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第三章 北の帝国戦役編

094 陸上戦艦

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 俺の寝室は国民の皆が城郭と呼んでいる外城――塀なんだが――に囲まれた内城――農園屋敷なんだが――に立つ塔の最上階にある。
城郭と言っても元々は農園を取り囲む塀が、たまたま陸上戦艦の甲板の外周に添って巡らされていただけで、陸上戦艦が動きこの地に着陸したことで塀が外城に見えているだけなのだ。
その内城に立つ塔は陸上戦艦の司令塔であり、俺の部屋はその天辺にあたり、初めは地下に埋まった一室でしかなかった。
魔の森に放り出された俺が魔物の襲撃と雨露を凌ぐために初めて手に入れた安らぎの場所こそがここだった。
その防御力の高さから今でもここを寝室として使っているのだが、困ったことが一つある。

 システムコンソールがうるさい。
北の帝国の陸上戦艦――ニムルドというらしい――を撃破する時に、急遽長年整備もされていなかった魔導砲を使用したため、主兵装である魔導砲が壊れ使用不能となっていた。
その修理部品はポイント11にて入手出来たのだが、まだ魔導砲の修理は終えていない。

 どうやら、この陸上戦艦キルトタルも長年地下に埋もれていたせいで相当ガタが来ているらしい。
それをドックに入って直せというメッセージが枕元で延々と繰り返されていたのだ。
このメッセージは、この艦の管理者になぜかなった俺が命令すると一旦は止まった。
しかし、最近になってまたシステムコンソールがメッセージを発しはじめたのだ。

『魔導通信に反応がありました。第13ドックが使用可能。
受け入れ準備完了。距離南西2190km。直ちに向かってください』
『魔導通信に反応がありました。第13ドックが使用可能。
受け入れ準備完了。距離南西2190km。直ちに向かってください』
『魔導通信に反応がありました。第13ドックが使用可能。
受け入れ準備完了。距離南西2190km。直ちに向かってください』
『魔導通信に反応がありました。第13ドックが使用可能。
受け入れ準備完了。距離南西2190km。直ちに向かってください』
『魔導通信に反応がありました。第13ドックが使用可能。
受け入れ準備完了。距離南西2190km。直ちに向かってください』

「ええい、うるさい!」

 システムコンソールが言う魔導通信には心当たりがあった。
ポイント11で敵味方識別信号を発信したことがあったが、それが魔導通信だったらしい。
そういやゴーレムが塔の最上部にアンテナだかレーダーだかの設備を取り付けていたな。
あれが魔導通信絡みの修理だったようだ。
その魔導通信で通信を試みたところ、ドックの一つの健在を確認したってことらしい。
南西2190kmなんていったらリーンワース王国の領土を越えた遥か先じゃないか。
その先に何があるかなんて知識は異世界転生して来た俺には全くない。
それにこのズイオウ領に亡命臨時政権を樹立し、国民を取り戻している最中で、俺とキルトタルが遠征に向かうなんて現実的ではない。
今はここから動けるわけないじゃないか。

「今は動けない。後にしてくれ」

『北方546kmに敵性艦多数を確認。脅威度2000。主兵装の修理が必要です!』

 北方? ああ、それは北の帝国の陸上戦艦だな。
脅威度2000がどのぐらいの脅威かわからないけど、この艦のシステムは脅威に対抗するには魔導砲の修理が必要だと判断しているわけね。
さてどうする?
サラーナ達を国の代表として置いて修理に向かう?
却下だ。北の帝国の脅威は侮れない。
ズイオウ領ここが攻められたら、この陸上戦艦キルトタルの防御力が無ければひとたまりもない。
それにこれからもリーンワース王国のそこかしこから国民達が奴隷解放されるべく連れて来られ引き渡される。
奴隷解放の魔法や酷く傷ついた者たちへの回復魔法は俺がかけるしかない。
人数的にも魔導具の能力ではどうにもならないからだ。
燃料石の魔力だって俺が補充しなければならないんだからね。
つまり俺もここを離れられない。

 ん、待てよ。
ここで修理するわけにはいかないのか?

「システムコンソール、ここに部品を運んで修理すればいいんじゃないか?」

『第13ドックには魔導砲塔の製造手段はありますが、それを運ぶ手段がありません』

「つまり運ぶ手段があれば、ここでも修理出来るってことだな?」

『可能です』

 俺はあることを思いついていた。
もう1隻陸上戦艦があるじゃないかと。
俺のインベントリ内にニムルドの残骸が収納されている。
それを修理して魔導砲塔を輸送すればいいんじゃないか?

「ニムルドを修理して輸送艦として使う。それでどうだ?」

『ニムルドは魔導砲の直撃で重力制御機関が破壊されています。
ここでの修理は不可能です』

 確かに、基幹部品である重力制御機関――古代文明の遺物だ――を何の知識も無い俺が修理しようなんて不可能だ。
だが、俺の召喚の能力を思い出してほしい。
実物を知れば・・・・・・召喚できる・・・・・
同様に錬金魔法の魔導具錬成も、実物を知れば錬成できる気がするのだ。
俺はスコップを錬成したことがある。
その時の感覚はその場にある材料を使って目的の物を創造するという感じだった。
この艦には生きている重力制御機関が存在している。
それを目にする――おそらく魔法的な探査が働いている――ことで錬成することが可能なのではないか?

 俺は召喚や錬成に関するある法則に気付いてしまったのだ。
この世界の家畜であるマチュラとホルホル牛を知らない俺は、この家畜を最初は召喚出来なかった。
しかし現物を入手し知ることで召喚出来てしまった。
サンプルとした個体のコピーではなく外観が違う同種個体をだ。
これはどこかで生きていた家畜を魔法で誘拐して来たのだろうか?
世界のどこかで家畜が消え、この場に移動して来たというのだろうか?
感覚的なことだが、違うと思うのだ。
俺は解剖学など知らないし、この世界独特の家畜の内部構造がどうなっているかなんて知る由もない。
しかし、錬成と同様にこの場で家畜を創造しているのではないかと思う。
生命は召喚、物は錬成というだけの違いな気がするのだ。

 地球の家畜も漠然とした記憶だけで召喚出来てしまった。
地球から誘拐してこの地に連れて来た?
いや、神様が例外的な力で行っている異世界転移・転生を、たかだか人間の俺が簡単に出来るはずないじゃないか。
ジャージー牛なんて現物に接した機会など無く、あるのは映像知識しだけで、産地がどこなのかもわからない。
それを探して異世界に連れて来る? そんなチート能力は俺にはないだろう。
もしかすると牛乳が美味しいこんな色形の牛という曖昧なイメージで魔法が生物を創造しているのかもしれない。
これは錬金術の錬成と同じなんだと思う。
なので、材料さえあれば召喚と同様に望みの機械も錬成出来てしまうはずだ。
イメージが魔法を強化するこの世界で、出来ると強く思えば出来なくはないと思うのだ。

 つまり壊れたものしか実物が無い魔導砲塔は錬成出来ないが、正常に動作する実物がある重力制御機関は錬成出来るだろうということだった。

「俺に任せろ。動く実物と材料が揃っていれば、錬成で何でも創造できるはずだ!」

 こうしてニムルド復活計画が始動したのだった。
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