上 下
13 / 169
第一章 異世界スローライフ?

013 街に入る

しおりを挟む
 しばらく進むと町、いや街が見えて来た。
市街を堅牢な石の城壁でぐるりと囲んでいる、所謂いわゆる城塞都市だ。
この街はどやら交通の要衝のようで、東西に走る街道と南へと向かう街道が丁字路で交わる中心に造られている。
ちなみに遥か北は俺が住んでいる森で、そっち方面への道は存在しない。
街の北東側にはそこそこ大きな森もあり、森林資源をそこから調達していることが伺える。
南の街道沿いには広大な農地が広がっている。
二本の大河に挟まれた地――それでも東の大河までは180kmはある――なので井戸を掘れば水も豊富なのだろう。
風車が見られるので、それで水をくみ上げているのかもしれない。

「これだけ畑が潤っていると、俺が農作物を持って来ても売れそうに無いな」

 ちょっと当てが外れて残念だ。俺の促成栽培能力なら農作物も売り物になるかと思ったのだが、供給過多のところに持って来ても安く買いたたかれるだけだろう。
いや、逆にここに無い作物や時期がズレた珍しい作物なら売れるかもしれないな。

「良し止まれ」

 俺は装甲車を草原の中に隠して止めると、プチを抱いて装甲車を降りる。
装甲車はインベントリにしまって隠し、歩いて街道まで出ると、西側から街へと向かうことにした。
西の城門は開かれているが、衛兵が出入りする人をチェックしては通すを繰り返している。
そこそこの人数が列をなして順番を待っているようだ。

「良かった。人の国だった」

 俺はまさかのパターンを危惧していた。
この世界の住人が俺以外全員人外という可能性もあったのだ。
普通に人間がいて本当に良かった。

 俺は列の最後尾に並ぶと前を並ぶ人達の様子を伺った。
異世界初会話になるのだ、きちんと言葉が通じるのか、俺の知らない常識は無いのか、こっそり確認させてもらう。

 列の何人も前で、徒歩の村人と思われる女性に衛兵が質問している。

「こんにちは、身分証明書を……。街へは何が目的で?」

「買い物に」

「それなら、入街税銅貨1枚です。
はい。お通りください」

 次は荷車を引いた農民の男性。

「こんにちは、身分証明書を……。街へは何が目的で?」

「野菜の納入に来ました」

 農民の男性は身分証明書とともに何やら紹介状のようなものを見せている。

「オーランド商会への納品ですね。入街税銅貨5枚になります。
はい。お通りください」

 随分丁寧な衛兵だな。
これなら難なく通過できそうだ。
そう思っているうちに俺の順番が来た。

「こんにちは、身分証明書を……! 街へは何が目的で?」

「身分証明書は無い。買い物に来た」

 俺の返答を聞いた衛兵が、俺の髪と目の色を見て急に態度が変わった。
完全に不審者扱いだ。

「どこから来た? なぜ身分証明書を持っていない」

 衛兵は完全に詰問口調に変わっていた。
そうか、身分証明書があったから丁寧だったのか……。
拙いな。どう言い訳しようか。
そこで俺は、身一つ+抱えたプチのみということを利用することにした。

「実は魔物に馬車が襲われて身一つで歩いて来たんだ。
幸い金目の物は少し持っているから旅の必需品を手に入れようと思ってな」

「身分証明書は失くしたのか?」

「ああ」

「どこの国の出身だ?」

 拙い。ここらの国の名前なんて俺は知らないぞ。
どうする?
適当に言うか、真実である日本だと言うか……。

「これに手をあてろ!」

 衛兵がタブレット状の板を示すので俺は何も考えずに手を置いた。

「出身国を言ってみろ」

 俺は正直に日本と言うことにした。
衛兵は日本を知らないだろうが、嘘をつくよりはマシだろう。

「日本です」

 衛兵は俺が発言する間、タブレット状の板の表示を見て、俺を頭からつま先までジロジロ見てから納得したのか態度を軟化させた。

「嘘はついていないか。犯罪歴も無しだな。
しょうがないな。保証金銀貨1枚で入れてやる」

「え?」

 危なかった。嘘を見抜く道具だったのか。
ここで嘘をついていたら終わっていたかもしれない。
しかも、犯罪歴まで調べられていたのか。
というか、異世界から来たというのに、俺の情報をいったいどこから手に入れたというのだろう?
銀貨1枚か……。そこで俺ははたと気付いた。
俺はお金に類するものをガイア金貨とガイア銀貨しか持っていない。
魔物の素材を持ち出すのはインベントリがどのぐらい一般的かわからないから拙い。
インベントリを隠したまま対応するには、せいぜいポケットから出せる大きさの物を出すふりをするぐらいしかやりようがない。
いや、ガイア帝国が軍事国家だということは、もし敵対している国でこの硬貨を使ったら明らかに拙い。
この国がその敵対国だったとしたら、大変なことになりかねない。
どうする……。あ、これなら手のひらサイズか。

「これでもいいか?」

 仕方ないので俺はサイの魔物の魔石を出した。
プチが狩って来た角が二股に分かれた巨大なサイから出たやつだ。
衛兵は受け取ったその魔石を何かの装置に翳す。
すると見る間に衛兵の顔が強張った。

「ツインホーンライノの魔石じゃないか!」

 衛兵の険しい顔に何か拙いことになりそうだと俺は思った。
慌てて取り繕う。

「お金は財布を落としたので無いんだよ。
田舎者でわからないんだが、この国ではツインホーンライノの魔石は銀貨1枚の価値がないのか?」

「いや、そうじゃない。ツインホーンライノといえばランクBの魔物だ。
貴重な魔石なんで驚いたんだ」

 ああ、そっちか。
でもそれでも悪目立ちしてるとしたら拙いな。
衛兵が続ける。

「とりあえず、冒険者ギルドで身分証明書さえ発行してもらえば、この魔石は後で返せる。
預かり証を書こう」

 なんだかんだ言って職務に忠実な親切な人らしい。
俺が貴重な魔石だとわかってないことに付け込んで、そのまま誤魔化して懐に入れることだって出来るだろうに。

「ほら、後で身分証明書と銅貨1枚を持ってくれば返してやれる。
皆に話は通しておく。この預かり証を無くすなよ」

 衛兵は預かり証に何かの判子を押して渡してきた。
どうやらその判子は魔法証明らしく、偽造防止になっているらしい。

「わかった。すまないな」

 俺は衛兵に礼を言うと街へと入った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ
ファンタジー
 地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。  そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。  できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!! 第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

男女比1対999の異世界は、思った以上に過酷で天国

てりやき
ファンタジー
『魔法が存在して、男女比が1対999という世界に転生しませんか? 男性が少ないから、モテモテですよ。もし即決なら特典として、転生者に大人気の回復スキルと収納スキルも付けちゃいますけど』  女性経験が無いまま迎えた三十歳の誕生日に、不慮の事故で死んでしまった主人公が、突然目の前に現れた女神様の提案で転生した異世界で、頑張って生きてくお話。

左遷されたオッサン、移動販売車と異世界転生でスローライフ!?~貧乏孤児院の救世主!

武蔵野純平
ファンタジー
大手企業に勤める平凡なアラフォー会社員の米櫃亮二は、セクハラ上司に諫言し左遷されてしまう。左遷先の仕事は、移動販売スーパーの運転手だった。ある日、事故が起きてしまい米櫃亮二は、移動販売車ごと異世界に転生してしまう。転生すると亮二と移動販売車に不思議な力が与えられていた。亮二は転生先で出会った孤児たちを救おうと、貧乏孤児院を宿屋に改装し旅館経営を始める。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜

甲殻類パエリア
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンだった深海玲司は仕事帰りに雷に打たれて命を落とし、異世界に転生してしまう。  秀でた能力もなく前世と同じ平凡な男、「レイ」としてのんびり生きるつもりが、彼には一つだけ我慢ならないことがあった。  ——パンである。  異世界のパンは固くて味気のない、スープに浸さなければ食べられないものばかりで、それを主食として食べなければならない生活にうんざりしていた。  というのも、レイの前世は平凡ながら無類のパン好きだったのである。パン好きと言っても高級なパンを買って食べるわけではなく、さまざまな「菓子パン」や「惣菜パン」を自ら作り上げ、一人ひっそりとそれを食べることが至上の喜びだったのである。  そんな前世を持つレイが固くて味気ないパンしかない世界に耐えられるはずもなく、美味しいパンを求めて生まれ育った村から旅立つことに——。

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

処理中です...