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第三章 北の帝国戦役編

099 第13ドック1

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 ルナワルドを昼夜問わず1日中航行させ続けて4日目(1日は王都滞在)の朝、いよいよ第13ドックがある蛮族が治めるという未開の地までやって来た。
ここは王都の南西遥か先、西の大河を越えたさらに西の地だった。
リーンワース王国からは西の大河の対岸であるため、わざわざ統治することなく放置されていた荒れ地だ。
蛮族という敵対勢力がいる場所で、大河に隔てられた飛び地を統治し続けるのは、人的物的両面で負担が大きいということなのだろう。

 俺は毎朝の日課で農園の屋敷キルトタルへと転移し、アイにズイオウ領に何か懸案事項が発生していないか等の報告を受けていた。
まあ、何かあれば魔導通信で緊急連絡することも出来るのだが、そこまで行かないちょっとしたトラブルはこの朝の報告だけで済ませていた。

「以上、領地の運営は順調です。
解放奴隷も到着していませんので、ご主人様必須の仕事は発生しておりません」

 アイからの問題ない旨の報告を受け、俺は早々にルナワルドに帰ることにした。

「わんわーん!(ご主じーーん!)」

 突然茶色い塊が俺の胸に飛び込んで来たと思ったらプチだった。

「わん、わんわん。わん(ご主人、ベッドにいない。プチ寂しい)」

 ああ、そうか。いつもプチは俺の枕元で寝ていた。
それがここ4日は一緒に寝ていなかった。

「そうか、そうか。寂しかったのか」

 俺はプチを延々とモフモフして可愛がった。

「わん、わーん(ご主人。嬉しい)」

 プチは尻尾をブンブンして喜んでいる。
俺はプチの体をワシャワシャしてやる。

「でも、プチには羊や牛の世話があるから、残すしかなかったんだよ」

 プチは俺の言葉に困り顔だ。

「わんわん。わわわん(プチ一緒に行く。嫌な臭いする)」

 嫌な臭い? いやこれは本当の臭いじゃなくて、「悪い予感がする」ってことだろうか?

「しょうがないな。一緒に行くか」

 しかたない。俺はプチを連れて行くことにした。

「わぉーん(わーい)」

 プチの尻尾が一際ブンブンと振られる。

「すまない。ナラン。プチが一緒に行きたいそうだ。
プチの分も家畜の世話を頼む」

「わかりました。
プチちゃん、大丈夫だから行ってきなさい」

 プチはナランの言葉はわからないけど、言っている雰囲気はわかるようで、喜んでいる。

「わんわん、わわん(ありがと。ナラン)」

 さてと、ルナワルドに戻るか。
俺はプチを抱いてルナワルドへと転移した。


◇  ◇  ◇  ◇  ◆


「帰ったぞ。プチも一緒だ」

 艦首の魔法陣から中央塔に入り、三階に上がるとティアが待っていた。

「わわーん(ティアだー)」

「お帰りなさいませ。プチ様もようこそいらっしゃいました」

 プチを離してやると、プチはティアの周りをぐるぐる走り回る。
丸4日会わなかっただけだが、再会が殊の外嬉しいようだ。

「プチちゃん、おやつ食べる?」

「わわん! わんわん(おやつ! 食べる)」

 プチは3文字ぐらいの単語は人語を理解出来るのだ。
さてプチの世話はティアに任せて任務に戻るか。
俺はコンソール前の椅子艦長席に座ると、進捗を確認した。

『システムコンソール、第13ドックは見つかったか?』

 俺の質問にシステムコンソールからは男性声のシステム音声が流れて来る。

『誘導ビーコンを確認。第13ドックは、1時の方向直ぐ近くです』

『そうか、蛮族の地に入ってから案外近かったな』

『しかし長年の放置により入り口が確認出来ません』

 ああ、長年の放置で埋まってるのかもしれないな。
どうしよう。魔法で掘るか?
そう思っていた所、システムコンソールが警報を鳴らした。

『未確認戦闘艦接近。2時の方向、距離20kmです』

 未確認戦闘艦?
この世界で陸上戦艦と言ったら、俺のところか北の帝国のものだろう。
リーンワース王国が所有しているのは陸上輸送艦であり戦闘艦ではない。
蛮族の文明度は低いそうなので、陸上戦艦など持っていないし運用することも出来ないだろう。

『なんでこんな所に陸上戦艦が?』

『第13ドックのビーコンを受信されたと思われます』

 ああ、そうか。俺達を誘導するためのビーコンが、北の帝国の陸上戦艦も呼び寄せたということか。
どちらも技術体系が全く同じ旧ガイア帝国の遺物だからな。
方向的に北の山脈の西側を迂回して来たな。
唯一の近道である峡谷は、リーンワース王国が蒸気砲を装備した要塞で守っていて、今は通行できないからね。

『ビーコンが出始めたのは、俺達がニムルドの修理をしようとしたちょっと前か?』

『ログを検索。キルトタルからの移行データ検索。
ログを確認。ポイント11で敵味方式御別信号を発した後、ビーコンを受信したもよう』

『そんな前か。
となるとあの敵味方識別信号が敵を呼び寄せたのかもしれないな』

『その後、キルトタルと第13ドックとで魔導通信をやり取りし、受け入れ準備完了の連絡を受けた模様です』

『つまり、迂回してまで来る時間が充分にあったということか』

『はい』

 あの陸上戦艦はほぼ間違いなく北の帝国のものだろう。
第13ドックの遺物を北の帝国に渡すわけにはいかない。
あそこにはキルトタルのために準備された魔導砲塔を含む整備部品がある。
特に魔導砲塔は拙い。ニムルドの砲塔ですらただのオブジェで使用不能だったのだ。
あれを北の帝国に渡してしまったら、世界が終わる。

『戦闘準備だ。第13ドックを渡すわけにはいかないぞ』

 これがプチが言っていた「嫌な臭い」だったか。
さすがプチだ。ここ掘れわんわんと同じで神がかっているな。
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