ここ掘れわんわんから始まる異世界生活―陸上戦艦なにそれ?―

北京犬(英)

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第三章 北の帝国戦役編

116 増援

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 1日半後、第13ドックにてザーラシアとレオパルド、ラーケンの修理が完了した。
俺は直ぐに第13ドックへと転移し、3艦をインベントリに引き取ると直ぐにルドヴェガース要塞に引き返し配備した。
これでこちらの陸上戦艦は5艦となり、現時点での北の帝国との艦船数は5:5になった。
ただし、こちらの魔導砲はラーケンが使えないがエルシークが2門搭載なので5門となり、北の帝国は1門で砲撃能力は圧倒的に有利になった。
ラーケンの魔導砲はダミーだが、敵にそれがわかるわけがないので抑止力としては有効だろう。
その代わりラーケンの前甲板、魔導砲塔の前方には大型重力加速砲を装備して攻撃力アップをはかっている。
ラーケンの魔導砲は明後日になれば完成するので、また第13ドックに取りに行ってここで換装する予定だ。
大型重力加速砲は、そのまま副砲として残しても良いだろう。

 北の峡谷には相変わらず5艦の陸上戦艦が留まっており、俺たちが山脈の北側へと侵入することを阻んでいる。
陸上戦艦の運用に一日の長のある北の帝国は、さすがに陸上戦艦の戦闘力が自らに向いた時の恐怖を知っているようだ。
これは明らかに時間稼ぎだ。
戦略上、時間しか手に入れる事が出来ないのだから。
北の帝国の増援がやって来る前になんとかしたいところだ。

 光魔法の魔導砲は直線的にしか撃てないので、地平線の先の敵艦を撃つことは出来ない。
この世界は「亀の上に乗った平坦な円形の地面で、地の果てでは海が滝となって落ちている」なんてことはなく、普通に球体の惑星の上だ。
球体であるがために、地平線の先は球体のカーブの先となり、直接見ることも直線的な射線の魔導砲を当てることも出来ない。
陸上戦艦が地面から20m浮上していて、艦底から上面の魔導砲までの高さが10mあるとする。
単純計算だが、この魔導砲の最大射程距離は惑星の大きさが地球と同じなら19.5kmということになる。
だが、この惑星の大きさがピッタリ地球と同じわけがないだろう。
なので実測してみた。必殺武器の最大射程を知るのは陸上戦艦の運用上必須だからね。
すると驚くことに最大射程距離の誤差は0.1km未満、ほぼ地球と同じだと判明した。
そういや、ここは神様が選んだ俺が指定した条件に都合の良い世界だった。
長さの単位も地球のメートル法と同等――これは惑星の大きさから単位を決めているからあれだが、自分を基準に考えても同じような長さだった――と都合が良かったし、時間も1日24時間とか重力も1Gだとか、この惑星が地球と同等であるための条件が整い過ぎていた。
今までも艦の長さとかをmで表現していて何ら問題がなかったのもこのせいだ。
この世界の人が自分たちの単位で1なんとかと言ったものが、言語の極で自動翻訳されて1.164mなんて聞こえても迷惑だからね。
お互いそんな細かい数字を言い合っていたらストレスが溜まるし、俺が変人だと思われる。

 つまり、相手が標準的な高さ――20m――に浮上している陸上戦艦であれば、魔導砲の最大射程距離は20kmぐらいということになる。
戦艦大和の主砲の最大射程距離は42kmと言われている。
それと比べたらおかしいと思うかもしれないが、これは砲弾が放物線の弾道を描いて水平線の彼方に届くからだ。

 ちなみに魔導砲を200km先の敵に向けて撃ったとすると、手前の地面に穴をあけることになる。
そのエネルギーが地面を掘り進めるほどなら、200km先の地面まで穴を開けて敵に当たるという絵面になる。
海上なら海の中からという絵面だ。
重力加速砲はその弾速が破壊力の決め手なので、弾道弾で当てるには速度を殺して調節するしかない。
これは重力加速砲としての速度による威力が期待できないので、蒸気砲と同じ爆裂弾を撃ち出すことになる。
それでは蒸気砲より射程距離が長くなるという利点しか生み出さない。

 他にも魔導砲の射程距離を延ばす方法はある。
陸上戦艦が高度を上げればいい。
例えば高度1000mまで浮上したとする。
すると最大射程距離は113kmにも達する。
まあ光魔法の威力が減衰してその先まで破壊力が維持されるかは疑問なんだけどね。
だが、これは相手からも見えていて、相手からも魔導砲で撃たれるということになる。
無謀な標的になるのでは意味がない。

 まあ、なんでこんなことを考えているかというと、北の帝国の陸上戦艦の見えない所――地平線の彼方――からこちらの攻撃を当てられないかということを考えていたわけだ。
敵旗艦の魔導砲が怖いなら、当たらない場所から撃てればいいという考えだ。
有効な結論は重力加速砲による爆裂弾の投射だけ。
艦首をこちらに向けている敵艦に対しては、弱点の側面砲の砲架が狙えないので効果は薄そうだった。

 残る手立ては防御力のアップと、光の屈折かな。
防御力をアップした艦を盾にしてその後ろから出つつ魔導砲を撃ち込む。
これは北の帝国がやっている4艦を盾にする方法に近い。
要検討かな。どれだけ防御力がアップできるかは第13ドックで要相談だな。
次に光の屈折。水蒸気では拡散して威力が落ちるから、水塊や空気によるレンズ効果で曲げることになる。
敵艦との間の中継点的な場所に魔法で巨大水レンズを作る?
誰がやるの? 俺? 魔法の制御も難しそうだし、俺が敵の射程圏に入るのでは本末転倒だ。
うーん。ガイア帝国では魔導砲のみで戦っていたみたいだけど、防御や射程の不利はどうしていたんだろうか?
謎だ。

 第13ドックでそんな疑問を零したところ、セバスチャンから驚くべき事実を告げられた。
魔導砲は光魔法だけでなく、火魔法も風魔法も水魔法も発射出来ると。
火魔法ならば放物線を描いて爆裂弾を発射できるらしい。
それと射程外を攻撃したいならば、艦載機を使ってミサイルで陸上戦艦を撃沈出来ると……。

「そういや、戦闘機と攻撃機をキルトタルに搭載していたんだったな……」

 対艦ミサイルは第13ドックで製造されていた。
確かに航空攻撃ならば、アウトレンジから対艦ミサイルで攻撃出来る。
ポイント11が役立たずだったので、まさかここではまだ対艦ミサイルが製造出来るなんて思ってもいなかったのだ。
陸上戦艦の新造も出来るなら艦載機やそのオプション兵器だって造れて当然だったよ。
ん? 仮想的に陸上戦艦は想定されていなかったはずなのに、対ミサイルとはこれいかに?
陸上戦艦に匹敵する何らかの巨大な敵がいたということなんだろうか?
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