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第二部 死闘
第33話 クスリの助け
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――――――――――――――――
残り時間――6時間02分
残りデストラップ――6個
残り生存者――7名
死亡者――3名
重体によるゲーム参加不能者――3名
――――――――――――――――
スオウはたった今送られてきたメールの本文に素早く目を走らせた。
「やっぱりさっきの爆発はデストラップみたいだ。あの二人が犠牲になったらしい」
「あの二人って? まさか瓜生さんと愛莉――」
すぐにイツカが確認してくる。
「違うよ。ヒロユキとヒロトだよ。どっちかが死んで、どっちかが重体みたいだ」
「それじゃあ、もう銃の恐怖はなくなったと考えてもいいのかな?」
「うん。常識的に考えれば大丈夫だと思うけど……」
「顔色が晴れないみたいだね、スオウ君は」
イツカがスオウの顔色をうかがってくる。
「深く考えすぎかもしれないけれど、万が一ってことまで考えておいた方がいい気がするんだ。このゲームはおれたちの想像以上のことを仕掛けてくるからな。だから、こちらもいつも以上に深く思考しないとダメなような気がする」
「そのへんのところはスオウ君に任せるから。――それで車イスも見付かったことだし、二階に戻るってことでいいの?」
「ああ、そうだね。きっと瓜生さんもこのメールを読んで、なんか新しい考えが浮かんだかもしれないし。おれたちはこのまま二階に戻ることにしよう」
「円城さんのことを待っていなくてもいいのかな?」
「円城さんはおれたち以上にしっかりしているから大丈夫さ。ちゃんと五十嵐さんと協力して二階に戻ってくるよ」
「そういうことなら、わたしたちは自分たちの仕事も終えたし、二階に戻ろうか」
――――――――――――――――
瑛斗は薫子の背中にメスを突き付けながら、四階の産婦人科に向かって歩いていた。メスを探していたときに、あらかじめこうなることを事前に予想して、産婦人科の場所も確認しておいたのである。
病院内は照明が暗く、また足元には所々ガレキが落ちていたりするが、瑛斗は上機嫌に歩を進めていく。
本当ならば、今すぐにでもこの場で薫子を押し倒して、その大きく膨らんだお腹を見たかったが、せっかく設備の整っている病院にいるのだから、病室に着くまでは我慢することにした。
四階の廊下の先に、産婦人科の案内板が見えた。
「ほら、まっすぐ前に進んで」
薫子の背中を押して歩いていく。
産婦人科の診察室の前まできた。
「そこに入ろうか」
瑛斗が言うと、薫子が後方に顔だけ振り向けた。問うような視線を瑛斗に向ける。もちろん、瑛斗は無視した。返事の代わりに、薫子の背中にメスを少しだけ強く押し当てた。薫子の顔が一瞬で恐怖に歪む。
「そこのドアを開けて、中に入ろうか」
瑛斗は繰り返した。薫子は観念したのか、ドアに手を伸ばして開け放った。
室内には瑛斗が想像していたものが置いてあった。診察台である。普通の診察台と違って、両足を固定して、左右に足を大きく広げられる機能がついた診察台である。
瑛斗は飛びつきたくなる衝動を抑えつつ、薫子を診察台の方に押しやる。
「…………」
薫子がまた振り返った。目の前の光景を見て、なにやら頭の中で勝手に想像したみたいで、すっかり怯えてきってしまっている。目を大きく見開き、瞳は赤く充血していた。
「やだ……やめて……やめて……」
薫子が涙交じりの声を出す。
「キミは誤解しているよ。ボクはいかがわしいことなんて、これっぽっちも興味がないんだから。安心していいんだよ」
瑛斗がせっかく優しく言い聞かせたにもかかわらず、薫子はいっかな怖がった表情を変えない。
「いやだ……いやだ……」
ついには子供じみた泣き言まで漏らし始めた薫子。
「うーん、困ったなあ。キミは話しても分からないみたいだね。こうなったら、実践してみるしかないかな。そうすればキミも、ボクが卑猥なことや猥褻なことはしないと、分かってくれるだろうからね」
薫子とは間逆に、弾む気持ちが抑えられない瑛斗は歌うように言った。
「さあ、そこに寝てみて」
「…………」
薫子が頭を左右に大きく振って、全力で否定の意思表示をする。髪はばさばさと乱れ、目からは涙が零れ落ちている。
「ほら、そこに寝て」
「…………」
「寝てくれるだけでいいんだよ。イヤラシイことなんか絶対にしないから」
「…………」
「そっか。寝てくれないのなら――この場でキミのことをブッ刺しちゃうよ」
薫子の顔が絶望色に染まった。今にもその場で昏倒しそうなくらい、顔が蒼ざめる。顔面蒼白そのものである。
「さあ、寝てくれるよね」
瑛斗はメスをチラつかせて、薫子を強制的に診察台に寝かせた。
その姿は、まるで冥界に誘う死神のように見えた――。
――――――――――――――――
暗い視界に少しずつ明るさが戻ってきた。同時に、腹部に激痛が走った。
ゆっくりと痛みの発生源に右手を伸ばしてみる。指先に感じるべたつく液体。目で見るまでもなく、血であることは分かった。
円城はホール内を見回した。端っこで縮こまっている五十嵐の姿は確認できたが、瑛斗と薫子の姿がどこにも見当たらなかった。
あの男が連れ出したのか……。
すぐにそう理解した。瑛斗はずっと薫子に対して、興味の視線を向けていた。それをさっきの爆発のタイミングで、行動に移したのだろう。
瑛斗がなにを企んでいるのか分からないが、薫子を早急に助けに行かなくてはいけない。それにはまず、この傷ついた体をどうにかするのが先決だった。
円城はズボンの後ろに手を回した。ポケットの中には、危急に陥った際に使おうと思い、用意してきたものが入っている。
体を氷の刃で貫かれたような猛烈な痛みに耐えながら、それをポケットから引っ張り出した。
透明な筒と、尖った針で出来ている道具――注射器である。そしてもうひとつ、小瓶に入った薬剤。
両方とも、正式なルートで手に入れたものではない。いわゆる、闇ルートで入手したものである。
以前は合法的な薬剤を使っていたのだが、もうそれでは体の痛みがとれなくなってしまった。体中にガン細胞が転移してしまったせいだった。
その痛みを消す為に、違法と承知で注射器と麻薬を手に入れたのだった。ガンの痛みに耐え切れなくなって体が動かせなくなったときに使うつもりで、違法の麻薬を前もって準備しておいたのである。
もっとも、その麻薬をガンの痛み回避のためではなく、メスで刺された痛みを忘れるために使うことになるとは思いもしなかったが。
「うぐっ……ぐ、ぐっ……」
気力で上半身だけ起こした。壁に背中を預けて、荒くなった呼吸を整える。
「えっ、えっ……? な、な、なに……。生き、生きて……たの……?」
遠くから円城のことを見つめていたらしい五十嵐が驚きの声をあげた。
五十嵐には悪いが、返事をする余裕がなかったので、自分のことを優先させた。
ゴム紐で上腕部をきつく縛る。血管が浮き上がってくるまでの間に、注射器で小瓶に入った薬剤を吸い上げる。次に、しっかりと空気抜きをする。最後に、浮き上がった血管に注射針を刺して、麻薬を注入した。
「ふーっ……」
思わず息が漏れ出た。
じょじょに薬剤が体の中を巡っていき、さっきまでの激痛がうそのように消えていく。これでなんとか体を動かすことが出来そうだ。
「――さあ、待っていろよ。今度はこちらから行くぞ」
円城はゆっくりと立ち上がった。
「五十嵐さん、あの男はどこに行ったんだ?」
「えっ、あの男って……ああ、瑛斗のこと? あっ、でも、あなたは……さっき刺されたはずじゃ……?」
デッドラインの淵ギリギリのところから復活した男のことを、驚愕の表情で見つめる五十嵐。まだ眼前で起きた奇跡が頭で理解出来ないらしい。
「私のことはいいから。あの男は薫子さんを一緒に連れて行ったんだろう?」
「あの女の人……そうだ……そう、連れて行った……」
「どこに連れて行ったんだ?」
「えっ、どこって……そんなのぼくには分からないよ……」
「それじゃ、あの男はなにか言ってなかったか?」
「なにかって……あっ、そういえば、お医者さんゴッコがしたいとか、そんなこと言ってたような気が……」
「お医者さんゴッコ――なるほど、そういうことか」
円城は瑛斗がずっと薫子のお腹を凝視していたこと思い出して、すぐに瑛斗の行動を把握した。妊婦のお腹が気になっているならば、連れて行くところは一ヶ所しかない。
だが、そこに行く前に止血だけはしておきたかった。このままでは、瑛斗のもとに行く前に、出血多量で今度こそデッドラインの向こう側に落ちてしまうことになる。
まずは傷口を塞ぐ包帯なりタオルなりを見つけてしっかりと止血する。それが済んだら、薫子の救出に向かう。
それまで私の命がもってくれればいいが――。
「私はあの男を追うことにする。あんたはどうする?」
「ぼ、ぼ、ぼくは……あの、さっきの地震で、怪我してるし……。それにミネさんを診てないと……」
五十嵐は手で自分の頭を指し示しつつ、視線は横たわるミネに向けた。
「分かった。それじゃ、これからは別行動だ」
「――その体で、本気で行くつもりなんですか?」
「ああ、そのつもりだ」
「どうして?」
「どうして? そうだな、この傷のお返しをしなきゃならないし、それに――」
「それに?」
「自分の命を懸けて誰かを救うなんて、人生でそう経験できないだろう?」
円城はそれだけ言うと、お腹の傷口を手できつく押さえながら、ホールを出て行った。
「――命を懸けて誰かを救うか……。でも、ぼくには……出来ないよ、そんなことは……」
そして、ホールには重体のミネと、なぜか心にぽっかりと穴が空いてしまった五十嵐だけが取り残されることになった。
残り時間――6時間02分
残りデストラップ――6個
残り生存者――7名
死亡者――3名
重体によるゲーム参加不能者――3名
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スオウはたった今送られてきたメールの本文に素早く目を走らせた。
「やっぱりさっきの爆発はデストラップみたいだ。あの二人が犠牲になったらしい」
「あの二人って? まさか瓜生さんと愛莉――」
すぐにイツカが確認してくる。
「違うよ。ヒロユキとヒロトだよ。どっちかが死んで、どっちかが重体みたいだ」
「それじゃあ、もう銃の恐怖はなくなったと考えてもいいのかな?」
「うん。常識的に考えれば大丈夫だと思うけど……」
「顔色が晴れないみたいだね、スオウ君は」
イツカがスオウの顔色をうかがってくる。
「深く考えすぎかもしれないけれど、万が一ってことまで考えておいた方がいい気がするんだ。このゲームはおれたちの想像以上のことを仕掛けてくるからな。だから、こちらもいつも以上に深く思考しないとダメなような気がする」
「そのへんのところはスオウ君に任せるから。――それで車イスも見付かったことだし、二階に戻るってことでいいの?」
「ああ、そうだね。きっと瓜生さんもこのメールを読んで、なんか新しい考えが浮かんだかもしれないし。おれたちはこのまま二階に戻ることにしよう」
「円城さんのことを待っていなくてもいいのかな?」
「円城さんはおれたち以上にしっかりしているから大丈夫さ。ちゃんと五十嵐さんと協力して二階に戻ってくるよ」
「そういうことなら、わたしたちは自分たちの仕事も終えたし、二階に戻ろうか」
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瑛斗は薫子の背中にメスを突き付けながら、四階の産婦人科に向かって歩いていた。メスを探していたときに、あらかじめこうなることを事前に予想して、産婦人科の場所も確認しておいたのである。
病院内は照明が暗く、また足元には所々ガレキが落ちていたりするが、瑛斗は上機嫌に歩を進めていく。
本当ならば、今すぐにでもこの場で薫子を押し倒して、その大きく膨らんだお腹を見たかったが、せっかく設備の整っている病院にいるのだから、病室に着くまでは我慢することにした。
四階の廊下の先に、産婦人科の案内板が見えた。
「ほら、まっすぐ前に進んで」
薫子の背中を押して歩いていく。
産婦人科の診察室の前まできた。
「そこに入ろうか」
瑛斗が言うと、薫子が後方に顔だけ振り向けた。問うような視線を瑛斗に向ける。もちろん、瑛斗は無視した。返事の代わりに、薫子の背中にメスを少しだけ強く押し当てた。薫子の顔が一瞬で恐怖に歪む。
「そこのドアを開けて、中に入ろうか」
瑛斗は繰り返した。薫子は観念したのか、ドアに手を伸ばして開け放った。
室内には瑛斗が想像していたものが置いてあった。診察台である。普通の診察台と違って、両足を固定して、左右に足を大きく広げられる機能がついた診察台である。
瑛斗は飛びつきたくなる衝動を抑えつつ、薫子を診察台の方に押しやる。
「…………」
薫子がまた振り返った。目の前の光景を見て、なにやら頭の中で勝手に想像したみたいで、すっかり怯えてきってしまっている。目を大きく見開き、瞳は赤く充血していた。
「やだ……やめて……やめて……」
薫子が涙交じりの声を出す。
「キミは誤解しているよ。ボクはいかがわしいことなんて、これっぽっちも興味がないんだから。安心していいんだよ」
瑛斗がせっかく優しく言い聞かせたにもかかわらず、薫子はいっかな怖がった表情を変えない。
「いやだ……いやだ……」
ついには子供じみた泣き言まで漏らし始めた薫子。
「うーん、困ったなあ。キミは話しても分からないみたいだね。こうなったら、実践してみるしかないかな。そうすればキミも、ボクが卑猥なことや猥褻なことはしないと、分かってくれるだろうからね」
薫子とは間逆に、弾む気持ちが抑えられない瑛斗は歌うように言った。
「さあ、そこに寝てみて」
「…………」
薫子が頭を左右に大きく振って、全力で否定の意思表示をする。髪はばさばさと乱れ、目からは涙が零れ落ちている。
「ほら、そこに寝て」
「…………」
「寝てくれるだけでいいんだよ。イヤラシイことなんか絶対にしないから」
「…………」
「そっか。寝てくれないのなら――この場でキミのことをブッ刺しちゃうよ」
薫子の顔が絶望色に染まった。今にもその場で昏倒しそうなくらい、顔が蒼ざめる。顔面蒼白そのものである。
「さあ、寝てくれるよね」
瑛斗はメスをチラつかせて、薫子を強制的に診察台に寝かせた。
その姿は、まるで冥界に誘う死神のように見えた――。
――――――――――――――――
暗い視界に少しずつ明るさが戻ってきた。同時に、腹部に激痛が走った。
ゆっくりと痛みの発生源に右手を伸ばしてみる。指先に感じるべたつく液体。目で見るまでもなく、血であることは分かった。
円城はホール内を見回した。端っこで縮こまっている五十嵐の姿は確認できたが、瑛斗と薫子の姿がどこにも見当たらなかった。
あの男が連れ出したのか……。
すぐにそう理解した。瑛斗はずっと薫子に対して、興味の視線を向けていた。それをさっきの爆発のタイミングで、行動に移したのだろう。
瑛斗がなにを企んでいるのか分からないが、薫子を早急に助けに行かなくてはいけない。それにはまず、この傷ついた体をどうにかするのが先決だった。
円城はズボンの後ろに手を回した。ポケットの中には、危急に陥った際に使おうと思い、用意してきたものが入っている。
体を氷の刃で貫かれたような猛烈な痛みに耐えながら、それをポケットから引っ張り出した。
透明な筒と、尖った針で出来ている道具――注射器である。そしてもうひとつ、小瓶に入った薬剤。
両方とも、正式なルートで手に入れたものではない。いわゆる、闇ルートで入手したものである。
以前は合法的な薬剤を使っていたのだが、もうそれでは体の痛みがとれなくなってしまった。体中にガン細胞が転移してしまったせいだった。
その痛みを消す為に、違法と承知で注射器と麻薬を手に入れたのだった。ガンの痛みに耐え切れなくなって体が動かせなくなったときに使うつもりで、違法の麻薬を前もって準備しておいたのである。
もっとも、その麻薬をガンの痛み回避のためではなく、メスで刺された痛みを忘れるために使うことになるとは思いもしなかったが。
「うぐっ……ぐ、ぐっ……」
気力で上半身だけ起こした。壁に背中を預けて、荒くなった呼吸を整える。
「えっ、えっ……? な、な、なに……。生き、生きて……たの……?」
遠くから円城のことを見つめていたらしい五十嵐が驚きの声をあげた。
五十嵐には悪いが、返事をする余裕がなかったので、自分のことを優先させた。
ゴム紐で上腕部をきつく縛る。血管が浮き上がってくるまでの間に、注射器で小瓶に入った薬剤を吸い上げる。次に、しっかりと空気抜きをする。最後に、浮き上がった血管に注射針を刺して、麻薬を注入した。
「ふーっ……」
思わず息が漏れ出た。
じょじょに薬剤が体の中を巡っていき、さっきまでの激痛がうそのように消えていく。これでなんとか体を動かすことが出来そうだ。
「――さあ、待っていろよ。今度はこちらから行くぞ」
円城はゆっくりと立ち上がった。
「五十嵐さん、あの男はどこに行ったんだ?」
「えっ、あの男って……ああ、瑛斗のこと? あっ、でも、あなたは……さっき刺されたはずじゃ……?」
デッドラインの淵ギリギリのところから復活した男のことを、驚愕の表情で見つめる五十嵐。まだ眼前で起きた奇跡が頭で理解出来ないらしい。
「私のことはいいから。あの男は薫子さんを一緒に連れて行ったんだろう?」
「あの女の人……そうだ……そう、連れて行った……」
「どこに連れて行ったんだ?」
「えっ、どこって……そんなのぼくには分からないよ……」
「それじゃ、あの男はなにか言ってなかったか?」
「なにかって……あっ、そういえば、お医者さんゴッコがしたいとか、そんなこと言ってたような気が……」
「お医者さんゴッコ――なるほど、そういうことか」
円城は瑛斗がずっと薫子のお腹を凝視していたこと思い出して、すぐに瑛斗の行動を把握した。妊婦のお腹が気になっているならば、連れて行くところは一ヶ所しかない。
だが、そこに行く前に止血だけはしておきたかった。このままでは、瑛斗のもとに行く前に、出血多量で今度こそデッドラインの向こう側に落ちてしまうことになる。
まずは傷口を塞ぐ包帯なりタオルなりを見つけてしっかりと止血する。それが済んだら、薫子の救出に向かう。
それまで私の命がもってくれればいいが――。
「私はあの男を追うことにする。あんたはどうする?」
「ぼ、ぼ、ぼくは……あの、さっきの地震で、怪我してるし……。それにミネさんを診てないと……」
五十嵐は手で自分の頭を指し示しつつ、視線は横たわるミネに向けた。
「分かった。それじゃ、これからは別行動だ」
「――その体で、本気で行くつもりなんですか?」
「ああ、そのつもりだ」
「どうして?」
「どうして? そうだな、この傷のお返しをしなきゃならないし、それに――」
「それに?」
「自分の命を懸けて誰かを救うなんて、人生でそう経験できないだろう?」
円城はそれだけ言うと、お腹の傷口を手できつく押さえながら、ホールを出て行った。
「――命を懸けて誰かを救うか……。でも、ぼくには……出来ないよ、そんなことは……」
そして、ホールには重体のミネと、なぜか心にぽっかりと穴が空いてしまった五十嵐だけが取り残されることになった。
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