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第一章 異世界スローライフ?

015 フラグを折る

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 この世界の通貨を手に入れた俺は、当初の目的である衣類を買うために洋品店を探した。
大通りを暫く歩いていくと複数の洋品店が並んでいるエリアに到着した。
ヨーロッパの古都にあるブランド店が並ぶ通りみたいな感じだ。
洋品店は貴族用のオーダーメイドを扱う仕立屋と、一般人向けに古着や既製品を売る洋品店に分かれるようだ。
前者はバリバリの目抜き通りに、後者は街はずれか表通りから少し路地を入った場所にあった。

 俺にはオーダーメイドの服を買う金銭的余裕があるのだが、オーダーメイドは受け渡しまで時間がかかるものなので、俺は一般向けの古着屋や既製品を売る洋品店に入りたい。
しかし、いま俺たちは怪しげな連中に尾行されているので、人通りの少ない路地にある洋品店に入るのは避けたいところ。
尾行がバレないとでも思っているのか、バレても良いと思っているのか、俺たちには明らかに尾行者が付いて来ている。

「どうするかね? 抑止力として武器屋で武器でも買おうか?」

 俺は目に付いた武器屋へと入った。
別に武器なんか必要ないんだけど、武装していると見せるのは犯罪抑止に繋がる。はすだ。

「ご主人、このロングソードを売ってくれ」

「あ? それは重いぞ」

 武器屋の主人は俺の体格を見て、重すぎると判断したのか、あまり乗り気じゃない。
結構高価な品なのだが、儲かれば良いと適当に売ってしまうような主人ではないようだ。
好感が持てる。

「大丈夫だ。ほれ」

 俺はロングソードを片手で振ってみせる。
それを見て目を丸くする武器屋の主人。

「お前さんの腕なら、そのなまくらより、こっちの方がお勧めだ」

 武器屋の主人は、俺を使い手と見込んだのか、上等な武器を薦めてくる。

「悪いんだが、俺は魔法使いでね。
ちょっと変な連中につけられてるから、見せつけるための強そうな武器を買いたいんだよ」

「なんだ体格通りだったのか。
ならお前さんには使えそうに見えない武器よりこっちの方がいいぞ」

 武器屋の主人が持ち出したのは魔銃だった。
魔銃とは魔法を弾として発射する銃だそうだ。
何それ? やばい。俺の好みど真ん中じゃん。

「買った。それと見せ武器はアドバイスに従ってショートソードにしとくよ」

「まいど」

 冒険者ギルドカードのチャージで支払ったが、魔銃、いくらなのか聞かずに買っちゃったよ。

「剣帯とホルスターはオマケしとく」

 うわ。結構良いつくりの革の剣帯とホルスターがオマケになるって、今の取引が良い稼ぎになったということだよな?
魔銃、いったいいくらしたんだよ。
まあ、ギルドカードには1億G入っているはずだからいいか。

 俺は武器屋の店内で検帯とホルスターを取り付けた。
左腰の剣帯にショートソードを下げ、右腰のホルスターに魔銃を挿した。
俺は武器を装備し終わり、これ見よがしに見せつけるように武器屋を出た。
これでフラグが折れると良いんだがな。

 護身武器を手に入れたので、プチと少し路地に入った洋品店へと向かう。
まだ尾行はいるが、ここでは襲って来ないようだ。

「いらっしゃい」

 人懐こそうな洋品店の主人が接客に出て来る。
店内にはあまり商品を置いてない。ほとんどの商品は店主の後ろ奥の棚にあるようだ。
このような店では服を吊るしでそのまま売るのではなく、欲しいものを店主に伝えて、注文した売り物が奥から出て来るというスタイルのようだ。

「ご主人、下着と普段着が欲しいのだが、在庫はあるか?
ああ、新品で頼む」

「ございますとも」

 道ですれ違った一般庶民の服を観察してわかったのだが、一般庶民は古着を着ているようだ。
商人などの小金持ちになってやっと新品の服を着ている。
なので洋品店では、新品が欲しいと伝えなければ古着が出て来てしまう。
そう推測したのだが、どうやら正解だったようだ。
店主が俺の体格に合わせて服を選んで持って来てくれる。

 洋品店では下着と農作業で使うための服を買った。
農作業用と言っても、冒険者が着ているような普通の服で、これでもそこそこ高級な品だ。
洋服はあまり新品は売れないらしく、お洒落な服は全て古着だとのことだった。
服一つとっても貴重品、まあそのような文明レベルなのだろう。

 そういや、生活魔法の『クリーン』で体を清めていたけど、そろそろ風呂に入りたいところだ。
森の住処には、川も無いから水浴びもしていない。
帰ったら作ろう。住に足らないものがまだあったことに気付いた。
そういや、トイレも森の中に掘った穴だ。

 良い気分で店を出ようとして、外の様子を見て俺は溜め息をついた。
せっかくの良い気分が外の光景で一気に嫌な気分になりテンションが下がった。

「プチ、何人だ?」

「うんとね。15人かな?」

 洋品店に入っているうちに追跡者は仲間を呼んだらしい。
俺が武器を買ったので、人数を増やすことにしたのだろう。
洋品店が路地を入った所にあるのをいいことに、店の出入口から表通りへの通路を塞ぐように集まっていた。
俺は相手を避けるように壁際を通ろうとした。
すると髭面の汚い男が壁に手を付いて通せんぼをした。

「ちょっと付き合ってくれよ」

 髭面のニヤニヤ笑いが止まらない。

「俺はあんたに用事はないんだが、通してくれないか?」

「なら金をよこしな。亜空間倉庫から素材も出せ」

 俺の一言に髭面はバカにしたような顔をして決定的な台詞を吐く。

「つまり強盗でいいのか?」

「いや、俺達は分け前が欲しいだけだ。仕事の報酬って扱いだな」

 なるほど、譲渡なら犯罪歴が付かないということなのか。

「お前たちに仕事をしてもらった記憶がないが?」

「ちっ。いいから渡せばいいんだよ!
そうだ、お前は奴隷として売ってやる。
男娼にでもなるがいい」

 髭面が本性を現し俺の肩を掴もうとした。
それを見たプチが胸から飛び出す。

「わん! わんわん!(ご主人に何をする!)」

 小さなチワワのプチが大男に体当たりをする。
質量的に不可能なはずだが、スキルを使ったのか、その体当たりで髭面が吹っ飛んで伸びた。

「この糞犬! 何をしやがる!」

 手下たちが一斉に刃物を抜く。
プチも臨戦態勢で大型化しそうな気配がした。

「待て、プチ。ここでは拙い」

 俺はプチを止めた。
いくら聖獣でも街中で暴れたらどんな扱いを受けるかわからない。
殺処分だなんてことになったら俺はどうすればいいんだ。
しかし、俺が待てを命じたせいで待てで止まったプチに手下が接近してしまった。
プチを蹴り上げる手下。
俺が待ての命令を出していたため、避けられるのにプチは忠実に待てをしていた。
そこに手下の蹴りが飛んでくる。プチが蹴り上げられて宙を舞った。

「プチーーーーーーーーーーーー!」

 俺の中でタガが外れるガチリという音がした。

「よくもプチに危害を加えてくれたな」

 俺は怒りのあまり道の真ん中に【ファイアボール】の魔法を放った。

ドカーーーーン!

 炎の柱が立ち上がり、熱波が強盗どもを襲う。
それは俺の魔力量のせいかファイアボールの威力ではなかった。
その時は気が付かなかったが、無詠唱で魔法を放っていた。

「お前たちを強盗と断定する。刃物も抜いた。正当防衛で処刑する。
俺は魔法の威力を抑えられない。覚悟するんだな」

 俺はプチを蹴り上げた手下に手をかざす。

「【ウインドカッター】!」

「わん!(ご主人、だめ)」

 プチの声に正気を取り戻す。プチがやられて頭に血が上ったようだ。
風の刃が手下に向かう。風の刃は手下の頭を掠めると頭頂部の髪の毛を刈り取った。
手下のズボンが水分で濡れ気絶する。

「外れたか。久しぶりなので手元が狂ったかな」

 なんとか魔法を制御して手下を殺すことは回避できた。
手を離れた魔法に干渉出来るとは思っていなかったが、どうにかなるものだ。
俺の脅しに強盗達は恐怖にかられて方々へと逃げていった。

「プチ、止めてくれてありがとう。大丈夫か?」

「わん(平気)」

 プチは手下とのレベル差で何のダメージも受けていなかった。
俺はプチのおかげで襲撃者を殺さずに済んだ。
プチが止めなかったら、手下の首は胴体から離れていたことだろう。
この国の法律は知らないが、例え強盗でも殺してしまったら法律違反だったかもしれなかった。
俺は、自分の身が法的に拙いことになる危機をプチのおかげで回避できたのだ。
俺はプチに体当たりをくらって伸びている髭面と気絶した手下をロープで縛ると門の衛兵詰め所に引きずって行った。

「強盗に襲われたので捕まえました。洋品店の前です」

 衛兵は事情を詳しく聞くと強盗を牢へと放り込んだ。
尋問して仲間もそのうち捕まえるそうだ。

 衛兵からこの国の法律についても聞けた。
強盗を殺しても罪には問われないそうだ。
その正当性をどう証明するのかと訊くと、あの門を入った時の魔導具で調べれば、犯罪歴がわかるということらしい。
いったいどうやったらその情報がわかるのか不思議だが、衛兵も知らないということで、そういうものと理解しているだけらしい。

 ちなみに、今回の騒動で俺には何の犯罪歴も付かなかったが、捕まえた髭面と手下には強盗の犯罪歴だ付いていた。
どうやら、俺が危険を回避しようと報酬名義で金を渡していたら、相手には犯罪歴が付かなかったらしい。
俺が強盗と認定し、相手が恐喝に及びそして刃物を抜いた時点で、全員に強盗の犯罪歴が付いたもようだ。
やっぱり抜け道というものがあったんだ。
まあ、普通は15人に囲まれたら大人しくお金を渡して終わるところだったんだろうな。
そんな犯罪の常習者が、俺が逆らうとは想定せずに超えてはいけない一線を越えてしまったということだろう。

 危なかった。もしプチに危害を加えられていなかったら、金を渡して穏便に済ませてしまったかもしれない。
そうなった場合、この街に来る度に集られていたかもしれない。
それにしても、あの素材を見ていながら、よく俺を襲おうと思ったな。
偶然とはいえ、素材の持ち主の魔物を倒したのが俺だと気付けば、襲おうなどと普通は思わないだろうに。
俺が大金と他にも高価な素材を持っているという事実のみで襲撃しようと思ったなら面倒だな。
今回逃げた連中から俺が強いという情報が裏社会に伝わってくれることを祈る。
俺が危険だという噂を大いにばら蒔いて欲しいところだ。
また襲われることがないようにして欲しい。
今後も安心して街で買い物がしたいからね。
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