45 / 60
第二部 死闘
第41話 狂人と凶人の邂逅
しおりを挟む
――――――――――――――――
残り時間――4時間41分
残りデストラップ――5個
残り生存者――4名
死亡者――5名
重体によるゲーム参加不能者――3名
重体によるゲーム参加不能からの復活者――1名
――――――――――――――――
ふらふらと廊下を歩いていく瑛斗。
もう少しで、あとほんのもう少しで、答えを得られることが出来るはずだったのに、最後の最後に邪魔が入った。
さらに腹と額に傷を負ってしまった。特に腹は肋骨が折れたらしく、足を一歩進めるたびに、ズキズキと痛みが生まれる。加えて、唯一の武器であるメスも手放さざるを得なかった。
果たして、ここから逆転は出来るだろうか?
もっとも、瑛斗にとっての逆転はこのゲームに勝つことではない。薫子の腹から赤ちゃんを取り出すことこそが、瑛斗にとっての最終目的であることに変わりはないから。
四階から三階へと降りてきた。ガス爆発があった場所に近いせいか、それとも地震による影響か、目に見える範囲はかなりの損壊状況がみてとれた。
この体では歩くのにもひと苦労しそうだが、あの男たちがいる四階には戻れないし、五階にはあのババアがひとりいるだけなので行っても無意味だろう。
もう一度、一階まで降りて、武器となるメスを調達してくるか、それともこの三階で得物になるなにかを探すか――。
「どこかにお宝はないかなあ」
廊下の左右のドアを順番に見ていく。ドアが開いている部屋もあれば、ドア自体が蝶番から外れてしまっている部屋もある。
ドアに付けられた案内プレートを見て、武器になりそうな物がある部屋を捜していく。
入り口がガレキで完全にふさがってしまっている部屋があった。案内プレートも見当たらないので、なんの部屋か分からなかった。
「さすがにこの部屋を探索するのは無理かなあ」
足元に出来た小さなガレキの山の中に表示板らしき細長い物体が見えた。破壊の衝撃の為か、真ん中辺りからぐにゃりと折れ曲がってしまっている。文字が書いてあるのだが『パ』と『ン』の字しか見えない。
「パンって書いてあるのか? うーん、違うなあ。折れ曲がっているから、『パ』と『ン』の間の字が読めないだけかな。でもパンといえば、この病院に来てから、なにも食べていないんだよなあ。あっ、そうか。こういう大きい病院なら、レストランとか自動販売機とかきっとあるはずだよな。そこになにか食べるものでもないかなあ」
頭の中でパンを想像したとたんに、お腹にシグナルが走ってしまい、空腹感が生まれた。
「レストランって、何階かなあ? 院内案内図に載ってないかな?」
空腹感をこらえながら、さらに前に進んでいくと、床一面に大量のガレキが散乱している場所に行き着いた。
天井のパネルが完全に抜け落ちており、ぽっかりと穴が出来上がっている。飴細工のようにひしゃげた鉄パイプの先が、穴から何本も顔をのぞかせている。
歩けないわけではないが、この下を進むのは少し危険に思えた。
壁に設置されている院内案内図を見る。レストランはこの先にある階段を降りた所にある。出来れば傷ついた体で遠回りはしたくなかった。
「さて、どうしようかなあ? このまま先に進むか、それとも後戻りするか、思案のしどころだね」
瑛斗は眉間にしわを寄せて、沈思黙考にはいる。
これからすべき事は――。
お腹から赤ちゃんを取り出すこと。
武器を探すこと。
食べるものを探すこと。
それと――邪魔な参加者を皆殺しにすること。
果たして、どれから手を付けるのが一番いいだろうか?
――――――――――――――――
瓦礫の下から脅威の復帰を果たしたヒロユキは、レストランから廊下へと出た。レストランを出た先にある廊下は、ガレキの山でふさがれていて進めそうになかったので、仕方なく、ヒロユキは三階に続く階段を進むことにした。
よろよろと階段を昇っていく。歩くたびに、体のいたるところに痛みが走りぬける。特に火傷した部分がズキズキと痛む。今もまだ火がついているように感じるほど熱い痛みがある。
それでも左右の足を交互に引きずりながら、ゾンビさながらに歩いていく。
左目は完全にふさがっていて見えない。残っている右目も視界がぼやけてしまっている。今や正常な体の部位を探すほうが難しいくらいだ。
右手に握りしめている銃だけが頼りであった。
三階のフロアが視界の先に見えてきた。
人の話している声が聞こえる。すぐ間近でガス爆発の衝撃を受けたので、耳の鼓膜をいちじるしく傷つけてしまったが、それでもその声はたしかに聞こえてきた。
「へへへ……ごうがや、最初ど、標的ば……見付まっか……いかい、がな……」
声に出してつぶやいたつもりだったが、かすれ過ぎて言葉にすらならなかった。
右手に持った銃を構えようすると、とたんに鋭い痛みが腕に走り、構えることが出来なかった。とりあえず相手に銃口だけは向けないとならないので、痛みに耐えながら手首だけを動かして、銃口を正面に向ける。狙いは定まらないが、相手を脅嚇するぐらいなら出来るだろう。
ヒロユキは声のした方にゆっくりと近付いていった。
――――――――――――――――
四階の廊下で円城と分かれてから、すでに一時間以上が経過していた。その間に、レストランが発生場所だと思われる、ガス爆発が起こっている。その件があったとしても、スオウたちが待機している二階まで戻ってくるのに、時間が掛かり過ぎているように思えた。
スオウが改めて瓜生に相談しようとしたとき、メールの着信音がした。メールを開く前から嫌な予感がした。果たして――。
『 ゲーム退場者――3名 円城 五十嵐 薫子
残り時間――4時間39分
残りデストラップ――5個
残り生存者――4名
死亡者――5名
重体によるゲーム参加不能者――3名
重体によるゲーム参加不能からの復活者――1名 』
予想しえるなかで、最悪の事態が起こってしまった。新たに二人が死亡して、ひとりの重体者が出たのだ。メールからでは誰が死んだのか判断できないが、どちらにしろ、これで円城が自力で二階に戻って来れなくなったのだけは確かである。
「瓜生さん……円城さんが、円城さんが……」
「――ああ、分かっている……」
瓜生の言葉も重いものだった。
「瓜生さん、どうしたら……? 円城さんも五十嵐さんもいないとなると、ミネさんはひとりで……」
メールには書かれていなかったが、ミネの状況も非常に気になる。今ミネの様子を看てくれている人はいるのだろうか。
「いいか、スオウ君。今から俺が言うことをしっかり聞いてくれ。――君はすぐにイツカちゃんと一緒にこの病院から逃げるんだ!」
予想外の指示を瓜生が出してきた。
「ちょっと待ってください! 瓜生さん、それってどういうことですか?」
スオウは瓜生に詰め寄った。生きている可能性がまだ残っている円城たちを助けに行けと言う指示ならば理解出来るが、逃げろとはどういう意味なのか。円城たちだけでなく、ミネも見捨てろということなのか。
「いいか、冷静に現状を分析するんだ。三人が一度にやられた。これ以上ここで待っていてもしょうがない。助かる可能性が高いうちに、ここから避難するのが妥当だろう?」
「瓜生さんの言いたいことは分かります。でも、ここにいる愛莉さんのように、重体だとしても助けることが出来るんですよ。ミネさんも、それから円城さんたち三人のうちの重体者ひとりを助けることだって、可能でしょう?」
「どうやって、その二人の重体者をここまで連れてくるんだ?」
「それは……」
そう言われてしまうと、返答に詰まってしまうスオウである。感情に任せて言っただけで、助けられるという保障はどこにもないのだ。
答えを求めるようにイツカの顔をうかがった。イツカは難しそうな表情を浮かべている。イツカも回答を模索しているらしい。
「スオウ君、俺が気になっているのは、なにも重体の参加者だけじゃないんだ。このメールにある『重体によるゲーム参加不能からの復活者1名』というのも気になっているんだ」
「『重体によるゲーム参加不能からの復活者1名』ってことは、書いてある通り誰かが復活しただけなんじゃないですか?」
「その誰かが問題なんだよ。これまでの重体者は三人いる。ミネのばあさん、ここのベッドに横になっている愛莉、そしてヒロユキとヒロトのどちらか、以上の三人だ。愛莉は見ての通りまだ意識が完全に戻っていない。残りの二人のうち、ミネのばあさんかヒロトが復活したのであればいいが、もしもヒロユキが復活していたら、これほど危険なことはないだろう?」
瓜生の言いたいことはスオウだって理解できる。ヒロユキは銃を持っているのだ。銃を持った男が復活して、病院内を歩き回っているとしたら、これ以上の危険はない。
でも、だからといって、自分とイツカだけが先に逃げ出すという選択肢を選ぶわけにはいかない。それを選ぶときは、本当に最後の最後である。
張り詰めた緊張感がみなぎる室内で、スオウは必死に頭を回転させる。
その間も、ゲームは続いている――。
――――――――――――――――
廊下の先から物音が聞こえてきた。参加者の誰かがいるとしたら、殺さなければならない。
武器を持っていないのが多少不安ではあるが、相手をダマすのには自信がある。なにせ医療少年院のスタッフを全員ダマした実績があるのだから。
とにかく、相手をダマして油断したところを襲えばいい。メスはないが、幸いにして、この階はガレキがそこらじゅうに散乱している。ガレキ目掛けて押し倒してやれば、相手にそれなりのダメージを与えられるはずだ。さらにそこでトドメを刺すことが出来れば御の字である。
さっきの蘇った喪服の男の件もあるので、しっかりと息の根を止めないと、あとで思わぬ反撃を食らうことがある。そこだけは注意しないとならない。
瑛斗は辺りを見回して、自分が有利になれる状況が作れないかと思案する。
壁はひび割れている。天井は抜け落ちている。廊下はガレキの山が散乱している。
この状況で気をつけないといけないのが、天井の穴からの落下物である。天井の穴の先になにがあるのか確認出来ないので、穴の下を通るときだけは慎重にならないと。
いろいろと考えていると、廊下の先に人影が見えてきた。
さあ、ここからはダマしあいの始まりだ。
瑛斗は気弱な青年の表情を作り上げると、その人影がこちらに近寄ってくるのを待つことにした。
「ここの処理が済んだら、パン探しを再開しようかなあ」
唐突に、さっきの『パン』と表示された、折れ曲がった表示板が脳裏に浮かんできた。そして――。
「待てよ……『パン』って、そういう意味を示しているのかな?」
ガレキが散乱する床を凝視した。その目を不敵に輝かせる。
「なるほどね、試してみる価値はありそうだ」
瑛斗は獲物が少しずつ近くにやってくるのをじっと待ち続ける。
残り時間――4時間41分
残りデストラップ――5個
残り生存者――4名
死亡者――5名
重体によるゲーム参加不能者――3名
重体によるゲーム参加不能からの復活者――1名
――――――――――――――――
ふらふらと廊下を歩いていく瑛斗。
もう少しで、あとほんのもう少しで、答えを得られることが出来るはずだったのに、最後の最後に邪魔が入った。
さらに腹と額に傷を負ってしまった。特に腹は肋骨が折れたらしく、足を一歩進めるたびに、ズキズキと痛みが生まれる。加えて、唯一の武器であるメスも手放さざるを得なかった。
果たして、ここから逆転は出来るだろうか?
もっとも、瑛斗にとっての逆転はこのゲームに勝つことではない。薫子の腹から赤ちゃんを取り出すことこそが、瑛斗にとっての最終目的であることに変わりはないから。
四階から三階へと降りてきた。ガス爆発があった場所に近いせいか、それとも地震による影響か、目に見える範囲はかなりの損壊状況がみてとれた。
この体では歩くのにもひと苦労しそうだが、あの男たちがいる四階には戻れないし、五階にはあのババアがひとりいるだけなので行っても無意味だろう。
もう一度、一階まで降りて、武器となるメスを調達してくるか、それともこの三階で得物になるなにかを探すか――。
「どこかにお宝はないかなあ」
廊下の左右のドアを順番に見ていく。ドアが開いている部屋もあれば、ドア自体が蝶番から外れてしまっている部屋もある。
ドアに付けられた案内プレートを見て、武器になりそうな物がある部屋を捜していく。
入り口がガレキで完全にふさがってしまっている部屋があった。案内プレートも見当たらないので、なんの部屋か分からなかった。
「さすがにこの部屋を探索するのは無理かなあ」
足元に出来た小さなガレキの山の中に表示板らしき細長い物体が見えた。破壊の衝撃の為か、真ん中辺りからぐにゃりと折れ曲がってしまっている。文字が書いてあるのだが『パ』と『ン』の字しか見えない。
「パンって書いてあるのか? うーん、違うなあ。折れ曲がっているから、『パ』と『ン』の間の字が読めないだけかな。でもパンといえば、この病院に来てから、なにも食べていないんだよなあ。あっ、そうか。こういう大きい病院なら、レストランとか自動販売機とかきっとあるはずだよな。そこになにか食べるものでもないかなあ」
頭の中でパンを想像したとたんに、お腹にシグナルが走ってしまい、空腹感が生まれた。
「レストランって、何階かなあ? 院内案内図に載ってないかな?」
空腹感をこらえながら、さらに前に進んでいくと、床一面に大量のガレキが散乱している場所に行き着いた。
天井のパネルが完全に抜け落ちており、ぽっかりと穴が出来上がっている。飴細工のようにひしゃげた鉄パイプの先が、穴から何本も顔をのぞかせている。
歩けないわけではないが、この下を進むのは少し危険に思えた。
壁に設置されている院内案内図を見る。レストランはこの先にある階段を降りた所にある。出来れば傷ついた体で遠回りはしたくなかった。
「さて、どうしようかなあ? このまま先に進むか、それとも後戻りするか、思案のしどころだね」
瑛斗は眉間にしわを寄せて、沈思黙考にはいる。
これからすべき事は――。
お腹から赤ちゃんを取り出すこと。
武器を探すこと。
食べるものを探すこと。
それと――邪魔な参加者を皆殺しにすること。
果たして、どれから手を付けるのが一番いいだろうか?
――――――――――――――――
瓦礫の下から脅威の復帰を果たしたヒロユキは、レストランから廊下へと出た。レストランを出た先にある廊下は、ガレキの山でふさがれていて進めそうになかったので、仕方なく、ヒロユキは三階に続く階段を進むことにした。
よろよろと階段を昇っていく。歩くたびに、体のいたるところに痛みが走りぬける。特に火傷した部分がズキズキと痛む。今もまだ火がついているように感じるほど熱い痛みがある。
それでも左右の足を交互に引きずりながら、ゾンビさながらに歩いていく。
左目は完全にふさがっていて見えない。残っている右目も視界がぼやけてしまっている。今や正常な体の部位を探すほうが難しいくらいだ。
右手に握りしめている銃だけが頼りであった。
三階のフロアが視界の先に見えてきた。
人の話している声が聞こえる。すぐ間近でガス爆発の衝撃を受けたので、耳の鼓膜をいちじるしく傷つけてしまったが、それでもその声はたしかに聞こえてきた。
「へへへ……ごうがや、最初ど、標的ば……見付まっか……いかい、がな……」
声に出してつぶやいたつもりだったが、かすれ過ぎて言葉にすらならなかった。
右手に持った銃を構えようすると、とたんに鋭い痛みが腕に走り、構えることが出来なかった。とりあえず相手に銃口だけは向けないとならないので、痛みに耐えながら手首だけを動かして、銃口を正面に向ける。狙いは定まらないが、相手を脅嚇するぐらいなら出来るだろう。
ヒロユキは声のした方にゆっくりと近付いていった。
――――――――――――――――
四階の廊下で円城と分かれてから、すでに一時間以上が経過していた。その間に、レストランが発生場所だと思われる、ガス爆発が起こっている。その件があったとしても、スオウたちが待機している二階まで戻ってくるのに、時間が掛かり過ぎているように思えた。
スオウが改めて瓜生に相談しようとしたとき、メールの着信音がした。メールを開く前から嫌な予感がした。果たして――。
『 ゲーム退場者――3名 円城 五十嵐 薫子
残り時間――4時間39分
残りデストラップ――5個
残り生存者――4名
死亡者――5名
重体によるゲーム参加不能者――3名
重体によるゲーム参加不能からの復活者――1名 』
予想しえるなかで、最悪の事態が起こってしまった。新たに二人が死亡して、ひとりの重体者が出たのだ。メールからでは誰が死んだのか判断できないが、どちらにしろ、これで円城が自力で二階に戻って来れなくなったのだけは確かである。
「瓜生さん……円城さんが、円城さんが……」
「――ああ、分かっている……」
瓜生の言葉も重いものだった。
「瓜生さん、どうしたら……? 円城さんも五十嵐さんもいないとなると、ミネさんはひとりで……」
メールには書かれていなかったが、ミネの状況も非常に気になる。今ミネの様子を看てくれている人はいるのだろうか。
「いいか、スオウ君。今から俺が言うことをしっかり聞いてくれ。――君はすぐにイツカちゃんと一緒にこの病院から逃げるんだ!」
予想外の指示を瓜生が出してきた。
「ちょっと待ってください! 瓜生さん、それってどういうことですか?」
スオウは瓜生に詰め寄った。生きている可能性がまだ残っている円城たちを助けに行けと言う指示ならば理解出来るが、逃げろとはどういう意味なのか。円城たちだけでなく、ミネも見捨てろということなのか。
「いいか、冷静に現状を分析するんだ。三人が一度にやられた。これ以上ここで待っていてもしょうがない。助かる可能性が高いうちに、ここから避難するのが妥当だろう?」
「瓜生さんの言いたいことは分かります。でも、ここにいる愛莉さんのように、重体だとしても助けることが出来るんですよ。ミネさんも、それから円城さんたち三人のうちの重体者ひとりを助けることだって、可能でしょう?」
「どうやって、その二人の重体者をここまで連れてくるんだ?」
「それは……」
そう言われてしまうと、返答に詰まってしまうスオウである。感情に任せて言っただけで、助けられるという保障はどこにもないのだ。
答えを求めるようにイツカの顔をうかがった。イツカは難しそうな表情を浮かべている。イツカも回答を模索しているらしい。
「スオウ君、俺が気になっているのは、なにも重体の参加者だけじゃないんだ。このメールにある『重体によるゲーム参加不能からの復活者1名』というのも気になっているんだ」
「『重体によるゲーム参加不能からの復活者1名』ってことは、書いてある通り誰かが復活しただけなんじゃないですか?」
「その誰かが問題なんだよ。これまでの重体者は三人いる。ミネのばあさん、ここのベッドに横になっている愛莉、そしてヒロユキとヒロトのどちらか、以上の三人だ。愛莉は見ての通りまだ意識が完全に戻っていない。残りの二人のうち、ミネのばあさんかヒロトが復活したのであればいいが、もしもヒロユキが復活していたら、これほど危険なことはないだろう?」
瓜生の言いたいことはスオウだって理解できる。ヒロユキは銃を持っているのだ。銃を持った男が復活して、病院内を歩き回っているとしたら、これ以上の危険はない。
でも、だからといって、自分とイツカだけが先に逃げ出すという選択肢を選ぶわけにはいかない。それを選ぶときは、本当に最後の最後である。
張り詰めた緊張感がみなぎる室内で、スオウは必死に頭を回転させる。
その間も、ゲームは続いている――。
――――――――――――――――
廊下の先から物音が聞こえてきた。参加者の誰かがいるとしたら、殺さなければならない。
武器を持っていないのが多少不安ではあるが、相手をダマすのには自信がある。なにせ医療少年院のスタッフを全員ダマした実績があるのだから。
とにかく、相手をダマして油断したところを襲えばいい。メスはないが、幸いにして、この階はガレキがそこらじゅうに散乱している。ガレキ目掛けて押し倒してやれば、相手にそれなりのダメージを与えられるはずだ。さらにそこでトドメを刺すことが出来れば御の字である。
さっきの蘇った喪服の男の件もあるので、しっかりと息の根を止めないと、あとで思わぬ反撃を食らうことがある。そこだけは注意しないとならない。
瑛斗は辺りを見回して、自分が有利になれる状況が作れないかと思案する。
壁はひび割れている。天井は抜け落ちている。廊下はガレキの山が散乱している。
この状況で気をつけないといけないのが、天井の穴からの落下物である。天井の穴の先になにがあるのか確認出来ないので、穴の下を通るときだけは慎重にならないと。
いろいろと考えていると、廊下の先に人影が見えてきた。
さあ、ここからはダマしあいの始まりだ。
瑛斗は気弱な青年の表情を作り上げると、その人影がこちらに近寄ってくるのを待つことにした。
「ここの処理が済んだら、パン探しを再開しようかなあ」
唐突に、さっきの『パン』と表示された、折れ曲がった表示板が脳裏に浮かんできた。そして――。
「待てよ……『パン』って、そういう意味を示しているのかな?」
ガレキが散乱する床を凝視した。その目を不敵に輝かせる。
「なるほどね、試してみる価値はありそうだ」
瑛斗は獲物が少しずつ近くにやってくるのをじっと待ち続ける。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
S県児童連続欠損事件と歪人形についての記録
幾霜六月母
ホラー
198×年、女子児童の全身がばらばらの肉塊になって亡くなるという傷ましい事故が発生。
その後、連続して児童の身体の一部が欠損するという事件が相次ぐ。
刑事五十嵐は、事件を追ううちに森の奥の祠で、組み立てられた歪な肉人形を目撃する。
「ーーあの子は、人形をばらばらにして遊ぶのが好きでした……」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる