デス13ゲーム ~死神に命を懸けた者たち~

鷹司

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第一部 始動

第14話  それぞれの思惑

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 ―――――――――――――――― 

 残り時間――11時間05分  

 残りデストラップ――10個

 残り生存者――11名     

 死亡者――1名   

 重体によるゲーム参加不能者――1名

 ――――――――――――――――


 ホールから出た九鬼は病院内をどこへ向かうでもなく、ブラブラと辺りを散策していた。さきほど瓜生に言われた医療ミスの件が頭から離れなかった。実際、瓜生に言われた通り、九鬼は勤めていた病院で半年前に医療ミスを起こしていた。被害者との間で示談が成立したので事件にはならなかったが、ニュースとしてテレビに流れてしまい、九鬼は職場を辞めることになった。その被害者は人工呼吸器が必要な状態となってしまった。

 九鬼がこのゲームに参加した理由がそこにあった。ゲームに勝って、重体の被害者を助けてもらうつもりなのだ。あの医療ミスを起こして以来、手術が怖くなってしまい、患者と接することが出来なくなってしまった。患者を前にすると、焦って手が震えてくるのである。

 だから、ミネを詳しく診断するのを拒否した。もしもミネを診断しているときに、ミネの容態が急変して死ぬようなことになったら、きっと医者として立ち直れないほどの精神的ショックを受けると分かっていたからである。

 この際、他の参加者にどう思われても構わなかった。それであのホールから逃げ出してきたのだ。


 とにかく、今はこのゲームだけに集中しよう。


 九鬼はそう判断した。しかし、すぐに――。


 目の前で苦しんでいる人間を見捨てることは、果たして医者として正しい判断と言えるのだろうか? 例えゲームに勝って医者としての自信を取り戻したとしても、あのばあさんを見捨てたことが、新しいトラウマにならないだろうか?


 そんな正反対の考えが頭に浮かんでくる。


 もしも、あのばあさんを助けることが出来たなら、医者としての自信を取り戻せるのではないだろうか?


 ふと、そんな思いも九鬼の頭をよぎる。


 いや、無理だ。この状況下ではとてもじゃないが、冷静に診断出来るはずがない。アナフィラキシーショックといっても、必ず死ぬわけではないからな。あのばあさんには悪いが、自業自得と思って諦めてもらうしかないな。


 結局、九鬼は心の葛藤に対して、そう決断を下した。だが、気持ちが晴れることは決してなかった。廊下を歩く足取りも、心を反映したように重いものであった。


 ――――――――――――――――


 ヒロキは細心の注意を払いながらトイレに向かった。正直、用を足したいわけではなかった。ホール内の空気が重くなりつつあったので、少し息抜きをしたかったのだ。

 一息つくと、トイレから出た。廊下を歩きながら、知らぬうちにズボンの後ろに手を回していた。

 なにかトラブルに合った際には『コレ』が物を言うはずであった。『コレ』を使えば相手を殺してしまう可能性もあるが、その場合は仕方ないだろう。

 このゲームに勝つためだったら、方法は選ばない。


 ――――――――――――――――


 ヒトロはトイレに入ると、いつものくせでパンツの尻ポケットに手を回した。そこに『アレ』が入っているのだ。

 取り出そうかと思ったが、今はまだ必要がないのでやめにした。

 しかし、気持ちが落ち着かなくなったら、そのときは迷わずに取り出すつもりだった。


 ――――――――――――――――


 円城は誰にも会わないように、わざと五階ではなく下の階のトイレに入った。

 洗面台の前に立つと、顔色のチェックをする。肌に艶がなく、血色の悪い蒼白い顔は、あきらかに病人のそれと同じだった。13時間で終わるゲームなら大丈夫だと思っていたが、今から準備をしておいた方が良さそうな感じだった。

 円城はズボンの後ろに手を回した。そこに、とっておきの『モノ』を隠し持ってきたのである。それは完全に違法なモノだった。

 だがゲームに勝つ為には、絶対に必要なものだった。だから闇のルートを通じて手に入れたのだ。

 出来れば使いたくはなかったが、危険な状態に陥るようだったら、そのときは躊躇なく使用するつもりだった。

 奥月はズボンの上から、そっとその感触を確かめた。


 ――――――――――――――――


 瑛斗は壁に掛けられている院内案内の地図を見て、すぐに行きたい場所を探しだすと、階段を足早に駆け降りていった。

 トイレには向かわなかった。トイレなんかよりも、もっと重要事項があったのだ。

 一階に着いた瑛斗はめぼしい部屋に片っ端から入っていき、中を確認して回った。いくつか部屋を行き来して、ようやくお目当ての『モノ』を見付けだした。


 20分後――。


 瑛斗は一階にある診察室のイスに腰掛けて一休みしていた。知らぬうちに、腰の後ろに右手を伸ばしてしまう。大事なモノはいつもズボンの後ろに隠すことにしているのだ。手で触れていると、自然と心が落ち着いてくる。

 いざとなったら『これ』を使うつもりだった。今までもそうしてきたのだから。

 そのとき、廊下から足音が聞こえてきた。

 背中にやった手に力がこもる。
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