戦艦を修理運用しているということだ。
いったいガルムドはどれだけの速度を出せるようになったのだ?
あの南方からここまで来たとなると、ガルムドは真の力が使えるのか?
しかもリーンワース王国にまで陸上戦艦を与えている。
となると、あれ・・が使えるのかもしれないな……。
あれ・・が使えるなら10:4の戦力差など簡単に覆ってしまう。
敵陸上戦艦が側面を見せている隙に叩くしかない。
あれ・・を使われる前に叩く!

「作戦変更! このまま最大速度で突っ込め! 衝角ラム戦だ!
相打ちでいい。敵陸上戦艦を沈めよ!」

 それでも1艦1殺で4艦の損失で済めば良い方だとイオリは思っていた。
イオリの命令は信号員により艦隊の各艦に伝達される。

「各艦、命令を再確認して来ています」

 信号員がイオリに返信を伝える。
イオリの命令は陸上戦艦を失っても構わないという捨て身の作戦だったからだ。
ガイアベザル帝国の陸上戦艦は無理やり遺跡のシステムに介入して動かされている。
そのため無理が生じており、最大速度を出すと魔力ストレージが爆発する可能性があった。
各艦の艦長が躊躇するのも道理だ。

「構わん突っ込め!
ニムルドを使っているということは、あの不明国こそアギト殿下の仇だ。
皇帝陛下も陸上戦艦の損失を許容してくれよう」

 イオリは再度命じた。
その命令が各艦に伝わると、各艦は次々と速度を上げ始めた。
このまま敵陸上戦艦に艦首の衝角ラムを突き刺し航行不能にするためだ。
実は陸上戦艦の艦首には、そんなもの衝角はない。
しかし、防御魔法陣が艦首を防御することで必要以上に硬くなるということは経験上間違いなかった。
ガイアベザル帝国でも訓練中の衝突事故で破損する陸上戦艦が度々出ている。
それを戦いに転用しようというのが、イオリの言う衝角ラム戦だった。
ガイアベザル帝国に於いては、陸上戦艦を保有するのは自国だけという自負がある。
そのため、対陸上戦艦ともいえるこの戦術思想は軍からバカにされたものだった。
敵が陸上戦艦を持つことはない。それが軍の総意だった。
だが、現実は今10:4の艦隊戦が行われようとしている。
イオリは自分が想定した戦争の在り様が現実となり、思わず口元が綻ぶのを止めることが出来なかった。
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