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第三章 北の帝国戦役編

100 対艦戦闘

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 ガイアベザル帝国の陸上戦艦ガルムドの艦橋では、陸上戦艦との予期せぬ遭遇に騒然としていた。

「艦影見ゆ! 11時の方向、ニムルドに酷似!」

 鷹の目スキルを持つ1級帝国民の見張り員が叫ぶ。

「ニムルドだと? まさかアギト殿下か?」

 そんなはずはないと思いながらも、上級帝国民であるガルムド艦長ゲーヘルトは呟く。

 ちなみに上級帝国民とは黒髪黒目という勇者の血を色濃く持つ者たちのことだ。
1級帝国民は黒髪か黒目の特徴を引き継いだが勇者の血は混血により薄まったと認定された者をいう。
2級帝国民は勇者の血を引き継いでいない帝国の協力者だ。
ガイアベザル帝国では、この他の人々は奴隷としてしか存在を許されていない。
この陸上戦艦に配属されるのは1級帝国民以上と決まっている。

「はい、いいえ。舷側に見慣れない意匠があります。
艦首艦尾には同じ意匠の旗を掲揚しております」

「つまり、ニムルドは敵に鹵獲されたということだな?」

 ゲーヘルトは、帝国評議会の裁可を受けた調査兵団の命令により謎の信号の調査に赴いていた。
この謎の信号はガイアベザル帝国が所有権を主張しているガイア帝国の遺跡の特徴であり、その奪取は皇帝陛下よりの至上命令だった。
例えその所在が他国の領土内であったとしてもだ。

「おそらく、あの艦も遺跡の奪取に来たのだろう。
我々と利害を異にする存在というわけですな」

 横合いから太った男――上級帝国民の副官ヘルゲ――が口をはさんだ。
これが1級帝国民だったらどんな罰を課せられるかわからない行動だ。
しかしヘルゲは上級帝国民のため何もお咎めは無い。
また艦長のサポートとして、そのような進言を口にする権限があった。
その副官の言に艦長のゲーヘルトは頷き、命令を発した。

「戦闘準備だ。敵の進路に合わせ同航戦で打ち取る!」

「了解。
左砲戦用意! 射程内まで接近し右反転、同航戦を行う!」

 ガルムドの艦橋内にヘルゲの声が響き渡った。
その命令が伝声管により次々と復唱伝達されていく。


◇  ◇  ◇  ◇  ◆


 同時刻、俺は陸上戦艦ルナワルド(旧ニムルド)の艦橋で未確認艦の存在を把握していた。

『未確認艦が進路変更。速度を上げました』

『敵対行動か?』

 しまった。この世界での交戦規定が全くわからない。
領土侵犯なら攻撃しても構わないそうだけど、未開の地――一応蛮族の土地か―では、問答無用で攻撃出来そうもない。
専守防衛で撃たれるまで撃てないなら、こちらの兵器の利点を生かせない。
陸上戦艦なんてものを運用しているのは、この大陸では北の帝国と陸上輸送艦を改修したリーンワース王国しかない。
リーンワース王国の艦なら俺が作った蒸気砲を搭載しているので見分けがつくが、北の帝国だと思って攻撃して、もし万が一他の第三国の艦だった場合、外交的にいろいろ拙いことになる。
ようするに、相手が交戦国である北の帝国だと判れば事は簡単なのだ……。

「リーンワース王国の艦には国旗掲揚と舷側への国籍マーク描き込みをしてもらおう」

 俺はリーンワース王国にペンキを売らないとと頭の隅にメモをした。 

『未確認艦との距離1km』

 こちらの有効射程内にはとっくに入っている。
しかし、敵と認定出来ない限り、こちらから手を出すわけにはいかない。

『未確認艦進路変更、我が艦と同航』

 友好のランデブー航行?
そんなわけないか。

 未確認艦の全長はルナワルドより若干小さいようだ。
およそ70mぐらいか。
舷側には火薬砲を展開する穴がある。
これは北の帝国の陸上戦艦の特徴だ。
独自兵器を搭載するために元々無い穴を舷側に開けているのだ。

 ちなみにルナワルドの舷側砲用開口部は側面装甲が開閉式だ。
弱点を晒す意味が無いからね。
まあ、北の帝国には側面装甲に穴を開けるまでしか出来なかったんだろうけどね。
リーンワース王国の陸上輸送艦は甲板上に蒸気砲を置いている。
舷側に穴、そこに火薬砲となると北の帝国の陸上戦艦である可能性は飛躍的に上がる。
しかし、ルナワルドのように誰かが鹵獲して使っていないとも限らない。
万に一つの可能性があるなら手を出せないのは俺が日本人であるさがか。

 識別マークも国旗も無し。
陸上戦艦を持っているのは自分達のガイアベザル帝国だけという驕りだろうか?
ああ、この世界には俺が創るまで識別マークを描くペンキが無かったんだった。
だが、旗とそれを染める染料ぐらいはあるよね?
旗を掲げる文化も必要もないということか?

『仕方ない。未確認艦に一発撃たせる。
撃たれたら遠慮はいらない。全砲門で反撃せよ!』

 俺は専守防衛という行動しかとりようがなかった。
なんて日本人的なんだろう。
問答無用で撃てればどれだけ楽だったか……。

『魔道通信で所属を誰何! 目的を聞け!』

『魔道通信、繋がりません』

 魔道通信も使えないのか……。
案外北の帝国の技術力も高くはないようだ。
しかし、魔導通信機が使えないと相手の目的を聞いたり、接近に対する警告も出来やしない。

 その時、未確認艦の舷側の穴から大砲の砲身がにゅっと突き出される。

「ああ、敵確定だな。撃つ気満々じゃないか。
宣戦布告も名乗りも無いんだな」

 やあやあ我こそはじゃないけど中世の騎士なら正々堂々と名乗りを上げてから戦争を始めるというのも古式ゆかしき文化の一つだ。
そういや北の帝国は侵略に陸上戦艦を使った電撃戦をやってたんだった。
どうも北の帝国だけ、この中世なみの世界では異質だな。
奴ら北の帝国にとって、自分たち以外が運用する陸上戦艦は敵か。
向こうは敵味方の識別が簡単でいいな。

『未確認艦発砲! 直撃コース。敵艦と確定』

「衝撃に備えよ」『こちらも射撃開始だ!』

 前の命令は乗員へ、後の命令はルナワルドの電脳を通してゴーレムへの命令だ。
奴ら北の帝国は警告の威嚇射撃もしないようだ。
俺の命令で舷側の開口部が開かれ、ゴーレム砲台が射撃を開始する。
ゴーレム照準の蒸気砲と重力加速砲だ。
射撃終了と同時に開口部が閉じられる。

「プチ、俺の上着の中へ」

 プチの安全確保をしようと呼びかける。

「わん?(ほえ?)」

 プチは呑気にレビテーションで浮いていた。
カワイイ。これなら強い衝撃も大丈夫そうだ。

 敵艦が発射した火薬砲の砲弾がルナワルドに当たる前に、こちらの重力加速砲の弾が敵艦の側面装甲に突き刺さる。
続いて蒸気砲の爆裂弾が舷側の穴から飛び込み爆裂魔法の爆発が起こる。
その爆発で敵艦に防御魔法陣が展開される。

 その成果を見た後で敵艦の砲弾がルナワルドの防御魔法陣に当たり爆発する。
どうやらこちらが後から発射した砲弾の速度が、敵艦の砲弾の速度を上回ってしまったらしい。
それにしても、敵艦の砲弾の爆発力が上がっている気がする。
もしかして、砲弾の速度も上がっていたのかも。
何らかの改良が施されている?
要調査だな。

 蒸気砲の目標は敵艦の全砲門。そこに引き出された火薬砲全てに命中、破壊した。
重力加速砲の目標は魔力ストレージから重力制御装置へのエネルギー伝送管だ。
重力制御装置への魔力が止まれば陸上戦艦は落ちる。
ニムルドを修理したことにより、同型艦でなくても装置の配置は大体把握出来ている。

 その結果、敵艦は二つある重力制御装置のうち後部の一つが機能停止に陥り、艦尾から落下しはじめた。
時々舷側から爆発の煙が上がる。
おそらく野積みされていた砲弾が転げ落ちて爆発したのだろう。
まったく、爆裂弾をそこらへんに転がしておくからそうなる。
ついに艦尾が墜落。それでも前進しているので艦尾が地面をがりがりと削る。

 仕方ない。

『重力加速砲、敵艦重力制御装置1番のエネルギー伝送管に照準、撃て!』

 ブンという音と共に重力加速砲が発射される。
敵艦は前部の重力制御装置も機能を失い一気に墜落した。
このまま魔力ストレージから魔力が漏れれば魔力バーストが起きかねない。
敵艦の電脳が魔導機関と魔力ストレージを自動閉鎖してくれればいいのだが……。

 しばらく観察するも、魔力バーストによる爆発は起こらなかった。
攻撃範囲を最小限に抑えたので、自動閉鎖なりの安全装置が作動したのだろう。
敵艦は沈黙、これ以上の戦闘行動は不能なようだ。

 さて、敵の抵抗はこれで終わってくれるのだろうか?
リグルドの時は一部乗組員が生き残ってラスコー級戦車を持ち出したんだよな。
白兵戦とか勘弁してほしい。
捕虜を取るなんて面倒だからな。もしそうなったらどうしよう。
それにこちらの騎士は30人しかいない。
この人数で対処出来るのだろうか?
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