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12、不安と葛藤
しおりを挟む「ねえ、君たち」
聞き覚えのある声に振り返ると、
「やあ、お久しぶり」
手を軽く振りながら近づいて来たのは、爽やかな好青年。
天然君だった。
「君、あの時の!」
僕が幾分声を高くすると、彼はきらっと光るような笑みを浮かべた。
「覚えててくれたんだ。嬉しいな」
そのまま右手を差し出して来る。
「俺は、ユーヤ。改めてよろしくね」
ユーヤは、白っぽい鎧とこれも白いロングコートを羽織り、分厚い盾と長い剣を背負っていた。
「よろしく、僕はロゥ」
「ミーシャです」
僕とミーシャで順に握手を交わす。
「ところで、ロゥとミーシャはどこのパーティに入るか決めた?」
「いや、まだだけど」
「そっか。よかったら俺たちと組んでくれないかなあ」
なんでもないようにユーヤはそう言う。
「どうやら、俺たちと一緒に来たユッタの新人はもう新しくパーティ組んだり、先輩に誘われて入れて貰ったりして残りは俺たちだけみたいなんだ」
「え」
「先輩に誘われるのは戦士かヒーラーばかりみたいだし。今のうちにヒーラーを勧誘しておかないとって」
ユーヤはミーシャを見やる。
「君、ヒーラーでしょ?」
「え、えっと、私は<薬草師>で…」
ミーシャは曖昧な物言いだ。
「ん?それって、ヒーラーとどう違うの?」
「え、えと…」
「あ!こっちこっち、ここだよー!!」
ミーシャが言い終わらないうちにユーヤは、壁際に並んで立つ二人の青年に大きく手を振った。
一人は赤髪の背の高い青年で頑丈そうな鎧に身を包み、もう一人は茶髪の大人しそうな青年で弓と矢筒を背負っている。
ユーヤの声に反応し、こっちに向かって来る。
「え、ちょっと、ユーヤ。誰?」
ロゥが聞くと、ユーヤは「ん?」と首をかしげる。
「さっき言ったでしょ、俺たちってさ」
そういえば、確かにそう言っていた。
「紹介するよ」
「こっちがヴァンで」赤髪を指差す。
「こっちがリク」次いで、弓を背負った青年を指差した。
「なんだよ二人とも女じゃねぇか」
ちっ、と舌打ちの音が、ヴァンと紹介された青年から発せられる。
「ヒーラーのこっちはともかく、このちっこい方は大丈夫かよ」
吐き捨てるような物言いと鋭い眼光。
とんでもなく高圧的な態度だ。
「僕は、男だ!」
尖った三白眼の瞳に負けぬよう、しっかりとヴァンを睨みつける。
すると、ヴァンは片方の眉をピクリと動かす。
「あ?」
「それに、2週間きっちり鍛錬したし」
腰に横向きに括り付けた白玖兎の柄を軽く撫でてみせる。
「ほう、いい度胸だ。やるか?」
ヴァンも背にある大きなロングソードに手を回す。
ピリッと空気が張り詰めた。
「ストーップ!」
ユーヤが声を張り上げ、ヴァンとロゥの間にずいずいと割り込んできた。
「ここじゃ喧嘩はダメだって。それに、これからパーティを組む仲間でしょ?仲良くしなきゃ」
「な、なんでもうこいつとパーティ組むことになってるわけ!?」
「え?ダメなの?」
キョトンとさも不思議そうに首をかしげるユーヤ。
すかさずロゥは声を張り上げた。
「こんな気が合わなそうな奴と組めるかっての!」
「でも、もう入れそうなパーティ無さそうだよ?」
「え」と集会所の中を見渡せば、さっきまであんなに賑わっていたのが嘘かのように人が減っていた。
「それに、新人の俺らを入れてくれる優しいとこなんて滅多にないだろうし、新人同士の俺らで組む方が得策だと思うよ。ね?」
「う、嘘でしょ…」
僕が肩をがくんと落とすと、ユーヤはトントンとその肩を叩いた。
「まあ、自己紹介も途中だし、とりあえず場所変えよ」
***
そのあと、長老とメリッサのところへ行き少々不満ながらもパーティ登録を済ませた。
登録は簡単で、身分装飾具を提示し名前を書類に書くだけだった。
最後にメリッサからヴィーゼルの証だと言う、銅貨に穴を開け紐を通しただけの飾り紐を受け取り、それぞれ腰や防具にくくりつけた。
「さて、じゃあ、仕切り直して自己紹介といこうか」
にこにことユーヤはあくまでも爽やかだ。
ロゥたちは集会所から出て、アリステムと言うこの街の外とを繋ぐ外門がある噴水広場に来ていた。
この大きな噴水の中央には剣を携えた少女の像が彫ってある。
なんでも、この世界を救った英雄姫なんだとか。
それでここは<乙女広場>なんて呼ばれているらしい。
「まずは俺からね。名前はユーヤ。クラスは<聖騎士>だよ。仲良くしてね」
にかっと笑う。
そして、すっと右手にいる僕に手を向ける。
どうやら次は僕が言えということらしい。
「僕は、ロゥ。クラスは<侍>。言っとくけど、女じゃないからね」
最後は、主に目の前のヴァンへ向けて言った言葉だ。
次いでちらっと傍のミーシャを見やる。
すると、ミーシャと視線がぶつかり、こくんと彼女が頷く。
「わ、私はミーシャです。クラスは<薬草師>。よろしくお願いします」
ちょっと震えていたけれど、ミーシャはきちんとお辞儀をした。
そして、隣のヴァンを見やるが、あの眼光に晒されてビクッと身体を強張らせた。
「ヴァンだ。クラスは<戦士>」
なんともぶっきらぼうな声音だ。
慣れ合う気はないとでも言うように、そっぽを向いている。
ダメだ。
こいつは、この先何があっても分かり合えそうにないタイプだ。
何より協調性に欠けている。
そして、最後に彼、リクに視線が行く。
集会所でユーヤに紹介されてから一言も声を発さず、困ったような表情を浮かべていたままだった。
「……」
彼の言葉を待っているが、一向に喋ろうとしない。
少し困ったようにおどおどしているのみだ。
「え、えと、リクだっけ?」
「……」
ロゥが耐えかねてそう尋ねると、無言ながら幾分顔を輝かせてこくん、と頷いた。
いや、こくん、じゃなくて。
喋ろうよ。
「あ~、そうだったそうだった!」
ぽん、とユーヤが手を打って声を上げる。
「リク、喋れないんだった」
「「は?」」
あろうことか、ヴァンとハモってしまった。
いや、この際どうでもいい。
そんなことより。
「しゃ、喋れないってどういうこと…?」
「ん?そのままの意味だよ。声が出せないんだって。あ、耳は聞こえるらしいよ」
なんてことはない、とでも言いたげなユーヤの声音。
「そのせいで前のパーティから外されちゃったらしいよ」
なんでそれを早く言わないんだ。
しかも今まで忘れてるって…。
「そりゃそうだ、喋れないメンバーなんてお荷物以外の何者でもねぇよ」
ヴァンは隠そうともせずにきつい視線をリクに向ける。
「そんな言い方…」
ヴァンに言い募ろうとするが、確かにその通りだった。
喋れない。
そのハンディはあまりに大きい。
声を出せないということは、そのまま意思疎通が取れないと言うことだ。
「まあまあ。まだ足手まといだって決まったわけじゃないし」
でも…。
突然、ユーヤがパンパン、と手を打つ。
「ささ、そろそろ稼ぎに行かないと。今日のご飯代もあるわけだし」
そう言うと足早に外門へと向かって行ってしまう。
「一応聞くけど、クラスは<狩人>で良いんだよね?」
リクに向かってそう言うと、すぐにこくん、と返事がある。
本当に喋れないんだなぁ。
はあ、と人知れずため息が漏れてしまう。
大丈夫かなぁ、このパーティで。
不安だらけだ。
もう不安しかない。
重い足を動かしながらもユーヤについて行くと、突然、ユーヤがクルッと振り返った。
「どこ行くか決めてなかったね。どこ行ったらいいだろう?」
相変わらずの爽やかな笑みで。
「はあーーー…」
先程よりも盛大なため息がロゥから漏れた。
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