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第五章 旅の四日目 暴走馬車族

第51話 四日目 派手な馬車を発見する

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耀太たちを乗せた馬車は定刻から十分ほど遅れて『バリーポイント』の入り口に設置された停留所に11時10分に到着した。

「なんだか今までの街と比べて、どこか平凡な感じがするというか、あまり栄えていないというか……。これじゃ、名物料理がありそうな気配がまるでないんだけど」

自分勝手な感想を漏らしているのはすでに写真を撮る気満々の耀葉である。

「とりあえず食事処の場所の確認だけはしておこうかな」

「ヨーハ、食事よりも先に『カスビサイド』行きの馬車の確認をしないとダメだろうが!」

言っても無駄だと思いつつも、自分勝手な行動をする姉を注意する。

「それはあんたの仕事でしょ!」

簡単に言い返されてしまう悲しい立場の弟である。

「二人とも食事も大事だけど、あの馬車に見覚えがない? どこかで見たような覚えがあるんだけど、わたしの記憶違いかなあ……?」

食事第一主義の新卒教師が食事よりも気になることを発見したみたいだ。

「クミッキー先生、あれって何のことですか?」

耀太は組木が興味を示している方に視線を振り向けた。そこにあったのは――。

「あっ、あの馬車って、さっきおれたちが乗った馬車を危険な運転で追い越していった馬車と同じやつじゃないですか! どうしてここに停まっているんだよ!」

「たしかにあの下品極まりない派手な装飾の馬車をそう見間違えるわけないから、あのときの馬車と同じと見て間違いはないだろうな」

慧真も興味津々な視線で派手な馬車を見つめている。

「なあヨータ、どうするんだ? 文句のひとつでも言ってくるか?」

「ケータ、我が姉君と同じような発想はしないでくれ! ただでさえトラブル続きの旅なんだから、ここは『君子、危うきに近寄らず』を実践して――」

そう耀太が言っているそばから、耀葉と史華という一番危険な組み合わせの二人組みがずんずんと派手な馬車に向かって颯爽と歩いていく。

「おい、二人ともトラブルは――」

「耀太くん、もう遅いみたいだよ」

「アリアまでそんなこと言うのかよ」

「だって二人とも手に『アレ』を持っているからね」

アリアが白く細い人差し指で指差す。

「マジかよ! 本当に勘弁してくれよな! ここで痴漢撃退スプレーとスタンガンを使う気なのか?」

耀葉と史華はそれぞれ痴漢撃退スプレーとスタンガンを手にしていた。しかも武器は相手に向けられており、いつでも攻撃出来るといった体勢である。

「ヨーハ、空気は読んでくれよ! 初めて訪れた街で早々にトラブルを起こしたら、住人からどんな目で見られるかぐらいはさすがに分かるよな?」 

「自分の姉を信じなさい!」

「耀太くん、大丈夫、大丈夫! あたしたちはちょっと偵察に行ってくるだけだから!」

偵察に行くと言いながら、手にしたスタンガンを大きく振り回すバスガイドの姿はどう考えても、戦闘を前にした戦士の姿にしか見えない。

派手な馬車は『バリーポイント』の入り口から少し離れた広場のような開けた場所に停められていた。この街の住人の目を気にして街の外に停めたのか、それともその場で誰かを待っているのか。

馬車の傍らにはこちらも派手な身なりをした若い男性が一人立っており、遠くからでもその剣呑な雰囲気が感じられるほどだった。今はいそいそと馬の手入れをしている。


見た目といい雰囲気といい、おれたちの世界で言うところの『暴走族』そのものだよな。ていうか、この世界にも『暴走族』なんていう存在がいるのか? これはどう考えててもトラブルのニオイしかしないよ……。


心中でごちた耀太だったが、さりとて、ここで黙って見ているわけにもいかないので、慧真を伴って嫌々ながらも耀葉たちの後を追いかけることにした。

「アリア、クミッキー先生とナーロのことは頼んだよ」

「うん、分かった。もしもトラブルが大きくなるようだったら、私が急いで『バリーポイント』の警備兵さんを呼んでくるから」

「出来ればそこまで大きなトラブルになる前に終わらせたいんだけど……。ケーマ、行くとするか」

「分かったよ。オレたちも手をこまねいている場合じゃないからな」

「とにかく穏便に済ませて、さっさと次の『カスビサイド』行きの馬車について聞き込みをしないと!」

重い足を引きずるようして派手な馬車に近づいてく耀太と、少し楽しげな表情の慧真。

「ねえ、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいい?」

耀葉が男に向かって第一声を放つ。その声には親しみの響きは一切なく、詰問口調そのものである。

「はあ? オレは馬の手入れをしていて、今は手が離せねえんだよ! 話があるなら後にしてくれ!」

けんもほろろの男の対応である。


あーあ、そういう態度を取ると、ヨーハは逆に火が付くんだよな……。これはもう止められそうにないな……。


二人の最初のやり取りを聞いただけで、耀太は早々に覚悟を決めた。

「こっちは今話したいんだけど!」

耀葉の語気のボルテージが一段階上がる。

「ガキが偉そうなことを言ってると、キレイなお姉さんがお仕置きしちゃうからね!」

バスガイドまで男を煽る始末である。

「ちぇっ、うるせえ連中だな! いったいなんだっていうんだよ! オレはお前たちのことなんか知らねえぞ!」

「そっちは知らなくても、こっちは知ってんの! あんた、さっきわたしたちが乗っていた馬車を無理やり追い越したでしょ! 危うく事故りそうになりかけたんだからね!」

「…………!」

耀葉の言葉を聞いた男の顔付きが変わった。忌々しそうな表情と苛立たしげな表情を混ぜ合わせたような顔。

「えーと、今日のランチは何にしようかな? 朝はおにぎりだったから、昼はやっぱりパンがいいかな? サンドウィッチかピザがあるといいなあ」

緊張が高まっていることなど一切気にする素振りを見せずに、呑気極まりないことを口にしている新卒の教師は、目の前のトラブルよりも、昼食のことで頭の中がいっぱいらしい。


まあ、クミッキー先生のことだから、このくらいのことは予想していたけどさ……。


教師の力を借りられない以上は自分の力を使うしかない。

「まったく、いつになったらトラブルから解放されるんだが……」

耀太がぼやきながらも睨み合う両者の元に近付こうとしたとき、場に変化が生じた。

「ちょっとあんた! なんでここにあんたがいるの! ていうか、そんなところで何してんの!」

荒っぽい非友好的な女性の大きな声が割り込んできた。

「――――!」

次の瞬間、男の表情が劇的に変化した。明らかに『しまった』という表情が浮か
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