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第二部 死闘

第39話  誰かの為に出来ること その3

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 残り時間――4時間58分  

 残りデストラップ――6個

 残り生存者――7名     
  
 死亡者――3名   

 ゲーム参加不能者――2名

 重体によるゲーム参加不能からの復活者――1名

 ――――――――――――――――


 五十嵐が天井に取り付けられているスプリンクラーにライターの炎を近づけた。

 一瞬後、スプリンクラーから大量の水が噴き出してきて、五十嵐と円城は全身ずぶ濡れになる。ほぼ同時に、非常ベルの甲高い音が鳴り始めて、廊下に騒々しく響き渡っていく。

「よし行こう!」

 円城は五十嵐に目配せして、ストレッチャーの上に飛び乗った。

「分かりました!」

 五十嵐がストレッチャーの手摺りを掴み、勢いよく前に押し出す。

 ストレッチャーがキキキと悲鳴じみた音をたてながら、床の上を滑るように突き進んでいく。腹ばいの姿勢で上に乗る円城は、振り落とされないようにストレッチャーのサイド部分をしっかりと掴む。

「突撃だ!」

 円城の声を掻き消すぐらいの衝突音を上げて、ストレッチャーが産婦人科の診察室のドアを一気にブチ破った。

 円城の視界の先に驚愕の表情を浮かべた瑛斗の姿。

 ストレッチャーは勢いを緩めることなく診察室に突入。

 瑛斗がメスを手に取り、構える素振りを見せた。

 だが、瑛斗がメスを振るうのよりも先に、ストレッチャーが瑛斗に衝突した。

 同時に、円城はストレッチャーの上からジャンプして、瑛斗に果敢に飛び掛っていった。

 円城と瑛斗が抱きつくような形で、床の上を転がる。

 先に立ち上がったのは円城だった。

「お、お、お前……さっきボクが、メスで刺したはずじゃ……」

「生憎とあんなの全然効かなかったぜ」

 円城は床に転がったままの瑛斗のわき腹を狙って、靴の先で猛然と蹴りつけた。相手は躊躇なくメスで刺してくる男である。ここで手加減すると逆に危険だ。

「うぎゅっ……ぐっ……」

 瑛斗が喉の奥から搾り出すようにして呻き声を漏らす。

 さらに蹴りつける。
 さらに蹴りつける。
 さらに蹴りつける。

 靴先がなにかを壊す感覚。瑛斗の肋骨を折ったらしい。

 瑛斗が腹を押さえて、ひと際大きなうめき声をあげる。

 そこでようやく円城は一呼吸おいた。

「薫子さんはどうだ?」

 五十嵐に呼びかける。危険なので視線は瑛斗から外さない。

「こ、こ、これは……ひどい……ひどい状態だ……。お腹から……出血している……」

 五十嵐の沈痛な声。

「そんなにひどいのか?」

「ああ、出血の量が……」

「とにかく止血を頼む」

「わ、分かった……。や、や、やってみる……」

 五十嵐がガサゴソと動く音がする。

「まずいな。手遅れにならなければいいが……」

 円城が薫子の身を案じたわずかな気の緩みを、瑛斗は見逃していなかった。左手でわき腹を押さえながら、メスを持った右手を下から突き上げてきた。真っ直ぐ円城の腹を目掛けて。

 さくっとメスが円城の腹に食い込んでいく。

 瑛斗の苦痛に歪む顔に、にまりと笑みが浮かぶ。

 しかし、円城の反応はといえば、自分の腹から突き出たメスをなんでもないという風に見つめただけであった。円城はメスを持つ瑛斗の右手をがっしりと掴んだ。そのまま上に持ち上げる。

 自然と瑛斗も立ち上がらざるえない。痛みに耐えながら立ち上がる瑛斗。

「さっきも言っただろう。こんなメスじゃ全然効かないぜ。私は死神なんだよ。だから、痛みなんか超越してるんだ!」

 円城は驚きのせいか、あるいは痛みのせいか声を出せないでいる瑛斗の顔面に、強力な頭突きを入れた。今の円城は痛みを感じないので、容赦ない頭突きだった。

「ぐぎゅうぃぃ……」

 瑛斗が意味不明な声をあげた。額がぱっくりと切れて、血が鼻の両脇を流れ落ちていく。

「おまえはそこで寝てろ!」

 円城は瑛斗の腕から手を離した。瑛斗がぐったりと床に崩れ落ちていく。これで当分の間は大人しくしているだろう。

 瑛斗に向けていた視線を、五十嵐の方に向けた。五十嵐は薫子が横たわる診察台の脇に立っていた。

「薫子さんの様子はどうだ?」

 言いながら近寄っていく。

「呼吸がすごく弱いです! 意識もはっきりしていないし……このままじゃ……」

 五十嵐が暗い表情を浮かべる。

「止血の方はどうだ?」

「棚に入っていたガーゼで押さえたけど、出血の量に追い付かないんです!」

「サージカルテープでガーゼをきつく固定させるんだ。これ以上の出血はなんとしても止めないと、本当に体がもたないぞ!」

「サージカルテープならガーゼの置いてあった棚に入っていたはず!」

 五十嵐が棚の中を必死に探し始める。

「円城さん、ありました!」

「よし、貸してくれ! 私がやる!」

 円城は薫子のお腹を覆うガーゼを、サージカルテープで素早く固定させていく。

「――これで大丈夫なんですか?」

 五十嵐が薫子の顔色をうかがう。血の気のない青白い肌。息は浅く、ときより不意に数秒止まったりする。誰が見ても非常に危険だと分かるくらい薫子は深刻な状態であった。

 そのとき――。
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