43 / 60
第二部 死闘
第39話 誰かの為に出来ること その3
しおりを挟む
――――――――――――――――
残り時間――4時間58分
残りデストラップ――6個
残り生存者――7名
死亡者――3名
ゲーム参加不能者――2名
重体によるゲーム参加不能からの復活者――1名
――――――――――――――――
五十嵐が天井に取り付けられているスプリンクラーにライターの炎を近づけた。
一瞬後、スプリンクラーから大量の水が噴き出してきて、五十嵐と円城は全身ずぶ濡れになる。ほぼ同時に、非常ベルの甲高い音が鳴り始めて、廊下に騒々しく響き渡っていく。
「よし行こう!」
円城は五十嵐に目配せして、ストレッチャーの上に飛び乗った。
「分かりました!」
五十嵐がストレッチャーの手摺りを掴み、勢いよく前に押し出す。
ストレッチャーがキキキと悲鳴じみた音をたてながら、床の上を滑るように突き進んでいく。腹ばいの姿勢で上に乗る円城は、振り落とされないようにストレッチャーのサイド部分をしっかりと掴む。
「突撃だ!」
円城の声を掻き消すぐらいの衝突音を上げて、ストレッチャーが産婦人科の診察室のドアを一気にブチ破った。
円城の視界の先に驚愕の表情を浮かべた瑛斗の姿。
ストレッチャーは勢いを緩めることなく診察室に突入。
瑛斗がメスを手に取り、構える素振りを見せた。
だが、瑛斗がメスを振るうのよりも先に、ストレッチャーが瑛斗に衝突した。
同時に、円城はストレッチャーの上からジャンプして、瑛斗に果敢に飛び掛っていった。
円城と瑛斗が抱きつくような形で、床の上を転がる。
先に立ち上がったのは円城だった。
「お、お、お前……さっきボクが、メスで刺したはずじゃ……」
「生憎とあんなの全然効かなかったぜ」
円城は床に転がったままの瑛斗のわき腹を狙って、靴の先で猛然と蹴りつけた。相手は躊躇なくメスで刺してくる男である。ここで手加減すると逆に危険だ。
「うぎゅっ……ぐっ……」
瑛斗が喉の奥から搾り出すようにして呻き声を漏らす。
さらに蹴りつける。
さらに蹴りつける。
さらに蹴りつける。
靴先がなにかを壊す感覚。瑛斗の肋骨を折ったらしい。
瑛斗が腹を押さえて、ひと際大きなうめき声をあげる。
そこでようやく円城は一呼吸おいた。
「薫子さんはどうだ?」
五十嵐に呼びかける。危険なので視線は瑛斗から外さない。
「こ、こ、これは……ひどい……ひどい状態だ……。お腹から……出血している……」
五十嵐の沈痛な声。
「そんなにひどいのか?」
「ああ、出血の量が……」
「とにかく止血を頼む」
「わ、分かった……。や、や、やってみる……」
五十嵐がガサゴソと動く音がする。
「まずいな。手遅れにならなければいいが……」
円城が薫子の身を案じたわずかな気の緩みを、瑛斗は見逃していなかった。左手でわき腹を押さえながら、メスを持った右手を下から突き上げてきた。真っ直ぐ円城の腹を目掛けて。
さくっとメスが円城の腹に食い込んでいく。
瑛斗の苦痛に歪む顔に、にまりと笑みが浮かぶ。
しかし、円城の反応はといえば、自分の腹から突き出たメスをなんでもないという風に見つめただけであった。円城はメスを持つ瑛斗の右手をがっしりと掴んだ。そのまま上に持ち上げる。
自然と瑛斗も立ち上がらざるえない。痛みに耐えながら立ち上がる瑛斗。
「さっきも言っただろう。こんなメスじゃ全然効かないぜ。私は死神なんだよ。だから、痛みなんか超越してるんだ!」
円城は驚きのせいか、あるいは痛みのせいか声を出せないでいる瑛斗の顔面に、強力な頭突きを入れた。今の円城は痛みを感じないので、容赦ない頭突きだった。
「ぐぎゅうぃぃ……」
瑛斗が意味不明な声をあげた。額がぱっくりと切れて、血が鼻の両脇を流れ落ちていく。
「おまえはそこで寝てろ!」
円城は瑛斗の腕から手を離した。瑛斗がぐったりと床に崩れ落ちていく。これで当分の間は大人しくしているだろう。
瑛斗に向けていた視線を、五十嵐の方に向けた。五十嵐は薫子が横たわる診察台の脇に立っていた。
「薫子さんの様子はどうだ?」
言いながら近寄っていく。
「呼吸がすごく弱いです! 意識もはっきりしていないし……このままじゃ……」
五十嵐が暗い表情を浮かべる。
「止血の方はどうだ?」
「棚に入っていたガーゼで押さえたけど、出血の量に追い付かないんです!」
「サージカルテープでガーゼをきつく固定させるんだ。これ以上の出血はなんとしても止めないと、本当に体がもたないぞ!」
「サージカルテープならガーゼの置いてあった棚に入っていたはず!」
五十嵐が棚の中を必死に探し始める。
「円城さん、ありました!」
「よし、貸してくれ! 私がやる!」
円城は薫子のお腹を覆うガーゼを、サージカルテープで素早く固定させていく。
「――これで大丈夫なんですか?」
五十嵐が薫子の顔色をうかがう。血の気のない青白い肌。息は浅く、ときより不意に数秒止まったりする。誰が見ても非常に危険だと分かるくらい薫子は深刻な状態であった。
そのとき――。
残り時間――4時間58分
残りデストラップ――6個
残り生存者――7名
死亡者――3名
ゲーム参加不能者――2名
重体によるゲーム参加不能からの復活者――1名
――――――――――――――――
五十嵐が天井に取り付けられているスプリンクラーにライターの炎を近づけた。
一瞬後、スプリンクラーから大量の水が噴き出してきて、五十嵐と円城は全身ずぶ濡れになる。ほぼ同時に、非常ベルの甲高い音が鳴り始めて、廊下に騒々しく響き渡っていく。
「よし行こう!」
円城は五十嵐に目配せして、ストレッチャーの上に飛び乗った。
「分かりました!」
五十嵐がストレッチャーの手摺りを掴み、勢いよく前に押し出す。
ストレッチャーがキキキと悲鳴じみた音をたてながら、床の上を滑るように突き進んでいく。腹ばいの姿勢で上に乗る円城は、振り落とされないようにストレッチャーのサイド部分をしっかりと掴む。
「突撃だ!」
円城の声を掻き消すぐらいの衝突音を上げて、ストレッチャーが産婦人科の診察室のドアを一気にブチ破った。
円城の視界の先に驚愕の表情を浮かべた瑛斗の姿。
ストレッチャーは勢いを緩めることなく診察室に突入。
瑛斗がメスを手に取り、構える素振りを見せた。
だが、瑛斗がメスを振るうのよりも先に、ストレッチャーが瑛斗に衝突した。
同時に、円城はストレッチャーの上からジャンプして、瑛斗に果敢に飛び掛っていった。
円城と瑛斗が抱きつくような形で、床の上を転がる。
先に立ち上がったのは円城だった。
「お、お、お前……さっきボクが、メスで刺したはずじゃ……」
「生憎とあんなの全然効かなかったぜ」
円城は床に転がったままの瑛斗のわき腹を狙って、靴の先で猛然と蹴りつけた。相手は躊躇なくメスで刺してくる男である。ここで手加減すると逆に危険だ。
「うぎゅっ……ぐっ……」
瑛斗が喉の奥から搾り出すようにして呻き声を漏らす。
さらに蹴りつける。
さらに蹴りつける。
さらに蹴りつける。
靴先がなにかを壊す感覚。瑛斗の肋骨を折ったらしい。
瑛斗が腹を押さえて、ひと際大きなうめき声をあげる。
そこでようやく円城は一呼吸おいた。
「薫子さんはどうだ?」
五十嵐に呼びかける。危険なので視線は瑛斗から外さない。
「こ、こ、これは……ひどい……ひどい状態だ……。お腹から……出血している……」
五十嵐の沈痛な声。
「そんなにひどいのか?」
「ああ、出血の量が……」
「とにかく止血を頼む」
「わ、分かった……。や、や、やってみる……」
五十嵐がガサゴソと動く音がする。
「まずいな。手遅れにならなければいいが……」
円城が薫子の身を案じたわずかな気の緩みを、瑛斗は見逃していなかった。左手でわき腹を押さえながら、メスを持った右手を下から突き上げてきた。真っ直ぐ円城の腹を目掛けて。
さくっとメスが円城の腹に食い込んでいく。
瑛斗の苦痛に歪む顔に、にまりと笑みが浮かぶ。
しかし、円城の反応はといえば、自分の腹から突き出たメスをなんでもないという風に見つめただけであった。円城はメスを持つ瑛斗の右手をがっしりと掴んだ。そのまま上に持ち上げる。
自然と瑛斗も立ち上がらざるえない。痛みに耐えながら立ち上がる瑛斗。
「さっきも言っただろう。こんなメスじゃ全然効かないぜ。私は死神なんだよ。だから、痛みなんか超越してるんだ!」
円城は驚きのせいか、あるいは痛みのせいか声を出せないでいる瑛斗の顔面に、強力な頭突きを入れた。今の円城は痛みを感じないので、容赦ない頭突きだった。
「ぐぎゅうぃぃ……」
瑛斗が意味不明な声をあげた。額がぱっくりと切れて、血が鼻の両脇を流れ落ちていく。
「おまえはそこで寝てろ!」
円城は瑛斗の腕から手を離した。瑛斗がぐったりと床に崩れ落ちていく。これで当分の間は大人しくしているだろう。
瑛斗に向けていた視線を、五十嵐の方に向けた。五十嵐は薫子が横たわる診察台の脇に立っていた。
「薫子さんの様子はどうだ?」
言いながら近寄っていく。
「呼吸がすごく弱いです! 意識もはっきりしていないし……このままじゃ……」
五十嵐が暗い表情を浮かべる。
「止血の方はどうだ?」
「棚に入っていたガーゼで押さえたけど、出血の量に追い付かないんです!」
「サージカルテープでガーゼをきつく固定させるんだ。これ以上の出血はなんとしても止めないと、本当に体がもたないぞ!」
「サージカルテープならガーゼの置いてあった棚に入っていたはず!」
五十嵐が棚の中を必死に探し始める。
「円城さん、ありました!」
「よし、貸してくれ! 私がやる!」
円城は薫子のお腹を覆うガーゼを、サージカルテープで素早く固定させていく。
「――これで大丈夫なんですか?」
五十嵐が薫子の顔色をうかがう。血の気のない青白い肌。息は浅く、ときより不意に数秒止まったりする。誰が見ても非常に危険だと分かるくらい薫子は深刻な状態であった。
そのとき――。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
禁踏区
nami
ホラー
月隠村を取り囲む山には絶対に足を踏み入れてはいけない場所があるらしい。
そこには巨大な屋敷があり、そこに入ると決して生きて帰ることはできないという……
隠された道の先に聳える巨大な廃屋。
そこで様々な怪異に遭遇する凛達。
しかし、本当の恐怖は廃屋から脱出した後に待ち受けていた──
都市伝説と呪いの田舎ホラー
適者生存 ~ゾンビ蔓延る世界で~
7 HIRO 7
ホラー
ゾンビ病の蔓延により生きる屍が溢れ返った街で、必死に生き抜く主人公たち。同じ環境下にある者達と、時には対立し、時には手を取り合って生存への道を模索していく。極限状態の中、果たして主人公は この世界で生きるに相応しい〝適者〟となれるのだろうか――
ルール
新菜いに/丹㑚仁戻
ホラー
放課後の恒例となった、友達同士でする怪談話。
その日聞いた怪談は、実は高校の近所が舞台となっていた。
主人公の亜美は怖がりだったが、周りの好奇心に押されその場所へと向かうことに。
その怪談は何を伝えようとしていたのか――その意味を知ったときには、もう遅い。
□第6回ホラー・ミステリー小説大賞にて奨励賞をいただきました□
※章ごとに登場人物や時代が変わる連作短編のような構成です(第一章と最後の二章は同じ登場人物)。
※結構グロいです。
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
※カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
©2022 新菜いに
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
煩い人
星来香文子
ホラー
陽光学園高学校は、新校舎建設中の間、夜間学校・月光学園の校舎を昼の間借りることになった。
「夜七時以降、陽光学園の生徒は校舎にいてはいけない」という校則があるのにも関わらず、ある一人の女子生徒が忘れ物を取りに行ってしまう。
彼女はそこで、肌も髪も真っ白で、美しい人を見た。
それから彼女は何度も狂ったように夜の学校に出入りするようになり、いつの間にか姿を消したという。
彼女の親友だった美波は、真相を探るため一人、夜間学校に潜入するのだが……
(全7話)
※タイトルは「わずらいびと」と読みます
※カクヨムでも掲載しています
怪物どもが蠢く島
湖城マコト
ホラー
大学生の綿上黎一は謎の組織に拉致され、絶海の孤島でのデスゲームに参加させられる。
クリア条件は至ってシンプル。この島で二十四時間生き残ることのみ。しかしこの島には、組織が放った大量のゾンビが蠢いていた。
黎一ら十七名の参加者は果たして、このデスゲームをクリアすることが出来るのか?
次第に明らかになっていく参加者達の秘密。この島で蠢く怪物は、決してゾンビだけではない。
182年の人生
山碕田鶴
ホラー
1913年。軍の諜報活動を支援する貿易商シキは暗殺されたはずだった。他人の肉体を乗っ取り魂を存続させる能力に目覚めたシキは、死神に追われながら永遠を生き始める。
人間としてこの世に生まれ来る死神カイと、アンドロイド・イオンを「魂の器」とすべく開発するシキ。
二人の幾度もの人生が交差する、シキ182年の記録。
(表紙絵/山碕田鶴)
※2024年11月〜 加筆修正の改稿工事中です。本日「46」まで済。
バベルの塔の上で
三石成
ホラー
一条大和は、『あらゆる言語が母国語である日本語として聞こえ、あらゆる言語を日本語として話せる』という特殊能力を持っていた。その能力を活かし、オーストラリアで通訳として働いていた大和の元に、旧い友人から助けを求めるメールが届く。
友人の名は真澄。幼少期に大和と真澄が暮らした村はダムの底に沈んでしまったが、いまだにその近くの集落に住む彼の元に、何語かもわからない言語を話す、長い白髪を持つ謎の男が現れたのだという。
その謎の男とも、自分ならば話せるだろうという確信を持った大和は、真澄の求めに応じて、日本へと帰国する——。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる