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② 鏡の向こうと、七不思議の記憶

新たな事件

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 ***


 翌日の日曜日も、テスト勉強の合間、母さんのいないタイミングを狙って資料部屋へ。

 旧校舎のこと。
 七不思議のこと。
 鏡のことや、人が消える噂について。

 目がついた資料を、手当たり次第にめくっていく。


「旧校舎、こんなきれいだったんだ……」

 旧校舎が使われていた頃に、内部を撮影した写真を見つけた。
 わたしたちが入ったときに見た、ボロボロになった姿からは想像もつかない。

 白黒写真だけども、きれいな窓ガラスや黒板が見て取れる。
 物が散乱しているようなところも、床板がへこんだり、抜けているようなところもない。

 ……使われなくなって40年で、こんなにも変わってしまうのか。

 
 ……そういえば、と思う。
 花子さんの封印とか昔はどうしてたのだろう。
 旧校舎が現役で使われていた頃は、大っぴらに封印のための魔法紙をそこら中に貼るなんてできなかったはずだ。

 あの封印は、場所が少しずれるだけでも効果がまるで無くなってしまう。
 うまい具合に調整してたのか、それとも他のなにかに紛れ込ませて、隠していたのか。

 ……そのへんのコツは、今度母さんに聞いてみよう。
 何しろ見に行こうにも、明日香が派手に動き回って壊しちゃったからな……古い魔法紙も何枚か、あのがれきの中に埋まってることだろう。
 そのうち回収しないといけないのかな、でも部外者に見つかったところでわからないか……


 
「あれ……?」
 ……ん?
 ……ちょっと待てよ?

 花子さんがいたのは旧校舎北側のトイレ。
 当然わたしが封印をしようとしたのも、明日香がめちゃくちゃにしたのも北側。

 で、見取り図の中で丸がついていたのも旧校舎北側。
 もしあれが例の祠を示したものだったとしたら……


 ……思い出す。
 ……がれきが散乱した旧校舎の外側。地震か大雨でもあったんじゃないかという光景。
 あの下に祠があったとしたら、きっと今頃……


「……やばい……これ……?」
 
 ……ああ、どうしよう。
 わたしたちはどうやら、怪異の少女を怒らせてしまったのかもしれない。



 ***



 月曜日になった。

 いつもより少し早く登校する。

 実際に祠のあった場所がどうなっているか。
 そもそも本当に祠はあるのか。

 それを確認しないことには、どうにもならない。


 だけど、おそらくは。
 あの少女と祠の関係性について、詳しくはわからないが、大事にしているものが壊れてしまったら、誰だってイライラする。不満になる。
 それは、怪異だって変わらない。

 で、もしそうなら、彼女の前で何も知らないなんて言ったわたしは、結果的に彼女に嘘をついてしまったことになるのでは。


「どうしよう」
 
 不安の言葉が、口をついて出る。
 ……何にしろ、また彼女には会わなきゃいけないのかもしれない。

 忘れたい、あの恐怖が蘇る。
 言いようのない威圧感。

 ……だけど。

 それで逃げるわけにはいかない。

 わたしは、覚悟する。沢守家の人間として。



 しかし。

 
 
「……沢守か。今日は早いな」

 昇降口に入ったところで、体育の先生が向こうから小走りでやってきた。

「どうしたんです?」
「ああ、泊まり込みの用務員さんがいなくなってな、今先生たちで手分けして探してるんだよ」


 ……え?


「用務員さんが……?」
「用務員室に布団は敷いてあったが寝た跡がないから、夜の見回り中に何かあったらしいんだ。……これが落ちててな」

 先生がふところから取り出したのは、黒光りする懐中電灯。
 ……見たことがある。用務員さんがいつも持ち歩いてるやつだ。

「落ちてたって、外にです?」
「体育館の入り口だ。スイッチが入りっぱなしでな」


 
 ――体育館の入り口。

 それは、あの鏡があるところだ。


「スイッチが入りっぱなしってことは……」
「何か、アクシデントがあったはずなんだ」

 ……でも、夜に?
 今まであの場所で人が消えたのは、授業中とか、放課後の部活中とか。

 それに用務員さんが夜、生徒や先生が帰った後に見回りをするのは普段からしていることだ。少なくとも、学校に誰かが来た日は必ず。


「昨日って日曜日ですよね? 用務員さんいたんです?」
「昨日は校庭開放があったし、保護者会で教室を一部貸していたから、用務員さんはいたはずだ。見回りも普段通りにしてもらったはずなんだが……」

 とすると、状況的には普段学校のある日と同じになる。
 
 だけど、もしあの怪異の少女がやったのだとして、なぜ今になって。
 用務員さんの見回りに何か変わったことがあったのか。

 
 あるいは……昨日考えたことが頭をよぎる。


「沢守、どうした?」
「え? ああ……」

 思わず考え込んでしまっていた。
 先生の持つ、用務員さんの懐中電灯にわたしの顔が反射する。
 
 ……すごく、悩んでる顔だな。
 テスト勉強とかしてるときよりよっぽど厳しい顔だ。

「金曜日も、二年生の生徒が一人いなくなりましたよね……」
「……まあ、探すのは先生たちでやるから、沢守は気にしないでくれ。試験前に、生徒に心配をかけるわけにはいかないからな」

 そう言うと先生は、また小走りで通り過ぎていった。

 用務員さんがまた数時間で戻ってくればいい。
 ただ、もしもそうでない場合、それは怪異が普段と違う行動を取ったということで。



 ……何にせよ、良い予感はしない。


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