デス13ゲーム ~死神に命を懸けた者たち~

鷹司

文字の大きさ
上 下
40 / 60
第二部 死闘

第36話  瓦礫の下で

しおりを挟む
 ――――――――――――――――

 残り時間――5時間31分  

 残りデストラップ――6個

 残り生存者――7名     
  
 死亡者――3名   

 重体によるゲーム参加不能者――3名

 ――――――――――――――――


 五十嵐はあれからずっと円城が消えた廊下の先を見つめていた。なぜか目が離せなかった。

 自分にはヒーローは似合わない。最初は偉そうにリーダーを気取っていたが、今はこの有様なのだ。重体のミネだけが横たわるホールで、ひとり惚けているだけなのだ。

 きっと自分が行ったところで円城の邪魔になるだけだ。それだったら、ここでミネの様子を看ながら、じっと待っている方がいい。人にはそれぞれ役割分担というものがあるのだ。

 五十嵐は自分の役割はリーダーでも、ヒーローでもなく、名前のない脇役なのだと悟ってしまった。今日ゲームを通して、それが分かった。普段、社長をやっているからといって、リーダーになれるわけではないのだ。もしもこのゲームが映画だとしたら、最後に流れるエンドクレジットでも、ほんの小さく名前が出るだけの存在なのだ。きっと誰も気になどしない、その他多数の出演者に過ぎない。


 だから、ぼくは今もここにいる。危険な場所には絶対に行かずに、安全なこのホールからは一歩も出ない。

 それなのに、なんでだろう――。


 五十嵐の意思を無視して、体が勝手に動く。


 その場で立ち上がった。
 右足を一歩前に踏み出した。
 次に左足を前に踏み出した。
 ゆっくりと歩き出した。
 安全なホールを抜けた。
 危険が待ち受けている廊下に出た。


 今さらもう遅いかもしれないが、五十嵐は円城のあとを追いかけることにした。

 
 そこに自分が求める答えがあるような気がするのだ――。


 ――――――――――――――――


 いよいよメインイベントの始まりである。瑛斗は手にしたメスで、薫子のワンピースをさらに深く切り裂いていく。

 お目当てのお腹が見えた。胸部はなだらかな曲線を描いていたが、腹部は急な絶壁が出来上がっていた。それぐらい大きくお腹が前方に張り出していたのである。瑛斗にとってみれば、理想的なお腹の形だった。

 このお腹の中に求めていた回答が眠っている。

 皮膚を少しだけ切り裂いて、早くそこから赤ちゃんを取り出したい。穢れた世界にまだ毒されていない神聖な赤ちゃんならば、きっと瑛斗の求める回答を示してくれるはずだ。

 人殺しの瑛斗がおかしいのか、それとも、瑛斗を受け入れようとしない世界が間違っているのか。

 あともう少しでその答えにたどりつける。

 瑛斗はメスの刃先をそっと薫子のお腹にあてがう。

 途端に、薫子が体を揺らし始めた。全身のありとあらゆる筋肉を使って、診察台から落ちそうになるほど大きく揺らす。

 これではメスの刃先が動いてしまう。最悪の場合、お腹の中の赤ちゃんを傷付けてしまう恐れがある。

 いっそのこと、一息に命を奪ってから、赤ちゃんを取り出したほうが楽かもしれない。

 瑛斗は狙いを定めると、薫子の胸のあたりをメスで深々と突き刺した。

 薫子の体がビクンと大きく一度反り返った。そのまま、ぐったりと力が抜け落ちていく。意識が飛んでしまったみたいだ。恐怖によるものか、それとも痛みによるものか分からないが、これで作業がしやすくなった。

 薫子の胸から出た血が床の上に流れ落ちていくが、無論、瑛斗はそんなこといささかも気にしない。

「さあ赤ちゃん、ボクにその顔を見せてくれるかな」

 瑛斗は自らの欲求の赴くまま、さらにメスを振るっていく。


 ――――――――――――――――


 診察室でひとりの狂人が狂気のオペを始めようとしていたまさにそのとき、もうひとりの凶人がいっときの眠りから復活し、活動を再開しようとしていた。

 炎と爆風。それに飛ばされた衝撃が加わった。

 重体で命すら危ぶまれた男が、意識を取り戻した。

 体中火傷だらけで、ほんのわずかでも体を動かすと、突き刺すような鋭い痛みが走り抜ける。何ヶ所か骨が折れているみたいで、関節を曲げようとすると激痛が生まれる。内臓のあたりには得体の知れない鈍痛が居座り、絶えず吐き気が催してくる。

 それでも、生きていることにかわりはない。

 そしてなによりも今、右手にはしっかりと銃が握られている。あの爆発の衝撃の中でも、これだけは決して手放さなかったのだ。

 この銃さえあればまだ戦える。たしかに、幸運の女神には見放されたかもしれないが、きっと死神が手を差し伸べて、助けてくれたに違いない。

 そう思った。

 残された道はただひとつ。

 生き残っている参加者をすべて殺して、最後のひとりとなり、このゲームの勝者となるのだ。そして、この全身の傷を治癒してもらう。

 勝負を諦めるのはまだ早すぎる。

 爆撃を受けた後の戦場のように様変わりしたレストランで、ヒロユキは次の行動に移った――。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無能な陰陽師

もちっぱち
ホラー
警視庁の詛呪対策本部に所属する無能な陰陽師と呼ばれる土御門迅はある仕事を任せられていた。 スマホ名前登録『鬼』の上司とともに 次々と起こる事件を解決していく物語 ※とてもグロテスク表現入れております お食事中や苦手な方はご遠慮ください こちらの作品は、 実在する名前と人物とは 一切関係ありません すべてフィクションとなっております。 ※R指定※ 表紙イラスト:名無死 様

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

浄霊屋

猫じゃらし
ホラー
「健、バイトしない?」 幼なじみの大智から引き受けたバイトはかなり変わったものだった。 依頼を受けて向かうのは深夜の湖やトンネル、廃墟、曰く付きの家。 待ち受けているのは、すでに肉体を失った彷徨うだけの魂。 視えなかったものが再び視えるようになる健。 健に引っ張られるように才能を開花させる大智。 彷徨う魂の未練を解き明かして成仏させる、浄霊。 二人が立ち向かうのは、救いを求める幽霊に手を差し伸べる、あたたかくも悲しいバイトだった。 同タイトル終了には★マークをつけています。 読み区切りの目安にしていただけると幸いです。 ※小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。 ※BLじゃありません。

処理中です...