ここ掘れわんわんから始まる異世界生活―陸上戦艦なにそれ?―

北京犬(英)

文字の大きさ
上 下
113 / 169
第三章 北の帝国戦役編

113 ガイアベザル艦隊1

しおりを挟む
 ガイアベザル帝国の調査兵団に属する艦隊が団長イオリ自らの指揮でリーンワース王国の領土へと侵攻していた。

「ワイバーンによる偵察です!」

 見張り員が叫ぶ。

「迎撃しろ! 全艦対空爆散弾発射準備!」

 イオリの命令で艦橋後部の見張り台に配置されている信号員が命令を他の艦に伝える。
彼は光魔法の色の組み合わせを使い、命令文を信号化する。
各艦から命令を受諾した旨の信号が戻る。
これも各艦に配備された信号員が行っていることだ。
信号員は特殊技能であり、これを通常会話の如くやってのける。

「各艦、発射準備よし」

 信号員が艦橋内に返信を伝える。

「撃て」

 イオリの命令が即時光魔法の信号となり各艦に伝達される。
と同時にイオリが座乗する旗艦エギビゴルの舷側砲から対空爆散弾が発射される。
それに倣い、艦隊全艦が対空爆散弾を撃つ。
対空爆散弾は、ワイバーンのいる空に打ち上げられ、至近距離で爆発、散弾をまき散らした。
これにより翼を損傷したワイバーンがバタバタと墜落していく。

「1匹、逃走します!」

「逃がしたか。まあいい」

 イオリはこの状況に、何も動じなかった。
偵察により情報が伝わるのはリスク管理の観点からは拙いはずだった。
だが、それがどうしたというのだ。
この艦隊に勝てる戦力など、この世界にありはしない。
その驕りがイオリの対応を傲慢なものにしていたのだ。


◇  ◇  ◇  ◇  ◆


 作戦通り、夜襲をかけるべく、ルドヴェガース要塞前に進出した。
このまま射程内に入ったら全艦隊をターンさせ舷側の火薬砲を最大限ルドヴェガース要塞に向ける。
その最大火力を以ってルドヴェガース要塞を砲撃する作戦だ。
その時、暗闇の中、見張り員がルドヴェガース要塞を視認して叫んだ。

「敵要塞前にガルムド! ニムルドとリグルドも確認! さらに不明艦1」

 イオリは驚愕した。
遺跡調査で南方に向かわせたガルムドがなぜここにいる?
それは距離的、時間的に有り得なかった。
さらに先の戦いで軍の敗退の原因となったリグルドに、この戦争の発端となったバカ皇子のニムルドまでいるとは……。
見張り員は【梟の目】という夜目の効くスキルを持っている。
しかも艦の識別はシルエットや外観的特徴だけで行えるように徹底して頭に叩き込まれている。
見間違いは有り得なかった。

「ということは、奴らは撃破した陸上戦艦を鹵獲し修理したということか……。
しかも不明艦1、これは我々の知らない遺跡から齎された陸上戦艦であろう。
つまり敵は遺跡の力を我々以上に使えるということか」

 イオリが思案している最中に新たな報告がなされる。

「敵陸上戦艦はこちらに側面を見せて停止中。
側面に国旗、1つはリーンワース王国の旗、3つは不明国の旗です!」

 決まりだな。あれはガルムド、ニムルド、リグルドだ。
その不明国が我々以上に遺跡の能力を使っていて、陸上戦艦を修理運用しているということだ。
いったいガルムドはどれだけの速度を出せるようになったのだ?
あの南方からここまで来たとなると、ガルムドは真の力が使えるのか?
しかもリーンワース王国にまで陸上戦艦を与えている。
となると、あれ・・が使えるのかもしれないな……。
あれ・・が使えるなら10:4の戦力差など簡単に覆ってしまう。
敵陸上戦艦が側面を見せている隙に叩くしかない。
あれ・・を使われる前に叩く!

「作戦変更! このまま最大速度で突っ込め! 衝角ラム戦だ!
相打ちでいい。敵陸上戦艦を沈めよ!」

 それでも1艦1殺で4艦の損失で済めば良い方だとイオリは思っていた。
イオリの命令は信号員により艦隊の各艦に伝達される。

「各艦、命令を再確認して来ています」

 信号員がイオリに返信を伝える。
イオリの命令は陸上戦艦を失っても構わないという捨て身の作戦だったからだ。
ガイアベザル帝国の陸上戦艦は無理やり遺跡のシステムに介入して動かされている。
そのため無理が生じており、最大速度を出すと魔力ストレージが爆発する可能性があった。
各艦の艦長が躊躇するのも道理だ。

「構わん突っ込め!
ニムルドを使っているということは、あの不明国こそアギト殿下の仇だ。
皇帝陛下も陸上戦艦の損失を許容してくれよう」

 イオリは再度命じた。
その命令が各艦に伝わると、各艦は次々と速度を上げ始めた。
このまま敵陸上戦艦に艦首の衝角ラムを突き刺し航行不能にするためだ。
実は陸上戦艦の艦首には、そんなもの衝角はない。
しかし、防御魔法陣が艦首を防御することで必要以上に硬くなるということは経験上間違いなかった。
ガイアベザル帝国でも訓練中の衝突事故で破損する陸上戦艦が度々出ている。
それを戦いに転用しようというのが、イオリの言う衝角ラム戦だった。
ガイアベザル帝国に於いては、陸上戦艦を保有するのは自国だけという自負がある。
そのため、対陸上戦艦ともいえるこの戦術思想は軍からバカにされたものだった。
敵が陸上戦艦を持つことはない。それが軍の総意だった。
だが、現実は今10:4の艦隊戦が行われようとしている。
イオリは自分が想定した戦争の在り様が現実となり、思わず口元が綻ぶのを止めることが出来なかった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

見よう見まねで生産チート

立風人(りふと)
ファンタジー
(※サムネの武器が登場します) ある日、死神のミスにより死んでしまった青年。 神からのお詫びと救済を兼ねて剣と魔法の世界へ行けることに。 もの作りが好きな彼は生産チートをもらい異世界へ 楽しくも忙しく過ごす冒険者 兼 職人 兼 〇〇な主人公とその愉快な仲間たちのお話。 ※基本的に主人公視点で進んでいきます。 ※趣味作品ですので不定期投稿となります。 コメント、評価、誤字報告の方をよろしくお願いします。

セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

今卓&
ファンタジー
地球での任務が終わった銀河連合所属の刑事二人は帰途の途中原因不明のワームホールに巻き込まれる、彼が気が付くと可住惑星上に居た。 その頃会議中の皇帝の元へ伯爵から使者が送られる、彼等は捕らえられ教会の地下へと送られた。 皇帝は日課の教会へ向かう途中でタイスと名乗る少女を”宮”へ招待するという、タイスは不安ながらも両親と周囲の反応から招待を断る事はできず”宮”へ向かう事となる。 刑事は離別したパートナーの捜索と惑星の調査の為、巡視艇から下船する事とした、そこで彼は4人の知性体を救出し獣人二人とエルフを連れてエルフの住む土地へ彼等を届ける旅にでる事となる。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...