34 / 60
第二部 死闘
第30話 集結する
しおりを挟む
――――――――――――――――
残り時間――6時間29分
残りデストラップ――7個
残り生存者――9名
死亡者――2名
重体によるゲーム参加不能者――2名
――――――――――――――――
視線の先に瓜生と円城の姿を見つけた二人は、声をあげながら早足で向かった。
瓜生の足の怪我を見て、スオウは顔を曇らせた。さらに廊下に横たわる愛莉を見て、表情を歪ませる。紫人からのメールで愛莉のことは事前に承知していたが、実際に自分の目で確認すると、非常に危険な状態であると見て取れたのだ。加えてリーダー格の瓜生まで怪我をしている。
「君らが来てくれて助かったよ」
瓜生は痛みの為か顔を少ししかめている。
「瓜生さんに言われた通り、五階で待機しているつもりだったんですが、さっきの地震で事情が変わったと思って、瓜生さんを捜しに来たんです」
「君の判断は間違ってないぜ。現に、俺たちはこれからどうしようか迷っていたところだからな。それで五階の状況はどうなんだ? さっきの地震の影響はなかったのか?」
「五十嵐さんが落下してきたテレビにぶつかって怪我をしましたが、重い傷じゃないです。今も五階は五十嵐さんに任せてきましたから」
「そうか、それなら良かった。逆に、俺の方はこの有様だけどな」
「瓜生さん、その足の怪我は――」
「ああ、さっきの地震のときにドジって、落ちてきたガラスにやられちまってな」
「瓜生さんはそう言ってるけど、自分の身を挺して、この子を助けたんだよ」
スオウと瓜生の会話に、円城が横から入ってきて説明をしてくれた。
「その状態で歩けるんですか?」
「赤ちゃんのハイハイぐらいのスピードでもいいなら歩けるぜ」
瓜生が冗談交じりに言った。しかし、血が滲む包帯を見ると、それすらあやうそうに思える。
「それで、これからどうするんですか? なにか策は考えてあるんですか? こうしている間にも次のデストラップが発動するかもしれないし……」
廊下に膝を突いて愛莉の様子を見ていたイツカが、問うように瓜生の顔を見た。
「それなんだけどな、ひとつだけあるにはあるぜ」
「えっ、名案があるんですか?」
思わずスオウは聞き返した。
「昔からある取って置きの策だよ」
「瓜生さん、それってまさか――」
「ああ、『三十六計逃げるに如かず』ってやつだよ」
瓜生がいたずらっぽい表情で全員の顔を見回した。
「でも瓜生さん、最初のデストラップのときに、この病院から出たらダメだって言いませんでした?」
「たしかにそう言ったけどな。でも、あのときと今では状況が変化している。このままこの病棟が崩れないという保障があるならば、ここに残ってゲームを続けてもいいが、あの大きな揺れの後じゃ、そうも言ってられないだろう? 病棟の下敷きになって全員死亡でゲーム終了ってことになったら、それこそ悔いが残るからな」
「じゃあ、ゲームの途中ですが、ここでゲームは終了ってことですか?」
「わたしが思うに、たぶんゲームは続くんじゃないかな。だって、そういうルールで始まったわけだから。その場合、ゲームの舞台が病院内から病院の外に変わるだけかもしれないし」
イツカが言葉を選ぶように慎重に自分の意見を述べた。
「イツカちゃんの意見も一理あるな。デストラップから逃げることは許されているわけだから、あの地震がデストラップだったとしたら、この病院から外に逃げることはルール違反には当たらないはずだ。まあ、いずれにしろ、このままなにもせずに、この病棟の下敷きになるのだけは避けないとならないしな」
「分かりました。おれは瓜生さんの意見に従いますよ」
スオウはそう決めた。
「私も逃げるのが得策だと思う」
円城も逃げるのに賛成した。
「わたしもゲームをするなら、ちゃんとした場所でやりたいから、逃げるのに賛成です」
イツカも賛成した。
「よし、決まりだな」
瓜生が深くうなずいた。
「まずはやってもらいたいことが二つある。俺はなんとか歩けるが、この子はそういうわけにはいかない」
瓜生の視線が愛莉に向けられる。
「そこでだ、担架か車イスを探してきて欲しい。それと、もうひとつやってもらいたいことが、五階にいる参加者に報告して、一緒に逃げる準備をしてもらいたい」
「たしかさっき三階の案内図を見たときに、リハビリ科があったはず。そこなら車イスが置いてあるんじゃないかな?」
イツカがなにやら思い出すように小首をかしげた。
「そいつはちょうどいい。頼めるか?」
「おれとイツカで取りに行ってきますよ!」
スオウは名乗り出た。
「それじゃ、車イスは二人に頼む。五階は――」
「私が行こう」
円城が一歩前に進み出た。
「五十嵐さんがいるはずだから、ミネさんのことも頼みます」
イツカがミネのことを気遣った。
「分かった。ミネさんもちゃんと連れてくるよ」
「これで役割分担は決まりだな。俺はそこの診察室で、この子のことを看ている」
瓜生が横たわる愛莉の背中に手を回して、抱きかかえようとする。足の傷が痛むのか、思うように持ち上げられない。
「おれも手伝いますよ」
スオウは瓜生を手伝って愛莉を一緒に抱え上げた。愛莉の口から、うっという小さい声が漏れる。今は愛莉にちょっとだけ我慢してもらうしかない。
愛莉を廊下のすぐ先にある外来の診察室にゆっくりと運んで行く。中にはベッドがあった。地震のせいか、シーツの上に粉塵が大量に落ちている。イツカが率先してベッドをキレイにしていく。
「それじゃ、スオウ君、この子をベッドに寝かせるぜ」
「分かりました」
「いち、に、さん!」
瓜生の声を合図にして、愛莉をベッドの上に移動させる。
「よし、とりあえずこれでOKだ」
「じゃ、ぼくとイツカは車イスを探しに行ってきます」
「私も途中まで一緒に行こう」
スオウ、イツカ、円城が廊下に出て行こうとすると、瓜生が声をかけてきた。
「分かっていると思うが、三人ともデストラップには気を付けろよ」
「分かっています」
「スオウ君が付いているから大丈夫ですよ」
「ああ、分かった」
三人三様に答えて診察室を出た。
残り時間――6時間29分
残りデストラップ――7個
残り生存者――9名
死亡者――2名
重体によるゲーム参加不能者――2名
――――――――――――――――
視線の先に瓜生と円城の姿を見つけた二人は、声をあげながら早足で向かった。
瓜生の足の怪我を見て、スオウは顔を曇らせた。さらに廊下に横たわる愛莉を見て、表情を歪ませる。紫人からのメールで愛莉のことは事前に承知していたが、実際に自分の目で確認すると、非常に危険な状態であると見て取れたのだ。加えてリーダー格の瓜生まで怪我をしている。
「君らが来てくれて助かったよ」
瓜生は痛みの為か顔を少ししかめている。
「瓜生さんに言われた通り、五階で待機しているつもりだったんですが、さっきの地震で事情が変わったと思って、瓜生さんを捜しに来たんです」
「君の判断は間違ってないぜ。現に、俺たちはこれからどうしようか迷っていたところだからな。それで五階の状況はどうなんだ? さっきの地震の影響はなかったのか?」
「五十嵐さんが落下してきたテレビにぶつかって怪我をしましたが、重い傷じゃないです。今も五階は五十嵐さんに任せてきましたから」
「そうか、それなら良かった。逆に、俺の方はこの有様だけどな」
「瓜生さん、その足の怪我は――」
「ああ、さっきの地震のときにドジって、落ちてきたガラスにやられちまってな」
「瓜生さんはそう言ってるけど、自分の身を挺して、この子を助けたんだよ」
スオウと瓜生の会話に、円城が横から入ってきて説明をしてくれた。
「その状態で歩けるんですか?」
「赤ちゃんのハイハイぐらいのスピードでもいいなら歩けるぜ」
瓜生が冗談交じりに言った。しかし、血が滲む包帯を見ると、それすらあやうそうに思える。
「それで、これからどうするんですか? なにか策は考えてあるんですか? こうしている間にも次のデストラップが発動するかもしれないし……」
廊下に膝を突いて愛莉の様子を見ていたイツカが、問うように瓜生の顔を見た。
「それなんだけどな、ひとつだけあるにはあるぜ」
「えっ、名案があるんですか?」
思わずスオウは聞き返した。
「昔からある取って置きの策だよ」
「瓜生さん、それってまさか――」
「ああ、『三十六計逃げるに如かず』ってやつだよ」
瓜生がいたずらっぽい表情で全員の顔を見回した。
「でも瓜生さん、最初のデストラップのときに、この病院から出たらダメだって言いませんでした?」
「たしかにそう言ったけどな。でも、あのときと今では状況が変化している。このままこの病棟が崩れないという保障があるならば、ここに残ってゲームを続けてもいいが、あの大きな揺れの後じゃ、そうも言ってられないだろう? 病棟の下敷きになって全員死亡でゲーム終了ってことになったら、それこそ悔いが残るからな」
「じゃあ、ゲームの途中ですが、ここでゲームは終了ってことですか?」
「わたしが思うに、たぶんゲームは続くんじゃないかな。だって、そういうルールで始まったわけだから。その場合、ゲームの舞台が病院内から病院の外に変わるだけかもしれないし」
イツカが言葉を選ぶように慎重に自分の意見を述べた。
「イツカちゃんの意見も一理あるな。デストラップから逃げることは許されているわけだから、あの地震がデストラップだったとしたら、この病院から外に逃げることはルール違反には当たらないはずだ。まあ、いずれにしろ、このままなにもせずに、この病棟の下敷きになるのだけは避けないとならないしな」
「分かりました。おれは瓜生さんの意見に従いますよ」
スオウはそう決めた。
「私も逃げるのが得策だと思う」
円城も逃げるのに賛成した。
「わたしもゲームをするなら、ちゃんとした場所でやりたいから、逃げるのに賛成です」
イツカも賛成した。
「よし、決まりだな」
瓜生が深くうなずいた。
「まずはやってもらいたいことが二つある。俺はなんとか歩けるが、この子はそういうわけにはいかない」
瓜生の視線が愛莉に向けられる。
「そこでだ、担架か車イスを探してきて欲しい。それと、もうひとつやってもらいたいことが、五階にいる参加者に報告して、一緒に逃げる準備をしてもらいたい」
「たしかさっき三階の案内図を見たときに、リハビリ科があったはず。そこなら車イスが置いてあるんじゃないかな?」
イツカがなにやら思い出すように小首をかしげた。
「そいつはちょうどいい。頼めるか?」
「おれとイツカで取りに行ってきますよ!」
スオウは名乗り出た。
「それじゃ、車イスは二人に頼む。五階は――」
「私が行こう」
円城が一歩前に進み出た。
「五十嵐さんがいるはずだから、ミネさんのことも頼みます」
イツカがミネのことを気遣った。
「分かった。ミネさんもちゃんと連れてくるよ」
「これで役割分担は決まりだな。俺はそこの診察室で、この子のことを看ている」
瓜生が横たわる愛莉の背中に手を回して、抱きかかえようとする。足の傷が痛むのか、思うように持ち上げられない。
「おれも手伝いますよ」
スオウは瓜生を手伝って愛莉を一緒に抱え上げた。愛莉の口から、うっという小さい声が漏れる。今は愛莉にちょっとだけ我慢してもらうしかない。
愛莉を廊下のすぐ先にある外来の診察室にゆっくりと運んで行く。中にはベッドがあった。地震のせいか、シーツの上に粉塵が大量に落ちている。イツカが率先してベッドをキレイにしていく。
「それじゃ、スオウ君、この子をベッドに寝かせるぜ」
「分かりました」
「いち、に、さん!」
瓜生の声を合図にして、愛莉をベッドの上に移動させる。
「よし、とりあえずこれでOKだ」
「じゃ、ぼくとイツカは車イスを探しに行ってきます」
「私も途中まで一緒に行こう」
スオウ、イツカ、円城が廊下に出て行こうとすると、瓜生が声をかけてきた。
「分かっていると思うが、三人ともデストラップには気を付けろよ」
「分かっています」
「スオウ君が付いているから大丈夫ですよ」
「ああ、分かった」
三人三様に答えて診察室を出た。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
ルール
新菜いに/丹㑚仁戻
ホラー
放課後の恒例となった、友達同士でする怪談話。
その日聞いた怪談は、実は高校の近所が舞台となっていた。
主人公の亜美は怖がりだったが、周りの好奇心に押されその場所へと向かうことに。
その怪談は何を伝えようとしていたのか――その意味を知ったときには、もう遅い。
□第6回ホラー・ミステリー小説大賞にて奨励賞をいただきました□
※章ごとに登場人物や時代が変わる連作短編のような構成です(第一章と最後の二章は同じ登場人物)。
※結構グロいです。
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
※カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
©2022 新菜いに
怪物どもが蠢く島
湖城マコト
ホラー
大学生の綿上黎一は謎の組織に拉致され、絶海の孤島でのデスゲームに参加させられる。
クリア条件は至ってシンプル。この島で二十四時間生き残ることのみ。しかしこの島には、組織が放った大量のゾンビが蠢いていた。
黎一ら十七名の参加者は果たして、このデスゲームをクリアすることが出来るのか?
次第に明らかになっていく参加者達の秘密。この島で蠢く怪物は、決してゾンビだけではない。
禁踏区
nami
ホラー
月隠村を取り囲む山には絶対に足を踏み入れてはいけない場所があるらしい。
そこには巨大な屋敷があり、そこに入ると決して生きて帰ることはできないという……
隠された道の先に聳える巨大な廃屋。
そこで様々な怪異に遭遇する凛達。
しかし、本当の恐怖は廃屋から脱出した後に待ち受けていた──
都市伝説と呪いの田舎ホラー
煩い人
星来香文子
ホラー
陽光学園高学校は、新校舎建設中の間、夜間学校・月光学園の校舎を昼の間借りることになった。
「夜七時以降、陽光学園の生徒は校舎にいてはいけない」という校則があるのにも関わらず、ある一人の女子生徒が忘れ物を取りに行ってしまう。
彼女はそこで、肌も髪も真っ白で、美しい人を見た。
それから彼女は何度も狂ったように夜の学校に出入りするようになり、いつの間にか姿を消したという。
彼女の親友だった美波は、真相を探るため一人、夜間学校に潜入するのだが……
(全7話)
※タイトルは「わずらいびと」と読みます
※カクヨムでも掲載しています
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ジャクタ様と四十九人の生贄
はじめアキラ
ホラー
「知らなくても無理ないね。大人の間じゃ結構大騒ぎになってるの。……なんかね、禁域に入った馬鹿がいて、何かとんでもないことをやらかしてくれたんじゃないかって」
T県T群尺汰村。
人口数百人程度のこののどかな村で、事件が発生した。禁域とされている移転前の尺汰村、通称・旧尺汰村に東京から来た動画配信者たちが踏込んで、不自然な死に方をしたというのだ。
怯える大人達、不安がる子供達。
やがて恐れていたことが現実になる。村の守り神である“ジャクタ様”を祀る御堂家が、目覚めてしまったジャクタ様を封印するための儀式を始めたのだ。
結界に閉ざされた村で、必要な生贄は四十九人。怪物が放たれた箱庭の中、四十九人が死ぬまで惨劇は終わらない。
尺汰村分校に通う女子高校生の平塚花林と、男子小学生の弟・平塚亜林もまた、その儀式に巻き込まれることになり……。
声にならない声の主
山村京二
ホラー
『Elote』に隠された哀しみと狂気の物語
アメリカ・ルイジアナ州の農場に一人の少女の姿。トウモロコシを盗んだのは、飢えを凌ぐためのほんの出来心だった。里子を含めた子供たちと暮らす農場経営者のベビーシッターとなったマリアは、夜な夜な不気味な声が聞こえた気がした。
その声に導かれて経営者夫妻の秘密が明らかになった時、気づいてしまった真実とは。
狂気と哀しみが入り混じった展開に、驚愕のラストが待ち受ける。
182年の人生
山碕田鶴
ホラー
1913年。軍の諜報活動を支援する貿易商シキは暗殺されたはずだった。他人の肉体を乗っ取り魂を存続させる能力に目覚めたシキは、死神に追われながら永遠を生き始める。
人間としてこの世に生まれ来る死神カイと、アンドロイド・イオンを「魂の器」とすべく開発するシキ。
二人の幾度もの人生が交差する、シキ182年の記録。
(表紙絵/山碕田鶴)
※2024年11月〜 加筆修正の改稿工事中です。本日「46」まで済。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる