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第三章 北の帝国戦役編

088 ますます内政に励む

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 陸上輸送艦で新たな奴隷が運ばれて来た。

「やはりな」

 その上部甲板に俺が作った簡易型蒸気砲が搭載されていた。
ルドヴェガース要塞で俺が余計に作らされたものが、ここまで流用されていたのだ。
これにより、陸上輸送艦はただの運送用艦船から戦闘艦に昇格したことになる。

「キルトタル、ゴーレムに指令、陸上輸送艦の蒸気砲に照準を合わせ、いつでもレーザーを発射出来るようにしろ。
向こうが発射体制になったら警告なしで破壊しろ」

 一応友好国であるリーンワース王国の艦にこの対応というのも問題かと思うが、逆に俺を騙して武装しているわけで、警戒せざるを得なかった。

「こんなことなら全部ゴーレム式にして制御を乗っ取れるようにすれば良かった」

 日本人の勿体ない精神が簡略化で安く作れるならその方が良いと思ってしまった。
だが、この世界では高性能な兵器はとことん高くしてやらないと軍事バランスが崩れてしまうことになる。
俺としてはリーンワース王国とガイアベザル帝国でつぶし合ってくれればと兵器を渡したが、それが新たな侵略兵器になりかねないというのがこの世界だった。

 到着したのはキルトとルナトークの所有者が存在していた奴隷の買戻し第一陣と、リーンワース王国各所の奴隷商館にて在庫していたザール連合国の奴隷達だった。
リーンワース王国とガイアベザル帝国が戦争状態になったというのに、未だ奴隷が流入しているのは、いったい何故なのだろう?
そのことが頭に引っかかるが、今は奴隷解放と国民としての受け入れが大事だ。
幸いなことに奴隷の受け入れと事情聴取、今後の去就の確認などは一般業務化されて役人に丸投げ出来るようになった。

 俺の仕事はサラーナ、アイリーン、クラリスを前面に出して正統王家をアピールすることと、奴隷魔法の解除だ。
奴隷魔法の解除は勝手にやるとリーンワース王国では違法行為となる。
しかし、ここは正式に割譲されたザール=ルナトーク=キルト暫定政権――俗にいうササキ王国――の国土だ。
リーンワース王国の法ではなく、こちらの法が優先される。
尤も、国法など決めていないので、今までの所属国の方に準じるように言ってあった。
その例外として俺による奴隷魔法の解除は合法となっている。

 奴隷から開放され金貨1枚と最低限の援助物資が貰えるとなると、この国を去るという選択をする国民も少なくなかった。
本国解放を夢見て、あるいは家族の去就を知るために旧国土へと戻ろうとする者がいる。
も戦争は懲り懲りだと、今のところ戦争に巻き込まれていない南の国を目指す者、去る者も人それぞれだった。
去る者には少しばかりの援助をし、残るものには衣食住と仕事を与える、その業務も含めて今は採用された役人に丸投げされていた。

 最近は国民それぞれが得意分野の仕事を始めるようになった。
特に発展目覚ましいのは農業分野と生活物資を生産する生産分野だ。
今、この国では食料や生活物資は配給制となっている。
食料は生産した農作物を食事班改め調理部門が料理して決まった時間に食事を提供している。
職人さん達が生産した生活物資も国が引き取ってそのまま各自に分配されている。

 食料の生産は魔導具を使って促成栽培をしているので、人手はいくらでも必要だった。
農地を開墾し、種を蒔き、促成栽培で出来た作物を収穫し保管する。
農地が広大になればなるほど農業従事者は増えて行った。

 軍事部門に警備部門も充実して来た。
国内の治安維持のため、警備部門はフル稼働している。
戦争奴隷として極限状態に置かれた者の中には精神を病んでしまった者もいて社会復帰が大変なのだ。
そんな人がトラブルを起こした時、警備部門が活躍した。
いま切実に必要なのは、そういった病んだ人たちのケアなのだが、精神系の魔法を使える者も少なく、現状では身体拘束などの厳しい措置を取らざるを得なかった。
軍事部門も傭兵上がりが多いため、暇にさせると面倒ことを起こす。特に女性問題で。
酒がほとんど供給出来ていないので酒でのトラブルが少ないのはマシだったが……。
なので傭兵たちには肉ダンジョンでの食肉調達を主任務とさせている。
任務に成功すれば輸入品の酒が少し提供される。
それだけで犯罪率が減った。

 そういった生産物を国が一手に引き取って国民に分配する。
まさに社会主義経済そのものになっている。
だが、この国が目指しているのは社会主義ではない。
今は国の土台を作るための緊急避難といったところだ。
今後は国の援助なしで国民が生活出来るようにするのが目標だ。


 食料を調理し国民全員に供給する調理部門、今一番大変だと言われている部門だ。
だが、今後はこの部門は解散し各々が家庭で調理し食事をするように移行させるつもりだ。
いつまでも国で食事を賄うのもいかがなものかと思うのだ。
理想は家庭で料理を作って家族で食べる。
あるいは料理屋でお金を払って食事をする。
そう、貨幣経済が必要なのだ。
配給を打ち切る前にこの国で使える貨幣を流通させねばならない。
現在職人さんは生産しても国に吸い上げられ、お金を得るという商業活動が出来ていない。
そういった職人さん達も、生産したものを売ってお金を稼ぎ、食料を得るという当たり前の生活サイクルに移行させたい。
リーンワース王国から入ってくる物資を自由に買えるようにしたり余剰物資を売ったり、仕事をすればするほど、働き者ほど儲かる国にしたいところだ。

「アイ、貨幣を鋳造するとしたら、どれぐらいの貴金属が必要だ?」

「この何もない状態からですか?」

「やっぱり無謀だよね?」

「リーンワース王国の貨幣をそのまま流通させた方が良いのでは?」

 俺も最初はリーンワース王国の貨幣をそのまま流通させようと思ったのだが、うちの領内で売れるものといったら武器と農作物ぐらいしかないのだ。
しかし、リーンワース王国には農作物は売るほどあるんだよね。
武器は飛ぶように売れるけど、その代金は奴隷で決済だから貨幣は全く入ってきていない。
むしろ、俺が冒険者として儲けたお金を切り崩して取引しているぐらいだ。
しかも、ギルドに預けているお金もギルドカードで電子決済だし。
ん? 電子決済?
ギルドカードと同じ仕組みを導入すれば、貨幣はいらないよな?
あの謎技術をうちで使えるのかというのが問題だけど……。

ピコン!

 そこで生産の極と魔導の極が仕事をした。
カード自体とカードと持ち主を紐づける魔導具が生産可能でした。
目の前には魔導具と数枚のカードがインベントリ内の原材料を使用して製造されていた。
カード内での電子マネーの残高管理と、カードを発行した魔導具での口座管理をまとめて一つのシステムとなっている。
いや、これって仮想通貨じゃね?
俺の立場なら、たぶん勝手に残高を増やせるぞ。
というか、国民に払う報酬は無から生み出すことになるからまさに残高を操作できるってことに……。
労働の対価としての報酬をいくらにするか、厳密に査定しないとこの国の通貨制度が破綻する。
ある意味俺の一存が通じるヤバめの仕事だった!

「アイ、周辺の物価と労働報酬額を調べて、いま国民がしている仕事の正当な報酬額を算定してくれ。
うちの国はギルドと同じカード決済を導入する。
これがカードとカード発行の魔導具だ。
今後、配給物資はカードに支払われた労働報酬で買ってもらうようにする。
その金額をリーンワース王国と同等にすれば、カードのお金で外部とも物の取引が可能になる」

「リーンワース王国の商人にもカードを持たせて国民と取引させ、我が国がその金額をリーンワース王国の貨幣と引き換えるというわけですね」

「その通りだ」

 さすがアイ。俺の考えを正しく理解してくれた。さすが参謀JOBの持ち主だけある。

「商人がうちの特産品をカードの金額以上に購入すれば、リーンワース王国の貨幣も手に入るという仕組みだ」

「つまり何が特産品になるのかも検討すれば良いのですね?」

「果物と酒は売れると思うぞ」

 切り札としてシャンプーとリンスもあるしな。

「早速農業部門に増産を手配します」

「カードの発行はIDにも使える。国民管理も出来る一石二鳥だ。直ぐに手続きの手配を」

 いや、俺がカードと魔導具を生産しないとならないんだった……。
それと報酬を出すなら今後は税をとらなければならなくなる。
今は大量の農作物を収穫してもらっているから、生産物と報酬の割合がかけ離れていて無税でもどうにかなりそうだが……。
チートで儲かってる農業と比べれば、役人や軍、警備、生産職、調理部門の人達は税を負担していないことになってしまう。
税の公平性も難しいところだな。将来的にはやっぱり人頭税かな?
まあ、今は復興で持ち出しだから税は免除ということで問題は先送りしておこう。


◇  ◇  ◇  ◇  ◆


「主君、塩が足りない」

 まるでガ〇ダムのタムラさんのようなことを、深刻な顔をした調理部門総括のリーゼが報告して来た。
塩は俺が魔物のピーから抽出していたのだが、人が増えすぎたため需要に供給が追い付かなくなっていたのだ。

「リーンワース王国からの輸入は?」

「足元を見られて通常の倍の金額を要求されている」

 リーゼはルナトーク王国の騎士だから、そういった理不尽を毛嫌いする。
今は必要だから購入するが、他の道があれば模索したいという気持ちがあるのだろう。

「ズイオウ山は遥か昔には海の真ん中の島だったそうだ。
ということは、地下には海水由来の塩があるはずだ。探してみよう」

 だが、ズイオウ山は大河に運ばれた土砂により陸となった。
つまり真水で洗われ続けたようなもの。
塩分も全て流れてしまっているかもしれない。

 俺は土魔法の【金属抽出】で塩化ナトリウムの抽出を試みる。
ナトリウムは金属なので、反応すると思ったのだ。
そもそも土魔法の【金属抽出】の大元のスキルは【抽出】単独なので、それが金属のみに作用するわけではないかもという推測が成り立っていた。
元素をイメージ出来れば何でも抽出が可能な魔法を金属にしか使っていなかった可能性がある。
俺が何の気なしにやっている属性石の抽出は金属ではなく鉱物の抽出だ。
これは金属だから出来て、これは金属ではないから駄目だなんて分類は人が勝手にしていることだ。
魔法がそこまで用途を限定しているとは思えない。


 魔力を込めると手元に白い結晶が抽出されて来る。
イメージは地中深い場所からの塩化ナトリウムの【抽出】。
その白い結晶を舐めてみる。

「しょっぱい。塩だ。でも美味しくないな?」

 そう。塩化ナトリウムのみの塩は旨味が無い。
天然塩には他の成分が混ざっているから美味しく感じるのだ。
天然塩の抽出って出来るのか?
俺は天然塩のイメージで【抽出】をかけてみる。
イメージは俺の舌に残っている記憶のみだ。

 同様に白い結晶の粒が【抽出】されて来る。
舐めてみる。

「おお! 俺の記憶にある〇方の塩にそっくりだ。美味しい」

 どうやら塩問題は解決できそうだ。

「リーゼ、塩が手に入ったぞ。リーンワース王国からの輸入は止めて良い。
別ルートで手に入ったと言ってやれ。
ただし、商人が適正価格以下まで下げたら買ってやれ」

「承知しました」

 リーゼが意趣返しが出来るとニヤリと笑う。
俺は魔力の続く限り塩を抽出し続ける。
ああ、意趣返しの代わりに俺がしばらく塩抽出に専念しなければならないのか……。
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