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第三章 北の帝国戦役編

093 冒険者ギルド

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「他に懸案事項はあるか?」

 俺は何気なく聞いただけだったんだけど、ターニャが深刻な顔をして発言した。

「主君、人が増えてきたことで人員にだぶつきが発生し、職にあぶれる者も出始めております。
特に後発で加わったザール連合国の民、特にガルフ国出身の獣人に不満が溜まっているもようです」

 ザール連合国の民というとザール王国とガルフ国では産業も仕事も違うんだったか?
ザール王国の民は農業や加工業に従事してもらっていたはずだな。
ガルフ国の獣人は傭兵が多くて仕事が偏っていたな。

「ガルフ国はミーナが纏めていたんだったな。
ミーナに訊くのが早いか」

 俺は早速ミーナに事情を聴くことにして呼んでもらった。



「クランド、にゃにかにゃ?」

 俺の執務室にやって来たミーナは開口一番呼び出しの真意を訊ねて来た。
思い当たることが無いのか首を傾げている。

「ガルフ国の獣人に不満が溜まってると聞いたんだが?」

 ミーナはせっかちなので単刀直入に聞く。

「その件にゃったか。
クランド、いつ国を取り返してくれるんにゃ?
訓練肉採取だけじゃ、あいつらを抑えきれにゃいにゃ」

 うわ、とうとうその要求が出たか。
彼らにとって、この地は仮初の土地だ。
自分たちの国を取り返したいという気持ちはどの民も持っているが、彼らは人一倍高いのかもしれない。
傭兵として国を離れることが多いために、国への帰属意識が希薄だと言われていたが、この状況を経て愛国心が盛り上がったということだろうか。
血気盛んな獣人傭兵を軍人として雇ったにも拘わらず飼い殺しでは、鬱憤が溜まってもう限界というところか。

「国取りはまだ時期じゃない。それは無理だ。
しかし、軍人としての仕事はあるだろ?
その任務では不満なのか?」

「仕事じゃにゃいにゃ。
もっとこう滾る情熱のぶつけ処がにゃいんにゃ」

「つまり訓練肉採取では温いと?」

「そうにゃ。
それに肉ダンジョンに潜っても、軍人にゃと一攫千金の夢がにゃいにゃ」

 ああ、そうか。
軍人だと訓練で手に入れた成果は国の物になってしまう。
頑張って魔物を倒しても、その見返りが全くない――というか給料しか出ない――となるとモチベーションに響くのか。

「つまり働いただけの成果を得たいということか?
確かに個人で事業を始めた者たちは、努力次第で贅沢も出来るからな。
軍人だとそれが固定給になってしまう。
生活は安定するが、それでは遣り甲斐がないというわけだ」

「そうにゃ。奴らは傭兵にゃ。
働き次第で大金を得る仕事にゃ」

 なるほど。傭兵を軍に縛ろうとしたのが間違いだったんだな。
となると、彼らにはどう働いてもらうのが最善なんだろうか?
うーん。

「自己責任で一攫千金の狙える仕事。
今のように肉ダンジョンに入っても、成果を出せば出すだけ儲かる仕組み……。
あ、これって冒険者じゃないか!
普段は冒険者で稼いでもらって、有事の際には軍で働いてもらう。
所謂予備役制度ってことでいいかな?」

「奴らは傭兵にゃ。
有事の際にはクランドの元で戦うことは可能にゃ」

 ミーナも納得出来る案だったようだ。
となると冒険者ギルドをズイオウ領ここに誘致してもらうという方向かな?
いや、冒険者ギルドが入るということは、外からの冒険者も受け入れるということだ。
今はやたら窃盗犯だのスパイだのが入り込んで来て困っているところだ。
不特定多数の冒険者を自由に入国させるわけにはいかないぞ。
そうなると、この領地のみで通用する冒険者ギルドを立ち上げるしかないか。

「よし、これからはガルフ傭兵たちは冒険者として扱おう。
希望者はそのまま軍人でもいい。
警備兵としての任務もあるからな。
早急に素材買取所を立ち上げる。
とりあえず肉ダンジョンの素材はそこに納入すれば買い取るようにしよう。
それでモチベーションは上がるんじゃないか?
後は依頼があれば受けられるようにしていこう。
大工仕事など人手が欲しい場所もあるからな」

「いいアイデアにゃ。
奴らを集めてはにゃしてくるにゃ」

 さて、こちらは素材買取所と運営する人材を用意しないとならないな。
彼らが冒険者になることで、武器屋、防具屋、ポーション屋といった他の仕事も活性化するかもしれない。
大変だけど、そこも含めてサポートしていこう。

「そうにゃ。もう一つ問題があるにゃ。
ザール王国の連中が姫様の扱いに不満を持ってるにゃ。
クランド、頑張るにゃw」

「うっ。それか~」

 でも、どうすればいいんだよ。
政略結婚だからこそ、俺の勇気が足りないせいで、手を出すなど考えられない。
だいいち、サラーナとアイリーンにだってまだ手を出してない鈍感系主人公なんだぞ。
無理に決まってるじゃん。
俺は頭を抱えた。
最後に大問題が控えていたもんだ。
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