デス13ゲーム ~死神に命を懸けた者たち~

鷹司

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第二部 死闘

第34話  赤ちゃんに問いかける その1

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 ――――――――――――――――

 残り時間――5時間47分  

 残りデストラップ――6個

 残り生存者――7名     
  
 死亡者――3名   

 重体によるゲーム参加不能者――3名

 ――――――――――――――――


 診察台に横たわる薫子。産婦人科ならではの診察台の機能により、両足は大きく開かされている。もっとも、瑛斗は薫子の股間になど、これっぽっちも興味がなかった。

 しかし、薫子の方はそうは思っていないみたいで、さっきからずっと怯えて震えている。顔には悲壮極まりない表情を浮かべている。目じりからは涙がとめどなく零れ落ちている。額には粘ついた脂汗がびっちりと浮いている。これからなにをされるか分からない恐怖を前にすると、人間はこういう風になってしまうらしい。

 事前に騒がないようにハンカチを薫子の口にねじり込んで入れておいたのが効いているのか、切羽詰った息遣い以外の音は聞こえない。騒がれるのがあまり好きではない瑛斗にとっては、理想的な状況であった。

 前回は酷く騒がれてしまい、結果、その悲鳴に気付いた隣人に逃げていくところを目撃されてしまったのだ。

 今回は前回と違って異常な状況下ではあるが、この神聖な場を誰かにジャマされたくはなかった。その為には、こうして薫子に黙っていてもらう必要がある。

「さあ、始めようか」

 瑛斗は作業を開始した。

 まず最初にお腹を見せてもらわないと困る。そこからすべてが始まるのだから。でも、簡単に薫子が着ているワンピースを捲ってしまっては芸がない。

 ワンピースの衿回りから見える、薫子の白い首にメスをあてがう。恐怖の為か、薫子の体がびくんと動いた。もちろん、そんなことは先刻承知なので無視する。

 メスをそのまま下に走らせる。ワンピースの衿がビキッと切れる。さらにメスを走らせていく。竹が真っ二つに割れるような感じで、薫子の上半身を覆い隠していたワンピースが左右にきれいに切り裂かれていく。

 地味な肌色のブラジャーが露わになる。胸が大きく張っているせいか、今にもポロリとブラのカップから零れ落ちそうである。男なら股間を熱くしそうな光景だったが、瑛斗はなにも感じなかった。

 瑛斗にとっての本番はここからだった。

 一度、薫子の表情を確認する。瑛斗の視線を受けて、薫子が必死に懇願するかのように首を左右に振る。

「大丈夫だよ。さっきも言っただろう。ボクは淫らなことにはこれっぽっちも興味がないんだ。キミは静かに横になっていてくれさえすればいいから。本当にそれだけでいいんだから」

 瑛斗は優しく、本当に優しく、まるで母親が我が子に言い聞かせるような声音で諭した。

 しかし残念ながら、瑛斗の心意は伝わらなかったらしく、薫子はハンカチを押し込まれた口からウーウーと唸り声をあげ始めた。

「仕方ないなあ」

 言いながらも、満更、気を悪くしたわけではなかった。絶対的な立場にいる今の瑛斗にとって、この程度の抵抗ならば逆に可愛く見えるくらいである。

「可愛いなあ、キミは。きっとお腹の赤ちゃんも可愛いんだろうね。――今から会うのが楽しみだなあ」

 瑛斗は氷の声でつぶやいた。

 楽しみはまだ始まったばかりである。


 ――――――――――――――――


 瑛斗が初めて生き物を殺したのは幼稚園のときだった。夏休みに近所の公園で捕まえたセミを殺したのだ。あんまりジージーとうるさかったので殺したのである。

 そのとき、心になにかを感じることは一切なかった。

 小学生のときには、学校で飼育されていたウサギを殺した。理由はウサギの世話に時間をかけるくらいならば、もっとたくさん勉強をしたかったからである。

 そのとき、学校中が大騒ぎになったが、瑛斗としてはなぜそんなに騒ぎ立てるのか皆目理解出来なかった。ウサギがいなくなったおかげで、勉強する時間がふえたのだから、むしろ喜ぶべきはずだと思ったのだ。

 しかし、そのことを担任に話したところ、すぐに母親が学校に呼び出された。そこで瑛斗は自分がウサギを殺したことを包み隠さずに全部話した。もちろん、理由もしっかりと話した。理由を聞いてくれたら、きっと理解してもらえると思ったのだ。

 だが、担任はおろか、母親も瑛斗の想像とはかけ離れた反応を見せた。担任は大きな声で怒鳴り散らし、母親は大きな声で泣きじゃくったのだ。

 仕方なく瑛斗は謝った。いや、謝ったフリをした。

 そのときに、生き物を殺すと怒られるのだと知った。それからはなるべく生き物を殺さないように心がけた。命の大切さを知ったからではなく、怒られるのが面倒だったからである。

 もっともその後にも、母親や担任にバレないように、近所の犬や猫などの小動物を何匹か殺した。

 いつも通り道で吠えてくる犬を殺した。発情期にミャーミャーうるさく鳴き声をあげる猫を殺した。公園で糞を撒き散らすハトを殺した。

 死体は誰かに見られないように、山に埋めて捨てた。罪悪感は一度たりとも感じたことはなかった。そうして、そのまま瑛斗は成長していった。


 中学一年生のとき、また殺してしまった。相手は動物は動物でも、人間だった。


 同じ部活のふたつ年上の先輩であった。

 いつも文句ばかり言うくせに、自分からは絶対に行動をしない人だった。他の部員からも嫌われていた。嫌われていると自覚していたから、その鬱憤を晴らすために後輩をいじめていたのである。

 そのことに気付いた瑛斗はみんなの為を思って、その先輩を事故に見せかけて殺した。

 部活のみんなは言葉にこそ出さなかったが、ほっとしたように見えた。部室の雰囲気も見違えるほど明るくなった。自分は当たり前のことをやったんだと思った。

 ところが、そのことに気付いた先輩がいた。クラブの部長である。放課後、誰もいない部室で瑛斗は問い詰められたので、正直に全部話した。理解してくれなくとも、怒られはしないだろうと思った。

 小学校のときと同様に、瑛斗の予想はまた外れた。部長は警察にいくべきだと忠告してきたのである。

 警察にいったら、また母親を苦しめることになるので、瑛斗は部長も殺すことにした。さきに殺した先輩の後追い自殺という風に装った。

 部員たちはみな悲しんだ。それが瑛斗には理解出来なかった。悪いのは部長なのだから。

 幸い警察は瑛斗の偽装を見抜けなかったが、母親はなにかを敏感に感じ取ったらしく、瑛斗はすぐに転校をさせられた。

 それからしばらくの間は、動物を殺すことは控えていた。当たり前の学生生活を楽しんでいた。


 その妊婦に出会うまでは――。


 瑛斗が中学三年生のとき、近所に妊婦が引っ越してきた。はじめは特になにも気にならなかったが、日に日に大きくなっていくお腹を見ていくうちに、ある思いが生まれてきた。


 赤ちゃんに聞いてみたい。


 自分は当たり前の行動として、人間を含めた生き物を殺してきたが、その当たり前のことがなぜか他の人には理解されないのだ。それはきっと生まれる前に、自分の身になにかあったせいではないかと考えたのである。だから、まだ生まれてくる前の赤ちゃんにそのことを聞いてみたくなったのだ。


 赤ちゃんならばきっと自分の疑問に答えてくれるはず。


 そう思うようになった。
  
 その日から、瑛斗は絶好の機会が訪れるのを待ち続けた――。
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