デス13ゲーム ~死神に命を懸けた者たち~

鷹司

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第一部 始動

第16話  今やるべきことは

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 ――――――――――――――――

 残り時間――10時間17分  

 残りデストラップ――9個

 残り生存者――10名     
  
 死亡者――2名   

 重体によるゲーム参加不能者――1名

 ――――――――――――――――


 これで続けざまに三人の参加者がデストラップの餌食になった。

「九鬼さんが死んだってことは、ミネさんを診れる人間がいなくなったってことだよね……」

 ミネのそばに付きっきりのイツカが心配そうにミネの顔を見つめる。相変わらずミネの呼吸は荒く、顔色はさらに悪くなっている。

「――九鬼のオッサンがやられたのは痛いな。ここからはちょっとした怪我にも注意しないとならないな」

 瓜生は考え込むような表情を浮かべた。

「バアさんにはあと10時間ちょっと耐えてもらうしかないな。そしてゲームが終わりしだい、すぐに病院に運ぶ。問題はそれまで体力がもつかどうかだが……。今の症状を見る限りじゃ、かなり厳しいかもしれないな」

「そんな……」

 イツカが悲壮に顔を歪めた。

「なんだよ葬式みたいな顔をしてよ。あのバアさんがついに死んじまったのか?」

 品のない顔で品のない冗談を言いながらヒロキがホールに戻ってきた。イツカのにらみつけるような視線は完全に無視している。

「あんたがデストラップにかかればよかったのに!」

「オレは運が強いからな。このゲームに参加することになったのだって――いや、この話はいいか」

「……あ、あ、あの……また、デストラップが、あったから……戻ってきました……」

 背中を丸めた猫背姿の瑛斗がホールに戻ってきた。

「ああ、分かった。君は大丈夫だったみたいだな」

 廊下側に陣取っていた瓜生が応対した。だが、険しい視線は廊下の先に向けられたままである。

「あ、あの……は、はい……」

 コソコソとした歩き方で元いたイスまで歩いていく瑛斗だった。

「――オレも戻った」

 一言だけボソッと言ってホールに入ってきたのはヒロトである。

「お前さんも大丈夫だったみたいだな。これで残るは円城さんだけだが、帰ってくるのが少し遅いな。さっきのメールには名前が書かれていなかったから無事だとは思うが――」

 そこで瓜生は不自然に言葉を切った。

「何かあるんですか?」

 スオウは瓜生の言葉尻にすぐに反応した。

「さっきも言っただろう。参加者全員が一致団結していればいいが、もしもそうじゃなかったら……。考えたくはないが、コワイ考えを持っている参加者がいる可能性だってあるってことさ」

 スオウが懸念の声をあげかけたとき、ホール内に円城が戻ってきた。青白い顔は変わらなかったが、さきほどホールを出て行ったときとは異なり、非常に険しい表情を浮かべている。ホールにいる皆の視線を一身に受けながら、無言のまま瓜生にゆっくりと近付いて来る。

「――瓜生さん。四階と三階をつなぐ階段の踊り場で九鬼さんが倒れていた。私はちょうど近くのトイレにいたんで見付けることになった。そばに近付いて確認したわけじゃないが、メールにあるように亡くなっているように見えた」

「――分かった」

 瓜生が重くうなずいた。そして円城の耳元に口を寄せた。

「円城さんの目から見て、あのオッサンの遺体にどこかおかしな点は無かったかい?」

「いや、私も詳しく調べたわけではないから……。ただ見た限りでは、階段から落ちたように見えたけどな。足を滑らせたんじゃないかと思ったんだが。あの人、ずっと落ち着きがなかったように見えたから」

「その可能性も高いが、でも一応は調べておいた方がいいな」

「まさか、わざわざ遺体を見に行くのか?」

「どんなデストラップにかかったのか確認しておきたいからな。デストラップを見ておけば、次のデストラップの避け方の参考になるだろうし」

「たしかにそれはいい考えかもしれない。私たちはまだデストラップについて知らなすぎるからな」

 瓜生は上手く話を誤魔化したが、スオウには瓜生の本音が分かっていた。瓜生は自分の目で九鬼の遺体を確認したいに違いない。デストラップではなく何者かの手によって九鬼が殺されたという可能性について考えているのだ。

「円城さんはここに残っていてくれ。体調の方も心配だからな」

「ああ、それじゃ、お言葉に甘えさせてもらうよ。九鬼さんの遺体だが、建物の南側の階段にあるから」

「分かった」

 円城との会話を終えた瓜生がスオウに顔を向けてきた。

「悪いがオレと一緒に来てもらえるか?」

「たぶんそう言われると思っていました」

「いいのか? これから九鬼のオッサンの遺体を見に行くことになるんだぞ?」

「ああ、そうですよね……」

 このゲームではすでに奥月が死んでいるが、奥月の遺体は鉄パイプの山の下に隠れてしまい確認することは出来なかった。

「嫌ならここにいてもらってもいいぜ。ことがことだからな。オレも高校生に人の遺体を見ろとは強要しないから」

「いや、おれも瓜生さんと一緒に行きます。このゲームに勝ち残る為にも、しっかりと自分の目で確認をしておきたいんです」

「よし。分かった。――それじゃ、みんな、今から俺とスオウ君とで、九鬼さんの遺体を確認しに行ってくる。もしかしたらこのゲームを攻略出来る手掛かりが見付かるかもしれないからな。すぐに戻ってくるから、他の人間はここで待機していてくれ。さっきみたいにバラバラに行動して、またデストラップにかかってしまう可能性もあるからな」

「おいおい、あんたらがデストラップにかかったらどうすんだよ? そういうのをミイラ取りがミイラになるっていうんだろ?」

 ヘラヘラとした口調でヒロキが言った。心配しているのではなく、完全に面白がっている風である。

「顔に似合わず難しい言葉を知ってるんだな」

「はあ? こっちは心配して言ってやったんだぜ!」

 とたんにヒロキの顔に凶暴な表情が浮かんだ。これ以上ないくらいに、分かりやすい性格である。

「こんなことでいちいち怒るなよ。場を和ませようとしただけだ。──そうだな、俺たちが帰ってこなかったら、そのときは残った人間でまた対応の仕方を考えてくれ。なんだったらお前がリーダーになってもいいんだぜ」

 瓜生は冗談で言ったのだろうが、ヒロキは真に受けたのか、わざと視線をそらして聞こえない振りをした。自分がリーダーから一番遠い位置にいることは自覚しているらしい。

「待って、わたしも行くから」

 手をあげたのはイツカだった。

「いや、君は女の子だし――」

「瓜生さん、こんなときに男も女もないでしょ」

「いや、それはそうだが……。でも、そのバアさんは――」

「おばあちゃんなら、アタシが看てるよ。といっても、ハンカチの交換くらいしか出来ないけどね」

 愛莉が立ち上がってミネのそばに近付く。

「てっきり、あっちの坊主コンビみたいに非協力的かと思ってたぜ」

「アタシ、動物が苦手だから、さっきは一緒に犬探しに行けなかっただけよ」

「分かった。バアさんのことは君に頼むことにする」

「任せて」

「ミネさんのことを頼みますね」

 イツカがミネの看病を愛莉に代わってもらう。

「それじゃ、俺たち三人で九鬼さんの遺体を確認しに行ってくる。――さあ、行くとするか」

 瓜生がスオウとイツカの方に顔を向けてうなずいた。
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