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第一部 始動
第20話 正体をあらわす者
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――――――――――――――――
残り時間――8時間41分
残りデストラップ――9個
残り生存者――10名
死亡者――2名
重体によるゲーム参加不能者――1名
――――――――――――――――
ヒロキ以外のゲーム参加者全員の目が、ある一点に注がれた。視線の先にいるのは、白のジャージの上下に金髪ボウズ頭をした、二十代前半の男である。男はヒロキと名乗ったが、それが偽名であることが、今こうしてテレビを通じて明らかになった。
「なるほどな。だから、さっきからずっとテレビを気にしていたのか。答えが分かれば単純だよな」
瓜生が背中を向けたまま微動だにしないヒロキ――改めヒロユキに言った。
「だったらどうだというんだ?」
背中越しにヒロユキが答えた。腰の後ろに回した右手をゴソゴソと動かしている。
「なんで犯罪者がこのゲームに紛れ込んでいるんだ?」
「そんなことをオレが答えると思うか?」
「言いたくないのならいいさ。それでこれからどうすんだ? たしかさっきはひとりで行動するとか言っていたと思うが」
「悪いが状況が変わっちまったからな。どうしようか迷っているところさ」
「俺としては、さっさとこのホールから出て行ってもらえるとうれしいんだけどな」
「おいおい、さびしいこと言うなよ。さっきまでオレのことを引き止めていたじゃねえかよ。参加者全員で頑張ろうって話だったろう」
「それこそ状況が変わっちまったからな。この状況で俺たちがお前と協力出来ると思うのか?」
瓜生とヒロユキの会話は着地点を見出せないまま続いていく。
「じゃあ、オレにどうしろっていうんだ?」
「そうだな。とりあえず、まず最初にお前がさっきからずっといじっている、その背中のオモチャをそこの窓から外に捨ててくれたら、またみんなで仲良く協力できると思うけどな」
「さすがにそれはムリってもんだろう。こいつはオレにとっての最後の切り札だからな」
ヒロユキはそう言いながらゆっくりと振り返った。同時に背中に回していた右手を、体の正面にもってくる。
誰とも知れないが、ホール内に息を呑む音がいくつかあがった。
ヒロユキの右手に握られていたモノ――それは黒く輝く拳銃であった。
「じょ、冗談だろう……」
スオウは我知らず言葉を漏らしていた。
「こいつはまいったことになったな」
円城がスオウと同じようにつぶやいた。
「まったく、これで計画が変わっちまったぜ。ここにしばらく隠れて警察の目から逃れるつもりだったんだけどな。まさかこんなに早く正体がバレちまうとはな」
口ではそう言いながらも、ヒロユキの顔にはニヤニヤ笑いが浮いている。右手に持っている拳銃の先が、ヒロユキが話すたびに上下にユラユラと不安定にゆれる。
「随分と落ち着いて見えるが、お前、計算も出来ないのか? よく見ろよ。一対九なんだぜ」
瓜生がヒロユキを睨みつけた。言葉からは恐怖や緊張感はうかがえない。
「はあ? なんのこと言ってんだ?」
「俺たちとお前との戦力差だよ」
「ああ、そういうことか。だがその計算は間違ってるな。こっちにはコレがあるんだぜ。コレがあれば、戦力差は『十』対九っていったところだな。――『銃』だけにな」
人間性を疑うようなヒロユキのブラックジョークを笑う者はいなかった。ヒロユキ自身以外は。
「なんだよ、急にダマっちまってよ。人がせっかく最高のジョークを言ってやったのに」
ヒロユキはヘラヘラと笑いながらも目だけは鋭く輝かせている。
「警察官から拳銃を奪うくらいだからよっぽどのバカだと思ったが、想像以上のバカだったみたいだな」
「なんだと! もう一度言ってみろ! その口に銃弾を打ち込んでやるぜ!」
「そいつはムリだろうな」
ヒロユキの恫喝にも一切動じることなく、瓜生が冷静に応じた。
「おい、ふざけたこと言ってんじゃ――」
「お前が大事そうに握っているのは『ニューナンブM60』。一般的なおまわりさんが携帯している拳銃だ。装弾数は五発。最初の一発目はお前が使ったから、残りは四発。四発の銃弾で、九人の人間をどうやって倒すんだ?」
「何を言うかと思えば、そんなことかよ。お前だけ撃てばいいだけだろう?」
「やっぱりお前はバカだな。一発目を撃ったところで、すぐに他の参加者がお前を押さえ込んでくれるさ。つまり、お前に勝ち目はないんだよ」
「なんだと……」
拳銃を前にしても一切冷静さを失わない瓜生を見て、ヒロユキにも焦りが生まれたようだった。
「さっさとそのオモチャをこちらに渡すか、窓から投げ捨てるか、どっちかにしろよ」
「くそっ……調子にのりやがって……」
言葉だけは強気のヒロユキだったが、顔にはびっしりと汗が浮いていた。
「調子にのっているのはお前の方だろう。そんなオモチャを持ったぐらいで王様にでもなったつもりか?」
「いいだろう。そこまで言うのなら撃ってやるよ」
銃口が瓜生に向けられた。
「瓜生さん、そんなに挑発しなくても――」
拳銃を前にして、恐怖で金縛り状態にあったスオウはようやく声を絞り出した。
「大丈夫だ。君はそこを動くなよ」
銃口を向けられているにも関わらず、平静さを保っている瓜生を見て、スオウは驚きよりも先に訝しさを感じてしまった。普通、拳銃を向けられたら恐怖におののくはずである。だが瓜生はそんな感情とは無縁に見えるのだ。
「いいか、オレは本気だぞ! 俺は今モーレツに腹が減っていて、スゲー気が立ってるんだからな! 本当に撃つからな! 覚悟しろよ!」
「だったらひとつ教えてやるよ。ズブの素人が拳銃を握ったところで、そう簡単には弾は当たらないんだよ。今だって銃口が震えているぜ。そんなんじゃ、天井をぶち抜くのが関の山だな」
「う、う、うるせいっ! オレはひとり撃ってるんだからなっ! こうなったらあと何人撃っても同じだぜっ!」
「いや、無理だね。その拳銃を奪ったときは無我夢中だったはずだぜ。でも今はこうして堂々と向かい合っている。この状況で人間を撃てるだけの精神力がお前にあるのか?」
瓜生がさらに冷静に指摘する。拳銃を持っているのはヒロユキなのに、瓜生が精神的に優位に立っているように見えるくらいだ。
瓜生がごく自然な足取りでヒロユキに近寄る。ヒロユキは瓜生を凝視したまま動かない。さらに瓜生が一歩近寄る。右手を拳銃の方に伸ばす。
あともう少しで瓜生の右手が拳銃に触れそうな距離になった、そのとき――。
残り時間――8時間41分
残りデストラップ――9個
残り生存者――10名
死亡者――2名
重体によるゲーム参加不能者――1名
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ヒロキ以外のゲーム参加者全員の目が、ある一点に注がれた。視線の先にいるのは、白のジャージの上下に金髪ボウズ頭をした、二十代前半の男である。男はヒロキと名乗ったが、それが偽名であることが、今こうしてテレビを通じて明らかになった。
「なるほどな。だから、さっきからずっとテレビを気にしていたのか。答えが分かれば単純だよな」
瓜生が背中を向けたまま微動だにしないヒロキ――改めヒロユキに言った。
「だったらどうだというんだ?」
背中越しにヒロユキが答えた。腰の後ろに回した右手をゴソゴソと動かしている。
「なんで犯罪者がこのゲームに紛れ込んでいるんだ?」
「そんなことをオレが答えると思うか?」
「言いたくないのならいいさ。それでこれからどうすんだ? たしかさっきはひとりで行動するとか言っていたと思うが」
「悪いが状況が変わっちまったからな。どうしようか迷っているところさ」
「俺としては、さっさとこのホールから出て行ってもらえるとうれしいんだけどな」
「おいおい、さびしいこと言うなよ。さっきまでオレのことを引き止めていたじゃねえかよ。参加者全員で頑張ろうって話だったろう」
「それこそ状況が変わっちまったからな。この状況で俺たちがお前と協力出来ると思うのか?」
瓜生とヒロユキの会話は着地点を見出せないまま続いていく。
「じゃあ、オレにどうしろっていうんだ?」
「そうだな。とりあえず、まず最初にお前がさっきからずっといじっている、その背中のオモチャをそこの窓から外に捨ててくれたら、またみんなで仲良く協力できると思うけどな」
「さすがにそれはムリってもんだろう。こいつはオレにとっての最後の切り札だからな」
ヒロユキはそう言いながらゆっくりと振り返った。同時に背中に回していた右手を、体の正面にもってくる。
誰とも知れないが、ホール内に息を呑む音がいくつかあがった。
ヒロユキの右手に握られていたモノ――それは黒く輝く拳銃であった。
「じょ、冗談だろう……」
スオウは我知らず言葉を漏らしていた。
「こいつはまいったことになったな」
円城がスオウと同じようにつぶやいた。
「まったく、これで計画が変わっちまったぜ。ここにしばらく隠れて警察の目から逃れるつもりだったんだけどな。まさかこんなに早く正体がバレちまうとはな」
口ではそう言いながらも、ヒロユキの顔にはニヤニヤ笑いが浮いている。右手に持っている拳銃の先が、ヒロユキが話すたびに上下にユラユラと不安定にゆれる。
「随分と落ち着いて見えるが、お前、計算も出来ないのか? よく見ろよ。一対九なんだぜ」
瓜生がヒロユキを睨みつけた。言葉からは恐怖や緊張感はうかがえない。
「はあ? なんのこと言ってんだ?」
「俺たちとお前との戦力差だよ」
「ああ、そういうことか。だがその計算は間違ってるな。こっちにはコレがあるんだぜ。コレがあれば、戦力差は『十』対九っていったところだな。――『銃』だけにな」
人間性を疑うようなヒロユキのブラックジョークを笑う者はいなかった。ヒロユキ自身以外は。
「なんだよ、急にダマっちまってよ。人がせっかく最高のジョークを言ってやったのに」
ヒロユキはヘラヘラと笑いながらも目だけは鋭く輝かせている。
「警察官から拳銃を奪うくらいだからよっぽどのバカだと思ったが、想像以上のバカだったみたいだな」
「なんだと! もう一度言ってみろ! その口に銃弾を打ち込んでやるぜ!」
「そいつはムリだろうな」
ヒロユキの恫喝にも一切動じることなく、瓜生が冷静に応じた。
「おい、ふざけたこと言ってんじゃ――」
「お前が大事そうに握っているのは『ニューナンブM60』。一般的なおまわりさんが携帯している拳銃だ。装弾数は五発。最初の一発目はお前が使ったから、残りは四発。四発の銃弾で、九人の人間をどうやって倒すんだ?」
「何を言うかと思えば、そんなことかよ。お前だけ撃てばいいだけだろう?」
「やっぱりお前はバカだな。一発目を撃ったところで、すぐに他の参加者がお前を押さえ込んでくれるさ。つまり、お前に勝ち目はないんだよ」
「なんだと……」
拳銃を前にしても一切冷静さを失わない瓜生を見て、ヒロユキにも焦りが生まれたようだった。
「さっさとそのオモチャをこちらに渡すか、窓から投げ捨てるか、どっちかにしろよ」
「くそっ……調子にのりやがって……」
言葉だけは強気のヒロユキだったが、顔にはびっしりと汗が浮いていた。
「調子にのっているのはお前の方だろう。そんなオモチャを持ったぐらいで王様にでもなったつもりか?」
「いいだろう。そこまで言うのなら撃ってやるよ」
銃口が瓜生に向けられた。
「瓜生さん、そんなに挑発しなくても――」
拳銃を前にして、恐怖で金縛り状態にあったスオウはようやく声を絞り出した。
「大丈夫だ。君はそこを動くなよ」
銃口を向けられているにも関わらず、平静さを保っている瓜生を見て、スオウは驚きよりも先に訝しさを感じてしまった。普通、拳銃を向けられたら恐怖におののくはずである。だが瓜生はそんな感情とは無縁に見えるのだ。
「いいか、オレは本気だぞ! 俺は今モーレツに腹が減っていて、スゲー気が立ってるんだからな! 本当に撃つからな! 覚悟しろよ!」
「だったらひとつ教えてやるよ。ズブの素人が拳銃を握ったところで、そう簡単には弾は当たらないんだよ。今だって銃口が震えているぜ。そんなんじゃ、天井をぶち抜くのが関の山だな」
「う、う、うるせいっ! オレはひとり撃ってるんだからなっ! こうなったらあと何人撃っても同じだぜっ!」
「いや、無理だね。その拳銃を奪ったときは無我夢中だったはずだぜ。でも今はこうして堂々と向かい合っている。この状況で人間を撃てるだけの精神力がお前にあるのか?」
瓜生がさらに冷静に指摘する。拳銃を持っているのはヒロユキなのに、瓜生が精神的に優位に立っているように見えるくらいだ。
瓜生がごく自然な足取りでヒロユキに近寄る。ヒロユキは瓜生を凝視したまま動かない。さらに瓜生が一歩近寄る。右手を拳銃の方に伸ばす。
あともう少しで瓜生の右手が拳銃に触れそうな距離になった、そのとき――。
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