デス13ゲーム ~死神に命を懸けた者たち~

鷹司

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第二部 死闘

第44話  脱出への道

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 ――――――――――――――――

 残り時間――4時間01分  

 残りデストラップ――4個

 残り生存者――4名     
  
 死亡者――6名   

 重体によるゲーム参加不能者――3名

 重体によるゲーム参加不能からの復活者――0名

 ――――――――――――――――


 スオウの銃創をひと目見るなり、瓜生は顔を大きくしかめた。スオウは瓜生に申し訳ない気持ちになった。大見得を切って廊下に飛び出したのまでは良かったが、結局、銃で傷を負って逃げてきたのだ。

 瓜生が何も言わずに銃創を手早く処置をしてくれる。ガーゼを傷口にあて、その上からきつく包帯を巻いていく。痛みはまだあるが少し楽になった。

 傷の処置が済んだところで、スオウは廊下に出てからのことを瓜生に話した。五分ほどでスオウの話は終わった。

 瓜生はしばらく思案したのち、重い口を開いた。

「――だいたいのことは分かった。だとしたら、やっぱりスオウ君とイツカちゃんは今すぐに逃げるんだ」

「ちょっと瓜生さん、おれの話を聞いていたんですか?」

「ああ、聞いていたさ。いいか、さっきから、病棟がミシミシギシギシと不気味な音を立て始めているんだ。ここはそう長い時間はもちそうにない」

「病棟の話はいいです! ここに銃を持った瑛斗が来るかもしれないんですよ? 瑛斗はヒロユキが持っていた銃を奪って、ヒロユキをなんの躊躇もなく殺したんです! おれはそれを間近で見たんです! ここに残っていたら危ないことぐらい、瓜生さんだって分かるでしょ? それこそ病棟が崩れる前に瑛斗にやられちゃいますよ!」

 スオウは言葉を荒げた。自分よりも年上でリーダー格の瓜生に対して、ここまで迫ったのはゲーム開始から初めてであった。それくらい、今の状況は緊迫していると考えてのことである。実際、スオウは瑛斗に銃で撃たれたのだから。

「――分かった。君がそこまでムキになって言うのならば――」

「おれたちと一緒に逃げてくれるんですよね?」

「いや、そういうことじゃない」

「えっ、それじゃ……」

「今から俺のことを話す。それで分かって欲しい」

「瓜生さんのこと……?」

「ああ、そうだ。俺は君たちと違って仕事でここにいるんだ。俺の仕事はフリーライターなんだ」

 瓜生はそこで改まった様子でスオウの顔を見つめてきた。

「フリーライター……?」

「しかも都市伝説が専門の胡散臭いフリーライターさ。都市伝説絡みのことならば、どんな如何わしい話でも、どんなくだらない話でも、それからどんな危険な話でも取材してきた」

「それじゃ、瓜生さんは始めからこのゲームのことを知っていたってことですか?」

「ああ。詳しい内容までは知らなかったが、命を懸けたゲームが人知れず行われているということだけは知っていた」

 スオウが瓜生に対してずっと感じていた違和感の正体がこれだったのだ。瓜生はこのゲームのことをあらかじめ知っていた。だからこそ、言葉の端々にそれが出ていたのだろう。

「でもどうして、この危険なゲームに参加したんですか? 取材の一環ですか?」

「取材といえば取材だが……いや、正確に言うとちょっと違うかな。――元々は俺の後輩が先にこのゲームについて調べていたんだ。その後輩はより詳しくゲームについて調べるために、自分でそのゲームに参加することにしたんだ。もちろん、俺はそんな危険なことはするなと言った。でも、そいつは俺に知らせずにゲームに参加して……」

「まさか、亡くなった――」

「俺が次にその後輩の顔を見たのは、警察の死体置き場だったよ……」

「だったら、なおさらにこんなゲームのことなんか無視して逃げましょうよ!」

「いや、それは出来ない」

「どうしてですか?」

「俺は後輩の死に顔を見て、そのときに誓ったんだ。――後は俺が引き継ぐとな。それが俺がこのゲームに参加した理由さ」

「そんな……」

 大人の事情など、高校生のスオウにはとうてい分からない。でも、ここに残れば瑛斗に襲われるのだけはたしかである。

「君は難病の妹さんを助けるために参加したんだろう? だとしたら、こんなところで死んでは絶対にダメだ。君は生き残って、もう一度妹さんに会わなければいけない。それが君の役目だ。そして俺の役目は死んだ後輩が果たせなかった仕事の続きをすることにある。君の目から見たら、くだらないことに映るかもしれないが、俺にとっては命を懸けてもやる価値がある仕事なんだ。分かってくれとは言わないが、俺を止めることは出来ないぜ」

「でも、その後輩さんだって、瓜生さんが死んだら――」

 言いかけたスオウの言葉をさえぎって、イツカが口をはさんできた。

「その後輩さんって、瓜生さんの大切な人だったんですか?」

 ずっと視線をベッド上の愛莉に向けていた瓜生が、イツカの言葉を聞いて、さっと顔を上げた。

「もしかして、その人は愛莉さんと似て――」

「イツカちゃん、君の洞察力には感服するが、さっきも言ったように、これは俺の問題だ」

 瓜生は反論を封じ込めるような強い口調で返した。

「すみません。立ち入り過ぎました」

 イツカがその場で頭を下げた。どうやら、イツカの推論は正しかったみたいだ。

「これで分かっただろう。とにかく、君たち二人は今すぐ逃げるんだ。俺は瑛斗をなんとかする。そのあとでこの子を連れて、すぐに君たちの後を追いかけるから」

 瓜生がスオウとイツカの顔を順番に見つめた。

「でも瓜生さん、その足じゃ――」

「心配するな。君たちが持ってきてくれた車イスを使えばどうにかなるさ。都市伝説ライターなんていうアブナイ仕事をしているからな、俺はこれまでも絶体絶命の危地から、何度も逃げ切ったことがあるんだぜ。その辺のやわな人間と一緒にしてくれるな」

 明らかに作り笑いと分かる表情を浮かべて、強気なことを言う瓜生である。

「イツカ、どうする?」

「瓜生さんがここまで言うのならば――」

「――分かったよ」

 それでスオウも踏ん切りが付いた。

「瓜生さん、おれたちは病棟から逃げることにします。でも、これだけは約束してください。必ず生きてまた会えると」

「――分かった。必ず生きて再会しよう。そのときは、俺が今まで調べてきたとっておきの都市伝説を、夜通しで嫌というほど聞かせてやるからな。覚悟しておけよ」

「瓜生さん、それってなんだか死亡フラグに聞こえますよ」

 スオウは冗談交じりに返した。

「上等じゃねえか。だったら、そんな死亡フラグは俺が叩き折ってやるまでさ!」

 瓜生が作り笑いではなく、本当の笑みを浮かべた。見た者すべてに元気をくれる、そんな瓜生の笑みを見てスオウは、瓜生ならきっと愛莉を助けて、必ず生き残ってくれると確信した――。


 ――――――――――――――――


 スオウとイツカが廊下に出て行くのを見送ったあと、瓜生はベッドに横たわる愛莉の顔に目を向けた。 死んだ後輩に似ているところなどひとつもないはずなのに、なぜか助けなくてはならないという思いに駆られた。


 今だに後輩のことを苦にしているためか? 


 それは何度も自問自答してきたことであった。結局、そのたびに答えは出ぬまま、今日までだらだらと過ごしてきた。

 でも、今は違う。この子を助けることができたならば、一歩前に進めるような気がするのだ。

 そのためにはこれからが本当の勝負になる。

「悪いが少しの間出てくるぜ。必ず帰ってくるから、それまでここで待っていてくれよな」

 愛莉と一緒に行動出来ない以上は、ここに愛莉を残して、瑛斗とは別の場所で対峙するつもりだった。

 足の怪我を確認する。傷口が開かないように、包帯のズレを少しきつめに縛り直す。

 準備はこれで万全。

 瓜生は廊下に出た。部屋のドアを静かに閉じる。

 まずやるべきことは、愛理がいるこの部屋から遠ざかること。次に瑛斗の銃に対応出来る武器になりそうな物を探すこと。最後に瑛斗と戦うこと。

 頭の中でプランを立てた。

 廊下に設置された院内案内図を見る。武器になりそうなものが置いてある部屋はないか確認する。

 倉庫か備品室ならなにかありそうな気がするが、このフロアにはなかった。

 レストランには刃物類があるだろうが、ガス爆発で壊滅状態のはずである。

 何種類かの薬剤を混ぜて劇薬や爆薬を作れないかとも考えたが、高校時代の化学の成績を思い出して、即座に却下した。


 こうなったら、地道に歩いて探すしかないか。


 瓜生は足をかばいながら歩き出した。


 ――――――――――――――――


 瓜生と別れたスオウたちは二階の階段を降りて、一階にやってきた。正面玄関の場所は分かるが、そこは落ちてきた鉄パイプで通れなくなっている。だとしたら、他のところから外に出ないとならない。

「窓から出るのが一番簡単だろうな」

「そうだね。ただ、玄関のときみたいに、なにか落ちてこないかだけは注意しないとね」

「ああ、デストラップがまだ残っているからな。前兆を見逃さないようにしないと」

 イツカの冷静な指摘に、スオウは緊張感を持って答えた。

 廊下の窓は全て粉々に砕け散っていた。しかしガラスの破片にさえ気をつければ、なんなく外に出られそうではある。

 スオウは手近の窓枠を掴んで、外に半身だけ身を乗り出した。地震の影響のせいか外灯は付いておらず、辺りを見渡すのは困難であった。

「暗くてなんにも見えないな。これじゃ、デストラップがあるかないかも確認出来ないよ」

 一旦、廊下側に体を戻した。

「イツカ、どうする? 一か八かで外に出てみようか?」

「うーん、危ないけど、それしかないかな」

 イツカが可愛らしく小首をひねった。眉根を寄せて検討を始める。
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