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第二部 死闘

第30話  集結する

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 残り時間――6時間29分  

 残りデストラップ――7個

 残り生存者――9名     
  
 死亡者――2名   

 重体によるゲーム参加不能者――2名

 ――――――――――――――――


 視線の先に瓜生と円城の姿を見つけた二人は、声をあげながら早足で向かった。

 瓜生の足の怪我を見て、スオウは顔を曇らせた。さらに廊下に横たわる愛莉を見て、表情を歪ませる。紫人からのメールで愛莉のことは事前に承知していたが、実際に自分の目で確認すると、非常に危険な状態であると見て取れたのだ。加えてリーダー格の瓜生まで怪我をしている。

「君らが来てくれて助かったよ」

 瓜生は痛みの為か顔を少ししかめている。

「瓜生さんに言われた通り、五階で待機しているつもりだったんですが、さっきの地震で事情が変わったと思って、瓜生さんを捜しに来たんです」

「君の判断は間違ってないぜ。現に、俺たちはこれからどうしようか迷っていたところだからな。それで五階の状況はどうなんだ? さっきの地震の影響はなかったのか?」

「五十嵐さんが落下してきたテレビにぶつかって怪我をしましたが、重い傷じゃないです。今も五階は五十嵐さんに任せてきましたから」

「そうか、それなら良かった。逆に、俺の方はこの有様だけどな」

「瓜生さん、その足の怪我は――」

「ああ、さっきの地震のときにドジって、落ちてきたガラスにやられちまってな」

「瓜生さんはそう言ってるけど、自分の身を挺して、この子を助けたんだよ」

 スオウと瓜生の会話に、円城が横から入ってきて説明をしてくれた。

「その状態で歩けるんですか?」

「赤ちゃんのハイハイぐらいのスピードでもいいなら歩けるぜ」

 瓜生が冗談交じりに言った。しかし、血が滲む包帯を見ると、それすらあやうそうに思える。

「それで、これからどうするんですか? なにか策は考えてあるんですか? こうしている間にも次のデストラップが発動するかもしれないし……」

 廊下に膝を突いて愛莉の様子を見ていたイツカが、問うように瓜生の顔を見た。

「それなんだけどな、ひとつだけあるにはあるぜ」

「えっ、名案があるんですか?」
 
 思わずスオウは聞き返した。

「昔からある取って置きの策だよ」

「瓜生さん、それってまさか――」

「ああ、『三十六計逃げるに如かず』ってやつだよ」

 瓜生がいたずらっぽい表情で全員の顔を見回した。

「でも瓜生さん、最初のデストラップのときに、この病院から出たらダメだって言いませんでした?」

「たしかにそう言ったけどな。でも、あのときと今では状況が変化している。このままこの病棟が崩れないという保障があるならば、ここに残ってゲームを続けてもいいが、あの大きな揺れの後じゃ、そうも言ってられないだろう? 病棟の下敷きになって全員死亡でゲーム終了ってことになったら、それこそ悔いが残るからな」

「じゃあ、ゲームの途中ですが、ここでゲームは終了ってことですか?」

「わたしが思うに、たぶんゲームは続くんじゃないかな。だって、そういうルールで始まったわけだから。その場合、ゲームの舞台が病院内から病院の外に変わるだけかもしれないし」

 イツカが言葉を選ぶように慎重に自分の意見を述べた。

「イツカちゃんの意見も一理あるな。デストラップから逃げることは許されているわけだから、あの地震がデストラップだったとしたら、この病院から外に逃げることはルール違反には当たらないはずだ。まあ、いずれにしろ、このままなにもせずに、この病棟の下敷きになるのだけは避けないとならないしな」

「分かりました。おれは瓜生さんの意見に従いますよ」

 スオウはそう決めた。

「私も逃げるのが得策だと思う」

 円城も逃げるのに賛成した。

「わたしもゲームをするなら、ちゃんとした場所でやりたいから、逃げるのに賛成です」

 イツカも賛成した。

「よし、決まりだな」

 瓜生が深くうなずいた。

「まずはやってもらいたいことが二つある。俺はなんとか歩けるが、この子はそういうわけにはいかない」

 瓜生の視線が愛莉に向けられる。

「そこでだ、担架か車イスを探してきて欲しい。それと、もうひとつやってもらいたいことが、五階にいる参加者に報告して、一緒に逃げる準備をしてもらいたい」

「たしかさっき三階の案内図を見たときに、リハビリ科があったはず。そこなら車イスが置いてあるんじゃないかな?」

 イツカがなにやら思い出すように小首をかしげた。

「そいつはちょうどいい。頼めるか?」

「おれとイツカで取りに行ってきますよ!」

 スオウは名乗り出た。

「それじゃ、車イスは二人に頼む。五階は――」

「私が行こう」

 円城が一歩前に進み出た。

「五十嵐さんがいるはずだから、ミネさんのことも頼みます」

 イツカがミネのことを気遣った。

「分かった。ミネさんもちゃんと連れてくるよ」

「これで役割分担は決まりだな。俺はそこの診察室で、この子のことを看ている」

 瓜生が横たわる愛莉の背中に手を回して、抱きかかえようとする。足の傷が痛むのか、思うように持ち上げられない。

「おれも手伝いますよ」

 スオウは瓜生を手伝って愛莉を一緒に抱え上げた。愛莉の口から、うっという小さい声が漏れる。今は愛莉にちょっとだけ我慢してもらうしかない。

 愛莉を廊下のすぐ先にある外来の診察室にゆっくりと運んで行く。中にはベッドがあった。地震のせいか、シーツの上に粉塵が大量に落ちている。イツカが率先してベッドをキレイにしていく。

「それじゃ、スオウ君、この子をベッドに寝かせるぜ」

「分かりました」

「いち、に、さん!」

 瓜生の声を合図にして、愛莉をベッドの上に移動させる。
  
「よし、とりあえずこれでOKだ」  

「じゃ、ぼくとイツカは車イスを探しに行ってきます」

「私も途中まで一緒に行こう」

 スオウ、イツカ、円城が廊下に出て行こうとすると、瓜生が声をかけてきた。

「分かっていると思うが、三人ともデストラップには気を付けろよ」

「分かっています」

「スオウ君が付いているから大丈夫ですよ」

「ああ、分かった」

 三人三様に答えて診察室を出た。
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