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第一章 異世界スローライフ?

033 リカバー

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「姫様! 再びご尊顔そんがんを拝することが出来た光栄、歓喜にえません!」
「姫様。良くご無事で……」

 ダンキンに買わされた奴隷――リーゼロッテとティアンナ――は、どうやらアイリーンの祖国ルナトーク王国の騎士だったようだ。
ティアンナに肩を貸したリーゼロッテがアイリーンにかしづこうとして少し困った顔をする。
片脚の無いティアンナの支えを放すわけにはいかなかったからだ。

「良い。リーゼ。ティアも。
わたくしは今はあなた――クランド様の妻という立場でしかありません」

 その言葉にリーゼロッテとティアンナが殺気の凝った目で俺を見つめる。
うん、ここに男は奴隷商のダンキンと俺しかいないからね。
ダンキンが違うのは明白なので、必然的に俺が相手だと理解したわけだ。

「妻だと? 貴様、まさか姫様の純潔を散らしたのではないだろうな?」

 滅相もない。一切手出しをしておりません。
俺はどんな色仕掛けをされても気付かない鈍感系主人公だよ? 

「やめよ! わたくしは心から旦那様をお慕い申しているのです」

 リーゼロッテとティアンナは納得しかねているようだが、かつて仕えた主君すじの姫君の命を受けて口を噤んだ。
だが殺し屋のような目で俺を睨み続けるのはやめて欲しい。

「リーゼ、ご尊顔と申しましたが、この顔にはワイバーンに付けられた大きな傷があったのですよ。
ティア、無事ではありません。私の右腕も失われていたのです。
そんな価値が無いと処分されそうになった私を、高額の代金を支払うと申し出て引き取って下さったのが旦那様なのです」

 リーゼロッテとティアンナはアイリーンを見て信じられないというような顔をしている。
顔に傷は無く、右腕もしっかりあるからだ。
いや、むしろお城にいた時よりも美人度が増している。
その視線に気づいたアイリーンが畳みかける。

「顔の傷と右腕の欠損ですか?
それは旦那様が【リカバー】で治してくださりました。
その奇跡をの当たりにすれば、あなた達もわたくしの言葉を信じるでしょう」

 アイリーンが「さあ、やっちゃってください」とばかりに俺の方を見る。
いやでも、アイリーン、ここはまだダンキンの奴隷商の応接室だぞ。
ここでやるってことは秘密をばらすってことだよ?
アイリーンがキラキラとした穢れ無き期待の目を俺に向けてくる。
その目が眩しくて直視できない。
えーい、ここは俺のスキルがバレても仕方がない。
アイリーンの期待に応えてやろうじゃないか。

「仕方ないな。ダンキン、このことは他言無用だぞ。
それからこの2人は今まで通りの値段で売ってくれよ?」

「わかっておりますとも」

 どうやらダンキンは俺が何らかの手段で【リカバー】をかけられるのを委細承知の上で二人を売ってくれたようだ。
アイリーンが部位欠損の大怪我を負っていたのはダンキンも知っていたのだから、綺麗に治っているアイリーンを見れば、【リカバー】をかけたことは既にバレているってことか。
俺は少し躊躇した。俺が【リカバー】を使えるのを見せてしまった方が良いのか、光と聖の属性石で【リカバー】をかけるのを見せた方が良いのか。
うん。回数制限があると思わせた方が良いか。
俺は属性石で【リカバー】をかけることにした。

【リカバー】パリン。

【リカバー】パリン。

 光と聖の属性石が二つ砕けた。
すると見る見るうちにリーゼロッテとティアンナの部位欠損と火傷が逆再生を見るかのように治っていった。

「「え? そんなまさか」」

「うおおおお!」

 その奇跡に驚愕するリーゼロッテとティアンナ。
別の意味で驚くダンキン。

「腕が治っていくよ。ティア!」
「リーゼ、火傷もよ。わたしの脚も治る!」

 リーゼロッテとティアンナは抱き合って泣いた。

「これがわたくしの偉大な旦那様です。理解しましたか?」

「「はい。旦那様、我らを家臣として従わせて下さい」」

 二人がキラキラした目で俺を見つめ、最大限の尊敬を込めて臣従を願った。
俺は大きく頷いて彼女たちを臣下とした。

「それより何ですか! その属性石は!」

 ダンキンがハッと飛んでいた意識を取り戻すと、興奮した様子で尋ねた。
冷静沈着な男が冷静さを失っていた。

「光と聖の複合属性を持つ属性石だよ。
風と水の属性石はオークションに出したから、俺が複合属性の属性石を持っていることは知ってるだろ?」

「その(光と聖の)属性石がオークションに出れば、億の単位から競りが開始されますぞ!」

 ダンキンがワナワナと震えながら言う。
つまり俺はリーゼロッテとティアンナにそれぞれ1億以上の値を付けたに等しかった。

「あはは。残念だな。光と聖の属性石これはもう無いから」

 俺は嘘をついておくことにした。
いくらでも創れるなんて言ったら大変なことになるからね。

「「そんな貴重なものを私達のために……」」

 二人の俺に対する心酔度が急上昇したようだ。
ごめん。嘘ついて。
そこはダンキンに対するけん制だったんだよ。
まだ有るとなると売ってくれとか面倒だろ?

「じゃあな。ダンキン。この事はくれぐれも内密にな」

「ハハッ。取り乱して申し訳ございません」

「よし、二人の洋服と靴を買いに行くぞ。
皆も好きなものを買っていいからな」

 この後、俺は洋品店でお大臣さんになった。

「そこの二人、下着は沢山買っておくように」

 俺が沢山買うせいか、この洋品店は新品の服が多くなった。
そのほとんどをうちの嫁が買いあさっていく。
サイズとか嫁に完璧に合わせてきている気がする。
店主、出来るな。
次からはこの高身長コンビの服もよろしくお願いします。


◇  ◇  ◇  ◇  ◆


某艦内

「よろしいのですか?」

「あん?」

 参謀と思われる者の問いかけに男は不機嫌に答えた。

「リーンワース王国とは不可侵条約を締結しております。
越境による領土侵犯は戦争行為とみなされかねません」

「はっ! 笑わせる。戦争をしたくないのは向こうリーンワースの方だ。
この程度で文句を言ってきたら望み通り戦争してやるだけだ」

 男は参謀の正論に暴論で返した。
国の命運を左右する決定事を独自に裁可できる権力が男にはあるのだろうか?

「しかし、戦争なら陛下の裁可をいただきませんと……」

「馬鹿かお前は。戦争は陛下がお望みなんだよ。
俺達にはガイア帝国の純血を守る使命がある。
この黒髪黒目の血を守るという崇高な使命がな」

 黒髪黒目の保護。それも彼らの任務だった。
リーンワース王国に放ったスパイにより、某城塞都市で黒髪黒目の男の目撃が報告されていた。
その男がガイア帝国の末裔か調べなければならない。
その男が現れた某城塞都市の付近では、ガイア帝国と関係の深い魔導機関起動の干渉波を観測している。
黒髪黒目の男の保護と魔導機関起動の調査、どちらも男にとって手柄を立てるには好都合な案件だった。
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