ここ掘れわんわんから始まる異世界生活―陸上戦艦なにそれ?―

北京犬(英)

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第七章 再びスローライフ

140 交渉1

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 ダンキンが北の峡谷割譲の条件を持ち帰ってしばらくすると、リーンクロス公爵がワイバーン便でやって来た。
一応、リーンワース王国から陸上戦艦の魔導通信機で訪問のお伺いが来ていたため、俺もあの話だろうと待ち受けていたところだ。
護衛の騎士が乗るワイバーン含めて5騎による訪問で、魔導レーダーにしっかり捉えられていたので、直ぐに来訪がわかった。
ここでも【探知】の魔導具が有効だった。
現世のように敵味方識別装置が生物であるワイバーンにあるわけがないので、これが敵国による奇襲だった場合に対応が後手に回りかねない。
本来なら領空に侵入した不明飛翔体にこちらからもスクランブルをかけて対応すべきなんだろうけど、いまズイオウ領は圧倒的に人手が足りない。
ミーナの墳進式戦闘機隊は全てザールに出払っている。
その敵味方識別が、陽菜ひなに搭載した【探知】の魔導具で可能だった。
魔導レーダーのパッシブモードは魔力を捉えることで機能しているため、その捉えた魔力で個人を識別可能なようだ。
魔導の極さんによると、魔力には個々に固有の波長があるらしく、それを元に個人が特定され、【探知】によってアカシックレコードが検索されて敵対的であるかどうかの識別が出来るということらしい。

 【探知】によるとリーンクロス公爵の友好度は少し薄い青――友好度中――だった。
公爵の爺さんは、リーンワース王国の益になるなら何だって利用するというスタンスの御仁だ。
今のところ俺やキルナール王国に害意は無いと見られる。
ただ、俺がリーンワース王国の益にならないと判断すれば、どう転ぶかわからない人ではある。
今後も【探知】で注意深く観察して行こう。
他人の内心が神の視点で読めるというのも便利ではあるが、現世では倫理的にアウトだろうな。
護衛の騎士9人――ワイバーンに二人乗りで来た――は、もう少し薄い青――友好度低寄りの中――。
あくまでも公爵の護衛だから、誰でも疑ってかかるのは仕事上必要だろうから、こんなもんかもしれない。
今すぐ俺を襲おうと考えていないというか頭の片隅にもないから青になっている。
安心して対面出来るというものだ。

「婿殿、暫くぶりであったな」

 リーンクロス公爵はリーンワース王家の血筋だ。
現リーンワース王の叔父にあたる人物だと聞いている。
俺はリーンワース王の娘を嫁に貰っているので、公爵は俺からも義理の大叔父ということになる。
なので、一国――いや三国あるか――の王となっている俺を婿殿と呼んだのだろう。
これは国と国との会談ではなく、親戚の間の会談だと持って行きたいのだろう。

「大叔父殿もご健勝で何よりです」

 仕方ない。こちらも親戚として対応しよう。
おそらく親戚なんだから修理代どうにかならないかという話だろう。

「シンシアとクラリスは元気かの?
クラリスは御子を産んだのであろう?」

 おお、本当に親戚の爺ちゃんとの会話だ。
シンシアはリーンワース王国第6王女でクラリスは第7王女なんだよな。
あれ? 俺って政略結婚でリーンワース王国と深い仲になってるのか。
2人とはラブラブ(死語)なので、ついつい忘れがちになってしまう。

「はい。元気な男の子を産みました。
名前はクリスと名付けました。
シンシアももうそろそろ産まれる予定です」

 リーンクロス公爵は親戚の良い爺さんといった笑顔で喜んでいる。
これは本気で喜んでもらっていると見ていいのかな?

「そうか。そうか。おい」

 リーンクロス公爵が、後ろに控えていた護衛の騎士に何かを持ってくるように促す。
騎士が持って来たのは布袋に入った赤子の産着だった。

「祝いと言っては見劣りするが、何分ワイバーンで運べる荷は少なくての。
他は後で陸送させるつもりだ」

 そういえば、クラリスがリーンワース王国に里帰りしていた時に、リーンワース王からはフライングで祝いをもらっていたな。
まだ生まれてないのに気が早い義父だと思ったものだ。

「ありがとうごさいます。
何分、出が平民ゆえ、仕来たりに疎いところがあります。
至らぬ点はご指導いただけると幸いです」

「うむ」

 そんな益体ない世間話がしばらく続き、俺とリーンワース王は親戚なんだと強く印象付けられた後、いよいよ本題に入った。

「さて、北の峡谷割譲の話なのじゃが」

 来たー。ダンキンに持ち帰ってもらった条件をリーンワース王国がどうするつもりなのか、いよいよ正念場だ。
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