ここ掘れわんわんから始まる異世界生活―陸上戦艦なにそれ?―

北京犬(英)

文字の大きさ
上 下
11 / 169
第一章 異世界スローライフ?

011 偵察

しおりを挟む
 俺は神様に、あまり人の寄らない森の側の土地でスローライフをしたいと要求した。
スローライフは世捨て人ではないので、少なくとも人と接触する可能性がある土地ではあるはずだ。
神様が俺を殺そうと思ってここに送り付けたのではないのなら、そう遠くない場所に人の居住地があってもいいはずだ。

 俺は町へ買い出しを行こうと思い、周囲の偵察を計画した。
せっかく羊を飼ったものの、羊毛から衣服を作り上げるにはそれなりの技術と期間が必要だと気付いた。
それに毛糸の下着は暑そうだしチクチクして着心地が悪そうだ。
そう、俺が今必要としているのは替えの下着なのだ。
いや服がいらないという意味ではない。一番深刻なのが下着不足だということだ。
生活魔法の【クリーン】で清潔に出来るとはいえ、同じ下着を着続けるのは結構苦痛だったのだ。
早急に作れないなら買うしかない。それこそまさに町への買い出しが必要だという切実な理由なのだ。

 まずは町の所在の確認。そして移動手段の確保だ。
牧場作業と農作業の一部をゴーレムに丸投げし、多少の自由になる時間を得た俺は、まず町の所在を確認することにした。
今取り得る最速の移動手段といえばこれだ。

「プチ、外を探検するぞ」

「ご主人、ご主人。さんぽか? さんぽ?」

「まあ、そう言えなくもないな」

 プチが俺の足元に纏わりつき嬉しそうに走りまわる。

「プチ、俺を乗せられる大きさになって森へGOだ!」

「おー!」

 プチが3mの聖獣フェンリルモードになる。
俺がその背中に乗ると同時にプチが走り出した。

「わわ。ちょっと待て、まだ出入口の跳ね橋を降ろして……」

 そう言っているうちに、プチは塀と空堀を軽々と飛び越え森へと入っていた。

「いや、いい……」

 立ち止まって「なに? なに?」と首を傾げたプチに俺は何も言うことが出来なかった。

「森がどこまで広がっているか確認するぞ。まずは南へ向かう」

「おー!」

 プチと俺は風になった。
南へ向かうこと1時間、俺とプチは森の南端へと辿り着いた。
時間はモバイル端末で知ることが出来るようになった。
この世界の時間は、地球と同じで1日24時間だ。時分秒という単位も共通している。
ゲーム的なスキルシステムといい、時間といい、距離の単位といい地球の文化を参考にした形跡がある。
神様が地球を参考にした世界、そう言われても不思議ではない一致が各所に見られる。

 森を抜けた先は見渡す限り平原が広がり、所々小さな森が点在しているようだ。
モバイル端末には自動マッピング機能があり、森の端までの道が記録されていた。
それによると距離はおよそ100km。
つまりプチは時速100km以上で駆け回ったということだ。
そう駆け回ったのだ。
途中プチは魔物を狩りつつ進んだのだから……。

「お肉いっぱい。ごはん。ごはん」

 プチが狩り、俺が【自動拾得】する。
そんな寄り道を続けつつ、直線距離は100kmも移動したのだ。

「えらいぞ、プチ」

 俺は脚をガクガクさせながらプチを褒めた。
今後プチに乗る時は鞍をつけないと厳しいかもしれない。

 食事休憩をはさみ、次の探索へ向かう。

「次は森の外周を把握するぞ。今度はゆっくりな。こっちだ」

「おー!」

 俺達は東に向かって移動を始めた。
2時間ほど移動すると大きな川に辿り着いた。
川幅は30mぐらいあるだろうか?
森は川の対岸へも続いている。
川には橋のような人工物は見当たらない。

「東側はここまでのようだな」

 森の拠点から3時間。今日はここまでだな。 
戻る時間を考えるとこの辺で打ち切って帰ろう。
森は暗くなるのが早いのだ。

「プチ、今日はここまでで帰るぞ」

「おー!」

 プチはそのまま森に突入した。
拠点でショートカットするつもりだ。
危なくはないのだが、ビュンビュンと左右を流れていく大木を横目に、俺はしがみつくのに必死で体力を奪われ続ける。
拠点に帰り着くと、俺はどっと疲れが出て倒れ込みねぐらで眠り込んだ。


 そんな散歩ことを何日か続けて森の規模がわかった。
拠点から南に100kmに平原、東に200kmに川、西は200km以上(時間的に探索打ち切り)森が続き、北は100kmで山地になっている。
川は山地の中央から流れていて、東の川は北から南へ、西の川は北から南西へ向かって流れているようだ。
なので地理的に町を探すなら川に挟まれた南東から南西ということになる。

 さてどうするか。
さすがに何日も放浪するわけにはいかない。
遺跡に偵察に利用できるドローンでもないだろうか?

「システムコンソール、空中偵察機ってないか?」

 車庫に戦車もあったような遺跡だ。航空機があっても不思議じゃない。

『ありません。全機未帰還です』

 マジで過去にはあったのかよ。

『プチ様にモバイル端末を持たせれば自動マッピング出来ます』

「それはダメだ」

 プチに行かせるのは論外だ。プチが人に襲われたらどうするんだ。
プチは人間を危険な存在だと思っていないので、無防備になってしまいかねない。。
この世界の人間がどんな文化を持っているかわからないのだ。
ラノベでも狼を食べるという描写があったりする。
犬を食べるような種族がいたら危なくてプチひとりだけには出来ない。
小型動物=肉という認識だったら犬は食べられてしまう可能性がある。

「大事なプチをそんな危険な目に合わせられるわけない!」

 そこで、俺ははたと思い出した。俺には召喚魔法があると。

「鳥類を召喚して偵察させよう!」

 俺はモバイル端末を運べるだけの大きさを持ち、長距離を飛べる鳥の召喚を試みた。

「【召喚】!」

 召喚には成功した。
ざっくりとしたイメージで召喚魔法を使ったのがいけなかったのだろう。
そこに現れたのは、確かに大きく長距離を飛行できるのだろうが、その姿は鳥とは言えなかった。

「なんでワイバーンだよ!」

 しかも大人が乗れないぐらいの微妙な大きさだ。
こいつも飼育しないとならないとは頭が痛くなった。

 気を取り直してワイバーンの足にモバイル端末をくくりつける。
これはシステムコンソールが出した二台目だ。
くくりつけるのは備品倉庫でみつけた粘着テープだ。
画面上部に埋め込まれたカメラを地上に向けるようにと面倒な注文があった。
確かにワイバーン単独では町を認識出来ないかもしれないから、そこは俺が判断してやる必要がある。
ワイバーンと会話を試みたが、ほぼ鳥でおバカだったのだ。
単純命令しか聞きそうにない。
そこでカメラで監視しつつスピーカーで指示を出すことにしたのだ。

「ワイバーン、南へ飛べ」

 俺が人差し指で南を指すとワイバーンは空に舞った。

「クワァ!」

 ワイバーンを偵察に向かわせると、俺は自分のモバイル端末で映像を確認した。
この端末とワイバーンの端末がなんらかの仕組みで繋がっているのだ。
電波なのか魔法なのかは良く判らないが、画像を受信出来るのはありがたかった。

 ワイバーンは森を越え、平原に出て、そのまま南へと向かう。
しばらく進むと東西に延びる街道を発見した。
おそらくその先に町がある。
東か西か、東は200kmほどで川だから、そこまでには確実に町があるだろう。

「ワイバーン、東に向かえ」

「クワ?」

 ああ、めんどくさい。おバカで”東”がわからないのか。
南を理解していたのかと思ったら指の方角に向かっただけかい。
この分だと右左もわからないだろう。
俺はどうやって指示を出そうかと思案する。
そして微かに見える川に気付き、そこを目標にすることにした。

「道沿いを川に向かえ!」

 どうやら”道”と”川”はわかったようだ。

「クワァ!」

 ワイバーンは街道を東に20kmぐらい進み、俺はそこに町をみつけた。
ワイバーンに括り付けられた端末のカメラに映っていたのは、森の側に作られた楕円形の石塀で囲まれた町だった。

「よし、町を見つけたぞ。
ワイバーン、今日は戻るんだ」

 ワイバーンは”戻れ”もわかるようだ。
そのまま拠点まで飛んで戻ってきた。
今は俺が作った厩舎と用意された魔物肉――プチが狩ったやつだ――にご満悦である。


 中世程度の文明で剣と魔法の世界という俺の要望が叶えられていれば、この世界の交通手段はほぼ馬車だろう。
遺跡の倉庫に装甲車や戦車があったが、あの文明――ガイア帝国――は滅んでしまっていて、そのような車両はもう存在しないようなのだ。
ワイバーンに偵察させた様子からも、街道はまともに整備されておらず、道が悪くて車が走れるようではなかったのだ。

 そうなると、この世界で人が1日に移動出来る距離は馬車を使って50km程度になるだろう。
街道にはその50km間隔で宿場町が設置されていると推測される。
つまり街道沿いを進めば400kmの間でも9つの町があるはずなのだ。
ここから近い町で言えば、街道を東へ20kmの町の反対には西へ30kmの町があるだろう。

 この街道で一番発展しているのはおそらく川の側にある町だろう。
川は船を使えば貿易の導線になるから発展するはずなのだ。
次に発展が望めるのは街道が交差する交易拠点の町。
まあ、買い物に行くならそういった拠点都市が良いのだろうが、とりあえずは今日発見した町でも下着ぐらいは売っているだろう。
ああ、お金を得るために素材を売る場所が必要か。
もし売る場所がないなら、街道を先に進めばいいか。

「さすがに距離があるな。よし装甲車を直すか」
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

見よう見まねで生産チート

立風人(りふと)
ファンタジー
(※サムネの武器が登場します) ある日、死神のミスにより死んでしまった青年。 神からのお詫びと救済を兼ねて剣と魔法の世界へ行けることに。 もの作りが好きな彼は生産チートをもらい異世界へ 楽しくも忙しく過ごす冒険者 兼 職人 兼 〇〇な主人公とその愉快な仲間たちのお話。 ※基本的に主人公視点で進んでいきます。 ※趣味作品ですので不定期投稿となります。 コメント、評価、誤字報告の方をよろしくお願いします。

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

スコップ1つで異世界征服

葦元狐雪
ファンタジー
超健康生活を送っているニートの戸賀勇希の元へ、ある日突然赤い手紙が届く。 その中には、誰も知らないゲームが記録されている謎のUSBメモリ。 怪しいと思いながらも、戸賀勇希は夢中でそのゲームをクリアするが、何者かの手によってPCの中に引き込まれてしまい...... ※グロテスクにチェックを入れるのを忘れていました。申し訳ありません。 ※クズな主人公が試行錯誤しながら現状を打開していく成長もののストーリーです。 ※ヒロインが死ぬ? 大丈夫、死にません。 ※矛盾点などがないよう配慮しているつもりですが、もしありましたら申し訳ございません。すぐに修正いたします。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...