デス13ゲーム ~死神に命を懸けた者たち~

鷹司

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第一部 始動

第13話  独りよがり

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 ――――――――――――――――

 残り時間――11時間13分  

 残りデストラップ――10個

 残り生存者――11名     
  
 死亡者――1名   

 重体によるゲーム参加不能者――1名

 ――――――――――――――――


 ホール内にはテレビから流れるニュース映像の音と、ミネの息づかいだけが響いていた。ミネのそばにはイツカが付いている。水道で濡らしたハンカチをミネの額にのせているためか、さきほどに比べて息づかいはいくらか落ちついてきているが、表情は依然として苦しそうであった。

「瓜生さん、ちょっといいですか?」

 スオウは瓜生をホールの隅に呼んだ。

「どうした?」

「ミネさんのことです。ここは病院なわけですよね。だったらミネさんに効く薬だってあるんじゃないですか? おれひとりで探しに行ってきますよ」

「スオウくん、君の言いたいことは分かるが、それはあまりにも危険すぎる」

「まさかデストラップがいつ発動するかも分からない中、ひとりで薬でも探しに行くつもりじゃないだろうな?」

 二人の会話は聞こえていないはずの九鬼が、すぐにスオウの考えを見抜いた。

「おれはあんたと話してるわけじゃない」

「それでお前がひとりで薬を探しにいって、それでまたばあさんみたいにデストラップにかかって、患者が二人になるわけだ。そうなったら、今度はいったい誰が面倒を見るんだ?」

「だから、デストラップに掛からないように気をつけて――」

「仮にデストラップを無事に切り抜けたとして、薬の知識がないお前がどうやって目的の薬を探し出すんだ?」

「それは……」

 スオウもそこまで言われてしまうと、言い返すだけの言葉がなにも出てこなかった。

「ちょっといいかい。ずっと気になっていたんだけどな。あんた、いったいなにをそんなに怖がっているんだ? ゲームが始まる前からずっと落ち着かない様子だよな。医者っていうのは、もっと冷静沈着だとばかり思っていたが、それは俺の思い違いか? そもそも、なんで医者であることを隠していたんだ?」

 瓜生が意味ありなげな視線を九鬼に向けた。

「なにが言いたいんだ。はっきり言ったらどうなんだ」

「それじゃ、はっきり言わせてもらうぜ。俺はこう見えても仕事柄、ニュースにはよく目を通していてね。少し前に医療ミスを犯した医者の話がニュースで流れていたっけな。たしか名前は──九鬼だったかな」

「――――!」

 九鬼がその場で一度体を大きく震わせた。

「医療ミスのことが頭にあるから、ばあさんを助けるのが怖いんじゃないかと思ってね。またミスをしでかすかもしれないってな」

「――いいか。おまえがなにを言おうと私はどうとも思わない。そんなの過去の話だからな」

「別に俺はあんたを責めるつもりはない」

「だったらこの話はもう終わりだ。はじめにも言ったが、私は集団行動が苦手でね。これからはひとりで行動をさせてもらう」

 九鬼は苦虫を噛みしめたような表情でイスから立ち上がると、神経質そうにカツカツと靴音を鳴らしながらホールから出ていく。

「おい、イツカちゃんが言ったことを忘れたのか? このゲームは13人――まっ、今は11人だけど、全員が勝者になれる可能性があるんだぜ。紫人も言ってただろう」

 瓜生が九鬼の背中に声をかけた。

「それが何だって言うんだ」

「だから、ここで仲間割れなんてしたら、それこそ死神の思うままになっちまうってことさ。ゲーム参加者11人で協力するのが、ゲーム勝利にもっとも近い道だと思うけどな」

「ああ、ぼくもたしかに瓜生さんの言う通りだと思います」

 五十嵐が話に加わってきた。

「九鬼さん、考えてもみてください。この手のデスゲームって、必ず参加者同士のチームワークが乱れて、自滅するっていうのがパターンじゃないですか。だからこそ、ぼくたちはチームワークを乱さずに、最後まで協力してゲームを進めていくべきだと思うんですが」

「――悪いが、もう私は一人で行動すると決めたんでね」

「でも、九鬼さんみたいな医師の方がいてくれた方が、ぼくらもなにかあった時に安心できるんですが」

 五十嵐の言葉に、しかし九鬼は嘲笑を返した。

「そうなったときに、また私の過去を持ち出してきて、疑心暗鬼になるってパターンの可能性の方があると思うがな。医療ミスをした私のことを信頼できるのか? 出来ないだろう? だから、私もお前たちのことは信頼できない」

 それだけ言うと、九鬼は今度こそ本当にホールを出て行ってしまった。

「へへ、ああいうヤツは勝手にさせておきゃあいいんだよ。これであのヤブ医者がデストラップにかかってくれれば、オレ達に有利に進んでいくんだからな」

 イスにふんぞり返っていたヒロキが、自己中心的な考えを意気揚々としゃべりはじめた。

「それから誰かそのテレビを消してくれよ。どうせ誰も見てねえだろう。うるさくて気が散ってしょうがねえんだよ」

「悪いがさっきのデストラップのように、前兆がテレビで流れることもあるみたいだから消すわけにはいかないな」

 瓜生が冷静に返した。

「ちぇっ、面倒くせえな。じゃあ、ちょうどいいや。オレはトイレに行ってくるぜ。ここで漏らすわけにはいかないからな」

 ヒロキはテレビの画面に忌々しげな視線を一度向けると、誰の返事も待たずにホールから出て行った。

「それじゃ、オレも行ってくるぜ」

 ヒロトがヒロキに続いて、さっさと出て行く。

「私もトイレに行ってくる。喉の調子が良くないし、うがいもいっしょにしてくるよ」

 それだけ言って、円城もホールを出て行く。

「あ、あ、あの……ボ、ボ、ボクも……漏れそうなんで……行かせて……もらいます」

 ずっと黙っていた瑛斗が、そそくさと出て行く。

「急になんなんだよ……」

 次々にホールを出て行く参加者たちの背中を、ただ見つめるしかないスオウだった。

「ほっといたらいいさ。短い間に色々起こったからな。みんな、少しくらいは体だけじゃなく、気分も休ませないとな」

「でも、もしもデストラップが発動したら――」

「トイレぐらいなら、すぐ済むだろう。それともトイレに行くのを無理やり止めて、ここで『洪水』でも起こされたら、それこそデストラップだろう」

 下ネタのジョークを口にした瓜生はそこで言葉を切ると、ホールに残る女性陣に順番に目を向けていった。

「女性陣はトイレ休憩はいいのかい? もしもトイレに行くのが怖かったら、俺がボディガードするけど。もちろん、デストラップを確実に避けられる保障はないけどな」

「ありがとうございます。でも、私は大丈夫です。じっとしていた方が気が楽なので」

 ソファに深めに座っている薫子が答えた。相変わらず両手でお腹の辺りをさすっている。

「アタシもいいかな。どこに行ってもデストラップが発動するんだったら、なるべくたくさん人がいるところの方が安全みたいだし」

 愛莉の返事には緊張感は感じられない。

「わたしもトイレはまだ大丈夫かな。それにここを離れるわけにはいかないから」

 イツカはミネの看病に徹している。

「オッケー。じゃあ、俺たちはここで連中が帰ってくるのを待つとしようか」

 瓜生が体から力を抜いて、近くのイスにどっしりと腰掛けた。

 ゲーム開始から、ようやく二時間が過ぎたところである。ゲームはまだまだ続く。
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