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第一章 異世界スローライフ?

019 屋敷を建てる

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 朝起きると雪豹の毛皮――オークション価格1億G超――がこんもりと盛り上がっていた。
それは俺が寝る前に掛布団としていた毛皮だったはずだが、いつのまにか俺の上から消えて無くなっていた。
プチは俺の枕元で横になっている。
では、この毛皮を盛り上げてる山は何だ?

 おそるおそる毛皮を捲ってみると、そこにはサラーナが眠っていた。
確か一昨日、俺はリビングを男女の境界線として、夜はお互い立ち入らないようにと言ったはずだ。
なのにサラーナがなし崩し的に俺のねぐらに侵入していた。
俺が起きた様子がわかったのか、サラーナが目を覚まし、目をこすって上半身を起こした。

「おふぁようごじゃいまふ。ふぁるじ

 どうやら寝ぼけているらしいが、まあそれはいい。
問題はなんで全裸なのかということだ。
上半身を起こしたサラーナの身体から毛皮がずり落ち、上半身どころかお尻から太ももまで出てしまっている。
胸なんて当然ながら丸出しだ。

「ちょっおま! なんで服を着ていないんだよ!」

 俺はラッキースケベに慌てる主人公を地でやってしまった。

「寝るときふぁ、いつもこれでしゅ」

 くそ、寝ぼけてるサラーナがあざと可愛すぎる。
俺は慌てて毛皮をサラーナに被せる。
鈍感系主人公としては、ここで据え膳食うわけにはいかないのだ。

「ふぁ」

 頭から毛皮を被ったサラーナが可愛い声を出す。
やばい。可愛い。こんなんでいつまで我慢できるんだ俺?

「おはよう。主君しゅくん
「おはようございます。旦那様」
「おはようございます。ご主人様」
「おはよ。主人しゅじん

 ターニャ、アリマ、ナラン、ニルも起きてリビングの向こうの個室から出て来た。
朝起きて、普通に顔を洗うのだが、俺は生活魔法で水を出して使っていた。
しかし、サラーナやターニャなど生活魔法を使えない者もいることに気付いた。
いや、使える方が少ない。どうやらアリマとニルしか使えないようだ。
ああ、上流階級の人は、顔を洗う水もメイドが用意してくれるというわけか。
アリマはメイドだし、ニルは一般人でなんでも自分でやるしかないから生活魔法が使えるという事か。

「うーん。生活魔法で水は出せるけど、その使った後の汚れた水を流す先が遺跡の中というのは気分が悪いな」

 半地下の住居は魔物からは安全だが、上下水道を導入するには不便だった。
当たり前だが、水は上から下に流れる。
半地下だと、水が戻って来てしまう。

「人数も増えたし、本格的に地上に屋敷を建てるか」

 俺はこの農園での生活基盤を充実させることを決意した。
屋敷はもちろんだが、全員分の個室に複数のトイレ、大浴場を作らなければならない。
そうトイレ。人が増えて一番困るのがトイレなのだ。
だいたい人というのは決まった時間に便意をもよおすことが多い。
その時間が重なり、トイレが1つなんてことになると由々しき事態となる。

 俺だけなら外に掘った穴の上に板を渡してという原始的なトイレで良かったのだが、それを女性に使用させるなど言語道断だろう。
俺は元世界の知識を総動員して温水シャワートイレを完成させようと決意した。


 まず屋敷を地上に建てるには、農園の護りが手薄だと感じた俺は、塀と堀の拡張を行った。
ここらへんの魔物の大きさを鑑みて塀の高さは8m、厚みも3mとし、突進されても簡単には抜けないようにした。
空堀の深さも7mに拡張したので、魔物は実質15mの高さを超える必要があった。
堀の幅も5mとった。既に立派な城のお堀と言えよう。
後に畑を拡張するための余裕も確保しておく。

 そして丘となっていた遺跡入り口を崩し、そこに土魔法で屋敷の壁を立ち上げた。
所謂ツーバイフォー住宅というやつで、壁を組んだブロックを合わせることで強度を高めるという建物とした。
その内装には木材を張り付け、木の温もりのある屋敷になった。
一階はキッチンダイニングとリビング、風呂場、洗面トイレ×3、広間、応接室、倉庫。
地下が遺跡にある俺の主寝室。二階に個人の部屋十部屋と洗面トイレ×3という間取りだ。
なぜか人数分の五部屋ではなく、十部屋作らされたのは何の意味があるのだろうか?

 そう。五人。
俺は放牧民三人を奴隷として買った翌日、一緒に紹介された残りの二人も奴隷商から連れてきてしまったのだ。
それがナランとニルだ。二人とも800DGで引き取った。
この値段がサラーナより高かったのが、ちょっと問題だった。
サラーナが俺のねぐらに忍び込んだのも、この値段が影響しているっぽい。
金額で人の価値が決まるわけではないが、少し肩身が狭かったらしい。

 ちなみに二人の身体情報はこれ。

ナラン:人 17歳 茶色のポニーテール 黒眼 褐色肌 155cm Bカップ
ニル:人 15歳 銀色のサイドテール 薄い赤眼 薄い褐色肌 146cm Aカップ

 これで奴隷商ダンキンに紹介された放牧民奴隷五人全員を引き取ったことになる。
俺は孤独が寂しかったのだろうか?
嫁になると息巻いて、好意を寄せてくれる女性の存在が嬉しかったのだろか?
純粋な好意をぶつけられ、その女性が悲しむところを見たくない、その思いで二人も引き取ってしまったのだろうか?
ハーレム状態という異世界ならではの非現実的な状況に溺れてしまったのだろうか?
結果はこの通り。大きな責任を抱え、それが少し嬉しくもあった。

 ハーレムといえば個人の趣味に走って様々な種族を揃えるものなのかもしれない。
だが、俺のように放牧民、しかも同族ばっかり五人集めるって、どうなんだろう?
きっかけが家畜の世話が出来るという条件だっただけで、他のことに秀でた別の種族の女性を連れて来た方が良かったのではないかとも思う。
まあ全員が良好な関係で文化的な諍いが無い分、やりやすくもあるのかもしれない。
もちろん彼女たちを性奴隷として扱うつもりは無い。
悲しいかな、俺は鈍感系主人公として我慢し続けるしかないのだ。
でも、もし本当の愛の形が彼女たち・・と築けたのなら、そこは自然の成り行きで奥さんにしたい。かな?

 放牧民のキルト族と言われると、俺にはモンゴルの遊牧民のように、小さな部族単位で放牧をして彷徨さまよって暮らしているのかと思っていた。
しかし、実態は全然違うらしい。
先祖が放牧民であり、生業も放牧なのでそう名乗っているだけで、定住して都市を築くほどには文明的らしい。
サラーナも王城に住んでいたらしいし、キルト族が国家として覇権をなしていたのは間違いない。
そんな王宮に詰めていたような三人に家畜の世話をさせるのもどうかと思ったのも、庶民出身らしい二人を追加しようとした理由なのかもしれない。

 そんなことをつらつら考えながら作業を進める。
屋敷の外観は出来たので、内装工事に入る。
まず水回りをどうにかする。
土魔法は便利で、一度完成した建物に穴をあけて下水管を通すなんて作業が簡単に出来る。
下水は一度屋敷の外の浄化槽に溜めて、何等かの方法で浄化してから堀にでも流そうかと思っている。

「下水の浄化方法か……。ああ、こんな時こそ魔道具の出番なのね」

 魔道具は使い捨ての簡単な魔法の道具のことを指す。
魔導の極が浄化方法を教えてくれ、生産の極が属性石の存在を教えてくれた。
属性石は魔石から加工し、そこに単一属性の魔法を記述し、その属性の仕事をさせるという使い捨ての魔道具となる。
元々各種属性に特化した属性石があり、その属性の魔法に長けた性能を発揮する。
高価な魔宝石を使う必要がないので安価であることと、水や火(熱)を出すのはお手の物という便利グッズだ。
その属性石を用意する。これは魔物の魔石から作られるのが一般的だそうなのだが……。
俺は土魔法によりただの石から属性石が創れてしまった。
それが異常なことだと知らずに……。

 水の属性石は水関係の魔法に特化して力を発揮する。
この場合は、【浄化】の魔法を付与することで、属性石の中の魔力を消費しつつ水を浄化してくれる。
使い捨てなので、定期的に浄化槽に投入してやれば、これで下水問題は解決だ。


 俺の作業中、各々には農園の作業を振り分けた。
ターニャとナランは主に家畜の世話。
アリマは食事の支度と服飾仕事。
彼女は【裁縫】のスキル持ちで街で買ってきた布でいろいろ作ってくれている。
ニルは果樹園の管理とワイバーンの世話。
サラーナは俺の横だ。姫だからか?
うん。サラーナは仕事をしない。
いや俺の横にはべるのが仕事なのか?
元王家の姫なので、見目麗しく気品もあるが、ここ農園だぞ?

 食事休憩はあったが、作業に没頭しているといつのまにか日が傾いていた。
今日は畑仕事もせずに建築作業をしてしまった。
とりあえず、安全の確保と風雨を凌げる屋敷は出来た。
トイレや風呂、上水道がまだだが、寝るのには充分な出来だ。

「みんなお待たせ。未完成だけど寝るには充分なはず」

 キッチンも出来ていなかったので、以前と同じ魔導具のコンロを出して調理、皆で夕食を楽しんで解散。
各々が新しくなった自室へと消えた。

「おい、サラーナ。なんで一緒に来る?」

 俺の後ろをサラーナが付いて来る。

「わらわはあるじの嫁になった(いつだよ!)
あるじと同衾するのは嫁の務めだ」

 俺は頭を抱えた。いつ嫁になった?
あれか、貴族の姫が男と同衾したからにはもうお嫁にいけないってやつか。
責任とってねって、俺はまだ何もしてないんだぞ!
いや、裸は見ちゃったか。
どうすればいいの?
サラーナは美人なんだよ?
その美人が全裸で迫って来るんだよ?
俺もそろそろ我慢の限界なんですけど。

「一緒に寝るのは許すけど、頼むからどうか服を着てください」

 いつか、サラーナを本当の奥さんと呼べる日が来るのだろうか?
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