孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい

朝永ゆうり

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チェロとピアノと素敵なディナー ③

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 運ばれてきたコース料理は料理人の計らいなのか、全て片手で食べられるように配慮されていた。
 一口大に切られたパンを口に運びながら、杏依の胸に申し訳なさが募った。

 ゆっくりと過ぎていく時間。漆黒の海を見ながらの食事。

 とても美味しいけれど、食後のコーヒーが運ばれてきて、やっと肩の荷が下りた気がした。

「悪かった」

 食事中は一言も話さなかった白哉が、口を開いた。

「何がです?」

「外で食べるの、苦手だったんだな」

 申し訳なさそうに眉を顰める白哉に、杏依はふるふると首を横に振った。

「いえ、白哉先生は悪くないです。――むしろ、ごめんなさい。私が片腕だから、気を使わせてしまいました」

「気なんか遣ってねーよ。腕があろうかなかろうか、美味しく食べてもらいたいとシェフは思っているはずだし、彼らは給仕のプロだから、任せただけだ」

「でも、私の右腕がないことを伝えてくれたんですよね」

「伝えた。けれどそれは、周りに気を使わせるためじゃない。俺が、お前と食事を楽しみたかっただけだ」

 白哉の言葉に、杏依ははっとした。自分に対する申し訳なさばかりを優先して、ここに連れてきてくれた白哉のことを考えていなかった。

 白哉は、杏依との食事を楽しもうとしていたのに。

「……すみません」

「美味かったか?」

「はい、とても」

 うまく笑えただろうか。ちょっと泣きそうだ。

「ありがとうございました。こんな素敵なディナー、生まれて初めてです」

 誰かに思われながら、過ごすひととき。食事の時間をそんな風に思ったのは、初めてだ。
 たかが食事、されど食事。まるでディナーデートみたいだとさえ思えてしまう。

「そ」

 白哉はコーヒーを運びながら、窓の外を眺めた。その端正な横顔の、口元と目元が優しく弧を描く。

 流れてゆくのは、静かな時間。面映ゆくて、くすぐったい。心地よくて、壊したくない。

 あんなに、憎んでいた人といるのに。この人のことを、あんなに恨んでいたのに。
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