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第二部 死闘
第36話 瓦礫の下で
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――――――――――――――――
残り時間――5時間31分
残りデストラップ――6個
残り生存者――7名
死亡者――3名
重体によるゲーム参加不能者――3名
――――――――――――――――
五十嵐はあれからずっと円城が消えた廊下の先を見つめていた。なぜか目が離せなかった。
自分にはヒーローは似合わない。最初は偉そうにリーダーを気取っていたが、今はこの有様なのだ。重体のミネだけが横たわるホールで、ひとり惚けているだけなのだ。
きっと自分が行ったところで円城の邪魔になるだけだ。それだったら、ここでミネの様子を看ながら、じっと待っている方がいい。人にはそれぞれ役割分担というものがあるのだ。
五十嵐は自分の役割はリーダーでも、ヒーローでもなく、名前のない脇役なのだと悟ってしまった。今日ゲームを通して、それが分かった。普段、社長をやっているからといって、リーダーになれるわけではないのだ。もしもこのゲームが映画だとしたら、最後に流れるエンドクレジットでも、ほんの小さく名前が出るだけの存在なのだ。きっと誰も気になどしない、その他多数の出演者に過ぎない。
だから、ぼくは今もここにいる。危険な場所には絶対に行かずに、安全なこのホールからは一歩も出ない。
それなのに、なんでだろう――。
五十嵐の意思を無視して、体が勝手に動く。
その場で立ち上がった。
右足を一歩前に踏み出した。
次に左足を前に踏み出した。
ゆっくりと歩き出した。
安全なホールを抜けた。
危険が待ち受けている廊下に出た。
今さらもう遅いかもしれないが、五十嵐は円城のあとを追いかけることにした。
そこに自分が求める答えがあるような気がするのだ――。
――――――――――――――――
いよいよメインイベントの始まりである。瑛斗は手にしたメスで、薫子のワンピースをさらに深く切り裂いていく。
お目当てのお腹が見えた。胸部はなだらかな曲線を描いていたが、腹部は急な絶壁が出来上がっていた。それぐらい大きくお腹が前方に張り出していたのである。瑛斗にとってみれば、理想的なお腹の形だった。
このお腹の中に求めていた回答が眠っている。
皮膚を少しだけ切り裂いて、早くそこから赤ちゃんを取り出したい。穢れた世界にまだ毒されていない神聖な赤ちゃんならば、きっと瑛斗の求める回答を示してくれるはずだ。
人殺しの瑛斗がおかしいのか、それとも、瑛斗を受け入れようとしない世界が間違っているのか。
あともう少しでその答えにたどりつける。
瑛斗はメスの刃先をそっと薫子のお腹にあてがう。
途端に、薫子が体を揺らし始めた。全身のありとあらゆる筋肉を使って、診察台から落ちそうになるほど大きく揺らす。
これではメスの刃先が動いてしまう。最悪の場合、お腹の中の赤ちゃんを傷付けてしまう恐れがある。
いっそのこと、一息に命を奪ってから、赤ちゃんを取り出したほうが楽かもしれない。
瑛斗は狙いを定めると、薫子の胸のあたりをメスで深々と突き刺した。
薫子の体がビクンと大きく一度反り返った。そのまま、ぐったりと力が抜け落ちていく。意識が飛んでしまったみたいだ。恐怖によるものか、それとも痛みによるものか分からないが、これで作業がしやすくなった。
薫子の胸から出た血が床の上に流れ落ちていくが、無論、瑛斗はそんなこといささかも気にしない。
「さあ赤ちゃん、ボクにその顔を見せてくれるかな」
瑛斗は自らの欲求の赴くまま、さらにメスを振るっていく。
――――――――――――――――
診察室でひとりの狂人が狂気のオペを始めようとしていたまさにそのとき、もうひとりの凶人がいっときの眠りから復活し、活動を再開しようとしていた。
炎と爆風。それに飛ばされた衝撃が加わった。
重体で命すら危ぶまれた男が、意識を取り戻した。
体中火傷だらけで、ほんのわずかでも体を動かすと、突き刺すような鋭い痛みが走り抜ける。何ヶ所か骨が折れているみたいで、関節を曲げようとすると激痛が生まれる。内臓のあたりには得体の知れない鈍痛が居座り、絶えず吐き気が催してくる。
それでも、生きていることにかわりはない。
そしてなによりも今、右手にはしっかりと銃が握られている。あの爆発の衝撃の中でも、これだけは決して手放さなかったのだ。
この銃さえあればまだ戦える。たしかに、幸運の女神には見放されたかもしれないが、きっと死神が手を差し伸べて、助けてくれたに違いない。
そう思った。
残された道はただひとつ。
生き残っている参加者をすべて殺して、最後のひとりとなり、このゲームの勝者となるのだ。そして、この全身の傷を治癒してもらう。
勝負を諦めるのはまだ早すぎる。
爆撃を受けた後の戦場のように様変わりしたレストランで、ヒロユキは次の行動に移った――。
残り時間――5時間31分
残りデストラップ――6個
残り生存者――7名
死亡者――3名
重体によるゲーム参加不能者――3名
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五十嵐はあれからずっと円城が消えた廊下の先を見つめていた。なぜか目が離せなかった。
自分にはヒーローは似合わない。最初は偉そうにリーダーを気取っていたが、今はこの有様なのだ。重体のミネだけが横たわるホールで、ひとり惚けているだけなのだ。
きっと自分が行ったところで円城の邪魔になるだけだ。それだったら、ここでミネの様子を看ながら、じっと待っている方がいい。人にはそれぞれ役割分担というものがあるのだ。
五十嵐は自分の役割はリーダーでも、ヒーローでもなく、名前のない脇役なのだと悟ってしまった。今日ゲームを通して、それが分かった。普段、社長をやっているからといって、リーダーになれるわけではないのだ。もしもこのゲームが映画だとしたら、最後に流れるエンドクレジットでも、ほんの小さく名前が出るだけの存在なのだ。きっと誰も気になどしない、その他多数の出演者に過ぎない。
だから、ぼくは今もここにいる。危険な場所には絶対に行かずに、安全なこのホールからは一歩も出ない。
それなのに、なんでだろう――。
五十嵐の意思を無視して、体が勝手に動く。
その場で立ち上がった。
右足を一歩前に踏み出した。
次に左足を前に踏み出した。
ゆっくりと歩き出した。
安全なホールを抜けた。
危険が待ち受けている廊下に出た。
今さらもう遅いかもしれないが、五十嵐は円城のあとを追いかけることにした。
そこに自分が求める答えがあるような気がするのだ――。
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いよいよメインイベントの始まりである。瑛斗は手にしたメスで、薫子のワンピースをさらに深く切り裂いていく。
お目当てのお腹が見えた。胸部はなだらかな曲線を描いていたが、腹部は急な絶壁が出来上がっていた。それぐらい大きくお腹が前方に張り出していたのである。瑛斗にとってみれば、理想的なお腹の形だった。
このお腹の中に求めていた回答が眠っている。
皮膚を少しだけ切り裂いて、早くそこから赤ちゃんを取り出したい。穢れた世界にまだ毒されていない神聖な赤ちゃんならば、きっと瑛斗の求める回答を示してくれるはずだ。
人殺しの瑛斗がおかしいのか、それとも、瑛斗を受け入れようとしない世界が間違っているのか。
あともう少しでその答えにたどりつける。
瑛斗はメスの刃先をそっと薫子のお腹にあてがう。
途端に、薫子が体を揺らし始めた。全身のありとあらゆる筋肉を使って、診察台から落ちそうになるほど大きく揺らす。
これではメスの刃先が動いてしまう。最悪の場合、お腹の中の赤ちゃんを傷付けてしまう恐れがある。
いっそのこと、一息に命を奪ってから、赤ちゃんを取り出したほうが楽かもしれない。
瑛斗は狙いを定めると、薫子の胸のあたりをメスで深々と突き刺した。
薫子の体がビクンと大きく一度反り返った。そのまま、ぐったりと力が抜け落ちていく。意識が飛んでしまったみたいだ。恐怖によるものか、それとも痛みによるものか分からないが、これで作業がしやすくなった。
薫子の胸から出た血が床の上に流れ落ちていくが、無論、瑛斗はそんなこといささかも気にしない。
「さあ赤ちゃん、ボクにその顔を見せてくれるかな」
瑛斗は自らの欲求の赴くまま、さらにメスを振るっていく。
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診察室でひとりの狂人が狂気のオペを始めようとしていたまさにそのとき、もうひとりの凶人がいっときの眠りから復活し、活動を再開しようとしていた。
炎と爆風。それに飛ばされた衝撃が加わった。
重体で命すら危ぶまれた男が、意識を取り戻した。
体中火傷だらけで、ほんのわずかでも体を動かすと、突き刺すような鋭い痛みが走り抜ける。何ヶ所か骨が折れているみたいで、関節を曲げようとすると激痛が生まれる。内臓のあたりには得体の知れない鈍痛が居座り、絶えず吐き気が催してくる。
それでも、生きていることにかわりはない。
そしてなによりも今、右手にはしっかりと銃が握られている。あの爆発の衝撃の中でも、これだけは決して手放さなかったのだ。
この銃さえあればまだ戦える。たしかに、幸運の女神には見放されたかもしれないが、きっと死神が手を差し伸べて、助けてくれたに違いない。
そう思った。
残された道はただひとつ。
生き残っている参加者をすべて殺して、最後のひとりとなり、このゲームの勝者となるのだ。そして、この全身の傷を治癒してもらう。
勝負を諦めるのはまだ早すぎる。
爆撃を受けた後の戦場のように様変わりしたレストランで、ヒロユキは次の行動に移った――。
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