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第六章 旧領土奪還編

131 対ボルダード王国1

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 ボルテア公国と縁戚関係であるボルダード王国は、地域の有力国でありながら、いち早く北の帝国に従属することを選んだ国だった。
なぜその道を選んだのか?
それは北の帝国に軍事力で叶わないことはもちろんだが、ボルダード王に勇者の血が少なからず引き継がれていたからだと言われている。
北の帝国は勇者の血筋を優遇する政策をとり、大陸から勇者の血筋の者を探し出し、自らの陣営に引き込むということを国是として行って来た。
そこに勇者の血を引く王を頂いた国があれば、友好国としたいというのは当然の帰結だっただろう。
だが、ボルダード王に引き継がれた勇者の痕跡は目の色が黒という特徴だけで、北の帝国の皇族からは軽く見られ属国の王としてしか遇されることはなかった。
しかもボルダード王の縁戚筋であるボルテア公王は一切の勇者的特徴を備えていなかったため勇者の血は薄いとみなされていた。
それでも北の帝国に与することがボルダード王国にとっては都合が良かったのだろう。
ボルダード王国は北の帝国の属国としてそこそこ旨い汁を吸っていた。

「なるほどね、そんな理由で北の帝国に与したなら、相手が俺らでも王国を維持するために不可侵条約には調印してもらえるかもな」

 問題は現ボルダード王とボルテア七世が縁戚関係であり、そのボルテア七世が死んだ経緯に俺が関わっていると知られたらどうなるのかということだ。
陸上戦艦の戦闘力を見せつけて脅迫すればいいだけかもしれないが、恨みが残ればいつか諍いが起きる。
いつまでも陸上戦艦で脅し続けるわけにもいかない。
恐怖では人は縛れない。困ったものだ。


 エリュシオンをボルダード王国の王都に向かわせるため、ボルテア公国を西から東に横断すると、国境の街ファリバルに到着した。
しかし、ここは兄弟国、ここが国境であるという事だけで、検問の手続きも何もなくボルダード王国に入国出来るようだ。
国境を守る軍隊の駐留すら無かった。
おそらくボルテア公国側からの敵の侵攻は、ボルテア公国で対処されて、何かあれば連絡が行くようになっているのだろう。
今回、俺たちがボルダード王国に向かうことは、公王崩御の知らせとともに行っているはずだが、何の対処もなされていなかった。

「これは歓迎されているのか、拒絶されているのか判断に迷うな」

 いや、ボルダード王国側も手続きに時間がかかっているのかもしれない。
使者が来るにしてもそんなに早く移動出来ないのがこの世界だ。
王都まで進出してしまうか、どこかで待つか、判断に悩む。

「待つなら、この国境の街が最適かな?
よし、ここで少し観光するか」

 知らない国の文化を体験するのもいいかもしれない。


◇  ◇  ◇  ◇  ◆


 ボルテア公国とボルダード王国の国境の街ファリバルで俺たちはボルダード王国の出方を待つことにした。
その間、領地回復に支障が出ないように第2戦隊に旧ルナトーク王国の領地回復を、第3戦隊に旧ザール連合国の領地回復を命じた。
旧キルト王国の現状を鑑みるに、周辺国が好き勝手している可能性が高いからだ。
時間が経てば経つほど、北の帝国というたがが外れた連中が、状況を悪くしていく未来しか想像できなかったのだ。
その思えるほど、この世界の支配者層の民度は低いようだ。
まあ、日本の戦国時代も隙を見せたら領地を刈り取られるのが当たり前だったみたいだけど。
姫を娶り玉璽を預かったからには、少なくともキルト、ルナトーク、ザールの三国の民の平和は取り戻す。
それが俺が王となった使命だ。

 その点、我がキルナール王国はリーンワース王国としか隣接していないので、なんとか外交でどうにかなっている。
まあ、腹の内は良くわからないけど、少なくとも今は姫も娶って仲良くやっている……。つもりだ。


『こちら第2戦隊、ウェイデンです。
ルナトーク王国の領地回復に向かいましたが、彼の地には占領軍がいました。
攻撃を受けましたので、これを陸上戦艦で撃破。
領地を回復しました』

 え? 武力でやっちゃんたんだ。
まあ、ウェイデン伯爵からしたら占領軍は自国に入り込んだ侵略者だからな。
その方法が一番簡単だし早いんだよね。
この世界は、力があれば使うものなんだろうな。
なるべく戦わないようになんて回りくどい事をしているのは俺だけなのかもしれない。
となると、ザール連合国に向かったミーナの第3戦隊も同じ感じか。
まあ、キルト王国の方もある意味やっちゃってるからなぁ。
ボルダード王国に来ているのは、ボルテア公国と縁戚関係だから面倒事にならないようにだし。
ここで話が通ればキルト王国の領土問題は解決する。
あ、旧ガイアベザル帝国領はどうするか。
二級帝国民だった連中が高圧的な態度だったから後々トラブルになりそうなんだよな。


◇  ◇  ◇  ◆  ◇


 いつまで経ってもボルダード王国の動きは無かった。
これは待っていてもどうにもならないと判断し、ボルダード王国の王都に進出することにした。
その間、第3戦隊からはザール連合国内のガルフ国領回復の連絡があった。
ザール連合国はその名の通り、連合国家だったため、国によって北の帝国との接し方が違っていた。
その中の北の帝国寄りだった国が連合国家から分離し好き勝手を始めていたようだ。
ザール王国というまとめ役が滅んだため、ザールは連合国家の体をなさなくなっていたんだそうだ。
まさに群雄割拠の世界?
そのため、第3戦隊はガルフ国とザール王国の領地回復のみを目指し一先ず獣人の国ガルフ国領を回復し拠点にしたということらしい。
ザールは玉璽があれば国の長に返り咲けるというような甘い所ではないみたいだ。

 さて、陸上戦艦の速度だと、それほど時も経たずにボルダード王国の王都までやって来れた。
北の帝国が電撃戦で王都を落とし国を支配する作戦を繰り返していたが、それはある意味陸上戦艦運用の基本戦略として理屈に適っていたようだ。
だが、俺たちが国境の街でボルダード王国の出方を待っていたせいで、その速度の利点を失っていた。
王都は夥しい数の魔物により囲まれていた。
それも機械強化されたMAOシステムによる魔物たちだった。
ボルダード王国は、MAOシステムを作った魔王勇者の末裔だったのだ。
北の帝国に恭順するふりをして戦力を増強していたのだろうか。
もしかすると、北の帝国を滅ぼしたのも予定通りだったのかもしれない。
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