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第二章 逃亡生活

058 政治情勢2

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リーンワース王国城内執務室

 リーンワース王の前に情報局を束ねる将軍が報告に来ていた。

「陛下、北の帝国から調査団の受け入れ要請が来ました」

「宣戦布告ではないのだな?」

「はい。受け入れないのなら戦争も辞さないとのことです」

 リーンワース王は思案する。
調査団を受け入れたとしても、あの跡地を見ただけで北の帝国は納得するだろうか?
我々が何かを隠していると思われれば、出せない物を出せと脅されることになるだろう。
戦争は不可避か。まあ第五皇子が死んでいるのだから、属国にでもならない限り和平は無理だった。

「ミンストルに居たスパイは洗い出したのだな?」

「はっ。捕らえて北の帝国に何を報告したのかを吐かせました」

「ほう」

「スパイの目的はガイア帝国の末裔の保護のため、その情報収集でした。
ミンストルでは黒髪黒目の男が目撃されており、その情報を北の帝国に送っていたようです。
その情報により第五皇子がやって来てミンストルを攻撃。
領主が命惜しさに黒髪黒目の男、冒険者ギルドの登録名クランドの情報を収集し第五皇子に渡したということのようです」

「市民を人質に取られたのだ。領主の行為はある程度は許容しよう。
(もっとも本人は自分の命可愛さだったようだが……。
ふむ。ガイア帝国の末裔の保護が目的なら、スパイからはそれ以上の情報は得られぬか)」

 リーンワース王は、北の帝国のメッセージに隠された宰相の和平への糸口を察し決断した。

「よし、調査団は受け入れよう。
ただしミンストルにはかん口令を敷け。クランドの情報を北の帝国に渡すな。
幸いクランドの情報を得た第五皇子は死んだ。北の帝国にはクランドの情報は渡っていないだろう。
時間を稼げ、クランドは我が国に迎える」

 スパイから情報を得られぬのならば黒髪黒目の男の方から辿るしかあるまい。
クランドが何を手に入れたのか、実際にあの現場で何があったのか。
当事者本人に訊くのが一番早い。

「その後、黒髪黒目の男の消息は?」

「はっ。冒険者ギルドに探索依頼を出しました。
これが、現在解っている限りの探索情報です。
これを元に報奨金を設定し冒険者に探させております」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
常設依頼 尋ね人 冒険者ランク不問

有力な所在情報を提供した者に金貨5枚 みつかり次第終了

クランド 男 黒髪(一部灰色)黒目 15歳 身長165~170cm 細身
平民(農民)服に魔銃とショートソードを装備
小さな茶色い犬を胸にかかえている
美人奴隷を複数侍らせている
金遣いが荒い

移動手段:徒歩 ワイバーン(色:青、赤、白、橙、紫、桃)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 将軍が探索依頼の内容をリーンワース王に示した。
これがクランドに関する現在知り得る最高の情報なのだ。

「ところが、有象無象の情報は集まりましたが、有益な情報はほぼ無し。
確かなのはミンストルにての古い情報しかありませんでした。
ただ、その中に事件後の目撃情報がありまして、いつものように買い物をしていたというものが最後になります。
領主も領兵を使って捕縛に向かったようですが、忽然と消え逃げられたとのことです」

「消えた? バカな」

 探索依頼の内容によれば、いつも大人数で買い物をしている。
それが消えたなど、普通は有り得なかった。

「消えたとは?」

「はい。いつものようにワイバーンを預け西門から入った後、洋品店、市場と買い物をした後、歓楽街に向かい、門を出ずに・・・・・消えたとのことです。
後に調べたところ、門で待ち構えていた領兵の前を通らずに・・・・ワイバーン厩舎に現れ、そのまま飛んで行ったとのこと」

「女奴隷を大勢連れている男を領兵が見逃した?」

 有り得ないことが起きている。そんなことが出来るのか?

「女奴隷は美人ぞろいらしく、あの侯爵・・・・がオークションで競り落とし、事故で放棄したと噂のルナトークの姫君も含まれているとか。
例え集団でなくても一人一人の女奴隷が目立つ存在だったようで、単独での突破も不可能。皆が不思議がっていたそうです」

 王はあの絶世の美女の顔を思い出した。
国際会議で一度会ったことがあるのだ。

「あの姫君か。余も会ったことがある。
この世のものとは思えない美女だったな。
それが北の帝国により奴隷落ちさせられ、さらに事故で顔に傷を受け右腕を失ったとか。
それは目立つであろうな」

 そのむごい仕打ちを想像し、王の顔に苦悩が浮かぶ。

「ところが、ルナトークの姫君は顔の傷も部位欠損も治っていたらしいのです」

「なんだと! となるとクランドは高レベル魔導士の可能性があるのではないか?」

「はい。おそらく【リカバー】と【転移】が使える、宮廷魔導士クラスかそれ以上と思われます」

 そうか。少なくとも姫君の傷は癒されたのか。
あの侯爵の元に行かなかったのも不幸中の幸いか。
王はその点に関してはホッと胸を撫で下すのだった。

「ギルドの記録は?」

「はい、そこで驚いたのですが、あのグリーンドラゴンの頭をオークションに出したのがその男でした」

「あれの持ち主か! となると是が非でも我が国に引き込まねばならん。
グリーンドラゴンを討伐可能な宮廷魔導士クラスならば、対北の帝国の切り札になるやもしれん」

 あのグリーンドラゴンは後に鱗も購入しているのだが、それも併せて傷が何処にもなかった。
王はクランドがリーンワース王国の運命を変える逸材だと再認識した。
黒髪黒目となると勇者の血筋。
北のガイアベザル帝国が、自らを選ばれし特別な存在と自称する根拠となるものだ。
それが北の帝国と対立しているのなら、是非とも味方にしたかった。

「ギルドに連絡せよ。国の危機だ。
ギルドがクランドと接触出来るならその手段を要求しろ。
また、クランドの預金の動きを追え。
誰もが金を使わずに生活できるわけがない。
金の流れがクランドの所在を示すはずだ」

 クランドの知らない所で彼の存在価値が益々上がっていくのだった。
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